──ファミコンを買ってもらえなかった少年は、どうやってゲームの腕を上げたのですか。

 友達の家でやるしかないので、友達を外で遊ばせて、放課後の3時くらいから夕方5時の夕焼けチャイムが鳴るまで私が友達のファミコンで独占プレーするんです。ただ、友達が帰ってくるとコントローラーは取り上げられましたし、対戦するにしても、「マリオブラザーズ」なら私はマリオではなくルイージにさせられる屈辱を味わっていました。

 でも私ほど集中してゲームをしている子はいなかったと思います。

──自由にできないからこその集中力。

 はい。時間制限のある中で集中してやることが訓練になりましたし、動体視力が鍛えられて、格闘ゲームもすごく強くなっていきました。当時、フレームレートは1秒当たり60フレームが主流でしたが、それがどの程度見えるかで、プレーヤーの強さが決まり、キャラクター性能を超えた戦いができるようになるんです。

 格闘ゲームというのは大体グー・チョキ・パーの三すくみの構造で、あるキャラのこの技は、このキャラやこういう動きには強いけど、こっちには弱いといった関係になっています。でも、例えば「ストリートファイター2」では、リュウとケンというキャラが持つ「昇龍拳」という技は、例外的に無敵になる“外れ値”がある。

 基本的には飛んできた相手を落とす技なんですが、相手がぴくりと動いた瞬間に繰り出せれば、誰にでも勝てるんです。

 昇龍拳はコントローラーの「前・下・斜め・パンチ」というコマンド操作で出します。4動作なので理論上、相手が動いてから技を繰り出すまでは最速で4フレームです。さすがにそれには追い付けませんが、相手の挙動を感じて7、8フレーム後に打てれば、たいてい勝てます。これが分かってから85連勝しました。

──ものすごい動体視力ですね(笑)。ゲームの道に進むという選択肢はなかったのですか。

 プレーヤーとして東京ゲームショーに招待されるようにもなって、将来はゲーム会社に就職しようと考えるようにはなっていました。ただ、ゲームはどうしてもお遊びの延長で、大会で優勝しても100万円分のおもちゃ券をもらうくらいで、金券ショップで換金して学費の足しにはしましたが、その程度だったんですよね。

 そもそも、制約条件のある中で頭を使って、人とは違う自分だけの技を編み出して1位になるのは好きだったんです。でも、インターネットの普及で、自分が編み出した技が掲示板などに書き込まれてすぐに広まるようになり、翌日には自分のコピーのような敵と戦うといったことが増えて、どんどんつまらなくなっていきました。しかも、自分の頭で考えているわけじゃない相手が、意外と強い。お金も稼げないし、少しずつゲームから離れるようになりました。

 今、eスポーツが盛り上がっているのを見ると、そっちの道に進んでいたらどうなっていたかなと思うこともあります。オリンピック選手にもなれていたかなと。