提督の日々(凍結)   作:sognathus
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起床してきた提督の顔を見て最上が驚いた声をあげた。


第11話 「不満」

「うわっ」

 

「……ん?」

 

「大佐大丈夫? 凄い顔してるよ?」

 

「顔……?」

 

今朝、提督は最上が心配そうな顔で自分を見ている理由が判らなかった。

別に風邪や病を患っている感じはしない。

ただ頭が若干重い気がした。

最上は提督が自分の異常に気付いていない事を察して自分の顔を指さして再度心配そうな顔をして言った。

 

「大佐顔顔、目の下に凄い隈できてるよ」

 

「隈? ああ……」

 

提督は最上の指摘を受け、机の引き出しから出した鏡を覗いてやっとそれに気付いた。

確かになかなか酷い顔をしている。

自分では睡眠は摂れていたとは思っていたのだが、思った以上に熟睡していた時間が短かったようだ。

昨夜、寝付けなくて何回か寝直しのだがそん時は半端に夢の中にいる様な感覚だった。

ようやく完全に意識が遠くなった感じがしたのが深夜の3時くらいだったか。

そして今は朝の5時半。

いや、ここまで明確に昨夜から今朝にかけての事を覚えている時点で熟睡できていないと言えた。

 

「大佐寝れてないの?」

 

「……今朝は特別に寝つきが悪くてな」

 

「不眠症のけがあるんだね?」

 

「ああ、昔からちょっとな」

 

「そっか。仕事は大丈夫? 今日は僕以外の人にも声掛けて大佐は少し休んだ方がいいんじゃないの?」

 

「……」

 

最上の有り難い心遣いを暫く考えた。

確かに彼女が言った通り睡眠不足は感じるが、かといって仕事に支障が出る程の不調は感じない。

無理をしなければいつも通り仕事をこなすを可能な気はした。

 

「気持ちは有り難いが……」

 

大丈夫だ、と言おうとした時だった。

最上が自分の目の前にまで近付いて不満と心配が入り混じった何とも言えない顔をして自分を見上げていた。

 

「む……」

 

「大佐、睡眠不足の疲労っていうのはね、起きて行動していればするだけ自覚していくものだよ?」

 

「……」

 

「今はいける気がしても途中から多分頭が重く感じて凄い眠気とか来ると思う。そんな時に無理に仕事続けて執務や出撃の指揮の時にミスをしちゃったら不味くない?」

 

「まぁ……」

 

提督は最上の新たな指摘に再度考える。

あの時雨と肩を並べる天然の2強、最上がここまで真剣な顔をしているのはとても珍しい気がした。

つまりそれだけ本心から自分の事を心配してくれているのだ。

提督は唸るような声を漏らして暫し目を瞑って考えた後、最上を見て言った。

 

「お前、最上だよな?」

 

「ちょっと、それってどういう意味!?」

 

最上は感謝の言葉かもしかしたら褒めて撫でてくれたり、嬉しくなる様な事をしてもらえると思っていたので、提督のこの反応に大層不満そうな顔をした。

終いには最上は提督の胸をぽかぽかと叩いて抗議を始めた。

 

「いや、普段のお前を見ているとな……」

 

「大佐酷い!」

 

 

「あら、どうしましたのこれは?」

 

最上の声が執務室から洩れぎ超えたのだろう。

扉の隙間から熊野が顔を覗かせて様子を見にきた。

 

「あ、熊野ちょっと聞いてよ!」

 

「あらあら、どういたしまして?」

 

熊野は珍しく最上が不満そうな顔をして自分に訴えかけてきたのを内心珍しく思って驚きながらも、落ち着いた態度で先を促した。

 

「大佐ったら僕がせっかく真剣に寝不足を心配してあげたのに、逆に僕の正気を疑うんだよ!?」

 

「まぁ」

 

熊野はそれを聞いて大袈裟に驚いた顔をする。

最上はそれを見て自分に見方が出来た事を確信した。

だが非常にも予想は違った。

 

「まぁ最上が? それって本当ですの? 大佐」

 

「ちょっとぉ!?」

 

まさかの友人の反応に最上は本当にショックを受けたような声をあげた。

 

「熊野までそんな事言っちゃうの!?」

 

「あ、ごめんなさい。そうでしたわね、大佐寝不足ですの?」

 

「違う! 違うよ!? 僕がショックを受けたのはそこじゃないよ!?」

 

熊野の見当違いの言葉に最上は再び声を荒げて不満に思う指摘をする。

提督はその様子を見て、そういえば熊野も最上と時雨に負けないくらいの天然だったと改めて認識していた。

考えてみれば航巡の娘達は数が多くない割には個性的な性格が多い気がする。

最上と熊野は言うに及ばず、鈴谷は子供っぽいながらも常識があるように見えて偶に信じられない事をするし、三隈は熊野と性格が似ているようで意地っ張りな所があるので、そのせいでよく痴態を見せてしまうという失敗をする事があった。

 

『大佐よ、吾輩を忘れてはおらぬか?』

 

頭のどこかで拗ねた子供様な声がした。

ああ、そうだ。

あの姉妹の長女は航巡の中でも一番個性的な性格をしていたな。

提督がそう思ってた頃――

 

 

「はにゃっ!?」

 

「あっ」

 

自室で筑摩と一緒にアイスを食べていた利根は、何か言葉にできない衝撃に不意に体が襲われ、その拍子に一瞬震えた手からアイスを膝に落としてしまった。

そして彼女の向かい側で同じくアイスを食べていた筑摩は姉の突然の不幸を目の当たりにする事になった。

 

「ふえぇぇぇぇ、わ、わが……わたしのアイスがぁぁ!」

 

「あらあら」

 

筑摩は、アイスを失ったショックでつい一人称が素に戻ってしまった姉に自分の物を譲る考えが直ぐに浮かんだ。

その考え至った彼女の思考には何の迷いもなく、姉に対する愛情と、アイス一つで彼女の機嫌を直せるのなら安いものだいう極めて合理的な判断が即座になされたのであった。

 

 

「……やはり筑摩だな」

 

「えっ!?」

 

「なんすって!?」

 

「それは聞き捨てなりませんわ!」

 

「えー、なになにー?」

 

つい洩らしてしまった本音に最上がまたショックを受けた声を上げ、今度は熊野も不満げな顔をして一緒にこちらを見る。

そしてまるでタイミングを見計らったように、開いた扉から同じ艦種で自分ではなく同僚の名前を挙げた提督の声を聞いた三隈と、偶然彼女と一緒にいた鈴谷までもが興味がありそうな顔でその場に乗り込んできた。

 

「……」

 

提督はそんな彼女たちを見ながら今日の仕事はこの元気な4人に手伝ってもらうか、と思うのであった。




寝不足の時の仕事って結構辛いものです。
朝は平気な気がしていても時間が経つにつれて身体の怠さを感じるようになるんですよね。
今日は体力の消費を最低限に努めて体力をなるべく温存しなければ。



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