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消費者契約法の改正で「買わないとできなくなる」が法律違反になるってどういうこと?
「黒電話は使えなくなるので、新しい電話機が必要ですよ」と言って、新しい電話機を買わせる。よくある営業手法ですが、このやり方はもう通用しません。2017年6月3日に施行された改正後消費者契約法によって、このように言われて購入契約を結んだ場合、消費者は契約の取り消しができるようになりました。具体的に説明します。
消費者契約法改正の経緯
消費者契約法は、情報が少なく交渉力の弱い消費者を事業者から守るため、2000年に民法の特則として定められました。通常であれば詐欺として取り消せない範囲のものであっても、商品・サービス内容の重要な事項について事実と異なることを告げること、つまり「不実告知」をした場合は契約を取り消せるというルールを定めたのです。
その後、ITの発達や高齢化社会の進展などの事情があり、消費者契約法の保護範囲を広げる改正の必要が叫ばれてきました。そのため、今回の法改正では従来の消費者契約法の保護範囲を現実に即した形で広げています。例えば、不実告知の取り消しについては、その対象となる「重要事項」の内容が拡大され、保護される範囲も広がりました。
拡大された不実告知の重要事項とは?
改正前の消費者契約法では、商品・サービスの内容と対価その他の取引条件だけが「重要事項」とされ、その取引に至った動機については含まれていませんでした。
例えば、みかんを購入するとき、私たちの思考を細かく分けていくと「みかんが買いたい」「●●円のみかんを買おう」「これくださいと言おう」という順番で考えると思います。これまでは、「このみかんは、食べると空を飛べるようになるんですよ」とか、「このみかんはほかの企業の1/3の値段なんですよ」という嘘の表示は規制対象となっていましたが、そもそも「今みかんを買わないと、来年まで食べられなくなりますよ」といったように、みかんを購入する動機づけのために虚偽の表示をすることは規制対象とはなっていませんでした。
ところが、消費者被害は、「こういう商品・サービスが必要だ」と考える動機の部分で不当な勧誘が行われた結果として発生することがよくあります。それにもかかわらず、従前ではその被害を防止することができなかったのです。
そこで改正後は、「重要事項」として「契約の目的となるものが当該消費者の生命、身体、財産その他の重要な利益についての損害又は危険を回避するために通常必要であると判断される事情」、要するに契約するための“重要な動機”の部分の不実告知もその対象に含めたのです。
例えば、真実に反して「今使っている黒電話は使えなくなる」と言われ、新しい電話機を購入する旨の契約を締結したとします。改正前の消費者契約法であれば、この新しい電話機については何ら虚偽の商品説明をしているわけではないので、不実告知として取り消しをすることはできません。
しかし、電話を使用して通話をするという生活上の利益は、日常生活において欠かせないものです。そのため、改正後の消費者契約法においては「重要な利益」に該当します。消費者としては、「今使っている電話が使えない」と言われれば、この利益を守るために新しい電話機が必要と考えるのが通常です。
改正された消費者契約法の下では、商品そのものに対する嘘の表示だけでなく、このような取引をする動機にかかわる部分で不実告知をされた場合でも、消費者は新しい電話を購入する意思表示を取り消すことができるのです。
まとめ
以上のように、改正後消費者契約法では、重要事項に商品・サービスの購入動機も含まれるようになったことを含め、消費者が保護される範囲が相当広がりました。
これは、消費者にとっては優遇される反面、企業にとっては重要な課題となります。場合によっては、営業の範囲としてどこまでできるのかという悩みが発生するかもしれません。その際には、顧問弁護士に相談されたほうがよいでしょう。
文:杉浦智彦(弁護士)
参考:
消費者契約法逐条解説|消費者庁