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土佐日記 帰京 品詞分解と現代語訳

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 今回は、「土佐日記 帰京」の原文・現代語訳(口語訳)・品詞分解(文法的説明)・語句の意味・文法解説・係り結び・鑑賞・おすすめ書籍などについて紹介します。


 「土佐日記 二月十六日 帰京」(紀貫之:きのつらゆき)


<原文>

◇全文の「現代仮名遣い・発音・読み方(ひらがな)」は下記の別サイトからどうぞ。
《⇒現代仮名遣いサイトへ行く》

 夜(よ)ふけて来れば、所々(ところどころ)も見えず。京(きやう)に入り立ちてうれし。家に至りて門(かど)に入る(いる)に、月あかければ、いとよくありさま見ゆ。聞きしよりもまして、いふかひなくぞこぼれ破れたる。家に預け(あづけ)たりつる人の心も、荒れたるなりけり。中垣(なかがき)こそあれ、一つ家のやうなれば、望みて預かれるなり。さるは、たよりごとに、物も絶えず得(え)させたり。今宵(こよひ)、「かかること」と、声高に(こわだかに)ものも言はせず。いとはつらく見ゆれど、心ざしはせむとす。

 さて、池めいてくぼまり、水つけるところあり。ほとりに松もありき。五年六年(いつとせむとせ)のうちに、千年(ちとせ)や過ぎにけむ、かたへはなくなりにけり。今生ひ(おひ)たるぞまじれる。おほかたのみな荒れにたれば、「あはれ」とぞ人々言ふ。思ひ出でぬことなく、思ひ恋しきがうちに、この家にて生まれ(うまれ)し女子(をんなご)の、もろともに帰らねば、いかがは悲しき。舟人(ふなびと)もみな、子たかりてののしる。かかるうちに、なほ悲しきに堪へ(たへ)ずして、ひそかに心知れる人と言へりける歌。

生まれしも帰らぬものをわが宿に小松のあるを見るが悲しさ

※この「生まれ」は「むまれ」、「うまれ」ではありません。

とぞ言へる。なほ飽かずやあらむ、またかくなむ。

見し人の松の千年に見ましかば遠く悲しき別れせましや

忘れがたく、口惜しき(くちをしき)こと多かれど、え尽くさず。とまれかうまれ、とく破り(やり)てむ。
 

<現代語訳>

 夜が更けてから(京都に)来たので、あちらこちらも(よく)見えない。京都の中に入ったのでうれしい。家に着いて、門に入ると、月が明るいので、たいそうはっきりと(家の)様子が見える。(うわさに)聞いていた以上に、お話にならないほど壊れいたんでいる。家を預けておいた人の心も(この家と同じように)すさんでいるのであったよ。(隣の家とは)境の垣根はあるけれども、まるで一軒の屋敷のようなので、(先方から)望んで預かっていたのである。そうはいうものの実は、ついでのあるたびに、お礼の品も絶えず贈っていた。今夜は、「こんな(ひどい)有様とは」と、(従者たちに)大声で不満を言うこともさせない。(隣人は)実に薄情だと思われるが、(礼儀として)お礼の贈り物はしようと思う。

 ところで、(庭には)池のようになって(地面が)へこみ、水がたまっている所がある。そのあたりにかつて松もあった。(ここを留守にしていた)五年六年の間に、千年がたってしまったのだろうか。半分はなくなってしまっていた。新しく生えた松がまじっている。(建物や庭の)大部分がすっかり荒れ果ててしまっているので、「あらまあ(ひどい)」と人々は言う。(この家に着いてみると)思い出さないことはなく、恋しく思うことの中で、この家で生まれた女の子が、(赴任地の土佐で亡くなったため)一緒に帰らないので、どんなに悲しいことか。船で一緒に帰って来た人もみな、子供がまわりに寄り集まって大声で騒いでいる。こうした中で、やはり悲しさに堪えかねて、(主人が)ひそかに気持ちの通じ合っている人と詠んだという歌。

  (この家で)生まれた子供も(一緒に)帰らないのに、私の家の庭に(昔はなかった)小松が生えているのを見るのが(亡くなった子供が思い出されて)悲しいことよ。

と詠んだ。それでもやはり詠み足りないのであろうか、またこう(詠んだ)。

  かつて元気な姿を見たあの子(=亡くなった子供)が、松が千年を生き続けるように、生きるのを見る(ことができた)ならば、遠い土佐で悲しい別れをしたであろうか、いや、そんな別れはしなかっただろうに。

忘れることができず、残念なことがたくさんあるが、とてもすべてを書くことはできない。ともかく、(こんなものは)早く破り捨ててしまおう。
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<品詞分解>

◇主要な品詞を色別表示にした見やすい品詞分解を別サイトに作成しました。
《⇒品詞色別表示の品詞分解サイトへ行く》

 ※活用の基本形を、ひらがなで示した。動詞は、品詞名を省略した。
 
 夜ふけて来れば、所々も見えず。
 夜【名詞】 ふけ【カ行下二段活用「ふく」の連用形】 て【接続助詞】 来れ【カ行変格活用「く」の已然形】 ば【接続助詞】、 所々【名詞】 も【係助詞】 見え【ヤ行下二段活用「みゆ」の未然形】 ず【打消の助動詞「ず」の終止形】。

京に入り立ちてうれし。
京【名詞】 に【格助詞】 入り立ち【タ行四段活用「いりたつ」の連用形】 て【接続助詞】 うれし【形容詞シク活用「うれし」の終止形】。

家に至りて門に入るに、月あかければ、いとよくありさま見ゆ。
家【名詞】 に【格助詞】 至り【ラ行四段活用「いたる」の連用形】 て【接続助詞】 門【名詞】 に【格助詞】 入る【ラ行四段活用「いる」の連体形】 に【接続助詞】、 月【名詞】 明かけれ【形容詞ク活用「あかし」の已然形】 ば【接続助詞】、 いと【副詞】 よく【形容詞ク活用「よし」の連用形】 ありさま【名詞】 見ゆ【ヤ行下二段活用「みゆ」の終止形】。

聞きしよりもまして、いふかひなくぞこぼれ破れたる。
聞き【カ行四段活用「きく」の連用形】 し【過去の助動詞「き」の連体形】 より【格助詞】 も【係助詞】 まし【サ行四段活用「ます」の連用形】 て【接続助詞】、 いふかひなく【形容詞ク活用「いふかひなし」の連用形】 ぞ【係助詞】 こぼれ【ラ行下二段活用「こぼる」の連用形】 破れ【ラ行下二段活用「やぶる」の連用形】 たる【存続の助動詞「たり」の連体形】。

家に預けたりつる人の心も、荒れたるなりけり。
家【名詞】 に【格助詞】 預け【カ行下二段活用「あづく」の連用形】 たり【存続の助動詞「たり」連用形】 つる【完了の助動詞「つ」の連体形】 人【名詞】 の【格助詞】 心【名詞】 も【係助詞】、 荒れ【ラ行四段活用「ある」の連用形】 たる【存続の助動詞「たり」の連体形】 なり【断定の助動詞「なり」の連用形】 けり【詠嘆の助動詞「けり」の終止形】。

中垣こそあれ、一つ家のやうなれば、望みて預かれるなり。
中垣【名詞】 こそ【係助詞】 あれ【ラ行変格活用「あり」の已然形】、 一つ【名詞】 家【名詞】 の【格助詞】 やうなれ【比況の助動詞「やうなり」の已然形】 ば【接続助詞】、 望み【マ行四段活用「のぞむ」の連用形】 て【接続助詞】 預かれ【ラ行四段活用「あづかる」の已然形】 る【完了の助動詞「り」の連体形】 なり【断定の助動詞「なり」の終止形】。

さるは、たよりごとに、物も絶えず得させたり。
さるは【接続詞】、 たよりごと【名詞】 に【格助詞】、 物【名詞】 も【係助詞】 絶えず【副詞】 得【ア行下二段活用「う」の未然形】 させ【使役の助動詞「さす」の連用形】 たり【存続の助動詞「たり」の終止形】。

今宵、「かかること」と、声高にものも言はせず。
今宵【名詞】、 「かかる【ラ行変格活用「かかり」の連体形】 こと【名詞】」 と【格助詞】、 声高に【形容動詞ナリ活用「こわだかなり」の連用形】 もの【名詞】 も【係助詞】 言は【ハ行四段活用「いふ」の未然形】 せ【使役の助動詞「す」の未然形】 ず【打消の助動詞「ず」の終止形】。

いとはつらく見ゆれど、心ざしはせむとす。
いと【副詞】 は【係助詞】 つらく【形容詞ク活用「つらし」の連用形】 見ゆれ【ヤ行下二段活用「みゆ」の已然形】 ど【接続助詞】、 心ざし【名詞】 は【係助詞】 せ【サ行変格活用「す」の未然形】 む【意思の助動詞「む」の終止形】 と【格助詞】 す【サ行変格活用「す」の終止形】。

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 さて、池めいてくぼまり、水つけるところあり。
 さて【接続詞】 、池めい【カ行四段活用「いけめく」の連用形:「池めき」のイ音便】 て【接続助詞】 くぼまり【ラ行四段活用「くぼまる」の連用形】、 水【名詞】 つけ【カ行四段活用「つく」の已然形】 る【存続の助動詞「り」の連体形】 所【名詞】 あり【ラ行変格活用「あり」の終止形】。
※水つけ【カ行四段活用「みづつく」の已然形】とする場合もある。

ほとりに松もありき。
ほとり【名詞】 に【格助詞】 松【名詞】 も【係助詞】 あり【ラ行変格活用「あり」の連用形】 き【過去の助動詞「き」の終止形】。

五年六年のうちに、千年や過ぎにけむ、かたへはなくなりにけり。
五年六年【名詞】 の【格助詞】 うち【名詞】 に【格助詞】、 千年【名詞】 や【係助詞】 過ぎ【ガ行上二段活用「すぐ」の連用形】 に【完了の助動詞「ぬ」の連用形】 けむ【過去推量の助動詞「けむ」の連体形】、 かたへ【名詞】 は【係助詞】 なく【形容詞ク活用「なし」の連用形】 なり【ラ行四段活用「なり」の連用形】 に【完了の助動詞「ぬ」の連用形】 けり【過去の助動詞「けり」の終止形】。

今生ひたるぞまじれる。
今【副詞】 生ひ【ハ行上二段活用「おふ」の連用形】 たる【完了の助動詞「たり」の連体形】 ぞ【係助詞】 まじれ【ラ行四段活用「まじる」の已然形】 る【存続の助動詞の連体形】。

おほかたのみな荒れにたれば、「あはれ」とぞ人々言ふ。
おほかた【名詞】 の【格助詞】 みな【副詞】 荒れ【ラ行下二段活用「ある」の連用形】 に【完了の助動詞「ぬ」の連用形】 たれ【存続の助動詞「たり」の已然形】 ば【接続助詞】、 「あはれ【感動詞】」 と【格助詞】 ぞ【係助詞】 人々【名詞】 言ふ【ハ行四段活用「いふ」の連体形】。

思ひ出でぬことなく、思ひ恋しきがうちに、
思ひ出で【ダ行下二段活用「おもひいづ」の未然形】 ぬ【打消の助動詞「ず」の連体形】 こと【名詞】 なく【形容詞ク活用「なし」の連用形】、 思ひ【名詞】 恋しき【形容詞シク活用「こひし」の連体形】 が【格助詞】 うち【名詞】 に【格助詞】、 

この家にて生まれし女子の、もろともに帰らねば、いかがは悲しき。
こ【代名詞】 の【格助詞】 家【名詞】 にて【格助詞】 生まれ【ラ行下二段活用「うまる」の連用形】 し【過去の助動詞「き」の連体形】 女子【名詞】 の【格助詞】、 もろともに【副詞】 帰ら【ラ行四段活用「かへる」の未然形】 ね【打消の助動詞「ず」の已然形】 ば【接続助詞】、 いかが【副詞】 は【係助詞】 悲しき【形容詞シク活用「かなし」の連体形】。

舟人もみな、子たかりてののしる。
船人【名詞】 も【係助詞】 みな【副詞】、 子【名詞】 たかり【ラ行四段活用「たかる」の連用形】 て【接続助詞】 ののしる【ラ行四段活用「ののしる」の終止形】。

かかるうちに、なほ悲しきに堪へずして、
かかる【ラ行変格活用「かかり」の連体形】 うち【名詞】 に【格助詞】、 なほ【副詞】 悲しき【形容詞シク活用「かなし」の連体形】 に【格助詞】 堪へ【ハ行下二段活用「たふ」の未然形】 ず【打消の助動詞「ず」の連用形】 して【接続助詞】、

ひそかに心知れる人と言へりける歌。
ひそかに【形容動詞ナリ活用「ひそかなり」の連用形】 心【名詞】 知れ【ラ行四段活用「しる」の已然形】 る【存続の助動詞「り」の連体形】 人【名詞】 と【格助詞】 言へ【ハ行四段活用「いふ」の已然形】 り【完了の助動詞「り」の連用形】 ける【過去の助動詞「けり」の連体形】 歌【名詞】、
 
 生まれしも帰らぬものをわが宿に小松のあるを見るが悲しさ
 生まれ【ラ行下二段活用「むまる」の連用形】 し【過去の助動詞「き」の連体形】 も【係助詞】 帰ら【ラ行四段活用「かへる」の未然形】 ぬ【打消の助動詞「ず」の連体形】 ものを【接続助詞】 わ【代名詞】 が【格助詞】 宿【名詞】 に【格助詞】 小松【名詞】 の【格助詞】 ある【ラ行変格活用「あり」の連体形】 を【格助詞】 見る【マ行上一段活用「みる」の連体形】 が【格助詞】 悲しさ【名詞】

とぞ言へる。なほ飽かずやあらむ、またかくなむ。
と【格助詞】 ぞ【係助詞】 言へ【ハ行四段活用「いふ」の已然形】 る【完了の助動詞「り」の連体形】。 なほ【副詞】 飽か【カ行四段活用「あく」の未然形】 ず【打消の助動詞「ず」の連用形】 や【係助詞】 あら【ラ行変格活用「あり」の未然形】 む【推量の助動詞「む」の連体形】、 また【副詞】 かく【副詞】 なむ【係助詞】。
 
 見し人の松の千年に見ましかば遠く悲しき別れせましや
 見【マ行上一段活用「みる」の連用形】 し【過去の助動詞「き」の連体形】 人【名詞】 の【格助詞】 松【名詞】 の【格助詞】 千年【名詞】 に【格助詞】 見【マ行上一段活用「みる」の未然形】 ましか【反実仮想の助動詞「まし」の未然形】 ば【接続助詞】 遠く【形容詞ク活用「とほし」の連用形】 悲しき【形容詞シク活用「かなし」の連体形】 別れ【名詞】 せ【サ行変格活用「す」の未然形】 まし【反実仮想の助動詞「まし」の終止形】 や【終助詞】
※や【係助詞】とする立場もある。

忘れがたく、口惜しきこと多かれど、え尽くさず。
忘れがたく【形容詞ク活用「わすれがたし」の連用形】 、口惜しき【形容詞シク活用「くちをし」の連体形】 こと【名詞】 多かれ【形容詞ク活用「おほし」の已然形】 ど【接続助詞】、 え【副詞】 尽くさ【サ行四段活用「つくす」の未然形】 ず【打消の助動詞「ず」の終止形】。

とまれかうまれ、とく破りてむ。
とまれかうまれ【連語】、 とく【形容詞ク活用「とし」の連用形】 破り【ラ行四段活用「やる」の連用形】 て【強意の助動詞「つ」の未然形】 む【意思の助動詞「む」の終止形】。
※とく【副詞】とする場合もある。

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<古典文法の基礎知識>

「古文」を苦手科目から得意科目にする古典文法の基礎知識です。

◆「現代仮名遣い」のルールについては、「現代仮名遣い・発音(読み方)の基礎知識」の記事をどうぞ。

◆「用言の活用と見分け」については、「用言(動詞・形容詞・形容動詞)の活用と見分け方」の記事をどうぞ。

◆「助動詞・助詞の意味」や「係り結び」・「準体法」などについては、「古典文法の必須知識」 の記事をどうぞ。

◆「助動詞の活用と接続」については、「助動詞の活用と接続の覚え方」の記事をどうぞ。

◆「音便」や「敬語(敬意の方向など)」については、 「音便・敬語の基礎知識」の記事をどうぞ。


<語句・文法解説>

■準体法、主な助動詞の意味などについては、上にリンクを付けてある「古典文法の必須知識」を読んでね。


いと :たいそう。非常に。

いふかひなく :言っても仕方がない。お話にならない。

こぼれ破れ :「こぼれ」「破れ」ともに「壊れる」意味。同じ意味の言葉を重ねた強調表現。

中垣 :隣家との境に作った垣根。

「荒れたるなりけり」の「けり」 :「なり(断定)+けり」の「けり」は「詠嘆」である場合が多く(和歌・会話文ではほぼ詠嘆)、この「けり」も「詠嘆」として「すさんでいるのであった」と解釈した方がよい。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<ワンポイント古典文法>

「中垣こそあれ、~」(境の垣根はあるけれど、~)

◆「逆接強調法」
係り結びは「中垣こそあれ。」と文を終了するのが通常の形だが、「逆接強調法」は文中の「こそ~已然形」で文が終了していない形。
「のに」・「けれど」・「が」などを補って訳出する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

さるは :(逆接で)そうはいうものの実は。とはいえ。

たより :機会。ついで。

得(え)させ :与える。

かかる :このような。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
◆「かかること」と、声高にものも言はせず。
家のひどい有様に怒った従者たちが、「かかること」と大声で言ってしまうと、隣人に聞こえて、今後のご近所付き合いに支障が出るので、家の主人が従者たちに言わせなかったと解釈したい。
「入京の日だから」などの解釈説もあるが、翌日以降に文句を言わせた様子もないので不採用。

「こんなひどい目にあいながらも、文句を言わせない俺って、人格者でしょう」と貫之が土佐日記の読者にアピールしているようにも感じられ、女性に仮託して書いているはずなのに、貫之が前面に出てしまっていますね。
また、当時、この日記を読んだ人たちは、当然、この隣人が誰であるかが分かったはずで、貫之がこの日記を書いたことで隣人の世間的な評価は地に落ちたでしょうね。
従者の文句程度の水鉄砲のような報復ではなく、土佐日記の出版というメガトン爆弾級の「お礼の贈り物」を隣人にしたような気がしています。世間から非難されたであろう隣人は奥深い山中にお引っ越ししたかも。
「The pen is mightier than the sword.」(ペンは剣よりも強し)ですね。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

つらく :薄情だ。冷淡だ。

心ざし :贈り物。

「池めいて」の「めい」 :接尾語「めく」のイ音便 ~のようになる。~らしくなる。
※他に「なまめく」、「いまめく」、「春めく」など。

水つける所 :水につかっている所。水がたまっている所。

「五年六年のうちに、千年や過ぎにけむ」 :家を預けた隣人への皮肉。

かたへ :全体のうちの一部分または半分。

「にけり」 :「にけり(過去)」「にき(過去)」「にたり(存続)」は、「に」が完了の助動詞である形。
※「荒れにたれ」の「に」、また「過ぎにけむ」の「に」も完了の助動詞。

「今生ひたるぞ」の「たる」 :準体法。 この場合は、あとに「の・松」などを補って訳出する。

おほかた :大部分。一面。

あはれ :ああ。あらまあ。

もろともに :一緒に。

いかが :どんなに。
※「いかが」は、疑問の副詞(陳述の副詞)なので、疑問の副詞に呼応して連体形の「悲しき」で結ぶ。
「いかが」は、「いかにか」(副詞「いかに」+係助詞「か」)の撥音便化した「いかんが」から転じた形。

舟人(ふなびと) :船で一緒に帰って来た人

たかり :寄り集まる。

ののしる :大声で騒ぐ。

なほ :やはり。それどもやはり。

「心知れる人」 :気持ちの通じ合っている人。(=紀貫之夫人)

「言へりける歌」 :詠んだという歌。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
◇歌1
「生まれしも」の「し」 :準体法なので、あとに「子」などを補う。

ものを :逆接の接続助詞 ~のに。

宿 :家。

※生れし(子)と「小」松を掛けたもの。

◇歌2
見し人=亡くなった子。

反実仮想の構文 :(もし)~だったら~だろうに。
「せば~まし」、「ませば~まし」、「ましかば~まし」、「仮定(未然形+ば)~まし」の形。
「反実仮想」=事実とは反対のことを仮定して想像する。

や :反語 ~か、いや~ない。 

※千年を生きる松と短命に終わった子との対比。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「飽かずやあらむ」 :飽き足りないのであろうか。 「や」は疑問の係助詞。

「またかくなむ」 :結びの省略。
「言へ(四段已然形)る(完了の助動詞連体形)」などが省略されている。

忘れがたく :「がたし」は動詞の連用形に付いて形容詞を作る接尾語or補助形容詞。 ~するのが困難だ。

口惜しき :残念だ。

「え尽くさず」 :え+動詞+打消。(不可能を表し)とても~できない。
※「え」は、打消と呼応して不可能を表す呼応の副詞(陳述の副詞)。

とまれかうまれ :ともかく。何はともあれ。
※「ともあれ、かくもあれ」の変化したもの。
と(副詞)+も(係助詞)+あれ(ラ変・命令形)+かく(副詞、「かう」はウ音便)+も(係助詞)+あれ(ラ変・命令形)

とく(疾く) :早く。

「てむ」 :(強い意志を表し)~てしまおう。
完了の助動詞「つ」「ぬ」+推量の助動詞「む」「べし」など=完了→強意(確述)を表す。

「とく破りてむ。」 :人に見せるほどの文章ではないから破り捨ててしまおうと謙遜して言っているだけで、貫之は破り捨てるつもりなどサラサラありません。こうして出版されて、1100年弱経った今でも皆さんに読まれているのですから・・・、きっと、あの世で「俺の書いた土佐日記、最高でしょう」って感じでニンマリしてますよ(笑)


<係り結び>

・(いふかひなく)「ぞ」→(こぼれ破れ)「たる」

・(中垣)「こそ」→「あれ」 ※逆接強調法

・(千年)「や」→(過ぎに)「けむ」

・(今生ひたる)「ぞ」→(まじれ)「る」

・(『あはれ』と)「ぞ」→(人々)「言ふ」

・(と)「ぞ」→(言へ)「る」

・(なほ飽かず)「や」→(あら)「む」

・(またかく)「なむ」→結びの省略。《言へる》などの文節が省略されている。

※「いかが」→(は)「悲しき」 疑問の副詞(陳述の副詞)「いかが」に呼応した結び。

◇係り結びが分からない人は上にリンクを付けてある「古典文法の必須知識」を読んでね。


<挿入句>

「五年六年のうちに、千年や過ぎにけむ」

「なほ飽かずやあらむ」


<鑑賞・私の一言>

前半では家の荒廃ぶりに不誠実な隣人に対する「憤り」、後半では子供を亡くしたことの「悲しみ」を述べたもの。

また、土佐日記は、本来、紀貫之が女性に仮託して書いたものですが、「帰京」では所々で紀貫之が前面に出ちゃってますね。

・土佐日記
作者=紀貫之(きのつらゆき)
成立=平安時代前期(935年頃)
文学ジャンル=「日記」
現存する日本最古の日記文学。

・紀貫之(きのつらゆき)
870頃~945年頃。平安前期の歌人。三十六歌仙の一人。古今集の撰者の一人で仮名序の執筆者とされている。土佐日記で仮名日記文学を創始。歌風は理知的技巧的で繊細優美。家集は「貫之集」。美濃介・土佐守などを経て従五位上・木工権頭に至る。

予想テスト問題などは、気分が乗ったら、いずれ追記します。


<このブログに収録済みの品詞分解作品>

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<古文の学習書と古語辞典>

 古文を学ぶための学習書や古語辞典については、おすすめ書籍を紹介した下の各記事を見てね。
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途中、生まれしも帰らぬもののとこで生まれの原型がむまるになってますよ
混乱します。

Re: 「や」さんへ

こんばんは。

「原文」の所に「振り仮名」を示しているように、地の文の「この家にて生れし女子」の「生まれ」は「うまれ」、和歌の「生まれしも帰らぬものを」の「生まれ」は「むまれ」なのです。

ですから、地の文の「この家にて生れし女子」の「生まれ(うまれ)」の「基本形」は「うまる」、和歌の「生まれしも帰らぬものを」の「生まれ(むまれ)」の基本形は「むまる」です。

↓Weblio古語辞典「生まれしも~」
http://kobun.weblio.jp/content/%E3%82%80%E3%81%BE%E3%82%8C%E3%81%97%E3%82%82

ただし、一部には、どちらも「うまれ」としているテキストもあるようです。

Re: 「や」さんへ No.2

一応、近代デジタルライブラリー「定家本土佐日記」↓を示しておきますので、ご確認ください。

http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1191108

この「48コマ目」左ページ1行目の最後の字~「うまれ」、同じく左ページ後ろから2行目の最初の字~「むまれ」
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