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児山紀芳さんを偲んで

 こんにちは、パオロ・マッツァリーノです。新聞をとってないと訃報に疎くなります。NHK-FMの『ジャズ・トゥナイト』という番組を毎週録音して聴いてるのですが、先週(9日)の放送分を聴いて、長年パーソナリティをつとめてきた児山紀芳さんが亡くなったことを知りました。
 なにしろ私はジャズに興味を持って以来、児山さんの番組をかれこれ25年くらい、毎週聴いてきたのですから、感慨深いものがあります。
 毎週といいましたけど、むかしはたしか、児山さんの担当は隔週でした。本多俊夫さんやジャズミュージシャンのかたがたと交代でやってたはず。
 その辺の記憶をはっきりさせたくてネットを検索したけど出てきません。そこで児山さんが昨年出版した自伝のような本、『ジャズのことばかり考えてきた』を読んでみたら、やはりラジオ番組のことにも触れてました。ネットに何の情報も記録もないのもさびしいので、簡単にまとめておきます。

 著書によると、児山さんはかなり昔からNHK-FMでいろんなジャズ番組の構成などをされてたそうですが、現在も放送中のジャズ専門番組『ジャズ・トゥナイト』のもとになった番組がはじまったのは1989年4月。『ジャズクラブ』の番組名でした。
 2004年で児山さんはいったん降板。2007年に復帰したときに『ジャズ・トゥナイト』と番組名が変更され、そのときから児山さんが毎週担当されるようになったんです。それからすでに12年も経ってたとは。

 リスナーとしての心配は、今後番組がどうなるか。全方位的なジャズの知識があり、来日ミュージシャンをスタジオに招いて英語でインタビューできるジャズ評論家なんて、児山さん以外にもういないでしょ。いたとしても、毎週2時間の番組構成と出演を引き受けてくれるかどうか。ジャズというジャンル自体がいまひとつ人気ないことを考えると、今後は放送時間の短縮や、番組終了の可能性もなきにしもあらず。
 ほとんどの新譜がネットで試聴できるようになった時代に、ラジオで新譜紹介をする意味があるのかという意見にも一理あります。私自身も、最近はもっぱら、ディスクユニオンのジャズ専門店のサイトの新譜情報を頼りにしてますし。
 でも世界的にCDショップって業態も衰退産業のひとつなので、今後どうなることやら。
 『そのおこだわり俺にもくれよ』というマンガで、CDで音楽を聴いてるひとが特殊なマニアとして取りあげられてたことにショックを受けました。えっ、もうそんな時代? 私もおこだわり人だったのか!

 私は、音楽の趣味が細分化された現況を決して悪いこととは思いません。音楽ってのは個人の趣味なのだから、国民全員が、家族全員が、同じ流行歌を聴いてた時代のほうがムリがあったんです。みんながそれぞれ好きなジャンルの音楽を聴けるようになったのはしあわせなことですよ。
 ただ嗜好が細分化するほど、好きなジャンルの情報を得るのが難しくなるし、ミュージシャンがひとつのジャンルだけでは食っていけなくなることも考えられます。
 一億総オタク時代は楽しくもあるけど、悩みも深い。
[ 2019/02/16 21:00 ] 未分類 | TB(-) | CM(-)
プロフィール

Author:パオロ・マッツァリーノ
イタリア生まれの日本文化史研究家、戯作者。公式プロフィールにはイタリアン大学日本文化研究科卒とあるが、大学自体の存在が未確認。父は九州男児で国際スパイ(もしくは某ハンバーガーチェーンの店舗清掃員)、母はナポリの花売り娘、弟はフィレンツェ在住の家具職人のはずだが、本人はイタリア語で話しかけられるとなぜか聞こえないふりをするらしい。ジャズと立ち食いそばが好き。

パオロの著作
偽善のトリセツ

歴史の「普通」ってなんですか?

世間を渡る読書術

会社苦いかしょっぱいか

みんなの道徳解体新書

日本人のための怒りかた講座

エラい人にはウソがある

昔はよかった病

日本文化史

偽善のすすめ

13歳からの反社会学(文庫)

ザ・世のなか力

怒る!日本文化論

日本列島プチ改造論(文庫)

パオロ・マッツァリーノの日本史漫談

コドモダマシ(文庫)

13歳からの反社会学

続・反社会学講座(文庫)

日本列島プチ改造論

コドモダマシ

反社会学講座(文庫)

つっこみ力

反社会学の不埒な研究報告