提督の日々(凍結)   作:sognathus
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夕方、提督が執務をしていると横でそれを手伝っていたその日の秘艦の瑞鶴が、何故か目を逸らしながら訊いてきた。


第15話 「予定」

「クリスマス?」

 

「うん」

 

「……」

 

「24日と25日よ」

 

「ああ、そうだった、な?」

 

「どうして疑問形なんですか? 因みに24日はクリスマスでもイブだからね」

 

「ああ、24日はそうだったな。イブか。うん……イブ……」

 

「イブはクリスマスの前の日の事」

 

「ああ」

 

「……大佐って本当にクリスマスあまり意識しない人ですよね」

 

「子供の頃は童心故に意識していたんだけどな。大人になったら何となくな」

 

「それでよく少将殿と付き合ってましたね」

 

「ん? ああ、彼女か? まぁ彼女もあまりクリスマスには拘らなかったからな。意識しなくなったのはその所為もあるか」

 

「えっ、少将殿女なのにクリスマスの事あまり言わなかったんですか?」

 

「まぁ彼女の場合は家柄だろうな。子供の頃は俺と同じで親と一緒に楽しんでいたらしいが、大人になったら自然と……なんというか楽しむ事はなくなったそうだ」

 

「な、なんて日本的な……」

 

「まぁだからといって嫌いというわけじゃないけどな? ただ単純にあまり意識しないだけで楽しげな雰囲気自体は俺も好きだ」

 

「そ、そうですか……」

 

「? どうし……ああ、クリスマスだったな。予定か?」

 

「あ、うん」

 

提督はポケットから携帯を取り出してメールの受信ボックスを見た。

ボックスの中は仕事関係のものがいくつかあるだけで、特に誰からもクリスマスに関して予定を聞くようなメールは来ていなかった。

提督はこれを見て特に何もなさそうだと思ったが、その時その様子を見ていた瑞鶴が何か気になったららしく不思議そうな顔で彼に訊いた。

 

「あれ、大佐ってスマホ持ってませんでしたっけ?」

 

「ん……」

 

提督は瑞鶴の言葉を受けて思い出したように声を漏らした。

彼は携帯の端末を二つ持っており、俗に言う二台持ちをしていた。

よく人によっては理解できないとか無駄と評される事があるが、提督にとってはガラケーと呼称されているこの電話は、料金はかかっても通話の安定性は未だにスマホに勝ってたし、何かと公私共に外と連絡する事がある彼にとっては連絡手段が複数ある事はメリットだと思っていた。

だから流行に乗る意味でも少し前から彼もスマートフォン(以下スマホ)を持っていたのだが、実は瑞鶴に指摘されて思い出すくらいに実はスマホは使っていなかったのである。

 

「大佐ってあんまりスマホ使ってなさそうですよね」

 

「まぁ、休憩の時は本を読んだり釣りに行ったりして満足しているしな」

 

「夜寝る時とかは? 暇な時使ったりしない?」

 

「私室にはパソコンがあるからな」

 

「え、でもいちいち電源付けて座って画面見ないといけないじゃないですか。それに引き換えスマホなら何か調べるだけなら寝ながらでもできるし」

 

「ん……まぁ実を言うとな、俺はフリック操作が苦手なんだ」

 

「あ……」

 

「できないというわけじゃないんだけどな。ただ操作していて未だに文字の誤変換とかが多くてな」

 

「な、なるほど……」

 

「というわけであまり使ってないわけだが、だが確かにスマホでも連絡できるからな。ん……大丈夫そうだ」

 

「そう?」

 

「ああ、特に着信履歴やメールボックスにその関連のものはない」

 

「え」

 

「ん?」

 

「あ、いや。えっとその……ラ〇ンは?」

 

「ラ〇ン?」

 

「そうラ〇ン。ほら、この前使ってないとか言ってから私が入れてあげたじゃないですか。殆どの子がやってるし便利だからって」

 

「ああ、そういえば何かそういう事があったな」

 

「アプリ使ってないんですか?」

 

「アプリ?」

 

「……」

 

「……?」

 

瑞鶴は歳に見合わず意外な反応をする提督を怪訝な目で見ていた。

対して見つめられている提督は瑞鶴の反応が理解できずに戸惑った反応を見せる。

 

「大佐、もしかしてラ〇ンを入れてから一回も起動してない?」

 

「ん……恐らく。これの画面を見たのも久しぶりだな。普段は使わずに寝る時に充電するだけだからな」

 

「……ちょっと見せてください」

 

「ん? ああ」

 

瑞鶴は提督からスマホを受け取ると電源ボタンを押した。

 

「……」

 

瑞鶴は提督のスマホのホーム画面を見てそれが購入時の状態のままである事が一目で判った。

その画面には直ぐには使いそうもないデフォルトのアプリのアイコンがそこから動かされる事なく残っており、彼女が入れたラ〇ンのアイコンだけがその画面に僅かな使用感を醸し出していた。

 

「大佐、これアカウントは作った……あるよね。私のにはちゃんとあるし、前にもメッセージは送った事……あっ」

 

「ん? どうした?」

 

瑞鶴が自分のスマホを操作して提督のアカウントを確認しているのを提督は覗きながら訊いた。

彼女のラ〇ンのトークリストには『commander』という表記とされた自分の仮称があった。

そして同じ画面が開かれた自分のリストを見る。

そこには可愛らしいキ〇ィのサムネイルに『zuizui』と表記された彼女と思われる名前の横に“999+”という文字があった。

そして瑞鶴は何故かそれを見て震えていた……。

 

「大佐これ……。そりゃ私も既読を確認しないでメッセージを送ってたのも悪いけどさ……。でもまさか一つもなんて……。なんでこれ大佐らしいなんて一人で納得しちゃってたのかなぁ私……」

 

「瑞鶴……?」

 

画面を見て俯きながらブツブツ言う瑞鶴に提督は何か危ういものを感じた。

見れば、改めて覗いた先程の自分の画面には『zuizui』の他にも『加賀|д゚)』『NagataN』『gold GO♪』といった他の艦娘のものと思われる名前もかなりの数が下に続いており、その何れの横にも“999+”という文字があった。

 

「大佐パーティしよっ」

 

「なに?」

 

突然の瑞鶴の申し出に提督は彼女の意図を理解できずにポカンとする。

だが瑞鶴はそんな提督の様子に構うことなくいつになく強気な調子で再度進言した。

 

「パーティです。クリスマスパーティ。これ、全部断るなんて無理。ううん、寧ろ事渡りしたら大佐が危ないわ」

 

「なに?」

 

「だから今年はパーティしよっ。これ絶対だからね!」

 

「あ、ああ……?」

 

「あと、後でラ〇ンの使い方も含めて基本的なスマホの使い方教えてあげるから絶対に今日後で時間空けといてね!」

 

「え? ああ、分った」

 

提督は何故瑞鶴が怒っているような焦っているような不可解な態度をとるのか理解できなかったが、その申し出を却下するのは危険だということは本能で察せたので取り敢えずその場は彼女の意に沿う事にした。




もう直ぐイベント……あれ、今は秋イベでしたっけ、冬でしたっけ。
新しい戦艦が出るとも聞いたような。
まぁ、この中では平和(?)なクリスマスイベントだけになりそうですw



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