提督の日々(凍結)   作:sognathus
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その日はバレンタインデー。
艦娘たちは思い思いにチョコを用意し、それをどういう風に渡すか楽しく悩んでいた。
そンな折り、チョコを贈るのではなく多くのチョコを貰っているであろう提督からそれを強請ろうと執務室に入ってきた初雪の目に、思いもよらないものが飛び込んできた。


第27話 「バレンタイン」

「おおっ!? 何これ?!」

 

初雪の前に白い紙に包まれた巨大な立方体があった。

それは一辺3mほどの本当に大きなサイコロのような形をしており、プレゼント用のリボンが巻かれていなかったらサイコロ以外の何物にも見えなかった。

 

「バレンタインのチョコだ」

 

提督があっさりとその正体を明かした。

その事実に艦娘たちの間でどよめきが起きる。

 

「え? これ、チョコなんですか?」

 

と、霧島。

 

「これ、見た目からじゃ中身がチョコなんて絶対に分からないよね」

 

チョコと言う言葉を聞いて早速物欲しげな顔をする古鷹。

 

「で、誰から貰ったデスカ?」

 

そして金剛は明らかに嫉妬を露わにしてテンプレの如く反応を示していた。

 

「金剛、お前は誤解をしているぞ。これは俺からお前たちの為に用意した物だ」

 

「えっ、これ大佐から?」

 

驚く五十鈴に提督はそれを改めて肯定しながら言った。

 

「そうだ。バレンタインだからな。男女の仲を深める目的なら別に男が女に用意しても問題ないだろう?」

 

「そりゃそうだけど……それだとホワイトデーが……」

 

「曙、そのイベントは日本や一部のアジアだけだ。ここはアジアから外れた南の地だし、バレンタインデーは皆で楽しむイベントにしようと思ってな」

 

「すっごーい! 大佐、ろーちゃんこのチョコ早速食べてみたいって!」

 

ろーが目をキラキラさせて早くチョコを食べたいと提督にせがむ。

こちらはチョコをあげるより貰う方が好きなようだった。

 

「ろー焦らないの。大佐、ありがとう。開けても?」

 

提督への感謝もそこそこに大井も目の前に現れた巨大な甘味に興味を奪われているようだった。

ろーほどはしゃいではいなかったが、彼女の目はそのときだけは相棒の北上よりチョコを長く見ていた。

 

「ああ、いいぞ。勿論チョコはそれだけじゃない。一応全員が食べられるくらいの量は用意してある」

 

「まだこんなに大きいのがあるって言うんですか? もう……頑張っちゃって……」

 

そう言った提督の言葉からから開封の許可を確認して大井が嬉しそうに包みを開けた。

そして一同は包み紙から姿を現した“それ”を見て、再びその予想外のチョコの姿に驚くのだった。

 

「え、これチョコ……?」

 

開口一番時津風が唖然とした顔で言った。

 

彼女の動揺も無理は無かった。

何故なら姿を現したチョコは包装紙に包まれていた時と同様に全く形を変えず、ただ包装紙の色の白色から見た目が茶色に変化しただけにしか見えなかったからだ。

つまり艦娘たちの前に姿を現したチョコは巨大なサイコロのような形をした茶色の立方体だった。

提督はというと皆の動揺を察しているのかいないのか、いつもと変わらない落ち着いた様子でチョコを指しながら言った。

 

「そうだチョコだ。ちょっと見た目が味気ないが、その分かなり密度の高いチョコを作れたと思う」

 

そしてそう言う提督の顔は何となくかなり珍しく誇らしげだった。

 

「はは……大佐らしいと言えば大佐らしいね。うん、飾り気もへったくれもない完璧なただのチョコだねこれ……。それも凄く硬くて丈夫……おまけに角もツンツンでなんか痛そう……」

 

現れたチョコを指で撫でながらその無機質な出来に感心したらいいのか呆れたらいいのか判らないといった顔で夕張は評した。

 

「こ、これは食べるのも皆さんに取り分けるのも大変そうですね……」

 

妙高が拳でチョコを叩き、その頑丈さに困った顔をしていた。

その後ろでは待ってましたとばかりに天龍が自慢の長物を出して意気揚々としていた。

 

「おう、斬るか? いや、切ってやろうか?」

 

「切るにしてもこれ、一辺が長いから一太刀じゃ無理ね。リウィアは何か良い案はないかしら?」

 

ビスマルクに解決策を振られたローマもこの時ばかりは困った顔をした。

 

「ごめんなさい。これは私も爆砕してバラバラにするか溶かすくらいしか思いつかないわ」

 

「しかもこれまだあるんだよね。勿論僕は食べるけど確かにこれ、食べ方に悩むよね」

 

Z1もそびえたつサイコロ(のようなもの)を見上げて考えあぐねていた。

そしてその時ある者が声をあげた。

 

「はい! 雪風に良い考えがあります!」

 

「あら雪ちゃん何かしら?」

 

飛鷹が元気よく声を上げた雪風に興味深そうな眼を向ける。

雪風は多くの目が自分を見ている事に興奮気味に、嬉しそうな顔をして答えた。

 

「はい! ここは雪風の幸運を使うべきだと思います!」

 

「幸運? ゆっきーの幸運使ってこれをどうすんの?」

 

準鷹も雪風のアイディアに興味を惹かれ、身を乗り出してきた。

 

「雪風がこのチョコを砲撃します」

 

「?! うん、うん?」

 

予想外過ぎる発案に夕張は目を白黒させた。

 

「きっと雪風の幸運で形はバラバラでも均等な破片にになるでしょう!」

 

「アバウト過ぎないそれ?!」

 

火薬で焦げて溶けたチョコを想像して足柄が慌てた。

 

「んー、でもこれホントにどうしよう。まさか皆で齧り合うわけにもいかないし……」

 

「え? 私は余裕ですが?」

 

「勿論私も」

 

「規格外は黙っていろ」

 

「武蔵、貴女が言っても説得力ないわよ」

 

那珂の問題提起に加賀と赤城が余裕だと言う。

それに武蔵も追従するが、大和がすかさずツッコミを入れる。

そんな感じでせっかくのバレンタインデーはのっけから混迷を極めようとしていた。

 

「……」(これは俺の所為なのか……?)

 

渾身の出来のチョコを贈ったつもりがかえって混沌とした事態を招いてしまった事に提督は一人困惑していた。

 

その時、トントン、と自分の腰の辺りを叩かれる感触に提督は気付いた。

振り向くとそこには叢雲がいた。

 

「ん?」

 

「はい、これ」

 

渡されたのは綺麗に装飾された掌に収まるほど小さいプレゼントだった。

中身が何であるかは察するのは野暮と言えた。

提督はそれを見て素直にお礼を言った。

 

「ありがとう」

 

「こちらこそ、こんな素敵なイベントありがとうね」

 

「む……」

 

からかう様な顔でそんな皮肉を言う叢雲に提督は何か言おうとしたが、その前にまた叢雲が言った。

 

「それより、後ろ。皆待っているみたいよ」

 

「うん?」

 

提督が叢雲が指を指した方を向くと、そこにはチョコの対策の議論を交わしているメンバーとは別に彼にチョコを贈ろうとする艦娘がきれいに列を作って並んでいた。

先頭は榛名だった。

 

「大佐、これを……」

 

「ああ……」

 

幸せいっぱいといった顔で恥ずかしそうにチョコを渡す榛名に、提督は感謝しながらも彼女の後に続く列と、まだ議論をしている連中を見て今日も一日が長くなりそうだと思うのだった。




ああっ!?
正月とかクリスマスの話書いてない!
書けたら途中に挿入しようかな……



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