提督の日々(凍結)   作:sognathus
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提督はメッセージが未読だった艦娘たち全員に返信をしました。
その結果、基地ではちょっとした華やかな騒ぎが起こりました。


第16話 「賑わい」

「……」

 

昼休み、その時間を赤城と一緒に過ごしていた加賀のスマートフォン(以下スマホ)を持つ手がピクリと動いた。

赤城はそれに目ざとく気付き興味ありげに聞く。

 

「加賀? どうかした?」

 

「……やりました」

 

余程嬉しい事があったのだろう。

微笑ではあったが、明らかに嬉しさからくる笑顔だと判るくらいに目も細めて加賀はスマホの画面を見つめながらそう呟いた。

 

「……?」

 

赤城が加賀の心境を把握できずに不思議そうに見ていると、加賀はまるで勝利宣言をする様にスマホを彼女の前に突き出した。

 

「大佐から返信がありました。クリスマスゲットです」

 

「……返信って、ああ、ラ○ンね。って、ええっ? 大佐から返信来たの?」

 

 

基地では提督にラ○ンを送っても返信どころか、既読すらつかない事が当たり前の事実となっていた。

提督と個人的な時間が作れるかもしれないと思っていた艦娘たちは、皆最初はその事に落胆していたのだが、時間が経つにつれて“あの提督なら仕方ない”“きっと単純に気付いていないかスマホを使ってないのだろう”という共通の見解が自然と発生していつの間にか皆、それほど気にもしなくなっていた。

しかしそれでも彼へメッセージを送る者は増える事はあっても減る事は無く、誰が一番最初に気付いて貰えるのかと言う競争へと密かに趣向が変わっていたのであった。

そして今、加賀のスマホのラ○ンのトーク画面には、彼へ送ったメッセージの横に“既読”の文字が出ていた。

加賀はそれによって自らがその競争の勝者だと確信し、赤城にそれを教えたのである。

 

「長い闘いでした……。未読のメッセージを数える事ゆうに3500余り……。私はようやく大佐に気付いて貰えたのです」

 

「は、はぁ……」

 

正直言って1000を超えるメッセージに気付かない提督も提督であるし、それにも関わらず3000を超えるまで未読のメッセージを送り続けた加賀の執念にも若干引くものがあったが、しかしそれでも加賀のメッセージに提督が気付いたのは紛れもない事実であった。

クリスマスという言葉から恐らく彼女は提督にその日一緒に過ごす為の誘いでも掛けていたのだろう。

提督から返事があったという事は加賀の誘いを受けたと取っても無理はなかった。

何故なら3000を超えるまでメッセージを送り続けたのだから。

 

「うーん、でも……」

 

赤城は加賀の舞い上がりように呆れながらも内心ちょっと嫉妬していたが、なるべくそれを気付かせないように注意しながらふと気になった事を口にした。

 

「大佐から返事が来たのって本当に加賀だけかしら?」

 

「え?」

 

当たり前と言えば当たり前だった。

自分以外にも提督にメッセージを送っていた者はいた。

それは目の前の赤城も同じであり、故に彼へ送られていたメッセージは送った艦娘の数だけまた、未読の数も多いという事である。

あの基本的に真面目で義理堅い提督がそんな彼女たちの中から自分だけに変身をするとは確かに思えなかった。

 

「っ、しかし……」

 

最初に返信が来たのは自分なのだから提督を優先的に占有できる権利を有するのも自分である、と加賀が言おうとした時だった。

赤城のスマホから鈴が鳴る音が小さな着信音が聞こえた。

 

「あ」

 

「……」

 

赤城はそれに気付いて急いで懐からスマホを出す。

そして……。

 

「やりました♪」

 

先程の加賀と同じポーズだったが顔だけは彼女よりはっきり判る輝く笑顔で赤城は加賀に自分のスマホを見せた。

加賀はそれを見て悔しそうな顔をする。

 

「……赤城さん」

 

「ん? なに?」

 

「沢庵いりますか?」

 

「買収にしては安過ぎない? それ!?」

 

その後、赤城と加賀の部屋から暫く珍しく言い争う声が聞こえた。

 

 

 

所変わって廊下。

天龍が歩いていると龍田が後ろから声を掛けてきた。

 

「天龍ちゃ~ん」

 

「ん? おお、龍田」

 

「ねぇ、天龍ちゃんにも来たぁ?」

 

「ん? 来たって?」

 

「大佐からのラ○ン」

 

「あー……やっぱ全員に来てるよなぁ」

 

「ふふ、という事は天龍ちゃんにも?」

 

「まぁなぁ……」

 

「仕方ないよぉ。流石に特定の人にだけ返信するとかは大佐に限って有り得ないって~」

 

「まぁそうだけどよー……」

 

「期待してた?」

 

「悪いかよ?」

 

拗ねるような顔をして顔を赤くする天龍に龍田は笑いながら言った。

 

「ふふ、正直ねぇ。でも悪くなんかないわよ。誰だって期待はしちゃうし、したってそれは罪でもなんでもないわぁ」

 

「だよな、別に心の中でくらい主張したっていいよな」

 

「そうねぇ。で、クリスマスのパーティをするようだけど」

 

「当然行くぜ。まだ先だけどな」

 

「そう来なくっちゃ♪ ねぇ」

 

「おう、服でも見に行くか」

 

「うんっ♪」

 

 

 

更に所変わって金剛姉妹の部屋。

 

「~~♪」

 

「金剛お姉様」

 

「ンー? なんデスカ霧島? ~♪」

 

「流石にクリスマスパーティをするからって下着から選ぶのはどうかと思います」

 

「え、エッチなのはいけないと思います!」

 

「ひ、比叡もそう思いますお姉様!」

 

姉妹の力関係から姉よりインパクトのある行動を表すことができずに焦っていた榛名と比叡はここぞとばかりに霧島の意見を支持した。

 

 

 

また更に所変わって阿賀野姉妹の部屋。

 

「……姉さん」

 

「んー? なっあにーやっはぎー? ~♪」

 

「いや、流石に犬耳やリード線から選ぶ姉を見たら引くわよ阿賀野姉……」

 

二人でクリスマスに着ていく服装を楽しく話し合っていた能代と矢矧は、その後ろで自分達の常識からかけ離れた選択をしようとしていた姉を真っ赤になって止めた。

 

 

 

そんなこんなで提督がメッセージが未読だった艦娘たち全員に一気に返信を返した結果、基地の各所で楽しそうな声や会話がその日は聞こえるようになった。

その結果提督はと言うと……。

 

 

 

「あ、そこ」

 

「む」

 

「そう、なるべく操作は親指だけでやった方が誤操作はないわよ。速さを優先するなら両手でもいいけど」

 

「なるほど。となると手帳タイプのカバーは若干その操作の妨げになるな」

 

「うん、そうね。片手だけで操作するならそっちの方がいいかも」

 

「ふむ……。ところで瑞鶴」

 

「ん? なーに? あ、膝から降りるとかは今は無しだからね? 今日はしっかりいろいろ教えてあげるんだから」

 

「……了解した」

 

提督は、その日からメッセージを送ってきた艦娘全員とラ○ンをするというある意味苦行とも言える新たな職務の負担を少しでも減らす為に、気合いを入れ直して瑞鶴の指導を受ける事にした。




ラ○ンネタばかりになってしまった……。
まぁこういうのもリアルでいいけど、これくらいにしますw
クリスマスの話はまだ先ですね。



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