新教皇
「さーて、俺の出番ですな」
「元康は前に出るな。作戦を忘れたのか!」
「ええ、とりあえず僕達だけでどうにかしますので、黙って見ていてください」
「面倒ですから仕留めるのが一番ですぞ。修道服を着ている奴等に碌な奴はいませんからな」
三勇教徒と言うだけで生きる価値はありません。
全て滅ぼす勢いで良いと思うのですがな。
「気持ちはわかるけどね。錬や樹だって手加減してる訳じゃないよ。元康くんを本気で行かせると城が壊されそうだから先行してるだけだし」
「面倒なの!」
「うん」
ライバルが光属性のブレスを放って悪魔等を追い払っています。
便利なブレスを持っていますな。
「清浄な風を吹かせますわ! ささ、サクラとコウは手伝うのですわよ」
ユキちゃんが筆頭に合唱魔法を唱えるようですな。婚約者も協力していますぞ。
エクレアは女王の警護、近寄る兵士と鍔迫り合いをしております。
女王も魔法で応戦しております。
「なんか怖い……」
モグラはライバルと助手に引っ付いて震えております。
それでも勇気を振り絞るかのように、ライバルに近寄る悪魔や兵士、三勇教徒を小剣で突きますぞ。
「そうだ。まずは勇気を持って挑め、技術は俺達が教えた通りにして行けば良い。フォローはみんながしてくれる」
錬がモグラに助言していますぞ。
モグラへの攻撃はお義父さんが盾を出して守ったりするので、上手く連携は出来ていますな。
と言うか敵に意識を集中し過ぎる錬の悪い癖が治って来ていますな。
良い傾向ですぞ。
「イーグルピアシングショットⅤ!」
樹が先方にスキルを放って敵を薙ぎ払いましたぞ。
「ここで戦っていたってキリが無いですから、早く行きましょう!」
「そうだな。もう少しで玉座の間、王族の居住区画だ。当初の目的の相手がいる可能性が高い場所を確認する!」
樹を筆頭にして俺達は前へ前へと進んで行き、玉座の間へと辿り着いたのですぞ。
ただ……玉座の間に行くまでの道でお義父さんが窓の外に目を向けました。
「下からはわからなかったけど……なんか変な結界みたいのがない?」
「ん?」
錬と樹、他の面子も同様に城の外の様子を見ました。
確かにおかしな魔力の反応が大きくなっている様な気がしますな。
その枠が城だけではなく、城下町……更に伸びて行っているように見えるのは気の所為では無いと思いますぞ。
「早くこの問題を解決しないと大変な事になりそうだ」
お義父さんの言葉にみんなが頷きました。
そして玉座の間ですぞ。
そこにいたのは……見知らぬ、とてもガタイの良い肉体派の神官っぽい奴と、クズの影武者ですかな?
後、赤黒い豚がおりました。
「ここまで来たか、偽勇者共と女王を騙る売国雌狐め!」
クズの影武者が俺達に向けて吐き捨てました。
何やら紫色のオーラを立ち上らせておりますな。
俺の気の所為で無いのでしたら、肌も紫色で、邪悪っぽいですぞ。
「偽者も何も、お前等にとって都合が悪いから偽者でしかないんだろ?」
「ですね。野望を打ち砕かれて、都合が悪いからと僕達を処分しようとした、この国の連中と全く同じ事を言っていますよ」
「成長が無い……とでも言うべきなのか。まあ、一ヵ月程度じゃ変わり様が無いのも事実だね」
お義父さん達がそれぞれ答えますぞ。
「そんな事よりも気になるのは、城を含めて城下町に何をしたの? 幾らなんでもおかしいと思わないの?」
「悪魔が空を飛び、襲いかかってくるおかしな状況、城の兵士達の状態……お前等、何をした?」
「城下町の人達の挙動もおかしかったですよ。元康さんの話に出てくる洗脳の武器を使っているのかもしれません」
「面倒ですから消し飛ばすのも手ですぞ」
「元康くん、それはもう少し事情を聞いてからでもいいから」
おお! お義父さんが許可を出してくださっていますぞ。
俄然やる気が出ますな。
問答無用では無いのが非常に残念ですぞ。
「ふ……知れたこと。お前等偽勇者共を倒す為に、真の三聖勇者様を召喚する為の儀式を行ったのだ!」
神官っぽい奴……三勇教の新教皇ですかな?
ゴツイ顔を歪めてます。
あれは笑っているのですかな?
が、偉そうに宣言しておりますぞ。
「勇者は既に召喚されているぞ? そんな無意味な事をして、今があるのか」
そうですな。勇者は既に召喚されています。
にもかかわらず勇者召喚に頼るとは……呆れて物も言えませんな。
確か、この世界の連中は何かあると勇者召喚に頼るのでしたかな?
まあ、自国に害を成す勇者は総じて偽者であり、都合が悪いと勇者召喚を行うとエクレアが言っていたのですから分からなくもないですな。
「オルトクレイ……貴方が本当に、私の夫であるのなら私の命令に従いなさい」
「ふん。ワシはお前のような盾を引き連れた女など知らん!」
クズの偽者は割と上手い演技で女王に吐き捨てました。
ですが、本人では無いですな。
あの男の愛を俺は知ってますぞ。
どの様な仕打ちを受けても妻を信じていましたからな。
「そうですか……いえ、茶番はここまでにしましょう。オルトクレイの真似をする事はこの私が許しません。女王の名の元に、貴方を断罪します」
女王が静かに微笑を浮かべながら魔法の詠唱に入ります。
「ふん。そこまでの事が出来るかな?」
クズに化けた影武者は余裕の笑みを浮かべていますな。
あのクズに女王は魔法を打てないとタカをくくっているのでしょう。
「ドライファ・アイシクルニードル!」
ドガっと女王が前に出した手から巨大な氷の棘が連続で射出されました。
「な――」
「例え本物であろうとも、ここまでの狼藉を行ったとしたら、私は攻撃しますよ」
「ですな。過去の周回では氷漬けや氷の檻で閉じ込めていましたからな」
「本物でもやっちゃうんだ……」
「そこに愛はあるのですか? 夫婦なんですよね?」
「母上……」
女王はやる時はやる人物ですぞ。
むしろ愛があるから氷漬けにするんでしょう。きっと。
クズの影武者は紙一重で魔法を避け、新教皇は後ろに隠し持っていた……聖武器のコピー武器を取り出して弾きますぞ。
「その武器は!?」
女王と婚約者、そしてエクレアが驚愕の表情を浮かべました。
懐かしいですな。
しかしあの頃の俺達でも倒せた武器で本当に大丈夫ですかな?
そもそも……。
「その武器はまだあったのですな」
教皇がよく俺達を殺そうと持ち出してくる武器ですぞ。
今の俺達からしたら赤子の手を捻るよりも軽く仕留められますな。
ですが女王やエクレア、婚約者程度では弾かれてしまうのでしょうな。
「ふ……前教皇が大事にしていた物で、偽者によって焼き払われた教会にあった物を回収したのだ! この聖なる武器が残っている事こそ、お前等が偽者であるなによりの証だ! お前等の邪悪な攻撃を退けたのだからな」
「大規模に破壊しただけですから、魔法防御が高いなら耐えられるでしょうな」
あくまで人間なら耐えられない、建物を壊す程度の魔法を放っただけですぞ。
出力的には残っていても不思議はありません。
何やら勝ち誇ってますが、程度が知れますぞ。
「ところで気になっていたのですが、なんでお前等、肌が紫なのですかな?」
「儀式の所為で何か降臨させちゃってるんじゃない? ほら、所々に邪悪そうなパーツが付いてるじゃないか」
「そうですね。何処からどう見ても、貴方達はまともとは言えず、人間とも言えない……メルロマルクの悪しき法に照らし合わせるとしたら、邪悪なる汚れた血を取り込んだ、非国民に該当しますよ」
女王が扇をクズの影武者、新教皇、そして赤黒い豚に向けて宣言します。
「ブー」
赤黒い豚が何やら呆れたように溜息を吐きました。
お前は誰ですぞ!