提督の日々(凍結)   作:sognathus
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ある朝、基地の周りは真っ白な雪に覆われていた。


第24話 「お説教」

「雪だー!!」

 

提督は日課として早朝ランニングをしているが、その時に限っては自力で起きる前に部屋に忍び込んできた鈴谷のベッド(布団)ダイビングで目覚めたのだった。

そして今、彼女は提督を連れて外に出て、先程したように白い雪の絨毯にダイビングをきめていた。

 

 

「あはははは♪」

 

「……」

 

はためくスカートから下着が見えるのも気にせず雪の上でバタバタしてはしゃぐ鈴谷に対して、一方提督はというと何やら対照的に全く楽しそうではなく冷やかな顔をしていた。

無理もない、ランニングを鈴谷のワガママで早朝散歩に変更され、今頃は運動によって火照っていた身体もゆっくりした歩調によってそうもらならず、ポケットに手を入れて一人震えていた。

そんな提督に鈴谷は気付き、雪に埋めていた顔を半分出して訊いてきた。

 

「? ねー、どーしたのー? 大佐も遊ぼうよー」

 

「俺は寒いのが苦手でな」

 

「えー」

 

「散歩には付き合うが雪に飛び込むのは遠慮する」

 

「えー、なにそれつまんなーい。ねーねー」グイグイ

 

「……っ、やめろ。力に訴えられると適わないんぞ」

 

提督は自分を遊びに巻き込もうと腕を引っ張る鈴谷の力に引きずられ、脚を踏ん張って抵抗をした。

しかし鈴谷はそんな提督の様子を面白そうにしながら笑って言った。

 

「うん、分ってる」

 

「離せ」

 

「やだ」

 

「はな……頼む」

 

このまま解放を要求しても埒が明かないと思ったのだろう。

提督は次は要求ではなく、少し下手に出てお願いする風を装う事にした。

だが鈴谷はまだそれでは不足とし、敢えなく却下した。

 

「たんなーい」

 

「む……お願いだ」

 

「もうちょっとー」

 

「……飛び込む以外に頼みを聞こう」

 

「やったー♪」

 

「く……」

 

どうやら正解だったらしい。

鈴谷は嬉しそうにその場でピョンピョンと飛び跳ね、提督は苦虫を噛み潰した様なうな顔をしていた。

鈴谷は早速お菓子を強請る子供の様に上目遣いで提督に迫ってきた。

 

「じゃー、じゃー?」」

 

「ああ、無茶苦茶言うなよ?」

 

「分ってるしそれくらい。じゃーねー」

 

「ああ」

 

「おんぶー」

 

提督はその頼みを何故、とは訊かなかった。

どうせ訊いてもそうしたいから、と理屈のない答えが返ってくるだけだろうし、何よりそれが鈴谷らしいと思えたからだ。

提督はそれを実行する上で唯一気になる事を懸念したが、子供の様に喜ぶ鈴谷を見てそれも徒労だと直ぐに気にするのをやめた。

 

「人目が……まぁ気にしないのか」

 

「うんっ♪」

 

「そこの公園まででいいか?」

 

「了承!」

 

「分った、乗れ」

 

「うんっ、しっつれいしまーす」ピョン

 

屈んで背中を向けた提督は真上から自分を覆う影と僅かな重力と風を感じた。

その原因に気付いて提督は焦って注意するも、既に跳躍して宙に浮いていた鈴谷には意味がなかった。

 

「な、おいやめろ。飛び過ぎ……」

 

ズシンッ

 

 

 

「……という夢をな」

 

「へー」

 

朝、朝食後のひと時を秘書艦の鈴谷と過ごしていた提督は今朝見た夢の事を話していた。

鈴谷はそれを頬杖を付いて面白そうに脚をパタパタさせながら訊いた。

 

「考えてみればここに雪なんか降るわけないからな。それで夢だと気付いて目が覚めたわけだ」

 

「あ、鈴谷に潰されたからじゃないんだ」

 

「まぁな」

 

「じゃぁ、少なくともその時点では目が覚めてなかったわけだよね?」

 

「ん……」

 

提督は話を語る中で話題として触れるにはやや気になる所に差し掛かった事に気付き、コホンと咳ばらいをして話を切り上げようとしたが鈴谷はニヤニヤ笑いながら追求してきた。

 

「その後どんな展開だったの?」

 

「黙秘する」

 

「えー、知りたい―! というか大佐のエッチー」

 

「おい、何を決めつけてる」

 

「だってそうだったんでしょ?」

 

どうやら話の続きの展開の予測は両者ともに共通しているらしい。

鈴谷は仄かに頬を赤く染めながらも悪戯をする子供の様な顔でその予測を特に抗議もすることなく、寧ろ面白そうに自ら提督の夢の話の続きを彼に促そうとした。

当然提督もそれを是とせず、逆にその態度を注意する事で話を変えようとするも……。

 

「……少なくとも夢の中でもお前はお前のままだったという事だ。事実予想が当たっていた時点でお前自身自覚があると……」

 

「えー、鈴谷そんなにいんばいじゃないしー」

 

「じゃぁせめて俺の前では椅子の前で胡坐かくのやめろ」

 

「パンツくらいいいよ?」

 

「淫売じゃないと言うならモラルくらい保て」

 

「何でそんなに気にするかなー。水着と変わらないじゃん」

 

「潜水艦の奴らでも基地の中では服を着ているぞ」

 

「ちゃんと処理もしてるし?」

 

鈴谷が胡坐をかきながら自らスカートを片手で捲し上げて訊いてもない事を証明した時、流石に提督も呆れた顔にやや厳しい目をして言った。

 

「分った。これ以上口答えそするならお前を当分基地の事務係にする」

 

「ちょっ」

 

「事務員はいいぞ。危ない戦闘もないし演習にも遠征にも参加しなくていい。ただ基地の受付の所で簡単な事務業をするだけでいいしな。しかも事務員専用の控室は生活が可能な設備が全て揃っている」

 

「で、でも事務員も当番制だしっ」

 

事務員をずっとするというのが余程気に入らないのだろう。

鈴谷はここに来て初めて焦った様子で提督にその命令を不服として抵抗の構えを見せるも、提督は素っ気ない態度で手をひらひらさせながら更にこう言った。

 

「だから当分、と言ったろ? こんな楽な仕事だ。皆は羨ましがるだろうな」

 

「ええっ」

 

「お前の当番の任務は全て熊野に代わってもらおう。仕事は大変になるがこっちでなるべく調整はする……」

 

ギュッ

 

「……」

 

提督がここまで言った時、彼の服を鈴谷が掴んで俯きながら謝ってきた。

提督はまだ厳しい表情をしていたが、鈴谷から反省している雰囲気を感じてやや纏っていた緊張感を解いた。

 

「ごめん」

 

「反省したか?」

 

「うん……あ、はい」

 

「別に始終気を抜くなとは言わない。せめて俺が注意した時は正せ。それくらいできるな?」

 

「はい」

 

「ならいい」

 

「ほっ……ありがと」

 

「まぁある意味職務に対する意気込みは確認できた。おかげで俺もお前の事を改めて頼もしく思った」

 

ポンッ

 

不意に頭に感じた提督の掌の重みに鈴谷は少し驚いた顔をして顔を上げある。

そこにはもう厳しい顔をした提督はいなかった。

代わりに彼はまた呆れた顔をしていたが、それでもその目は明らかに優しげで口も僅かに笑っていた。

鈴谷はそれを見て心に安心感が満ちるのを感じた。

 

「あ……」

 

「尽くせ、仲間に、自分に」

 

「大佐にもねっ」

 

「俺はついででいい」

 

「ふふっ、やだし♪」

 

海軍としての心意気を説きながら自分の事はついで言いという提督に鈴谷はボフッっと抱き付き、即座にそれを笑って拒否した。




ブログの方に載せていた話ですが、割と気に入っていたので此処用に編集して投稿しました。
鈴谷は可愛いですねぇ、まぁ俺は熊野派ですがそれでも鈴谷はマジで可愛いと思います。



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