AV
お義父さんに見せられたのは月の形をイメージしたと思わしき丸い盾ですぞ。
「月石の盾?」
「そう伝えられております。それを盾として作り出し、様々な恩威が頂ける逸品となっております」
「ファンタジーとかだと月は魔法的な意味合いが強いですからね。そのような品もあるんでしょうね」
樹がお義父さんの持つ盾を観察しながら答えますぞ。
魔女とかのイメージですな。
「俺達には無いのか?」
「ご用意する事は可能ですが、取り寄せとなります」
「運よく盾が在庫としてあったと言う事か。で、尚文、何か良さそうなスキルはあったか?」
「えーっと三日月盾……だってさ」
お義父さんがスキルを唱えるとお義父さんの前方に横から見ると大きな三日月上の光る結界っぽいのが出ましたな。
ただ、前方の一部分だけですぞ。
「あれ? スキルのクールタイムのほかにタイムカウンターが出てる……」
しばらくすると光る結界は若干膨らみ始めました。
「半月盾?」
お義父さんが再度唱えると、大きく半月上の結界に変化致しました。
「これってもしかして時間経過で守護範囲が増えるスキルですかね」
「使い辛そうだな」
「範囲防御としては妥協点かなー……完全に月の満ち欠けを演出してるし」
「流星盾は瞬時に全範囲の防御結界を作りますぞ」
「上手く隕鉄の盾を確保するしかないな」
「さすがに劣化スキルじゃない事を祈りたいね。まだ解放しきれていないからわからないけど、ポイントを割り振ったら化けるかもしれないし」
と、言いながらお義父さんは盾の調整に入りました。
「さて、じゃあ樹は狙撃の練習か?」
「ですね」
武器屋の隣に隣接した射撃場で樹はハンドガンに変化した弓の引き金を引きましたぞ。
バシュッと音を立てて的の真ん中に弾が当たった様ですな。
「感覚としては悪くないと思いますよ。引き絞る時間が無いのは便利ですし」
よそ見しながら的に当てていますぞ。
器用ですな。
「さすがは命中の能力者だね」
「ほんと、樹は戦闘面じゃ完成度が高いよな。今までのスキルも使えるのか?」
「出来るみたいですよ? アローレイン!」
バシュッと高らかに打ち上げた樹の弾が弾けて降り注ぎました。
アローレインというよりは弾丸の雨って感じですな。
「Lvや能力で威力が変わるらしい、使い辛い銃器も弓の勇者の前では万能武器か」
「連射性も高いし、接近戦主体の俺達より一歩も二歩も前に出ているよね」
「魔法よりも便利そうですな」
「そう言って僕を仲間はずれにしない様にお願いしますよ。最後の元康さん。貴方が起こした自然災害クラスの魔法に比べたら可愛い次元ですからね」
なんて話をしながら俺達は装備を整えたのですぞ。
俺達が部屋に戻ると城の兵士が待っておりましたぞ。
「四聖勇者の皆さま、フォーブレイ王がお呼びです。どうか謁見をして頂けないでしょうか?」
「分かってる。直ぐに行くから」
その足で俺達は豚王の呼びだしに応じて謁見の間に向かいましたぞ。
前回来た時と同じくけたたましいファンファーレが鳴り響きましたな。
「ブフフフフ……これはこれは、盾の勇者さん、槍の勇者さん。そして剣の勇者と弓の勇者、昨夜はゆっくり休めましたかな?」
「まあ……そっちは随分とお楽しみだった様ですね」
「ブフフフフ……盾の勇者さんと槍の勇者さんの手土産に満足しておる。中々楽しめているぞ。やはり女は良い……しかもアイツの苦しむ顔を見ながらと言うのは実に良いぞ」
ここで樹がお義父さんに耳打ちしておりますな。
まあ気持ちはわからなくもないですぞ。
「なんで尚文さんと元康さんだけ、さん付け何でしょうね? 後、どうしようもない言動を思い切りしてますよ」
「あはは……」
「ブフフ、槍の勇者さんは同じ時を繰り返していると聞く、何か面白い話は他にないか?」
「フォーブレイ王が楽しめる話題は、これ以上は心当たりが無いですなー」
と言うかサッサと話を進めるのですぞ。
昨日の段階で既に今日やる事は決まっているはずなのですからな。
「ブフフフ、もう少し未来の話を耳にしておいた方が良いと思って聞いたまで。槍の勇者さんからすれば些細な事でもワシからすれば素晴らしい物かもしれん」
どうやら豚王は未来の話に興味がある様ですな。
ここまで露骨に聞かれると、何か話したくなるのが人情ですぞ。
「そうですなー……確か赤豚を連行した時、お義父さんが証拠にフォーブレイ王が処刑をしている映像を撮って来いと言いましたな」
「な、なん……じゃと!?」
ブフフと笑うのを忘れて豚王は玉座の肘かけを強く握っております。
その表情は豚でありながら『驚愕』という文字で彩られていますぞ。
「も、元康くん? 何か踏んじゃいけない物を踏んだ気がするんだけど?」
「そもそも処刑ってなんだ?」
そうなのですかな?
あの時、お義父さんは赤豚を相当警戒していましたから、保険として取った手段ですぞ。
結果的にタクトが一枚上手で赤豚には逃げられていたのですがな。
しかし……この豚王の反応はなんなのですかな?
「それは素晴らしい。ワシと女との関係を保存する。考えはすれど、それを相手に見せるとは、さすがは盾の勇者さんじゃな」
「今の俺じゃないから! 別時空の俺だから!」
お義父さんは必死に否定しますぞ。
「だが、面白い! ワシの行為をいろんな人が目にする……実に素晴らしい!」
豚王は何やら満開の笑みを浮かべておりますぞ。
自分の痴態を他者に見せるのがそんなに良いのですかな?
「いや、出来ればそんなAVは見たくない」
「ああ」
「そうですね」
お義父さん達が反射的に言いました。
豚同士のアニマルビデオなど誰が見たいと思うのですかな?
「おや? 何か言いましたかな? 盾の勇者さん」
ちなみにお義父さん達は普通にHな映像だと思っておりますが、最初の世界のお義父さんはハードグロとおっしゃってました。
というのは言うべきですかな?
まあ後で話題程度に話しておけば良いでしょう。
「いえ、別に。それよりも俺達を呼び出したのはその事なのですか?」
「ブフフフ、それでも良いほどの収穫であったが、残念ながら違う。今回は勇者殿達が請けたくなければ断っても良い案件じゃ」
豚王が手を叩くと別の入り口から女王と婚約者、そしてエクレアが共に姿を現しました。
「四聖勇者様、我が国メルロマルクの暴走、お怒りがあるかと思いますが、どうか話を聞いてくださらないでしょうか?」
「どんな内容なのかをまずは聞いてからでよろしいでしょうか?」
これは茶番ですな。
昨日の段階で打ち合わせをしていたのですぞ。
「依頼者は勇者さん達を召喚した国であるメルロマルクの女王じゃ。現在、理由があって我が国、フォーブレイに亡命しておる。勇者殿達は知っておるか?」
「はい。メルロマルクは現在、三勇教に実質支配されているんですよね?」
「ブフフ、それなら話が早い。勇者さん達には何の恩も無い。断った方が良いと思うが、請けるか?」
「そうですね……」
お義父さんは一度、考える素振りを見せました。
事前に女王とも話してありますが、即答すると不審に思われる可能性があるとかなんとか。
ともあれ、しばらく俺や錬、樹はお義父さんに合わせて考えるフリをしました。
しばらくして、お義父さんが言いますぞ。
「では受けさせてもらいます」
「ええ、三勇教の行動は目に余る物がありますからね」
「それに俺達は別にメルロマルクと敵対したい訳じゃないからな」
などと言った感じで頷きました。
最初から請けるのが決まっていましたからな。
「では詳しい事はそこのメルロマルクの女王に聞いて行動するがよい。ワシは用事を思い出したので、これにて謁見はおしまいとする」
豚王も、何やら話を早めに切り上げたがっている様な気がしますぞ。
足早に謁見を終えて豚王は去っていきました。
兵士や大臣は若干呆れ気味ですが、何やらホッとしていますぞ。
豚王がいると仕事がやり辛いとかですかな?
「作りに行ったな」
「やっぱりAVなのかな?」
「……後で見させられるとかは勘弁してくださいよ、尚文さん」
「なんで俺? 元康くんじゃないの?」
なんて話をしつつ、女王と向かい合いますぞ。
「では詳しい話は――」