提督の日々(凍結)   作:sognathus
<< 前の話 次の話 >>

10 / 27
提督はその日は榛名を秘書艦にして執務をしていた。
時刻は昼頃、提督はブラインドから漏れる陽光と大きくなって来た空腹感から昼飯時を感じていた。


第10話 「届けたい思い」

「榛名、ちょっと眼鏡を取ってくれるか」

 

「はい、どうぞ大佐」

 

「ありがとう。……ん」

 

「字が小さいですか?」

 

眼鏡を掛けて報告書を確認する提督に榛名は不思議そうに訊いた。

彼女が見た分には眼鏡を必要とするほど載っている字は小さいとは思わなかったのだ。

 

「ん? ああいや、何か癖になってな。一度やたら小さい文字を見る時に眼鏡を使ったら随分見え易かったからつい、な」

 

「ふふ、そうなんですか。じゃぁ別に目が悪いというわけでもないんですね」

 

「まぁな。ふむ……」

 

「あ、大佐ここ」

 

「うん?」

 

提督の後ろから報告書を見ていた榛名が何かに気付いて報告書に指をさす。

 

「今お読みになっている所の下の……はいここです。ここ記述が……」

 

提督は榛名が指摘している個所を見つけて直ぐに彼女が言いたい事が解った。

自分が書いた文章に使われている表現の一部に違和感を持っていたようだ。

指摘されるまでは気にならなかったが、改めて見ると確かに主文に対して形容に違和感を感じる気もした。

提督は適切と思われる語句を導き出して訂正する。

 

「うん? ああ……これでどうだ?」

 

「あ、はい。この方が良いと思います」

 

「ん……そうだな、ありがとう」

 

「いえ♪」

 

 

一時間後。

執務は順調だ。

この分だと今日は夕方までには全て終える事ができるだろう。

提督は軽く伸びをしながら今日はゆっくりと昼食を摂れる事に細やかな喜びを感じた。

榛名も自分が渡した分の報告書の添削が終わったようなので提督は彼女に声を掛けた。

 

「さて、休憩にするか」

 

「あ、お持ちしますか?」

 

「今日の献立は何だったか」

 

「あ、はい。今日はですね……あ」

 

榛名はつい最近、週の頭に鳳翔から聞いた今週の献立の予定を思い出して、ある事を思い出した。

 

「?」

 

「そういえば今日はローザさんがケバブ作るみたいです」

 

「ケバブ……。ああ、そういえば一度作りたいとか言っていたような」

 

提督はいつだったかリットリオと話した時にパスタも良いが、パスタより手軽に作れるケバブも作りようによってはとても美味しいものだとやけに熱く語られた事があった。

その時に彼がその美味しさに興味を見せたので、是非機会があればご馳走したいと確かに言っていた。

提督は、そういえばそんな事があったとその時の事を思い出して顎を撫でる。

 

「はい、ですから今日はローザさんが食堂の厨房に鳳翔さんと一緒に立っているはずですよ」

 

「なるほどな。うん、ケバブなら持ち運びは出来るな。榛名、持って来てくれるか? 今日はここで済ます」

 

「はい、分かりました」

 

「ああ、あと」

 

「? はい?」

 

「ローザには感想を後でメモで渡すと言っておいてくれ」

 

「ふふふ、了解です」

 

榛名は提督の細かい心配りに小さく笑った。

 

 

 

「もう、大佐ったら別にわざわざ感想なんていいのに」

 

リットリオは榛名がケバブを受け取りに来た折にメモの事を聞いて嬉しそうな顔をする。

その様子を姉を手伝う為に一緒に厨房に入っていたローマがいつもと変わらない理知的な雰囲気を纏ったままではいたが、どこか柔らかさを感じさせる声で感想を言った。

 

「でも気の利く方だと思います」

 

「そうね、それは間違いないわね。こまめ? 真面目? な人ね。ふふ」

 

「……」

 

提督が自分が作ったケバブを食べてくれ、そして感想を書いたメモが送られてくるのが楽しみなのだろう。

ローマはそんな風に幸せそうに笑う姉を微笑ましくも何か自分も言いたそうな微妙な顔をして眺めていた。

しかしそこはローマの姉である。

そんな妹の微妙な雰囲気を鋭く察してふと彼女に話し掛ける。

 

「リウィア」

 

「あ、はい」

 

「今度はリウィアも一緒に作ろ?」

 

「あ……」

 

ローマは言葉も出なかった。

姉は自分にどうしたの、とは聞かずに一緒に作ろうと言った。

もうそれだけで自分が何を考えていたのか姉には察せられていたという事だ。

ローマはやはり自分は姉には適わないと思いながらも、心の中でそんな姉の気遣いを有り難く思い、リットリオを慕う気持ちを新たにした。

リットリオはそんな妹を心から可愛く思った。

これは絶対に姉として妹の力にならなければ。

そう決意した彼女は不意に本心を突かれて逡巡するローマに優しく語り掛ける。

 

「作り方は簡単だけど、その分具のアレンジや味の付け方のバリエーションは豊富なのよ。だから“貴女のケバブ”を作って大佐に褒めて貰いましょう。ね?」

 

「あぅ……でも私の何か大佐は……」

 

「大丈夫、リウィアは頭が良い子なんだから、貴女オリジナルの美味しいケバブくらいきっと作れるわ。私も手伝ってあげるから」

 

「姉さん……」

 

「ね? 作ろ?」

 

「……うん」

 

ローマは優しく笑いかける姉に頬を染めて小さく頷いた。




リットリオはふわふわして母性に溢れてますね。
一方ローマは明らかなシs



※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。