提督の日々(凍結)   作:sognathus
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金剛は走っていた。
帰郷から戻ってきた提督に久しぶりに甘える為だけに。
そして、提督の基地にいる戦艦としては古株に入るにも関わらず、彼女は偶にこうして提督の言いつけを守らず勢いのまま挨拶をせずに扉を開けてしまうのである。


第14話 「愛嬌」

「たっいさァ!」

 

バンッ

 

 

「……」

 

「って、アレ? 望月? 何やってるデスカ? 大佐は?」

 

執務室の机の前には望月がいた。

騒がしく部屋に入って来た金剛をたしなめる様に呆れた目で彼女を見ていた。

 

「何って、見ての通りお仕事だよ。大佐なら今はいないよ。ラーメン食べに行くって」

 

「What!?」

 

「何か今日やけに早く執務が終わったなぁって大佐空いた時間使って外にご飯食べに行こうとしたんだ。で、わたしも連れて行ってもらえるところだったんだけど、書類を精査してたら束の中にまだいくつかやってないのがあってさ」

 

「え、それで望月が? 何だが大佐らしくないワネ」

 

確かに金剛が言う通りそのそれは職務に真面目な提督らしくない気がした。

彼ならその事に気付いた時点で、部下に任せずに自分でやり終えてから行くだろう。

望月は、金剛のその疑問に書類に向かったまま答えた。

 

「勿論大佐が自分でやるって言ったんだけど、そこはわたし、閃いちゃったわけですよ」

 

「hm...?」

 

「『数も少ないしわたしでもできる内容だからやってあげる』って、『その代わりご褒美として欲しいゲームソフト買って欲しいな』ってお願いしたんだ」

 

「Oh...」(な、なんという駆逐艦らしい率直な物欲的要求。私ならもっとこうラブラブな……)

 

金剛は望月のその純粋な要求に思わず自分の願望を心の中で重ねた。

そう、自分ならそんな味気のない要求ではなく、もっと提督と情熱的な時間を過ごす要求をして、その日を充実した一日にしただろうに。

望月は、そんな金剛の心中を察し、自分が“見た目通りに幼稚な要求をする幼児”という評価を訂正させる意味でも最後にこう付け加えた。

 

「ま、お給料で余裕で買えるんだけどね。でもご褒美ってなんかいいでしょ?」

 

「hm ! それは consent ネ!」

 

確かに、意味合いとしては対価と変わりないが、それを与える者が提督ならばご褒美という言葉の方が妥当な気がする。

そしてその言葉は、対価と言う味気のない言葉より何だか部下として、女として嬉しい気がした。

しかしそんな望月の考えに金剛が共感を示したのも束の間、望月は金剛が発した言葉に何か疑問があるように少し眉を寄せて言った。

 

「『consent』? 『 agree』じゃないの?」

 

「え?」

 

「まぁ『You're right』とか『I think so』とかでも良いと思うけど。 consent はもっと形式的な会話に使わない?」

 

「う……アッ、そ、そうデス! ワタシは戦艦だからネ! 装甲が硬いのと一緒で manners も堅苦しく感じるくらいの淑女なのヨ!」

 

金剛は望月からのそんな言語的な指摘に、意表を突かれたじろいだ表情をする。

そして誰が聞いてもやや苦しい言い訳をするも、かえってそれは望月に別の疑問を呼び寄せる形となってしまった。

 

「……それ本気で言ってる? 普段の自分を振り返っても心から本当だと自信もって言える?」

 

「うぅ……も、望月なんか意地悪デス!」

 

「なに戦艦が駆逐艦相手に涙目になってるの……。そこは皮肉でも返して余裕がる振りをするだけでもいいんだよ?」

 

「あ……考えてみればワタシ、英国からの帰国子女なのに John Bull チック―なジョーク言えた事ないワネ……」

 

「んー? ああ、確かにそうだね。でも金剛さんはその方がいいんじゃない? 愛嬌があるっていうか可愛いと思うよ?」

 

「え? そ、そうカナ……?」

 

可愛いという言葉に涙を滲ませていた金剛が駆逐艦相手に上目遣いをしながら顔を上げた。

立場こそ同等の仲間であるが、その光景はこと戦闘力における差を疑問に感じさせる奇妙なものであった。

 

「うん、金剛さんはそういう馬鹿っぽいところがあった方が可愛いと思うよ」

 

「 」

 

溜息混じりにそんな容赦のない慰めの言葉を苦笑しながら言う望月に、金剛は持ち直りそうだった自尊心が砕ける音を心の中で確かに聞いた。

 

 

 

「……それでそんなに落ち込んでいるのか」

 

「ぐす……たいしゃァ……」

 

夜、金剛は提督が私室に戻ったのを知るなり、涙目で彼の胸元に飛び込んできた。

慣れた事といえばそうだが、金剛をその日初めて見た提督はそんな彼女の有様に不意を突かれ、そのまま抱き留める形でその勢いに押し切られてしまった。

そして彼女は今、腰を下ろした提督に撫でられながら彼の膝に顔を埋めてグズるように泣いていた。

 

「夜中にいきなり部屋に飛び込んできたと思えば……」

 

「大佐、ワタシ馬鹿じゃないネ……」

 

「そうだな。だが、そう思うならもう少し自分で落ち着きを意識してもいいと思うぞ?」

 

「……もっと慰めてくれたらそうしマス」

 

慰めと反省を促す提督の言葉に金剛は再び顔を埋めて撫でてくれとせがむ。

提督はそんな彼女を見て思った。

 

「……」(こいつ、この一瞬で自分の立場を利用してさり気なく自分の希望を要求してきたな)

 

「……大佐?」

 

「ん……いや、まぁ……。仕方ないな」

 

「……♪」

 

提督のそんな思いに純粋な疑問の瞳で見つめ返す金剛。

提督はその顔を見て彼女の性格の裏表のなさを改めて認識し、賢しいという評価を一瞬持ったことを謝罪する意味でも優しく金剛の頭を撫でてやった。

その撫でられる感触に心地良さそうにする金剛に、提督はついぽつりと頭に浮かんだ事の一部を言葉として漏らしてしまった。

 

「お前実は結構 cle…… smart なんじゃないか?」

 

「え?」キョトン

 

「いや、何でもない」(やっぱり天然だな。相変わらず本能でここぞという時に最良の選択をする)

 

提督は金剛のそんな天然の魅力とも言える長所に望月が浮かべたものと同じような苦笑を浮かべるのであった。




「艦娘と言えば」俺は素で金剛という言葉が先ず出ます。
それくらい彼女は艦これを代表するイメージ的キャラクターだと思っていますね。



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