スクショも違法? 2018年著作権法改正・改正案のライターへの影響
スクショも違法!?の見出しを見て、「大丈夫かな?」と不安になったライターの方も多いのではないでしょうか。実は今回の改正案はライター特にウェブライターにとっては、大きな影響となりかねない問題をはらんでいます。そこで今回は、(一応)ロースクール卒のyuikomoreが「平成30年の著作権法&今後の改正案のライターへの影響」をご説明します。
目次
1.著作権法の改正で何が変わるのか。ライター業への影響は?
2.現行の著作権法
2-1.著作権法123条の「告訴」が事実上の廃止
2-2.著作権法30条の「私的複製」の範囲が広がる
3.平成30年改正法と今後の改正法案
3-1.改正済|TPPによる著作権法改正
3-2.改正案|条文30条
4.ライターが知っておくべき仕事への影響
4-1.ウェブ上での情報収集作業が難しくなる
4-2.ライター・クライアントに罰則が課せられる可能性も
4-3.著作権違反のリテラシーがこれまで以上に求められる
4-4.クラインアントのコスト比重が大きくなり、ライター減収につながる?
5.あいまいな法規制にはNOの勇気を
1.著作権法の改正で何が変わるのか。ライター業への影響は?
ネット上の著作権侵害の問題は年々大きくなる一方、その度に取りざたされる「著作権法」の改正問題。問題は山積みですが、表現の自由との関係や日常生活への影響が大きいことから、よくニュースに取り上げられています。
実は、昨年の平成30年12月にも改正著作権法が施行されていますが、何がどう変わったのかご存知でしょうか? 現在審議中の改正法案も「スクショが違法?」などニュースで取りざたされていますが、実はネットを介して情報を取得することが多い「ウェブライター」には影響が大きい改正案なんです。今回の改正&直近の改正案に関するライターへの影響としては以下が考えられます。
①ウェブ上での情報収集作業が難しくなる
②親告罪とならないため、ライター・クラインアントにいきなり罰則が課せられる可能性も
③著作権に関するリテラシーがこれまで以上に求められる
④クライアント側のコスト比重が大きくなり、ライターの減収あるいは著作権リテラシーのあるライターが優遇される
なかなか気になる内容ですよね。以下、詳しく見ていきましょう!
現行の著作権法をおさらい
まずは、現行の著作権法からおさらいしておきましょう。影響があるのは、著作権法120条と30条に関連する内容となります。
2-1.著作権法123条の「親告罪」が事実上の廃止
第百二十三条 第百十九条、第百二十条の二第三号及び第四号、第百二十一条の二並びに前条第一項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
第百十九条 著作権、出版権又は著作隣接権を侵害した者…私的使用の目的をもつて自ら著作物若しくは実演等の複製を行つた者…著作権、出版権若しくは著作隣接権を侵害する行為とみなされる行為を行つた者…は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
なんだか相変わらずわかりにくい文字が並んでいますが、簡単にいうと以下の通りです。
123条 著作権持ってる人が警察に訴えない限り、罰することはありません。
119条 著作権侵害行為を行った人は、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金を課せられる可能性があります。
ご存知の通り、ネット上にはたくさんの著作権侵害が存在しています。しかし、この「告訴」の規定があったことから、細かい著作権侵害や一般人による著作権侵害は放置されてきました。
訴える側も「きりがない」ということでしょう。もっとも、今回の改正ではこの規定が実質上廃止です。つまり、一般人が警察にいきなりしょっぴかれるなんてことがありえるんです。
2-2.著作権法30条の「私的複製」の範囲が広がる
第三十条 著作権の目的となつている著作物(以下この款において単に「著作物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製することができる。
三 著作権を侵害する自動公衆送信(国外で行われる自動公衆送信であつて、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものを含む。)を受信して行うデジタル方式の録音又は録画を、その事実を知りながら行う場合
またまたややこしい文章並んでいますが、簡単にいうと、以下の通りです。
第30条 自分や家族で視聴するために、著作権がある映像や音楽をコピーしたりダウンロードしたりはOKです。
第30条3項 でも、違法にアップロードされた音楽や映像をダウンロードするのはNGです。
著作権侵害に特に気をつけるべきは「音楽と映画・PVなどの映像!」となんとなく覚えている方も多いでしょう。映画を観に行けば、映画泥棒のCMなんかもありますもんね。
ライターの方なら、画像に気をつけているという方も多いはずです。これまではその意識で大丈夫だったのですが、今後はあらゆる著作物が規制対象となり、目を配る範囲が広げなければいけない可能性があるんです。
さて、具体的にはどうかわるのでしょうか?
3.平成30年改正法と今後の改正法案
上記2つの条文についてすでに改正された条文と、現在審議されている今後の改正案について詳しくみていきましょう。
3-1.改正済|TPPによる著作権法改正
◯改正内容
著作権に関する告訴が事実上廃止される点については、実は著作権法自体の改正による影響ではありません。より正確には、環太平洋パートナーシップ協定の締結に伴う関係法律の整備に関する法律の一部を改正する法律(平成30年法律第70号)による影響となります。TPP締結による影響といえば、わかりやすいかもしれません。ちなみに、こちらはすでに施行済み(2018年12月30日)です。
こちらの法律では、著作権の一部について非親告罪化されるため、侵害者を罰するために事実上著作権者の告訴はいらなくなったということになります。すべての著作権侵害に対し適用されるわけではありませんが、以下の場合には警察主導で動くことが可能となります。
⑴対価を得る目的、⑵有償著作物をそのまま譲渡する行為、複製してインターネット上で提供する場合、⑶権利者の利益が不当に侵害される場合、⑷1次創作物の侵害である
具体的にどのような行為かというと、原作を丸々コピーしてネットに載せるような行為は、警察が直接検挙することができます。独自の作風を加えた上で作った2次創作物に関しては、これまで通り告訴が必要となります。
◯実際上何が問題になる?
ちなみに、違法コンテンツだと知らなかった場合でも、警察は知りようがありません。そのため、任意同行で話を聞かれるなどのような事例も起きる可能性があるのです。個人まで罰則の対象となる点で問題だといわれています。
3-2.改正案|条文30条の改正
◯改正案の内容
先にご紹介した通り、これまでは音楽や映像のみが規制対象となっていました。しかし、経済的被害の拡大を防ぐため、今後はすべての著作物となり、写真、論文、小説、記事、漫画、などが含まれます。
具体的な侵害行為としては、以下の通りです。
・著作物を複製して譲渡する行為
・インターネット上の違法著作物のダウンロード
・違法著作物のスクリーンショット
・違法著作物のコピーペースト
刑事罰の対象としては、日常生活への支障が懸念されることから、「海賊版対策」として「必要性のある悪質な行為」に限定するそうです。具体的には、丸っとそのまま複製や、何度も繰り返し行った場合などに限定しようとしています。
◯実際上何が問題となる?
SNSで著作権のある画像や音楽、イラスト、記事、漫画、歌詞、PVの一部などをスクショやダウンロードの上、アップロードする方はかなり多いと思います。
「個人がやっていることで販売目的などもないんだから問題ない」「ブログで取り上げれば宣伝になるはず」と考えてしまうかもしれませんが、これがもし違法にコピーされたものであれば処罰される可能性があります。
また、メモ代わりにネットで見つけた記事や歌詞などをコピペする方も多いと思いますが、これもコピー元が違法にコピーされたものであれば、著作権侵害として扱われてしまう可能性があるらです。。
しかし、違法にコピーされたかどうかをいちいち判断してスクショを行う人はいるのでしょうか?
一般人からみて判断がつきづらいコンテンツもあるはずです。今後はダウンロードだけでなく、スクリーンショットやコピペでさえも気をつけなければいけないことになるのです。
4.ライターが知っておくべき仕事への影響
最後に、ライターが知っておくべき著作権法改正・改正案の影響を、独自の視点でご説明します。
4-1.ウェブ上での情報収集作業が難しくなる
最初の影響として考えられるのは、「ウェブ上での情報集作業」への影響です。
記事作成のためにネット上の記事から情報を集める際、メモ代わりにコピペすることが問題となります。丸々コピーをする人は少ないとは思いますが、一部を切り取ったりエッセンスを切り取ったりして情報を集める方は多いのではないでしょうか?
仮にこの中に引用要件を満たしていないものなどが含まれていれば、これだけで「違法コンテンツをコピペした」と判断される可能性があります。
毎日のようにネット上で大量に情報収集を行うライターにとって、これは致命的です。情報として使えそうなものを見つけたら、紙に書き出すなどの作業が必要ということでしょうか? かなりの時間的ロスになりそうですね。
4-2.ライター・クライアントに罰則が課せられる可能性も
ライターまたはクライアントがいきなり罰せられる可能性もあります。
先にご説明した通り、二次著作物以外は告訴なしで警察が検挙できます。つまり、記事作成前の情報収集中に違法ダウンロード・スクショ・コピペを行った場合は、ライターが罰せられる可能性があるのです。また、報酬を与えることによって記事自体の著作権がクラインアント側に移るケースが多いことを考えると、幇助としてクライアントも立件される可能性は否定できません。
罰則や刑罰を科すことは、特に個人に関しては慎重な姿勢が取られていますが、クライアント側は個人とはいえません。ライターに適切な指示を与えることなく、違法コピーのダウンロードを助長したとしてなんらかの罰則が科せられる可能性もあります。
また個人のライターであっても、絶対的に刑事罰が課されないという保障はありません。恣意的な運用があれば、別の理由で逮捕したいけれど、容疑が確定しない間に軽い罪である著作権違反で逮捕するという事例も増えるとの指摘もあります(※これは別件逮捕という捜査手法で違法です。)。
4-3.著作権違反のリテラシーがこれまで以上に求められる
ライターにはこれまで以上の著作権リテラシーが求められます。
ウェブライティングを主にやってきた人であれば、特に画像の取り扱いについては慎重であるという方は多いと思います。Youtubeや音楽の取り扱いについても同様です。しかし、文章に関しては、あいまいな部分が多いのが大多数ではないでしょうか? 引用要件を正しく理解できているかどうか不安がある人も多いはずです。
また、違法コピーなのかを即座に判断する方法は現状はありません。「合法マーク」でもあれば良いですが、それがない場合にはすぐに判断できないため「いつのまにか違法」として問題となる可能性もあります。毎日大量に情報収集を行うという性質上、反復して侵害したとして罰則を科される可能性もあります。警察に「気づかなかった」ことを説明しても、罰則を免れる保障はありません。
また、「公的機関や公式サイトから情報を集めれば大丈夫」と考えるかもしれませんが、これだけで全ての情報が必ず集まると言い切れるのでしょうか? 内容によっては、他の記事などを参考にすることもあるでしょう。
クライアントが「ネット上の情報をまとめてくれれば大丈夫です」と言った場合、安価に引き受けたライターなら、ややこしい公的機関の情報よりもまとまっているウェブ記事の情報を情報源とする人が多いのは誰でにもわかるはずです。
4-4.クライアントのコスト比重が大きくなり、ライター減収につながる?
さらに「仕事を行う上で著作権法は押さえておきたい」と考えている人ほど、憂き目にあうかもしれません。情報収集にはこれまで以上に時間がかかるため、記事制作時間に時間がかかり収入減の可能性があるためです。
文章を依頼するクライアントも、ライターに対ししっかりとした教育が必要となります。その際、間に監修を入れたりすることでコストもかさむ可能性があるのです。こうなると、安価な案件がさらに安価になる可能性もあります。
ライターが「著作権についてしっかりと勉強しています!」といったところでなんの保障もありません。その場合は、著作権法に関する資格や免許があるなどの人でない限り、報酬の良い案件を受けることは難しくなってしまう…なんてことがあるかもしれません。
改正が完全に決まったわけではないため、ここまでの影響を考えるのは早とちりかもしれません。しかし、すでに改正された内容(告訴不要)と実際に審議されている内容(処罰対象・行為の拡大)を合わせると、問題は大きくなります。現段階で問題意識を持っておかなければ、来年には施行されている可能性もあることを指摘しておきます。
あいまいな法規制にはNOの勇気を
罰則や刑罰が課せられる法規制は、「あいまい」ではいけないというのが、私個人の見解です。なぜなら「あいまい」な規制は、私的に運用される危険が必ずつきまとうから。
現状では、違法コピーかどうかを判断する指標を一般人が持ちえないケースが多い・社会生活への影響が大きいという点で、「このケースは違法・違法じゃない」の境目に納得できる明確な根拠がありません。これが“あいまい”であるうちは法で規制するのは早計ではないでしょうか。
法には、将来的な違法行為を抑止する目的もあります。しかし、これはいわば諸刃のつるぎであり憲法上重要な権利である表現の自由を脅かしかねません。
インターネット上の著作物の扱いに関しては、整備が必要であることは間違いないですが、利用者・法整備者どちらにとっても「何がダメなのか」、「本当に必要な規制なのか」が理解できる法律が必要です。過度な規制は思わぬ被害者や悪影響を生みかねないとうことに留意すべきでしょう。
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