ビフォーアフター
「なんか……凄く不吉と言うか廃れた感じになっちゃってるね」
酒場の方ではギャハハと下品な笑い声がしますぞ。
覗きこむと、何やら紫色っぽいオーラを立ち上らせた、品の無さそうな連中が酒場内で酒盛りをしております。
と言うよりも元気な連中は、みんなそんな変な色をした何かを立ち上らせておりますぞ。
共通して性格が悪そうですな。
「思い切り治安が低下している、というのが正しそうだな」
「世界の為にとか言いながら人々を先導しておいて、支配した国が荒廃するとはどう言った宗教なんでしょうね?」
「なんて言うか、長く国教をしている割に変な宗教だな」
「おかしいですね……こんな情報は元より、表面上は平静を装っていると聞いたのですが……」
店の看板が傾いている所が多いですぞ。
こう……廃墟寸前な空気があるのは何故でしょうな?
「なんだ!? アレは!」
錬が空に指を向けたので、俺も見ますぞ。
空に邪悪そうな悪魔みたいな生物が飛んでいきました。
なんという事でしょう。
完全に禍々しい城下町にビフォーアフターですな。
一見平和そうですが、差別主義で亜人を苦しめ、何の罪も無い盾の勇者に冤罪を被せる悪しき国の首都が、誰の目から見ても邪悪そうな悪魔が空を飛ぶ治安の悪い国に大変身。
匠のセンスがキラリと鈍く光っておりますぞ。
まさしくこの国にピッタリの改装ですな。
「俺達が来る少し前に何かが起こった……とか?」
「ここまで来るとありえない、なんて言えないぞ」
「ディメンションウェーブの特殊ルートにありますね。国のトップが邪悪な悪魔を召喚し、悪魔に国が占拠されると言うモノが」
「この世界に悪魔っているんだ?」
お義父さんが尋ねると女王とライバルが頷きますぞ。
「はい。ですが滅多に関わってこないと聞きます」
「いるなの」
「亜人種とどう違うのかわかる?」
「カテゴリーは魔物、亜人達とも言葉が通じません」
「魔物なの。魔力で構築された魔法生物なの」
ああ、時々クエストと称した場所で出現するのですな。
ただ、元々の設定だと……波の影響を受けて出現するとかその程度だった覚えがあります。
今までのループで遭遇した事が無いので、滅多に出会うタイプの魔物ではありませんな。
何せ不死系の魔物でさえ行くべき場所に行かないと出会えません。
「竜帝の知識を紐解くと過去に魔王と呼ばれた存在が作ったとか言われてるの」
「それって勇者だった人が作りだした魔法生物って事?」
「なの!」
「世界に組み込まれた特殊な魔物と言う扱いで良いかもしれませんね」
「そんな連中が、さっそくお出ましの様だぞ」
俺達の隠蔽に気付いた悪魔が俺達目掛けて降ってきました。
「僕が仕留めますね。サイレントショットⅤ!」
バスンと樹が俺達に気付いた悪魔の眉間に銃を撃ちました。
それだけで消し飛びましたぞ。
本物の銃より威力がありそうですな。
「隠蔽状態を維持できましたね。とりあえず進んで行きましょう」
「う、うん……にしても……」
お義父さん達は城下町を再度見渡しました。
「ウソみたいに治安が悪いね。倒れてる人が沢山いるし……国として機能以前の問題になってる様な気がする」
「そう、ですね……一体何が起こっているのか調査しましょう」
「うん」
こうして俺達は城下町の通りをまっすぐ歩いて行きました。
その途中で武器屋に差しかかりましたぞ。
「アレ? 閉店してる……」
武器屋の前に行くと、閉店したとの張り紙が掛っていますぞ。
という事は親父さんは無事かもしれませんな。
「閉店したのは……一週間前みたいだね。日付が付いてる」
「治安低下で出て行ったのか? 武器屋の親父さんは」
「どうなんだろう。ただ……俺達と関わった所為で居づらかったのかもしれないね。ノリが良い人だったから出来ればまた何処かで会えたらいいけど……」
そんな感じで殆どの店が閉店していました。
商店街は閑散としてますぞ。
「開けたくても開けられないのか。それとも開ける事も出来ない状況になっているのか……」
「どっちにしても行くしかないですよ」
「国がこんなになるなんて……」
クズを仕留めるとこんな事が起こるとは……果てしないですぞ。
そう思いながら城へと続く城門の所まで来ましな。
操られているのか、ふらふらとした兵士が門を警護していますな。
「面倒なの! 塀を飛び越えるなの!」
「そうだね。まずは城の中に入ってみよう」
「二手や三手に別れるとかはしないのか?」
「何が起こっているかわからないからね。固まって行動して、国の重要拠点をしらみつぶしに探索して、原因を探した方が良いでしょ」
「そうか……しかし……」
「樹のゲーム知識が役に立つかもしれない。何か無い?」
「このクエストが発生した場所は、探索に行く事はあっても攻略……場所を浄化とか出来る所じゃ無くなってしまうんですよ」
「うわ……解決の手段が無い感じか」
「とはいえ、それと確定した訳じゃないですし、何かしらの儀式でこういう現象が起こったのなら儀式の場所を特定すればどうにか出来たりしますよ」
何だかんだでゲーマーとしての密度と言うのですかな?
樹とお義父さんは重度で幅が広い気がしますぞ。
反面、錬は一点突破と言いますか、対戦とLv上げばかりするゲームを好んでいた様な空気がありますからな。
俺ですかな?
基本的にみんなで楽しくと言う名の、豚の尻を追う、ネット用語の直結厨ですぞ!
HAHAHA!
「とりあえず、最初の目的である城の奪還をしよう。王族がいる場所にいるであろう、あの王様の影武者の正体を暴いてから、この事件の原因を特定するんだ」
「わかりましたぞ! では先手必勝! ブリューナクⅩ!」
「わ、ちょっと――」
俺は真正面から城へと続く門をスキルでぶち破りました。
爆発音と共に門は粉々に砕け散り、城を守っていた門番達は吹っ飛んで転がっております。
「あーもう! もう少し考えて行動してくれない?」
「尚文」
お義父さんが俺を叱りつけていたのですが、錬がお義父さんを呼びとめますぞ。
「なに?」
「あれを見ろ」
「え?」
お義父さんは城の庭に転がっている……兵士達を見て目を見開いております。
なんですかな? 全員でお昼寝ですかな?
それにしてはおかしいですな。
「な、なんだろう……」
「死んでいるのとは違いますね」
悪魔が時々降り注ぎますが、俺達は即座に殲滅しますぞ。
勇者の力で圧勝ですな。
兵士共はまだ死んではおりませんが、これでは時間の問題なのではないですかな?
「まるで魂が抜かれたかのようですよ」
「城までの道のりでもそうだったけど、悪魔召喚とかしてるとしたら……生贄にでもされた?」
「わかりませんね。どちらにしても波の時からその予兆はあったのかも……知れません」
どっちにしても兵士を使ってこないなら好都合ですな。
素早く強行突破ですぞ。
「では城内に行くのですぞ!」
「うん!」
お義父さん達と一緒に城内に入ると三勇教徒らしき連中と鉢合わせしました。
「偽者の勇者が来たぞ!」
「殺せ! 正義は我等三勇教にあり!」
などと言いながら、怪しげなオーラを立ち上らせて襲ってきました。
中には悪魔に寄生されたのか奇形化した三勇教徒もいますな。
「エアストシールドⅥ! こういう時には聖属性の攻撃が効きそうだけど……」
お義父さんが前に出て、飛んでくる矢や魔法を一挙に受け止めてますな。
これなら俺達は攻撃する事に専念できますぞ。
「ええ、ですから錬さんと僕は使ってますよ」
錬と樹の武器が光属性のモノに変わっていましたな。
俺も活躍してお義父さんに褒めてもらいますぞ。