NGT48山口真帆さん暴行事件 犯人が「野放し」になった理由
なぜ新潟県警は実行犯を釈放してしまったのか
「いろいろ、思うところはあります」
雪がチラつく新潟市内。本誌記者に相対した新潟警察署・梅田毅副署長の表情は、どんよりした冬の空のように曇っていた。NGT48メンバー暴行事件は、それほど複雑怪奇だった。
「AKBグループの中でいま、最も勢いがあるのが新潟を拠点に活動するNGT48です。ソニー・ミュージックが仕切っているから楽曲もPVも気合が入っていたし、メンバーたちの評判も良かっただけに衝撃でした……」(音楽雑誌編集者)
これまでもアイドルが襲撃される悲劇は起きていた。ただし、握手会の会場であったり、ライブ会場であったり、現場は公的な空間だった。
ところが、昨年12月8日夜――NGT48一期生の「まほほん」こと山口真帆さん(23)が襲われたのは自宅マンション内。それも、玄関の真ん前だった。
「新潟市内のマンション内の廊下で山口さんを待ち伏せしていたのは、新潟市内に暮らすNGTファンの男二人。一人は25歳の大学生でもう一人は25歳の無職でした。帰宅した山口さんに声をかけ、部屋に入ろうとしたところ、彼女が抵抗し悲鳴を上げたので、慌てて彼女の口を手でふさいだのです。犯人らは駆け付けた捜査員に新潟署に任意で連行され、翌9日朝に暴行容疑で逮捕されました」(全国紙社会部記者)
というのが事件のあらましだが――大きな謎がある。どうやって、彼らは山口さんの自宅住所をつきとめたのか?
山口さん自身が明かした「答え」はショッキングだった。事件から1ヵ月後の1月8日夜、彼女は『SHOWROOM』の生配信で涙ながらに暴行事件を告発。「帰宅時間や住所を犯人に教え、家に行けと唆(そそのか)したのはNGTメンバー」だと暴露したのだ。前出・記者が続ける。
「暴行事件の告発と同時に、山口さんは太野(たの)彩香、西潟(にしがた)茉莉奈らNGTメンバー4名のツイッターのフォローを外した。そのため、ネット上では『太野らが事件の黒幕では?』と大騒ぎになった。名指しされた太野と西潟は新潟署に携帯電話を預け、事情聴取に応じたことを告白。そのうえで潔白を主張しています」
NGTの活動拠点は新潟。県外から参加しているメンバーは運営側が借り上げているマンションを寮として暮らしている。青森出身の山口さんもその一人だ。
東京などの大都市と比べると、繁華街の規模も小さく、活動エリアは限られる。ましてやNGTはCDなどの購入特典に「メンバーと一緒にボウリングができる権利」があるなど、ファンと非常に距離が近いグループ。NGT関係者は「追跡は容易で、メンバーの住所を知っているファンは少なくない」と言う。
「犯人の一人の"推しメン"(イチ推しのメンバー)が山口でした。彼女にとっては多額のおカネを投資してくれた太客。顔見知りですよ。これは表に出てないですが、犯人が彼女と接触してから110番通報されるまで1時間の空白がある。しかも通報したのは山口ではなく、NGTの関係者。新潟署の捜査員が駆け付けたとき、山口は犯人たちとマンション近くの公園で話をしていたんです。捜査員は犯人が彼女の部屋に侵入したのかどうか調べようとしたが、山口が拒否したという情報もあります」(NGT関係者)
キー局プロデューサーはこう言う。
「山口は『犯人のうちの一人はマンションの向かい部屋から出てきた』とツイートしています(現在は削除)。そこはかつて太野が住んでいた部屋。山口は正義感が強く、繊細な子だから、犯人と太野らが繋がっていると思い、パニックになった。しばらく、落ち着いて話せる状態じゃなかったそうです。運営側が事件を伏せていたのは、第一には時間をおいて山口を落ち着かせるため。第二には、事件性はないと判断したからでしょう」
AKBグループの運営会社AKSの責任者・松村匠氏らは、犯人に山口さんの帰宅時間を教えたメンバーがいることは認めたが、「違法性はない。第三者委員会で徹底的に調査してもらい、諮問を頂いて判断を仰ぐ」とコメントした。
実際、犯人二人は12月末に不起訴となり、釈放されている。だが――ファンがアイドルを襲ったことは事実。住居侵入の疑いもある。住所がバレている以上、再犯の恐怖もつきまとう。それでも、警察の判断は「事件性なし」なのか?
冒頭は新潟警察署の梅田副署長との一問一答の一部だ。続きを紹介しよう。
――被害者(山口さん)にケガはなかったのか?
「ケガはありませんでした。ケガがあれば傷害になります」
――容疑者は当該マンションの別の部屋から出てきたという証言があるが?
「お答えできません」
――被害者の住居に侵入しているのに、住居侵入罪にはならないのか?
「(犯人たちが)そこにいる根拠があった、ということだと思います」
――警察官が駆け付けたのはマンションの廊下?
「それはコメントできません」
――近くの公園で被害者と男性2名が話し合っていたという証言があるが?
「それもコメントできません」
――動機は何だったのか?
「あの子(山口さん)と話がしたい、と供述していました」
――暴行目的ではなかった?
「最初の供述では『暴行なんてしていません』と否認していました」
――今回、犯行に及んだ二人がストーカー化する恐れはないのか?
「男女間のトラブルである以上、そういう恐れも含めて、すべてのことを想定して対応をとっていますよ」
――接近禁止命令を出した?
「警察が何をやっているか、というのは話せません。(犯人に)そこを突かれることになりますから」
――どうして不起訴なのか?
「(起訴・不起訴は)地検が判断することですから。私からはお答えできません。暴行にもいろいろありますよ。悪意があるか、ないかとか。我々は捜査をして送致をしました。事件は終結しています」
――警察は起訴するために捜査する。今回、満期まで勾留して調べたようだが?
「そういう思いはあります。細かい勾留期間などについてはお答えできません」
――事件が注目され、「警察の対応がおかしい」という意見も出ている。
「思うところはあります……」
プライバシー侵害などに詳しい弁護士の落合洋司氏は「安易に不起訴にしたことに疑問を感じる」と首をかしげる。
「根が深い事件だと思います。単にファンの男性が自宅に押し掛けたというだけでなく、他のメンバーとの繋がりも指摘されている。事情聴取した二人のメンバーだけではなく、事件にかかわっていると思われる関係者全員から話を聞いて供述調書を作るという、本来行うべき捜査ができていなかったのではないか。暴行行為をした二人は他のメンバーに差し向けられたという報道もある。もしそれが事実なら、トラブルが深刻化していく可能性がでてきます。たとえば、山口さんと敵対していると言われているメンバーに対して、山口さんのファンが報復的な行動に走るなど、別の事件を誘発する可能性もある。警察、検察の、事件に対する取り組み方が浅すぎたように感じます。アイドルの住所という、厳重にガードされるべき情報がなぜ漏れているのか。表面的な『暴行』という部分だけを見るのではなく、問題意識を持って捜査に取り組んでいくべきでした」
ファンが突然、殺人犯と化した例は枚挙に暇がない。事件が起きてからでは、取り返しはつかないのだ。
PHOTO:上野 薄