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神殺世壊のブレイドマスター 作者:表裏トンテキ
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二章 十七話

 細長い通路を抜け、講堂を経由した反対側には、複数人で食事が取れる大広間がある。そこには、既に何人かの権力者と思しき人物達がそれぞれ椅子に座って何かを待っている様子だった。

 マルシアが入室した際、何人かの視線が向けられ、あからさまに安堵の様子を顔に出している。……マルシア本人には面識の無い者もいたが、何やら心配をかけていたようだったので、小さく会釈を返している。

 空いている一部の席に二人が座ると同時に、ちょうど上座のような場所に居住まいを正したミディエルが口を開いた。


「それでは始めましょうか。この街の行く末を決める話しあいを」


 静かだが、広間全体に良く通る透き通った声でミディエルは言う。その目がこの場にいる全ての人間を見渡し、最後にマルシアへと向けられてから、彼女は自らの席へと腰を下ろした。


「ならば、私から……」


 そう言って立ち上がったのは、少し丸太りした禿頭の男性。確か、どこぞの商会の会長だったはずだ。彼の口からつらつらと流れ出るのは、ただただ自分の身と資産を重要視した全くもって非効率的な作戦だ。これに関しては、一同呆れを見せ、男性もその空気を感じ取ったのか、ばつの悪そうに着席する。

 その次に発言したのは、門の衛兵達を束ねるベテランの白髪が目立つ男だ。この男は状況がよく分かっていた、が、いかんせんこんな状態になった事など今の今まで無かったためか、適切な対処方法が思い浮かばず全員に頭を下げていた。そんな衛兵の男に対し、舌打ちを投げかけるのが、先ほどの商会の男性。曰く、衛兵がしっかりしていないから今回のような事態になった等と言うならまだしも、実はサボっていたんじゃないか、などと難癖を付ける始末だ。そこからヒートアップした言い争いは、流石に話し合いを進行するにはあまりにも白熱しすぎていた。


「……少し落ち着いて下さい!」


 静かな怒りを声に乗せたミディエルが一喝すると、なんとかこの場は落ち着いた。未だに二人の男性はお互いを視線で牽制しているが、それ以上咎める気はないのか、ミディエルは話を進める。


「とにかく、今は保身や他の人に責任を押し付けるのではなく、この状況を打開する事が先決です」

「公国からの援軍は今のところどうなっているのですか?」


 先ほどまで黙っていたカッチリとした服装の男性が小さく手を上げて発言する。その声音に自信は無く、返ってくる答えが既に分かっていそうだ。絶望的である、と。


「このグルグラは自治区ですので、軍の派遣に関しましては少し面倒な手続きを取る必要があります。送られてきた時には、既に街は魔物の巣窟になっていた、なんて事になってもおかしくはないと思っています」

「つまり……、援軍は来ないものと……」

「思っていただいても構いません」

「ふん、偉そうにこの場を仕切っている割りには、随分と後手に回っているようじゃないか。領主へのアドバイザーが聞いて呆れる」


 先ほどの商人の男性が吐き捨てるように言う。が、ミディエルは男性の言葉に憤りすら見せず、ただ淡々と口を開く。

「むしろ、こんな状況を予想して行動出来る人がいれば、それは教会の神子くらいなものです。おまけに、今回は調査報告を怠っていたそうではありませんか。そんな状態で先手を取れと言うのは無茶というものでは?」


「おや、言い訳ですか? あれだけ偉そうに言っておいて、結局は出来ないのではありませんか」

「……都合のいい頭をしていらっしゃいますね。もしくは、現状に恐れて、少しでも愉快な方へと思考を持っていっているのでしょうか。まぁ、どうでもいいです。何も提案すら出来ないと言うのなら、ここにいる意味はありませんから。気にしなくても問題ありません」


 言外に戦力外通告を受けた商人の男性は先ほどの司祭長と同じような表情を浮かべる。そして、そのまま席を立ち、憤った様子を見せながら、もういい、とだけ言って部屋から出て行ってしまう。


「あ、ちょっと!!」

「よろしいんですか? あのまま行かせてしまって」

「構いません。先ほども言いましたが、今必要なのは打開策であり、個人の感情に沿った手段など必要無いのです。こればかりは、彼をこの場に招いた自分の失態でもありますが……」


 人選を誤った事に多少の罪悪感があるのか、ミディエルはその端正な表情を少し曇らせてしまう。が、その罪悪感の対象が呼んだ男性にではなく、男性を呼んだ自分に向いている辺り彼女も大概である。


「それでは、兵長さんの意見を聞かせていただいてもよろしいですか?」


 だがしかし、次の瞬間には変わらない表情で兵長と呼ばれた男性に視線を向けたミディエルは、彼に意見を求める。

 が、肝心の兵長も、苦い顔を作るだけで、有効な策は思いつかないのか、唇の端を噛んで俯いてしまう。


「やはり、強力な一手が必要、ということですねぇ。公国からの援軍が期待出来ないとなると、この街にいる冒険者……なのですが、彼らに期待出来るのなら最初からしていますしねぇ。衛兵でオークと一対一で戦える者ってどれだけいます?」

「今のところは私ともう一人、副兵長が可能です。とは言っても、私は最大で二体まで対処が可能ですが、副兵長の方は何か少しでも障害が入ると難しくなります。やはり、経験が薄いというのは致命的ですね」

「経験……、そこに行きつきますか」

「はい。どれだけ才能が低く、実力が劣っていようと、一度も戦場を経験していないエリートよりも十の修羅場を生き残った凡人の方が判断力も、対応方法もずっと上です。追いつかれるのも時間の問題でしょうが、今日生き残れない人間に明日はありません」

「成程……、真理ですね。今の話から察するに、エリートは副兵長で、凡人は兵長の事でしょうか?」

「いやはや、痛い所を突かれましたね。もともとフォルネストの学術院にいた奴でしてね、実力も高いんですがプライドも高いので、私では上手く扱い切れないんですよね……」

「そのお話には同情しますが、そろそろ何か手段を考えなければ、その副兵長が立派に育つ姿も見られませんよ?」

「そうでしたね。失礼しました。とりあえず、今考えた案なのですが、いいでしょうか?」

「どうぞ、この際なんでも構いません」


 若干投げやりに聞こえるミディエルの返事だが、兵長はそれにも笑顔で答え、つい今しがた考えた策を口にする。

 提示された案は簡単だが、少し手のかかるものだった。


「……敢えて魔物達を街の中へと誘導し、誘い出した場所で火攻めにする……ですか……。随分と前時代的なやり方ですが、今これが最も有効かもしれませんね。ただ、火攻めにするにはスペースを作る必要がありますね。まずは冒険者と衛兵に門の内側に堀を作っていただきましょう」

「善は急げ、と言う奴ですね。すぐに部下達に指示を出してきます」

「よろしくお願いします。それで、財務官なのですが……」


 そのガタイの良さからは想像出来ない程の素早い動きで部屋から出ていく兵長を見送ったミディエルは、その目を先ほどから口を開かずにどんどん進んでいく状況を眺めている男性へと向ける。


「貴方には必要な物を迅速に用意していただけますか?」

「わ、分かりました……。言ってくだされば今すぐにでも用意いたします」


 そう言った財務官に、ミディエルが紙に書いた一覧を渡す。それを受け取った財務官もまた、部屋から出て行った。

 こうして部屋に残されたのはマルシアとフェラルド、それとミディエルのみとなる。


「ところで、マルシアさん。貴女がオーガと戦った際に使っていた力、今すぐにでも使用する事が可能ですか?」

「『限界淘汰』の事? 今は……、うん、まだ無理だと思う」

「その名前からして、そう何度も使えるようなものじゃありませんね。となると……、強力な手札が一つ無くなるのは痛手ですね。次に使えるようになるのはいつか分かりますか?」

「うぅん……。多分、二三日休めば使えるとは思うけど、万全の状態でやるなら一月は欲しいかも」

「流石にそこまで悠長に相手が待ってくれるとは思えません。作戦の進行は一週間以内、堀が完成次第順次進めていく必要があります。逆に言えば、この街が持つ限度が一週間と考えていただいても構いません。強行突破などは見られませんが、魔物とは思えないほど細かな所から崩されて行っています。そうそう長くは持ちません」

「これが、帝国にある城塞都市などであれば話は別だったのですがねぇ……。無いものねだりをしても仕方ありませんか」


 事実、ミディエルが言った一週間、これが現在この街が持っている耐久値が限界を迎える期限である。一般的な城や防衛都市ならば魔物の軍勢を一カ月、備蓄さえ充足していれば一年持つことが可能である事を考えると、ごく一般的な街であるこのグルグラが一週間持つのは出来過ぎとも思える。が、言ってしまえば、数々の施策を行っても一週間しか持たないとも言える。

 今はミディエルの指示でなんとか持ちこたえている状態だが、いつ建てた壁が決壊してもおかしくない状況でもある。そうなる以上、対処方法に待つ、という手段は無い。迎え撃つか、犠牲を覚悟で打って出るかの二つに一つである。

 今回は迎撃の姿勢を見せたが、ミディエルの内心ではこの作戦が成功する確率は五割がせいぜいいいところだと判断していた。理由としては、この街には目の前にいる二人を超える実力者がいない事、それと魔物の軍がオーガを先頭に置いている事である。

 個の能力に頼る事は愚策と言える。こういった集団戦においては余計に個人ではなく、団体としての協調性が大きく影響してくる。が、強大な力を持っている、ということは味方への士気にも大きく関わってくる。更に言えば、要所を抑えるにはもってこいの戦力であるため、多いに越したことはない。

 しかしながら、この街における最大戦力は現状目の前にいる二人のみ。他所の街では、ギルドマスターがその実力をもって街の冒険者達を腕っ節で従わせている所もあるらしいが、この街のギルドマスターはギルドの本山から派遣された普段からやる気が見られないただの男だ。ギルド内の混乱が未だ続いている事を考えると、既にこの街から逃げ出している可能性もある。

 また、冒険者のリストを一読した際、大きな実績を持つ者はほんの一握りであり、それも自ら成した、と言うよりもそれに関係していた、と言った方が正確だろう。つまるところ、なんの実績も無いのだ。

 したがって、個々の戦力で頼れるのはこの二人のみ。後は集団戦に頼るしか他は無い。


「……さて、足りないピースはどこから補充すればいいのでしょうか」


 ボソリと呟いた言葉は、一体誰に向けたものだったのか……。



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