「仏のル・モンド紙を信じるな」。哲学者で立教大特任教授の西谷修さんは、現地の友人に最近こう言われたという。代表的高級紙として知られる新聞を「信じるな」とはどういうことか

▼その訳は、遠く離れた南米ベネズエラにあった。米国が軍事介入をほのめかしながら、マドゥロ大統領の退陣を迫り、野党出身のグアイド国会議長が暫定大統領を宣言。政情不安の伝え方で、同紙に限らず欧米メディアで「誘導記事が書かれている」というもの

▼「独裁」VS「野党勢力の民主主義」。先日、東京都内であった記者会見で西谷さんら有識者は「単純化した図式が正しいのか。米国は制裁を重ねて野党に肩入れし、人道支援を口実に介入しようとしている」と戒めた

▼共同通信の配信記事を読み返す。枕ことばは「反米左翼マドゥロ政権」。会見では「反米という言葉から始まると、米国は正常、それ以外は異常と印象づけられる」と批判的だった

▼「裏庭」たる南米に反米政権を許さないという米国の意志。国際社会は、ベネズエラが対話によって国内分断を克服するための支援を行い、メディアは安易な図式に乗らず、歴史を踏まえて評価すべきだと西谷さんらは説く

▼「善と悪」の線引きは実は曖昧で、どの立ち位置から眺めるかで変わり得る。紋切り型の評価ほど気をつけたい。(西江昭吾)