提督の日々(凍結)   作:sognathus
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提督は夜、何故か目が冴えている事もあって夜釣りを敢行する事にした。


第18話 「望月の気遣い」

夜の海は波の音と僅かな虫の囀りのみが響き、極めて静かである。

相変わらず温暖な気候による潮風も心地良いし、晴れた空からは月明かりが覗く。

周囲に建物がないのでそれだけでも十分明るいと言えた。

 

提督は船着き場から少し離れた位置に座ると持っていたランプを地面に置き、続けて煙草と缶コーヒーもその近くに置いた。

早速釣り針に発光式のルアーを付けてそれを沖に投げた時だった。

口に煙草を咥え懐に手を忍ばせた時に提督はある事に気付いた。

 

「ん……」

 

提督は煙草を持って来ていたものの、ライターを忘れていたのだ。

基地からそれほど離れていないとはいえ時間帯もあるし、歩いて取りに戻るのもどうかといったところ。

提督は少し沈思したのち今回は潔く喫煙は諦める事にした。

 

「灰皿は持って来たのに火種を忘れるとはな……」

 

誰もいない場所で提督は一人自嘲気味に呟く。

だが煙草は加えたままだ。

例え火が点いてなくても仄かに香る匂いが僅かだが喫煙できなかった欲求を満たしてくれるからである。

 

 

「お、空いてんじゃん」

 

唐突に背後で声がした。

提督は聞き覚えのある声だったから外面的には動揺を見せなかったものの、全く警戒していなかった状態で声を掛けられたこともあって、内心は実は結構驚いていた。

 

「望月」

 

提督が振り向いた先には悪戯っぽい笑みを浮かべた望月が居た。

見るとその手には酎ハイの缶とマッチを握っていた。

 

「大佐の隣げっとだぜー、なぁんてねー」

 

そう言うと望月は何食わぬ顔で提督の隣に腰掛ける。

 

「起きていたのか」

 

「うん、ちょっとブログ書いててさ」

 

「ネットのか?」

 

「うん、そしたら窓から大佐が歩いているのが見えたんだ」

 

「そうか」

 

「お? 子供は寝る時間、とか言わないんだねぇ?」

 

「言うほどお前は実は子供じゃないだろう?」

 

「分ってるじゃん♪」

 

望月は嬉しそうに笑い何気なく更に提督との距離を詰めると缶のプルトップを開けた。

そしてそれを一口飲むとはぁ、と美味しそうな息を吐きながら提督にマッチを差し出した。

 

「……気が利いてるな」

 

「わたしが用意できるのはこれくらいだからね。もし何か忘れているとしたら、と思ったんだ」

 

「ん? お前はマッチを普段何に使うんだ?」

 

「香を焚くのに使ってるの。マッチだとライターより何か一瞬良い匂いがする気がするからさ」

 

「なるほど」

 

「偶に焼香も焚くんだよ」

 

「ほう?」

 

「ほら、なんか抹香の匂いって落ち着かない?」

 

「ん、分らないでもないな」

 

「でしょー、はい」

 

自分の好みに共感を示してくれた提督に望月は微笑みながらマッチを擦ってその火を彼の口元に差し出した。

提督はその灯を手で囲い、有り難く頂戴した。

 

「ん……ふぅ……」

 

「煙草はあんまり吸っちゃダメだよー?」

 

「ん……これでも数本数はかなり少ないと思ってるんだけどな」

 

「それは知ってる。一日数本ってところでしょ? 吸わない日もあるよね?」

 

「よく見てるな。その通りだ」

 

「ま、節制はしてると思うけどね。でもわたしたち的にはやっぱり大佐には健康でいて欲しいからさ」

 

「……ふぅ……善処する」

 

「うん、お願いね」

 

提督は望月の横で煙草を一回深く吸い、まだそれが半分以上残っているにも関わらずもうそれを灰皿に捨てようとした。

望月はそれを見て珍しく慌てた顔をして言った。

 

「あ、別に吸うなって言ってるわけじゃ。あ、ごめ……わたしが隣にいるから吸い難い?」

 

普段はマイペースだがしっかりした性格で頼りになる望月だが、この時は提督に対しては素直な気持ちを出すようにしてる所為か、その申し訳なさから涙まで若干滲ませていた。

提督はそれを否定する様に望月の頭を優しく撫でながら言った。

 

「ああいや、一人なら確かにまだ数本吸っていたかもしれないが、案外話し相手がいるとそれはそれで気分転換になって煙草の代わりになるものなんだ」

 

「……ホントに……?」

 

頭に乗った提督の手を握りながら望月は慎重な声で訊いた。

 

「ああ、本当だ。現に俺は今、楽しくお前と話している。それにマッチを持って来てくれたことに対しても感謝しているし、お前に悪い感情を抱く理由はない」

 

「うん……ならいい」

 

「ああ」

 

 

「ねぇ、大佐」

 

ふと望月が訊いた。

 

「うん?」

 

「大佐ってさ、やっぱり女ばかりに囲まれてたら居心地が悪い?」

 

「また唐突だな」

 

「前からちゃんと訊いてみたくてさ」

 

「ふむ……」

 

提督は望月の真摯な眼差しを受け、視線を遠くに向けて一拍置いた後に顎を撫でながら言った。

 

「確かに自分以外に男がいないという環境には最初は戸惑った。最初はな?」

 

「うん」

 

「だが、今は慣れた」

 

「本当?」

 

「皆良い奴だからな。何だかんだ言って皆根は良い意味で心が綺麗な軍人をしてくれる。それだけで俺は凄く仕事がし易いというもんだ」

 

「心が綺麗な軍人……」

 

「ん、自分で言っておいて改めて聞くと妙な例えだな」

 

「ふふ、そうだね」

 

「まぁそれが異性として意識する事もあまりなく、仕事に励むことができる理由になってるって事だ」

 

「いや、それはそれで問題でしょ」

 

「え?」

 

「意識してよそこは」

 

「ん?」

 

「駄目だよ、それはわたしヤダ。せめてわたしだけはちゃんと異性として意識して」

 

「ん……? ああ」

 

提督は望月が言いたい事を理解して、故意でないとは言え自分の言葉がまた部下に余計な不満を与えてしまった事に気付いた。

そしてその事を詫びる様に笑いながら胡坐をかいた自分の膝を叩く。

 

「うん?」

 

「すまん、座るか?」

 

「え、それってもしかしてお詫びのつもり? それとも子供扱いしてるの?」

 

「両方だ」

 

「子供扱いもしてるんだ!?」

 

「嫌か?」

 

「……ズルイ。でも今だけは受け入れてあげる……っしょっと」

 

「ん……ついでに浮きの動きも一緒に見ていてくれるとありがたい」

 

「りょーかい」

 

こうして望月は提督の膝に座りながら、二人で夜が明ける少し前まで楽しく話しながら釣りをした。




再開した時に望月の改二が実装されてたりして。
なんて妄想をするくらい望月が好きな筆者でした。



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