【時代の正体取材班=石橋 学】川崎市の人権施策の在り方を審議する市人権施策推進協議会(会長・建石真公子(ひろこ)法政大教授)が22日夜、川崎区内で開かれ、市が制定作業を進める差別撤廃条例について議論を交わした。3月の条例の骨子策定に向けて市側が意見を求めたもの。ヘイト団体による人権侵害が継続、深刻化している現状を念頭に、委員からはインターネット対策をはじめ実効性のある規定を求める声が相次いだ。
条例のコンセプトは人種や国籍、障害者や性的少数者などに対する差別の禁止。人権全般を幅広く守ることを基本理念に、とりわけ深刻な被害を生じさせている差別については「特に対応が必要な分野」に位置付け、個別に条文化することを想定。差別の禁止規定とともに実効性を確保する規定も置くとしている。
「インターネットの問題は従来にない特質がある。時代の変化に応じて対応できるよう対策を項目として明示した方が良い」との意見を述べたのは県弁護士会人権擁護委員長を務める本田正男弁護士。在日コリアン市民を攻撃するヘイト書き込みが横行し、市によるプロバイダーへの削除要請の実施が急がれる現状を踏まえたもので、最所義一弁護士は「条例を根拠にすれば削除要請がしやすくなり、プロバイダーも削除に動くことが期待できる」と賛同。「国の法整備が求められているが、川崎市が先取りして根拠法令を設ければ対処がしやすくなる」との見解を示した。
本田弁護士は人権擁護が不断の取り組みであることを指摘した上で「実効性を高めるためにもときどきの問題を検証し、対応できるよう条例を磨き上げていける見直し規定を盛り込むべきだ」とも。建石会長も「海外の事例にあるように市民参加の検証機関の設置を検討してほしい」と必要性を強調した。
このほか、条例に盛り込むべき項目として▽市長や市職員、市議の倫理規定▽人権施策の基本計画・指針▽公的施設における差別的言動を防ぐガイドライン-などが上がった。ガイドラインに関して、中野裕二駒沢大教授は「解釈指針として暫定的に運用が始まった。条例に位置付けない運用はおかしい」と念を押した。
市は19年度中の条例成立に向け3月に骨子を発表、8月にパブリックコメントを実施する。前回1月の協議会では実効性を巡り「基本法レベルにとどめず、ひどい差別については抑止のために罰則規定が考えられる」との意見も委員から示された。市人権・男女共同参画室は「委員の意見を骨子に盛り込めるか検討する」としている。
協議会終了後、本田弁護士は差別扇動団体「日本第一党」の瀬戸弘幸氏らが街宣やネットを悪用して人権侵害を連日続けている現状に「理念法であるヘイトスピーチ解消法では食い止められておらず、法的に強い力が必要なのは明らか。適用範囲を限定した上で罰則という厳しい法規範を示すことは、確信的に差別をあおる人物だけでなく、一般人の差別を予防する意味でも意義がある」と強調した。