提督の日々(凍結)   作:sognathus
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提督が昼休憩していると、曙が訪ねてきました。
どうやら提督が今休憩中だと知った上での訪問らしく、入室の挨拶もそこそこに手早く部屋に入ってきました。
その両手には何冊か本が抱かれており……。


第3話 「おねだり」

「大佐本読んで!」

 

「曙、自分で読めるだろう。どうした?」

 

「甘えたいの!」

 

「……お前雷じゃないよな?」

 

「えっ何それ」

 

「いや……」

 

 

曙の純真な瞳を見て提督はそれ以上追及するのをやめた。

曙は特に気が強く、上司の提督にもなかなか気を許さず職務中以外は、基本的に粗野な口調が海軍の間での一般的な認識になっていたのだが、この“彼女”に限っては……。

 

 

『大佐何してんの?』

 

きっかけはただ早朝のランニングをしていた時の事だった。

曙が配属される前から、今いる基地に配属される前から軍人としてある程度恥ずかしくない体を維持する為に常に軽い運動を心掛けていた提督は、その日の変わらず早朝のランニングから始めていた。

 

その時は曙が彼の基地に配属されて間もない頃で、その時は彼女も提督に対して『クソ』とは言わないまでも、素っ気無い態度をとっていた。

提督は『艦娘の提督』になると決まった時から、支給された艦娘の資料で曙が大体そういう性格をしているのを把握していたので、特に職務に支障をきたさない限りは気にしないでいた。

そんなどこにでもいる曙は、提督の基地では程なくして運動を日々の日課か、楽しみにしていたらしい。

始めて早々目の前に自分が仕えることになった提督を職務以外で見ることになったので、彼女は動揺を隠す為にそう問うたのだった。

まさかこれが提督に対して好意を持つききっかけになるとは彼女は予想しただろうか。

 

『何って、運動だ。ランニングだよ』

 

『えっ、大佐も走んの?』

 

『俺は提督になる前から軽く体を鍛えるようにしているんだよ』

 

『へぇ~』

 

『お前もか?』

 

『え?』

 

『いや、ランニングしてるから』

 

『あ、う、うん、そう! あたしも好きかなって思い始めてたとこなの』

 

『ほう、配属されて間もないのにそういう事に関心を持つようになるとは感心だな』

 

『え、そ、そう?』

 

『ああ、偉いと思う』

 

『そ、それって褒めてるのよね?』

 

『ん? ああ、そうだが……?』

 

『……』キラキラ

 

思えば単純だったと思う。

ただ自分と同じ趣味があって、それを褒められただけで人間なのに、男なのに、仕事の上での上司なのに、凄く親しい友人ができた思いがしたのだ。

それからというもの曙は、頻繁とは言わないまでも自分から積極的に提督に話しかけるようになり、今では朝は必ず決まった時間に一緒に走るまでになっている。

偶に同じ運動が大好きな長良も長々距離のランニングを終えた後の身体の調整(彼女はペースさえ落とせばそれが最早休憩と同じ意味らしい)のついでに一緒に走ることもあるが、それも楽しかった。

 

 

そして今は誰もいないことを確認して提督の休憩中に本を読んでもらいに来ている。

勿論持ってきているのは子供が読むような絵本なではない。

学校とかで使われるような歴史や社会の教科書や資料だ。

曙はその本の内容を提督に質問して、そこから彼の話を聞くのが大好きだった。

その為には自分が甘えたいと正直に欲求を認めるくらい何でもなく、恥とも思わなかった。

それくらい提督のことを気に入っていたのだから。

 

「そうか、分かった。それで、今日は何の本を持ってきたんだ?」

 

提督が自分のお願いを聞いてくれる事を了承したのを見て取り、曙は顔を輝かせて嬉しそうに彼に本を見せた。

 

「ありがとう! 今日持ってきたのはね、これ!」

 

「……」

 

提督はその本のタイトルを見てやや顔をしかめる。

その本には『悪魔の辞典』と題名がプリントされていた。

 

「曙、これは……」

 

「うん! あたしもね、最初はこれ凄く暗い本だと思ったの。でもねこれ、読んでみると何かこの本の作者の価値観で解釈された言葉が収録されている本だったの!」

 

「ほう、つまりそれが面白い?」

 

「うん、何か捻くれててね! でね、だからね? 大佐にもこの本読んでもらって一緒に楽しみたいなって」

 

「なるほどな。ということはその解釈とやらは皮肉に満ちていて面白いものが多い、と?」

 

「さすが大佐ね! その通りよ! だからね? 一緒に読んで!」

 

「ああ、そういう事なら。……膝に座るか?」

 

魅力的な提案だったが、曙は今回はそこではなく同じ部屋にあるソファーを指差した。

 

「ううん、今日はソファーに座って横で読んでほしい!」

 

「分かった。じゃあ行こうか」

 

「うん、ありがとう! お願いね!」

 

提督が椅子から腰を上げたのを見て曙は目を輝かせて嬉しそうに彼の後ろに着いていった。

 

 

―――それから1時間ほど後。

 

「あらぁ、今日は可愛い子が寝てるのね」

 

午後からの予定を報告しに来た足柄が優しい笑みを浮かべながら執務室に入ってきた。

足柄の視線の先には本を読んでいる途中に昼の眠気に負けて提督の膝で熟睡している曙の姿があった。

 

「足柄。すまん、もう時間だな」

 

「ああ、いいわよ立たなくて。この子は私が部屋に抱いていくから」

 

「そうか。ありがとう」

 

優しく曙を抱き上げる足柄に提督は礼を言う。

 

「いいのよ。ふふ、でもホント駆逐艦の子って可愛いわね」

 

「そうだな」

 

「そうね」

 

「……」「……」

 

女は何か言って欲しそうに、男は何を言ったら良いか、そんな意図が絡んだ視線を二人は無言で交わした。

 

「お前も可愛いぞ」

 

ややあって、期待通りの言葉を貰った足柄は嬉しそうに言った。

 

「あら、ありがとう♪」




日常ほのぼのは良いですねぇ。
そして足柄さんは間違いなく良妻です。



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