破壊神のフラグ破壊 作:sognathus
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だがそれは、アズマリアにはそれは到底受け入れ難い事実だった。
否、断じて受け入れる事はできなかった。
「そ、そんな事ありません!」
「?」
ビルスは突然必死な形相で叫んだアズマリアを不思議そうな顔で見た。
「神様に善も悪も無いだなんて……そんな……そんな事あるわけないじゃないですか! だったらなんで私にこんな力を、神様は授けられたと言うんですか……!」
アズマリアは叫んだ。
心の底から慟哭した。
震えながら、自分の存在を否定する発言が我慢できずに、ビルスにそう反論した。
「……アズマリア」
ビルスはアズマリアの反論を気にする風もなく、穏やかな口調で話し掛けてきた。
「はい……」
「君は、その力を奇跡の力だと思っているのかな? 善神から与えられた力だと」
「もち……ろんです。この力で私は自分が不幸になる替わりに悪と戦ってきました……」
「ふーん、そうなんだ。でもさ、おかしいと思わないかい?」
「え?」
「そうやって必死に神に献身している君が、どうして替わりに不幸になる必要があるんだい?」
「それは……力を遣う代償として……」
「その代償は何処へ行く?」
ビルスの声が変わった。
今までに聞いた中で一番低く底冷えする声だった。
「そ……れは……」
アズマリアは答えられなかった。
ただ、力を使う為には必然だと、仕方ないことだと割り切ってきたからだ。
だから代償が何処へ行くかなんて考えた事もなかった。
「君にはショックかもしれないけど、知りたいなら教えよう」
「何を......ですか?」
「代償の行方さ」
ビルスの口調は元に戻っていたが、その言葉に何か含むものをアズマリアは感じた。
どうやら知るには相応の覚悟がいるらしい。
彼女は思い悩んだが、その言葉に対する興味を捨てきれず、戸惑いながらも尋ねる事にした。
「......何処へ、行ってるんですか?」
アズマリアの返事を確認すると、ビルスは悪びれもせずにこう言い放った。
それは信じ難い、事実にしてはあまりにも酷い内容だった。
「君達が信仰する神の慰みものになってるんだよ」
「っ! い、今確信しました! あなた達は悪魔です! そうでなければそんな虚言を言う訳ありません!」
アズマリアは目を見開き激高した。
温和な彼女でも許すことが出来ない侮辱だった。
「ほら、ショックを受けるって言ったじゃないか」
「でも、やってる事結構悪魔っぽいですよ。ビルス様」
「えっ。そ、そうかな?」
「だってほら、あんなに良い子を泣かせてしまってるじゃありませんか」
「う......」
ウイスに窘められてビルスは少し怯んだ表情をした。
どうも付き人でありながら、この人物には頭が上がらないところがあるらしい。
「ビルス様はちょっと物言いがストレート過ぎるんですよ。もうちょっとオブラートに包んで教えてあげないと」
「オブラート? なんだそれ?」
「食べ物ではありませんよ。食べれますけど」
「どっちだ? ......まぁ、いい。それで僕にどうしろと?」
「まず、わたし達が悪魔だと言う誤解を解きましょう」
「ああ、そういえばついに断定されちゃったね。ちょっとイラっときたな」
「それは、誰の所為ですか?」ジト
ウイスは呆れ顔の半目でビルスを睨んだ。
ビルスは思わずたじろぎ、拗ねた子供の様な表情で言葉を紡いだ。
「分かった分かった」
ビルスは未だに自分を見つめるウイスの視線を感じながら先程激昂してから俯いたままのアズマリアに声を掛けた。
「ごほん。あー、アズマリア」
「......」キッ
アズマリアは既に言葉を交わすつもりはないようだった。
言葉の代わりに険しい目つきで睨んできた。
「分かってる。君は僕が言った事実を受け入れられないんだろ?」
「当り前です!」
「分かった。それじゃ、証拠を見せよう」
突然のビルスのその言葉に意表を突かれたアズマリアは眉をひそめて尋ねた。
「証拠?」
「君が神に弄ばれてるという証拠さ。ウイス」
ビルスは傍らにいたウイスに何やら指示を出した。
「はいはい」
「この子に見せてあげてよ」
「畏まりました」
ウイスは手に持っていた杖でコツン、と地面を一度叩いた。
すると杖の先端の飾りが輝きだし、アズマリの前に地球の映像が投影された。
「これは......」
アズマリアが驚くのも無理はなかった。
彼女がいる時代はようやく大陸移動説などが唱えられたりした頃で、まだ世界を一周するのにやっとの時代だ。
そんな時代にいきなり地球の全体図を立体で、しかもフルカラーなんかで見せられて驚かないわけがなかった。
「地球です。ほら、この黄色に光ってる靄の様なものがあるでしょう? これが神です」
「えっ? こ、これが?」
「正確には神の影響を受けている所、ですが。神自体が人の信仰心によって存在を保っているので、この様な形になります」
ウイスが示した黄色の靄は世界各地にあった。
だが、そこでアズマリアはある事が気になった。
明らかにキリスト圏でない中・近東まで同じ色の靄が掛かっている、ここは地理的にイスラムの筈だ、何故イスラムとキリストが同じ神の色をしているのか?
「あの......これに映っている神様は全部同じ色をしているように見えるんですけど、信仰されている神ごとに分けて表す事はできないんですか?」
「そんな必要はありませんよ。これは全部同じ神なんですから」
「え?」
ウイスはあっさりとアズマリアの疑問に答えた。
ウイス「この世界の神は姿形がないことを利用して、この星の様々な国に自分の存在をそれぞれ異なる形で伝えているんです」
「なんでそんな事を......」
「同じイメージを植え付けるより、常に異なるイメージを与える事によって存在率を高める為ではないしょうか」
「自分たちが信じる神と違う神を信仰する者がいれば、宗教同士の対立は必然です。彼らはきっとそういう人間の性を利用しているんでしょうね」
「そんな......」
「戦争という娯楽を楽しみながら、信仰も得られるんだから正に一石二鳥というやつだね。君の不幸は彼らにとっては娯楽にすらなってない暇潰しだよ」
「……っ!」
アズマリアは絶望して泣き崩れた。
自分の人生を半分諦めてまで神に捧げてきたのに、これまでの行いは一体なんだったのか。
「ビルス様……」ジト
「な、なんだ? 今のも悪魔っぽいか?」アセ
(悪魔......)
悪魔という言葉を聞いて、アズマリアにはある一つの考えが浮かんだ。
今までは決して浮かびようもない考えだったが、ビルス達が話した真実を知る事によってそれは確信に近い考えとなっていた。それは――
「あの……」
「はい?」「うん?」
「ビルス様に一つお教えい頂きたい事があります。悪魔は……悪魔が存在するのはもしかして神が……」
「そう。悪魔も神の創造物だよ。目的は、もう言わなくても解るみたいだね」
「は……はは」
やはりそうだった。
アズマリアは最早泣く事も出来なかった。
世界の何もかもがおかしく思え、あれ程必死に戦ってきた悪魔さえ哀れに思えるようになっていた。
だから、彼女の中に一つの願いが出来た。
神様ではなく、今自分の目の前にいる己が破壊の神だという傲岸不遜の異形の者に対して、命を懸けても叶えて欲しい願いが。
彼が本当に破壊の神だと言うのなら、全宇宙の神というキチガイじみた存在であるというのなら、彼女の願いはいとも容易く叶える事ができる筈だった。
「ビルス様……お願いがあります」
「ん?」
「この願いが叶うのなら、わたしは貴方に全てを捧げます」
「その願いとはなんだ?」
「神様を滅ぼしてください。そして、ロゼットさんとクロノさんを助けて下さい」
アズマリアは、迷いのない瞳で、後悔の欠片もなく、自らの心に従って、ビルスにそう願い出た。
次、ビルスがとうとう動きます。
あ、いやその前にロゼット達とひと悶着あるかも。