提督の日々(凍結)   作:sognathus
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提督は机に向かって一人何か作業をしていた。
提督は今日は非番。
私室の机に何かを広げてせっせと作っている姿を暇潰しに執務室を訪れた山城が、彼の部屋へと続く扉が半開きになっていたおかげでそれを見つけた。
山城は興味を持ち、何やら集中している様子の提督の邪魔をしないように注意しながら静かに彼の部屋に入った。


第2話 「幸運」

「……」

 

「山城、なんだ?」

 

今日は非番だから挨拶がなくても特に注意する事はない。

ましてやそれが自分の部屋となれば尚更だ。

少し前から背後から自分の手元を覗く山城に気付いた提督は彼女に声を掛けた。

対して山城も特に驚いた様子もなく、それより興味がありそうな瞳で提督が今“作っている物”に対して質問した。

 

「あ、ううん。ちょっと何してるのかなって思った……だけです」

 

「そうか」

 

「……何か作ってるんですか?」

 

「まぁな」

 

「パズル?」

 

「ああ」

 

提督に気付いてもらえたことで山城は少し遠慮の姿勢を解くことにした。

最初の態勢より更に提督に近付き、彼の顔の横からそのパズルを覗く。

その時に山城の大きな胸が明らかに提督の背中に密着し、柔らかくて心地よい感触を提督に伝えた。

提督はピクリと刹那の反応をしたが、山城が特に気にした様子を見せないので自分も気にするのをやめた。

提督は彼女とケッコンの関係を結んでから、元々柔らかくなっていた提督に対する態度がより優しいというか自然体になった気がしていた。

ならそんな雰囲気をわざわざ壊すこともあるまい。

艦娘という女たちに囲まれ、元々真面目でその辺りの心の平静を保つことにも長けていた提督は、風紀さえ絡まなければ最早このくらいの接触は気にしなくなっていた。

 

「凄く細かいんですね」

 

提督の肩に軽く自分の顔を乗せんばかりの位置からで山城が興味ありげに訊く。

それでも提督は特に気にする事もなく、手元に視線を集中させていた。

 

「そういう種類だからな」

 

「あ」

 

山城は提督の机の端に恐らくパズルのパーツが収められていたと思われる外箱を見つけた。

その箱を見て山城は少し目を丸くする。

 

「これ、犬になるんですか?」

 

外箱の写真には柴犬っぽい黄土色と白のカラーリングが施された完成品が載っていた。

 

「そうだ。その、予定だ」

 

「へぇ~」

 

「パーツが小さいから完成品も小さいんだけどな、だがパーツの数が多いからこんなのでも作るのに時間がかかるんだ」

 

「なるほどねぇ……。その分立体感? 再現度はあるって事ですね」

 

「まぁそうだが、結構物によると俺は思ってるけどな。パッケージの写真を見てもよく判らないとかあったし」

 

「え? そうなんですか?」

 

「このシリーズは動物だけじゃなくて他にもいろいろな物をモデルにしたパズルがあるんだ」

 

「あぁ、建物とか家具とか果物とか……?」

 

「そうだ。あと人間もだ。ゲームのキャラクターとかもあるぞ」

 

「えっ、ゲームの?」

 

「そうだ。格闘ゲームの……ほら、この写真だ」

 

提督は机の角に置いていた自分の携帯端末を操作してネットショップのアプリからそのパズルの商品写真を山城に見せた。

彼女は提督の携帯を手に取り、最初何となくっといった顔でそれを見ていたが、程なくして眉間に皺を寄せて画面を注視した。

 

「ん……? ……え? えっと、大佐」

 

「うん?」

 

「あの、これ何ですか?」

 

「はは、お前もやっぱり判らないか」

 

「あっ、これが見ても判らないっていうのですか? はぁ……確かにこれは私判らないですね」

 

「だろう?」

 

「ゲームのキャラというのは文字からは判るんですけど、人間には見えないです……」

 

「まぁな。俺も最初はそうだった」

 

「大佐、これどういう風に見ればいいんですか?」

 

山城は玩具を与えられた仔犬よろしく、忙しく提督の携帯を縦に横に持ち方や見る角度を変えながら何とか写真の構図を把握しようとしていた。

提督はそれれ見て内心微笑ましく思いながら、苦笑交じりに説明してあげた。

 

「ん、これはな、開脚してこう逆さまになってだな……」

 

 

「え、そんなの判るわけないじゃない……。というか人間どころか私たちにだってこんな態勢なんて……。よくそんな技思い付きますね」

 

提督に説明をしてもらって山城は呆れ半分と言った感じで驚いた。

 

「はは、だからゲームなんだよ」

 

「ふーん……」

 

画の説明を受けてもまだ山城にはそれっぽく見えないらしい。

尚も携帯の画像を目を凝らして見つめていた。

提督はそんな彼女を見てある考えが浮かんだ。

 

「今度やってみるか?」

 

「え?」

 

不意の提案を受けて山城は驚いて携帯から顔を上げる。

何故そんなに驚いた顔をするのか、提督はそんな疑問を持ちながらも彼女に続けて言った。

 

「このゲームだ」

 

「え、大佐ゲームやるんですか?」

 

「まぁな。古いゲームが多いが」

 

「でも私ゲームとかやった事ない……」

 

「ああ、だから一緒にやるか? 教えてやるぞ」

 

「え? 一緒に? ホント?」

 

山城は提督の携帯を何故かぎゅっと胸に抱いて、詰め寄るように再度確認してきた。

提督はその雰囲気に幾分鬼気迫るものを感じて、若干訝しむ顔をして言った。

 

「何故そこで疑う」

 

「あ、ごめんなさい。ちょっと自分の不幸体質意識しちゃって」

 

「ん? という事はこの提案がお前にとって幸運だったという事か?」

 

「……ダメ?」

 

提督の言葉に何か不満があるんだろう。

山城は拗ねたような目をして提督を軽く睨む。

 

「ん、いや」

 

「ゲームで遊ぶなんて初めての機会、私にとって幸運以外の何ものでもないもの。それに大佐も一緒に教えてくれるんでしょ?」

 

「ああ、そのつもりだ」

 

「じゃぁ尚更幸運ですよ。今日は特に予定が無いからたくさん付き合って下さいね」

 

山城は見た目から想像する歳以上に子供の様な無邪気な笑顔を見せた。




自分も作った事ありますが、予想以上にパーツが細かくて結構時間がかかりました。
皆さんも機会があれば如何でしょうw



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