一章 第一話
第一章
その四肢を撫でる感触は心地よく、頬を掠める風はまるで子を慈しむ母親のように軟らかだ。身を委ねていると、ついつい意識をまどろみの中へと手放してしまいそうになるのは仕方の無い事だろう。
だが、その羽毛のような肌触りを持つ青々しい草花の上で、少年は茫然としていた。けして、睡眠の取り過ぎでイマイチ覚醒しきらない、なんてことでは断じてない。
胡乱としているどころか、どうにか自身の周辺から情報を得ようと辺りに視線を向けるその目つきは、到底その見た目に合ったものではない。切るのが面倒で、適当に流しただけの髪が風に流されて周囲に群生する草花のように右へ左へと揺られる。
「……どこ、ここ?」
そう呟いた少年は、つい数分前までかつての仲間と殺し合っていた剣帝と言われる人物だとは誰が気付くであろうか。
「グッモ~ニン! もしくはアフタヌーン? ま、どっちでもいいや。元気かな? みんなのアイドルボクちゃんだよぉ~」
「……」
唐突に聞こえたその不快感溢れる声は、どうやら少年の懐から聞こえたようだ。その体には到底似合いそうに無い灰色のコートの内側に手を突っ込んで、そこから何かを取りだした。
「やぁやぁ若人。目覚めはどうかな? ん? 快適に眠れ過ぎて、これ以上健やかに育ったらどうするんだって? ノンノン。子供はどんどん大きくならなきゃ。じゃないと、だぁい好きな人としっぽりする時に奥に届かない~、なんて事になったらこm……、ちょ、止めて! 黙って握りつぶそうとしないで!! 今、君とパスを繋いでいられるのはコレのおかげなんだから!!」
ミシ、と機械が出す音にしてみれば、相当危ないものが少年の掌にある携帯端末から漏れ出てくる。本来、ただの連絡用であるそれは、もはや連絡を取る相手がいなくなった彼にとって不要な物であったため、バッテリーが切れたまま懐に忘れ去られた代物の筈だ。それが何故か、聞いたことの無い声が端末のスピーカーから聞こえる上に、いつの間にかバッテリーが復活している。どういう仕組みでこんな奇怪な現象が起きているのかは知らないが、あまりこういったオカルト的な物に詳しくない少年にとって、対処方なんてのは一つしか思いつかなかった。
つまり、壊す。
「いいいいいいいいい!! 待って、待って!! 待って下さいいいいいいいいい!! 問答無用に壊そうとしないで!! せっかく説明しようとしてるのに!!」
説明、という単語を聞いた少年の手が破壊行動を停止する。
「おや? おやおや? やっぱり今の状況についていけなかったのかな? よくあるよね、何も分からない子供が、誰も教えてくれないからって物に八つ当たりする事。もしかしたら、君もそういうタイプかな? いやぁ、おじさん困っちゃうなぁ。そんな乱暴されたらおじさんどうにかなっちゃうよ?」
ポイ
「ああああああ!! 捨てないで! 黙って立ち去ろうとしないで! 私の事を見てええええええ!!」
「……はぁ。全く、メンドクサイねどうも」
おもむろに持っていた端末を放り捨てると、そのままどこかに歩き去ろうとした少年だったが、小さくため息を吐くと、端末を拾い上げて先ほどから馬鹿な事ばかり言うそのスピーカーに言い捨てる。その表情からは疲労が見える。
「てか、喋れたんだね、君」
「何で話せないと思っていたのかもの凄く気になるんだけど?」
「いや……、だって君、彼との決戦の前に何も喋らなかったじゃないの」
「彼……? あぁ、アイツ」
つい先ほどまで少年は自分と死闘を繰り広げていた青年の事を思い出す。確かに、彼の前では口を開かず、沈黙を通していた。だからといって、別に話せないわけではなく、単に話す必要性を感じなかった。話す気が無かった、と言うべきだろう。少年にすれば、斬り合いに言葉も道理も必要ないのだから。
「そういえば、俺はどうなったのさ? な~んか奴さんと斬り合ってる途中からしか記憶が無いんだけど……、なんかやった?」
つぅ、と目を細め、二コリと口だけの笑みを作る。が、細められたその目からは殺気が迸っている。
「ストップ、ストップ! こっちだって悪気があってやったんじゃないんだよ。少しばかり事情があってね……」
「事情……?」
「そう、事情。とは言っても、君にとっては些細な事だし、僕にとってもそこまで重視するべきことじゃあない」
「だったら何でその事情とやらをいいだしたのかなぁ? 重視しない、ということは別に俺がやらなきゃいけないってことはないんでしょ?」
携帯端末が言うには、さほど急ぐほどのものではないとの事。ならば何故、このタイミングでそれを口にするのか。
「まぁ、事情に関してはおいおい……。それはともかく、剣帝クン。ここに来てから、何かを感じたかい?」
「何か……? また随分と曖昧な……。別に何にも。強いて言うなら目の前の端末を力の限り地面に叩きつけたい衝動は感じてるよ」
「それはヤメテ、本当にヤメテ。この場所にある空気、空から降り注ぐ陽光、そして君の周りに群生している草花……。これらに何かを感じないかい?」
「……むしろ違和感しか感じない、って言ったらどうなるの?」
「大正解!! ここは君がさっきまでいた世界とは異なる世界。つまり、異世界さ!!」
「……は?」
訳が分からない、とでも言いたげに、少年は呆れたような表情を作り、手元の端末を見やる。
「コイツは何を言ってるんだ? って顔をしているね。残念ながら、僕の言っている事は真実さ!」
「……オーケー、ここか異世界だってことにしようか。それで、どうやって俺はここに来たのさ? 数分前まで、アラスカの地下要塞にいたはずだけど?」
「君、割とそういうところに平気で単身突っ込むよね。それは置いておいて……、君をここへ転送した方法だね。ふむ……、教えてあげたいのは山々なんだけど、色々と制約があってね、迂闊に口に出せるようなものではないんだよ。まぁ、ひとつだけ言えるなら……、君のいた世界で考えると、二、三世紀は進んだ技術ってところかな?」
「……いきなりこんな所に連れて来られて、理由を聞いたら話せません、ハイソーデスカー、なんて言うと思う?」
「そうは言ってもねぇ、事実ここは異世界で、君はここにいるんだから、何はともあれ納得してくれないと始まらないんだよ」
「……まぁ、いいか。理解だけはした」
「理解があって嬉しいよ。ここでやっぱり一から説明しろ、だなんて言われたら後始末が面倒だからさ、ここで納得してくれるなら、それに越したことはないね」
つらつらとな言葉を並びたてる端末からの声は、どこか嬉しそうだ。この声に対して特に機嫌を取る気も無い少年にとってしてみれば、どうでもいいことだが。
「それで、結局俺は何で呼ばれたのさ? あと、気のせいか、さっきから視点が低いんだけど?」
「理由に関しては今は保留だよ。やがては伝えるとは思うけどね。あと、視点が低いのは当然だよ~。だって君、若返ってるんだもん」
「若……? え? ちょっとまって? 若返ってるってどういうこと?」
「あ、ちなみに、今の君の身体年齢は14歳だから」
「いくらなんでも下げ過ぎじゃね!? こういうのは普通、18だとか20だとかにするんじゃないの!?」
「いやぁ、最初はその予定だったんだけどね。よくよく考えたら、君は向こうでは28……だったかな? その状態で現代兵器によって構成された一軍を蹴散らすんだから、それこそ体のほとんど出来ている18や20じゃ色々とマズイ事があるんだよ。いきなり大規模な問題を起こされるとだるいからね。そこは制限をさせてもらったよ」
「14……、元の2割も発揮できればいいところ……。うわぁ……、弱体化もいいところじゃないのさ。まぁ、なっちゃったもんは仕方ないけど……。今はこれでなんとかするさ」
「それともう一つ、君の武器の事なんだけど」
「武器……、もしかして典太の事?」
「そう、その典太君」
コートを翻し、少年は左側の腰を露わにする。彼にとっては、そこに当り前のようにある筈の物が無く、腰が落ち着かないと言うわけではないが、やはり長年連れ添ってきた相棒……半身とも呼べる存在が無ければ、心に余裕も生まれない。自身の最大の武器であり、同時に腕や足よりも自在に動かすことが出来る愛刀の安否を確かめるのは仕方の無い事だろう。
「君の刀については悪いんだけど、僕が預かっているよ。君が使っていた、ということもあって、アレの質量は尋常じゃない。もちろん、物体的な質量じゃなく、どちらかと言うと概念的なものだよ」
「概念的、ね……。多少物が斬り易いとか、そういったものじゃないの?」
「それで済むならここまで苦労はしないよ。君の刀に関しては、この世界においてもはやオーパーツと呼んでもおかしくは無い領域にある。今まで斬ってきた人の数もそうだし、戦車や砲弾、一度陽電子砲も斬ったことがあるだろう?」
「斬った、というか払った、と言うか……」
「その時点で既にアウトだよ。というか、ホントにやってたんだね……。まぁ、それはともかくとして。今君が言ったように、陽電子砲を斬り裂く事、また戦車や要塞のゲートなどを斬った事から、君の刀には刃が通らない、という概念が抜け落ちている。もちろん、君の技量もあるだろうけど、これは本来であればあってはならない事だ。更に言うと、君がこれまで斬り殺してきた数は億をゆうに超える。異常、だなんてそもそも言葉で表現出来るようなレベルじゃないが、そんな事はどうもでもいい。問題は、君が斬った人間の立場だ」
「立場……? 罪の有る無し?」
「それもあるけど、ここで重要になってくるのは、為政者か否か。数多くの政府の高官を君は殺しているが、それはこの世界では経験値として君に還元される。そして、その経験値の量は凄まじい。君はこの世界では本来人が持ちえない技能を持つ事になるんだ」
「技能、ねぇ……。例えばどんな?」
「為政者……、この世界では支配者に変わるのかな? それを殺し続けてきた事で、相手の立場や権力、力が強いほど君の地力が跳ね上がる、なんてところかな? これは地方領主なんかが相手なら、そこまで目覚ましい上がり方はしない。だけど、それが一国の主や、君の場合はこれまで行ってきた事も考えると、神の使徒に相対した時、そのステータスの上昇の仕方は理解が追いつかない物になるレベルだと思う。相手の権力や立場によって力が増す……、まさしく反則級。これが異世界チートってやつだね☆」
「そのチートがなんなのかはよく分からないけどさ、ようするに俺はこの世界では凄まじい力を持ってるってこと?」
「簡単に言ってしまえばそうだね。その上、君に刀なんて与えてしまえば、それこそこの世界のパワーバランスが君に偏り過ぎるからね。しばらくは刀無しと、その体で我慢して頂戴。刀に関しては、色々と手は加えさせてもらうけど、ちゃんと君に届けるから安心してね」
「……」
胡散臭い物を見るかのような目で、少年は端末を睨む。が、ここでされた話を信じるも信じないも、やがては少年が辿りつく物だ。むしろここで説明があった事に素直に喜ぶべきだろう。
「質問は以上かな?」
「……刀の事は分かったよ。でも、典太だけで良かったの?」
「ん……? どういうこと?」
「うんにゃ、分からないんならいいさ」
少年が口にした謎めいた言葉に、端末はその画面内にクエスチョンマークを浮かべる。
「?? ま、いいか。それで、いいかな?」
「ちょい待ち。まだ一番肝心な事を聞いてない」
今までのは全て少年に関しての事。それについては少年も渋々といった感じだが、理解はした。だが、少年が今一番聞きたいのはその事じゃない。
「結局、ここはどこなのよ?」
「あぁ、そういえば言ってなかったね。この世界の名前はアルフィリア。正真正銘の剣と魔法が闊歩するファンタジー世界だよ」
「……ある程度予想はしてたけど、改めて聞くと本当に信じられない話」
「なんだ、予想はしてたんじゃないの」
「まぁ、空気とか草とかだが、有機物無機物関わらず、なんだか妙な感じがしてたし……。もしかしたら、これが魔力ってやつか、と思ってたら案の定」
「正確には魔力じゃないんだけどね……。まぁいいや。それよりも、この世界についての説明なんだけど、君が今いるのはこの世界に二つある大陸の一つで、名前はガリアント大陸。そして、この大陸には三つの大きな国があるんだ。まずは、超実力主義国家、バルフレア帝国。この国は、現状三大国家って呼ばれている三つの大きな国の実質トップに収まっている国だよ。鉄とか加工する技術が一番発達している国でもあるね」
「実力ってあれ? 世紀末みたいな感じ?」
「ヒャッハー! って? そういうことじゃないよ。政や武力に関してもそうだけど、商才や口が達者な事も実力と取られるから、本当に何らかの技術や力をもってして実力主義としているんだ。それこそ、君なら武力が上げられるね」
「成程、各々が持つ力、ね……。随分と面白い国だねぇ」
「お? 興味を持ってくれた? いいねぇ、なら実際に行ってみるといいよ。これからはそんな機会がいっぱいあるんだから」
「そうする。で、他の国は?」
「二つ目はフォルネスト王国。この国はさっきのバルフレアと違って、魔法が発達しているんだ。世界唯一の魔道学園もここにある。他二つの国に比べると、割と平和な国かな? 首都を覆う大結界のおかげで、物理的にも魔法的にも突破は難しい。だから、というわけじゃないけど、為政者の多くは平和ボケしている連中が多いね。更に言うと、貴族が国の中心を纏めているから、その辺りが結構国民と軋轢を生んだりしているみたい。こういうのはお約束、ってやつだね」
「魔法以外は特に目立つ物はない感じかな?」
「そう思ってくれてもいいよ。最近、国王周辺がどうの、なんて話も聞くけど、多分貴族連中がつまんない失敗してそれを他人に押し付けようとしているだけだろうし」
「こうして聞いていると、碌でもない国だ」
「その評価は間違っちゃいないね。最後の一つはリヴィエラ教国。女神アルトゥラを国神として上げてる信仰の厚い国だよ」
「宗教国家かぁ……。またメンドクサイのが……」
「あれ? 神様とか嫌い?」
「宗教ってアレでしょ? 詐欺の常套句か、カルト教団くらいしか思いつかないんだけど?」
「成程、君の中ではそういう印象なんだ。確かに、あちらの世界では一昔前にそういう現象が多発したね。被害者……、なんて呼ぶには随分と可愛いものだけど。安心してよ、この世界での宗教はどっちかというと完全に寄付に頼ってるから」
「それもなんだかなぁ……」
微妙な表情を作って、少年は腕を組む。彼自身としては、そこまで宗教関係に関わった事は無い。が、自身の身内の一人に、カルト教団に捕まり傾倒していった者がいた。それを思い出すと、あまり女神だの何だの言われたところで、それを崇めようとは思わないのだ。
「とりあえず、教国に関してはトップが聖女、その次に教皇がいて、基本的に教皇が政治などを取り行っているんだ。が、最近ちょっと内政でゴタゴタがあってね、今あの国は色々と面倒くさい状態になってるよ」
「……だから宗教関係は嫌いなんだ」
何の根拠もなく、よく分からない物を崇め奉ったかつての親戚の顔を思い出す。結局、その親戚が当主として取り仕切っていた家は没落し、後に残ったのは膨大な借金だけだったと言う。
「いきなりそんな国に行け、なんてことは言わないよ。ただ、気を付けた方がいいってだけ」
「近寄らないようにはするさ」
「それはそれで困るんだけどね~。ま、いいか。剣帝クン、手を出して」
「??」
唐突に要求され何が何だか分からないまま手のひらを差しだす少年。一度瞬きをすると、その手にはいつの間にか手のひらにギリギリ収まるかどうかの大きさの麻袋が存在していた。
「……なんだこれ」
「とりあえず、しばらくの路銀かな。着の身着のままで連れてきちゃったからね。そのお詫びも兼ねてちょっとだけ多く入ってるよ。それだけあれば、近くの街で一か月遊んで暮らせると思う」
「それはまた豪勢な事で。その言い草だと、アンタはここで消えるのかい?」
「流石に消える事は無いよ。ただ、しばらく君との交信は難しいと思う。君の刀の処理だけじゃなく、僕本来の仕事があるからね。援助は基本出来ないし、そもそもこちらからその世界に干渉することすら出来ない。唯一出来るのが、ヒントを与えるくらいかな? あとは君の元にこの世界の限度を超えない程度の物を送るくらい」
「十分だとは思うけどね。こういった世界なら金の工面の仕方はいくらでもある。強いて言うなら、俺がここに呼ばれた理由くらいかな?」
「あぁ、そうか。それがまだ残ってたね」
恐らくは今一番重要である情報。つまりはここに少年―剣帝が呼ばれた理由だ。世界最強の暴力と武力、そして知略を誇っていた剣帝をここに呼ぶ、ということはつまりはそういうことだ。
「君にはこの世界の神を殺してもらいたい」
「……髪?」
「いやいや、神、ゴッド、ディオ、ゴッデス!」
「最後のは女神じゃない?」
「……そうだったかな? ともかく、君にはこの世界の神様を殺して欲しい」
「神様、ねぇ……。いいの? 一応、この世界にとっては重要な役割なんでしょ?」
そう、役割だ。神など大層な言葉で飾ってはいるが、その本質は人間と何ら変わる事はない。ただ人よりも高い場所にいて、強い力を持っているだけだ。人は時にそれを崇め、奉り、そして大罪へと仕上げる。はっきりこれといった形は持たないが、その姿は見る人によっては千差万別に姿を変える。
「確かに、この世界に住む……、教国に住む人間によっては神というのは大きな存在だ。それこそ一国なんかよりもね。だが、その神がある計画を目論んでいるんだ」
「計画?」
「そう、計画。全ての種族を統一し、この世界に平和をもたらすという計画さ」
「それはそれは、また理想的な世界だことで」
その理想を体現したとある世界は、少人数のテロリストによって各々の国が壊滅的なダメージを受けた。そのテロリストが掲げたのは、世界平和の唾棄。そして、人と言う害虫が生んだ傲慢な世界の破壊。その行動が、結局実を結んだかどうかは分からない。全ての元凶とも言える剣帝は、アルフィリアにいるのだから。
「神様如きが、世界を平和にするなんて大それた事を考える。反吐が出るね。今度はこの世界を歪ませようってのかい」
「君には元の世界でそれをぶち壊した事実がある。君のその力に今回頼りたくてねぇ。それで呼ばせてもらったってわけだよ」
「あんまり釈然としないけど、まぁ出来る限りはやるさ。とりあえず、路銀はこれでいいとして……」
「ん? まだ何か欲しい物があるのかい?」
「……んにゃ、アンタの正体とか色々聞いてみたいこともあるっちゃああるけど、はぐらかされるか誤魔化されるかの二択だしなぁ……、ここは大人しく流れに任せるさ」
「本当にキミって、あれだけの騒動を起こしたとは思えないほど飄々としてるよね。ま、いいさ。他に何か聞きたい事とか、欲しい物とかはないかい? あったとしても、それに応えられるかどうかは分からないけど」
「いや、特にないね」
「いいのかい? あちらの世界がどうなっているか、とか聞いてもいいんだよ?」
「むしろ、そんな事を聞いてどうすんの? お前は俺にこの世界でやってほしい事があったから呼びだしたんでしょ? なら、向こうの事を気にしたってどうしようもない。これからはこっちで俺の人生は始まるんだから」
「ふむ、いい心構えだ。そういう人間は嫌いじゃないよ。選別ついでにもう一つ教えてあげるよ」
「??」
「ここから南に行くと、商人の街、交易都市があるんだ。そこまで行けば、どこに何があるのかなんてのはすぐに分かるよ」
「そいつは御親切にどうも」
「いやいや、君とはいい関係を築きたいからね。それじゃ、僕はこの辺で退散させてもらうよ。刀は出来たらすぐに送るから」
「そうしてもらえると助かるね」
少年がそう言うと、端末は淡い光を放って明滅し始める。退散しようとしているのか? と少年は考えるが、どうやらそうではないらしい。薄い液晶画面に、文字が打ちこまれる。
―Welcome to Alfiria―
「ようこそ、アルフィリアへ。歓迎するよ、剣帝……、いや、不破一刀君」
そう言って、端末は沈黙した。