提督の日々(凍結)   作:sognathus
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「は……? 資材は暫く凍結……? 既存のものだけで現状を維持、ですか……?」

とある鎮守府である提督が自分が所属しているエリアの統括責任者から特に制裁される覚えもないのに資材を凍結されるという理不尽な嫌がらせを受けていた。
その理由は極めて簡単で、そして低俗だった。


第21話 「悲劇を防げ」

責任者は彼の秘書艦の榛名に目を付け、それを性的な目的で略奪せんとしたのである。

責任者は“統括元帥”本部以外の支部で構成されたエリアをまとめる責任者の為に用意された特別な階級だ。

提督はもう直ぐ元帥への昇進に辿りつかんとする程に優秀な軍人だったが、その戦果相応に資材を大胆に消費し、その補給を責任者に完全に頼っていた。

いくら昇進に向かって邁進して元帥になったとしても立場的に責任者より上にはなれないので、彼は資材の件もあって責任者に対しては意見を述べる事すら躊躇ってしまうほどにいつの間にか頭が上がらない関係になっていた。

 

提督は考えた。

何か打開策は無いかと。

自分の先輩や後輩に頼るのも手だが、同じエリアだとその事は直ぐに責任者にバレてしまい最悪解任を宣告される事もあり得た。

それだけは嫌だった。

自分は周りに認められ称賛される軍人となって何れ海軍の、本部の幹部になるのが夢だったのだ。

その過程で“それまでの功績の証”として榛名との誰もが羨ましがるケッコンまでして“拍を付ける”計画だったというのに、これでは全てが水の泡ではないか。

 

提督は考えた。

なら手間はかかるが別エリアの自分より階級が低く、かつ資材を節約しながらもうまく立ち回って戦果を上げている自分ほどにないにしても優秀な提督を頼る事を。

提督は早速パソコンを使って海軍のデータベースにアクセスして過去数カ月分の戦況とその経過を調べた。

その結果、ある提督が正に自分が探している理想の相手に近い事を確信した。

 

「榛名」

 

提督は心配そうに自分を見つめている最も目を掛けている艦娘を呼んだ。

 

「ちょっとここに挨拶に行ってくれないか?」

 

 

 

「……なるほど、事情は分かりました」

 

相変わらず眩しい常夏の太陽の光を窓から浴びながら、”その提督”は抑揚のない声でそう言った。

 

「あのそれで……」

 

榛名は申し訳なさそうな顔をしながら縋るような声を出した。

見たところ目の前の提督は自分の主人の提督より年上に見えた。

顔は無表情とまでは言わないが、表情に乏しく常に難しそうな顔をしてた。

やや疲れたような目と自分で散髪しているのか、整髪もしていないせいで髪型もところどころぼさぼさでかなり適当に見えた。

常にきちんと髪をまとめ、若く、眼鏡を掛けて理知的に見える自分の主人とは大分違う印象を受ける提督だった。

だが艦娘を指揮する提督であるにも関わらず自分に対してはずっと丁寧語を使っていた。

勿論全ての提督が艦娘に対して素っ気ない言葉使いをするわけではないが、それでも割とよほど信任を置く艦娘出ない限り多くの提督が艦娘に対して丁寧な言葉を使うのは珍しかった。

ましてや他所の提督の艦娘となればそんな言葉を掛けられるのは必然とさえ言えた。

なのにこの提督は自分の事をここに来てからずっと客として扱い言葉以外に態度も丁寧で紳士的だった。

 

階級はここに来る前に主人からもらったデータによると准将なので、主人と同じ支部の提督ではるが彼よりは立場的に下の人間ということになる。

だが榛名はここに来てからもう一つ気になっている事があった。

基地の中で提督に声を掛ける者が一様に彼の事を『大佐』と呼んでいたのだ。

公式のデータでは確かに准将となっていたのにどういう事なのだろう?

もしかして何かの作戦の失敗の攻めを受け降格を受けたばかりなのだろうか。

 

「そうですね、先ず善処は約束します」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

色良い返事を貰えそうで榛名は表情を明るくする。

これで主人の危機を救えるし、あわよくば褒めてもらえるかもしれない。

 

「……」

 

提督は榛名のそんな表情を見ながらある事を懸念していた。

そう、艦娘『榛名』によく見られるある特性を。

 

「そうですね、一日だけ下さい。その間にこちらでできることを思案しまとめますので」

 

「は、はい! それじゃあまた明日――」

 

榛名が当然のようにまた明日出直すと言おうとした時だった。

提督の傍に控えていた秘書艦らしい足柄が彼女の声を遮ったのだ。

 

「それには及ばないわ。榛名さん、今日はここに泊っていくといいわ」

 

「えっ」

 

「わざわざ時間を掛けて別のエリアから来たんでしょう? なら答えだって明日出すんだし今日くらい泊ってゆっくりしていった方が良いわ」

 

「で、でも……」

 

意外な提案に榛名は躊躇いを見せた。

 

「そちらの提督さんにはこっちから一報を入れるから安心して。ね? いいでしょ? 大佐」

 

提督に確認もせずに自分から提案した事にも関わらずそれがもう決まった事というやはり大佐と、自分の主人に対する態度とは違いフランクな言葉使いでそう言う足柄に声を掛けられた提督は意外にも気分を害した様子も彼女を窘める事もなくこう言った。

 

「ん……そうだな。榛名さん、足柄の言うとおり今日はここに泊っていくと良い。そして明日も帰るときはこちらから一応護衛の艦隊をお付けしよう」

 

「ええ!? い、いえ、そこまでして頂かなくても……」

 

「資材に余裕がある提督という事でこちらにいらっしゃったのでしょう? ならここはそう遠慮されなくてもいいですよ。その見込み通り貴女の帰投に部下を付けるくらいの余裕はありますから」

 

「で、でも、流石にそれは……」

 

尚も恐縮して萎縮している様子すら見せて固辞しようとしている榛名に足柄がそっと歩み寄った。

 

「遠慮しないで。他の基地でゆっくりするの初めてでしょう? ここ、見ての通り南の島なの。案外その辺をブラブラするだけでも良い気分転換になると思うわ」

 

足柄はそう言って優しく榛名の手を握った。

榛名は全く予想だにしなかった展開と足柄の不意の行動に驚いたが、自分の手を握った足柄の手の温もりを感じて何故か安心した気持ちになった。

 

「あ……」

 

「ね? 是非そうして欲しいわ」

 

にこりと笑う足柄についに根負けして榛名はチラリと彼女の後ろにいる提督に最初の時とは違った申し訳なさそうな視線を送る。

提督はそれに気付いて初めて僅かに微笑み、頷いて彼女の停泊を肯定した。

 

「ようこそ我が基地へ。今日はゆっくりしていって下さい」

 

 

 

「さて……」

 

宿泊を承諾した榛名が突然の客に喜色を隠さずにはしゃぐ島風たちに連れられて部屋を出て行ってから、提督は深く椅子に座り直した。

彼の周りには榛名が退出してから呼ばれた数名の艦娘がいた。

その場に集まっていたのは足柄、加賀、長門、大淀、叢雲だった。

 

「どう思う?」

 

「支援を求めてきた提督の鎮守府の状況に偽りはないと思うわ。あの榛名の態度も少なくとも嘘ではないわね」

 

「足柄さんに同意です。間接的ではありますが彼女からの話と調査結果に虚偽は認められませんでした」

 

「だけど……」

 

加賀の言葉の後に叢雲が少し表情を曇らせて続けて発言した。

 

「あの子の提督の事?」

 

「ん……あくまで私の直感だけど、この提督は未熟ね。そしてその提督に影響を与えているらしい統括責任者にも何か問題を感じるわ」

 

まだ何も論議をしていないのにいきなり核心を突くような事を言う叢雲。

だが周りの者はそれに異を唱えることもなく寧ろ同感といった様子で意見を述べた。

 

「私も叢雲と同感だな。加賀と一緒に調査をしたがその辺、ちょっときな臭く感じた」

 

「大淀?」

 

提督は長門の意見の信憑性を確かめる為に独自に本部に確認を取るよう指示をしていた大淀に報告を促す視線を送った。

 

「長門さんと叢雲さんの予想は正解です。本部の情報部に確認を依頼したところ直ぐに結果がでました。先ずその責任者は黒です」

 

「ふむ……ということは……」

 

大淀は少し間を置くと提督のその予測を肯定した。。

 

「はい、本日付で責任者は免職になりました。勿論その事実はまだ公表されていません」

 

「まぁどんな問題を起こしていたのかは俺たちが知る必要はないか。となると残りは……」

 

「榛名の提督の事ね。叢雲が言っていた未熟って……」

 

「言葉の通りだな。恐らくその提督は榛名を榛名のまま使っている」

 

「何となく解るが、もう少し解り易く説明できるか?」

 

提督は叢雲の意見に対する長門の補足が若干理解し難かったようで頭を掻きながら詳しい説明を求めた。

すると加賀が前に出て相変わらずのポーカーフェイスながら少し憂いを含んだ瞳をして言った。

 

「向上心があって優秀、大変結構ですがそもそも出世欲が大きすぎるのが問題です」

 

「む?」

 

「優先順位に問題有りかと思います。職務に対する責任感より出世、そして何より私たち(艦娘)に対する愛に差があるんです」

 

「足りないではなく差、か」

 

「榛名さんは提督とのケッコンもされるみたいですが……」

 

加賀の言葉が途切れたところでようやく議論の発端となった発言をした叢雲が口を開いた。

 

「これも直感だけど榛名とその提督には持っている愛情の質が違う気がするのよね」

 

「榛名の提督に対する愛情は本物だろうが恐らく提督は違うだろうな」

 

提督は長門の意見に、自分が榛名の提督に関して海軍のデータベースを調べて知った情報を思い出しながら訊いた。

 

「俺が確認した彼の経歴や戦果には特に問題は無いように思えたが」

 

「そうね。何も問題が、無さ過ぎたでしょう?」

 

「……」

 

提督は足柄の言葉を理解した。

普段の振る舞いは問題は無くても内面に問題がある者が提督をしているという事はままあるのだ。

かと言ってそれが全て問題というわけではなく、明らかに非道とされる行いをしなければ問題は無い。

この提督も恐らくその類であろうが、心情の温度差によって提督と艦娘との間に悲劇が起こる事もあるのだ。

故にもしこの提督がそれに該当するのであれば制裁とは言わないまでも“予防”を行う必要が生じてくる。

 

「大佐、お願いできるか? 本部に……」

 

「ああ、任せろ」

 

提督は長門が何を言いたいのか理解して本部にいる自分の恩師の顔を真っ先に思い出した。




ややシリアスな雰囲気の話になってしま……いや、それより更新がやや滞り始めているのも気になりますね。
こんな調子でゲームを再開できるのか不安を覚えるところです。
まぁその前にコンシューマ版が出るのでそれでリハビリでしょうかw



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