本日2月25日、飲料自販機業界のルートドライバー(自販機の補充作業員)が一斉にストライキに突入した。
ストライキを起こしたのは、飲料自販機ベンダー事業を展開する株式会社ジャパンビバレッジ東京と大蔵屋商事株式会社の従業員たちだ。
従業員が加盟する労働組合であるブラック企業ユニオンが両社に対してスト通告し、午前11時頃から続々とストライキに突入した。ストライキは現在(2月25日17時半)も続いている。
サントリーグループのジャパンビバレッジ東京といえば、昨年のゴールデンウィークにJR東京駅で大規模なストライキが発生し、多数の売り切れランプがついたことが記憶に新しいだろう。
参考:本日、JR東京駅の自販機補充スタッフがついにストライキ決行
あれから1年が経ち、今度は同業他社の大蔵屋商事の従業員らとともに、ストライキを起こしたのだ。
同業界で複数企業における「同時ストライキ」が実施されることは、前例がないとみられる。
ストライキの様子~トラックが各地で続々と停車へ
午前11時20分頃、高層ビルが立ち並ぶ銀座の繁華街で1台のトラックが停車した。
大蔵屋商事で働くルートドライバーがトラックから降りてきて、ストライキに入ったことを示した。
「ストライキ決行中」の横断幕がトラックに掲げられると、周囲の人々からの注目を集めていた。
なお、トラックは交通の妨げにならない場所に停められ、暫くして駐車場へと移動された。
その後も約10箇所で、大蔵屋商事とジャパンビバレッジ東京のトラックが停車し、各地で「ストライキ決行中」の横断幕が掲げられた。
さらに、午後3時には、ジャパンビバレッジ東京のJR東京駅支店に勤める組合員の一部もストライキに突入したという。
ストライキの背景~自販機業界に蔓延る長時間労働
この「同時ストライキ」が実施された背景には、飲料自販機業界に蔓延る長時間過密労働とサービス残業がある。
自販機業界の労働条件はどこも大差なく、労働時間の割に賃金は低く、労働法が守られない無法地帯となってしまっている。
大蔵屋商事では、繁忙期には従業員の多くが朝5時頃に出勤する。1日に約30台の自販機をトラックで巡回して商品を補充する。
夜6時頃に営業所に戻ってきた時には、走行距離は約60~80キロメートルに達している。
その間、休憩はほぼゼロだ。営業所に戻っても、入金作業や翌日分の飲料の積み込み作業があり、退勤は夜8時~9時頃になる。
一日当たりの残業時間は約7時間で、月間残業時間は154時間にも及んでいる。それにもかかわらず、残業代は適切に支払われていない。
ユニオンはこうした問題の改善を求めて、会社との交渉を行ったが、会社側はまともに話し合う態度でなかったという。
タイムカードや就業規則など話し合いのために必要な資料さえ提供せず、「労働基準法違反を無くす」という内容で合意書を書くことすら拒否したのだ。
そこで、組合員の労働者たちは2月21日より「順法闘争」を始めていた。
順法闘争とは、労働関係法令や業務マニュアルを順守する労働組合の戦術のことをいう。
普段ルールを全く守っていないブラック企業では、労働者が「順法」することは、結果として業務の大幅な遅れを生むため、ブラック企業に対抗するための有効な手段となる。
実際、順法闘争によって商品の売り切れが相次ぐなど大きな影響が出ている。
参考:飲料自販機で相次ぐ「売り切れ」――過酷な労働条件と労使紛争が背景に
それでも違法の改善に応じない経営陣を動かすために、ついに「ストライキ」を決意したのだという。
他方で、ジャパンビバレッジ東京では、昨年のストライキの結果として、残業時間の面では一定の改善もみられるが(組合結成以前は1日12時間を超える長時間労働が横行していた)、休憩の未取得分や着替えの時間についての未払い賃金については頑なに支払わないという対応を続けている。
また、同社は、従業員を蹴るなどの暴行や有給休暇の取得妨害をしていた管理職を庇って謝罪もさせず、一切の補償にも応じないという姿勢を崩していない。
こうした状況を打破するために、同社の組合員たちも「ストライキ」を選択したのである。
「辞める」以外の選択肢としてのストライキ権の行使
ブラック企業に勤めていると周囲に相談したとしても、「辞めたほうがよい」と助言されることはあっても、ストライキ権を行使することを勧められることは中々ないだろう。
それは、ストライキが「できない」からでも、「無意味」だからでもない。
実際に、ストライキは法律に定められた「権利」であり、これを理由とした不利益な扱いは許されない。また、その効果も絶大である。
ほとんどの人は、ストライキについて「知らない」だけなのだ。
多くの人にとってストライキ権とは、『政治経済』の教科書で習うか、「昔話」として聞くかするものにすぎず、自分自身が行使したり見たりしたことは無いだろう。
そこで、「ストライキ権」について簡単に解説をしておきたい。
ストライキには、就業時間中に全く仕事をしない全日ストライキもあれば、一定時間だけ仕事をしない時限ストライキもある。法令やマニュアルを順守する「順法闘争」もその一種だ。
そして、これらの行為はすべて「合法」とされている。
正当なストライキ権の行使によって、民事責任や刑事処罰を追及されることはないことが労働組合法によって定められているのだ。
具体的には、ストライキによって業務が滞って損失が出てたとしてもその賠償をする義務はないし(民事免責)、ストライキを予告しながら労働条件の改善を要求しても強要罪などは適用されない(刑事免責)。
また、ブラック企業では、一人ひとりの労働者が膨大な業務を長時間労働でギリギリ回しているため、会社は一人ひとりの労働者に極めて多くを依存している。
そのため、少数であってもストライキ権を行使して業務の遂行をやめれば、ブラック企業に致命的な影響を与えることが可能である。
実際、ブラック企業ユニオンでは、ストライキを通じて、賃上げや人員の増加・残業の削減など、労働条件の改善を勝ち取ってきている。
ストライキは、法律で強力に保護された権利であり、すべての労働者が持っている強力な「武器」なのだ。
自販機産業ユニオンの発足と業界春闘への展望
17時に最後のトラックが東京都江東区にあるイオン南砂町スナモ店の前に停車した。
そして、その場でストライキ集会が開かれた。そこでは、自販機業界で働く労働者のための労働組合である自販機産業ユニオンの結成が宣言された。
自販機産業ユニオンのスローガンは「8時間労働で生活できる賃金を!」だという。自販機業界のすべての企業に対し、残業なしで生活できるだけの賃金水準にするよう求めるというのだ。
また、今回のストライキの要求事項の一つとして、「飲料自販機業界全体の労働環境の改善のために、業種別最低賃金と業界一律賃上げの交渉機構の設立に向けて協力すること」という項目が掲げられている。
企業同士を労働条件で競わせることで、改善を図るやり方を目指しているのだ。
昨今、「春闘」は存亡の危機にさらされているが、多くの労働組合が一斉に労使交渉を行う「春闘」は日本の労働者にとって貴重な文化的財産である。
「春闘」を時代遅れのものとして無くしてしまうのではなく、むしろ「自販機産業ユニオン」が目指すような、業種別の労使交渉へと発展させるべきだろう。
今後も「ブラック業界」を変えようと闘う労働者たちの取り組みに注目し続けたい。
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