金融工学のポートフォリオの例題:ベストアンサーの間違い
Yahooの知恵袋の、ポートフォリオの例題の質問とベストアンサー が、ありました。
残念なことに、ベストアンサーが間違っていますので、正しい答えをここに書いておきます。
「質問」:最小分散ポートフォリオ
「3つの互いに無相関な資産A,B,C があるものとする。どの資産も分散は1で、その平均値はそれぞれ1,2,3であるものとする。その解(最小分散の)を求めよ」という例題があるのです が、この問題を解くにはどうすればよいのでしょうか??
「ベストアンサー」ボラティリティが同じなのに期待値が違うなんて、問題の設定がありえない。リスクに見合ったリターンをえられないのであれば、投資する価値がないし、裁定機会が存在することになる。単なる数学の問題として解きたいのであれば、ラグランジュ未定乗数法を使えばよい。まぁ、使うまでもなく、期待値3の資産を100%購入するということになるんだが。
間違いは次の2点です。
間違い1.「ボラティリティが同じなのに期待値が違うなんて、問題の設定がありえない。」
この問題は、名著「金融工学入門」ルーエンバーガー著にある問題です。ルーエンバーガー教授は、制御工学から金融工学の分野の優れた先生です。
3つの資産のボラティリティが同じで、収益率が異なれば裁定機会があるので、実際の現象としてはありえないのでナンセンスと言いたいようですが、多数の資産からなる金融市場では、このような3つの資産を見つけられるかもしれません。短期的には裁定機会は、発生します。全ての資産がハイリスク・ハイリターンの市場均衡線の上に乗っていて裁定機会がないと考える方が現実的ではありません。現実には短期間で、裁定機会を無くするような、ポートフォリオの組み替えが持続的に発生しているとみるべきでしょう。
間違い2.「収益率の大きい期待値3の資産を100%もつのが正しい」
直観的には正しそうですが、最小分散ポートフォリオの答えとは一致しません。3つの資産の最適な保有割合が存在し、それは収益率の大きい期待値3の資産を100%もつのではない。
「3つの資産の保有割合を変えることで、収益率は低くなっても、リスク(分散)を減らすポートフォリオを選ぶのが最小分散ポートフォリオなので、100%を収益率の高い資産に投入してはいけませんというのが正しいのです。真逆の答えを直感的に正しいと思い込み、実際に計算すればわかるのに、やっていない。
正しい答えは、「3つの資産を1/3づつ保有することで、分散を1/3にすることで最小分散ポートフォリオが実現できる」です。
これを書いた方はラグランジェの未定乗数法を言葉で知っているが、手を使って解こうともしていないところに問題があります。また、ベストアンサーとした方も金融工学に無理解なようです。
最近多発する感覚的理解の間違いは、困ったものです。
1.実際に解いてみましょう。
資産i=1,2,3の保有割合をWi とします。そして、その収益率をriとします。収益率は確率変数であり、その期待値μi と 分散σii は、下記のように与えられています。
平均値 : μ1=E(r1)=1、μ2=E(r2)=2、μ3=E(r3)=3
分散 : σ11=σ22=σ33=1
各資産の収益率は、互いに無相関と仮定しましょう。
共分散 : σij=0 (iとjが等しくない時)
ポートフォリオの収益rpの式は
rp = w1・r1+w2・r2+w3・r3 1式
で表される。
2.定式化:ポートフォリオの分散
ポートフォリオの期待値 μp=E(rp) は1式より
μp = w1・μ1+w2・μ2+w3・μ3 2式
ポートフォリオの分散/2=(1/2)ΣΣwi・wjσij i=1~3,j=1~3 3式
但し w1+w2+w3=1 4式分散/2とした理由は、計算の簡便のため。
最小分散ポートフォリオは、3式を最小にするW1、w2、w3を2式と4式の制約の下で解けばよい。
ラグランジェ乗数法を使って、L(w1、w2、w3、λ1、λ2)のラグランジェ関数を考える、
L = (1/2)ΣΣwi・wjσij +λ1{μp - w1・μ1-w2・μ2-w3・μ3}+ λ2{1-w1-w2-w3}
これを、5つの変数(w1、w2、w3、λ1、λ2)で編微分してゼロと置く。これが最小分散であるための必要条件である。
共分散がゼロなので
σii・wi ー λ1・μi - λ2 =0 i=1~3
μp = w1・μ1+w2・μ2+w3・μ3
w1+w2+w3=1
以上の連立方程式を解けばよい。平均と分散の値を入れて整理すれば
w1 ー λ1・1 - λ2 =0w2 ー λ1・2 - λ2 =0w3 ー λ1・3 - λ2 =0μp = w1・1+w2・2+w3・3w1+w2+w3=1
となる。
上のw1,w2,w3を下の2つの式に代入すれば
μp=14・λ1+6・λ26・λ1+3・λ2=1
これを解くとλ1=μp/2-1λ2=7/3-μp
よってw1=4/3-μp/2w2=1/3w3=μp/2-2/3ポートフォリオの標準偏差はσ=SQRT(w1^2+w2^2+w3^3)=SQRT{7/3-2μp+(1/2)・μp^2}
このことから、ポートフォリオの分散は収益率μpの2次関数、すなわち放物線になる。
最小分散は対称性から μp=2 、σ=√3/3=0.58 である。
この時の、保有割合は、均等に1/3づつ持てばよい。w1=w2=w3=1/3
最後に、分散=1で固定した場合の分散最小を与えるポートフォリオを調べると収益率 μp=2+2/√3 が得られる。このときw1=(1-√3)/3 、w2=1/3 、w3=(1+√3)/3もある。
答えは、ポートフォリオを組み最小の分散1/3を得ることができ、そのときの収益の期待値は2である。一方、分散1で固定した場合の効率的フロンティア上のポートフォリオは、収益率2+2/√3 であり、3より大きい収益率を実現できる。(ただし、最小分散ポートフォリオよりリスクが大きい)