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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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第二、第三の

「亜人狩りはこれまでの世界でもあったと言っていただろ。話が違うぞ」

「最初の世界でも、これまでの世界でもあったのは事実ですぞ」

「つまり、その頻度が王を殺した事で、結果的に加速したという事ですか?」

「何処まで腐ってんだ」


 錬が完全に呆れ返っておりますな。

 俺もですぞ。

 なんと言うか、若干悪い方向に進んでいるのがわかりますな。


「早期に帰還しようとした私達の命を狙って度重なる襲撃を受けました。結果、私達は国に戻る事が叶わず、こうして亡命する事になったのです……」

「ああ、だからタクトの妹はメルティちゃんを亡子と呼んだのか」


 亡命した子だから亡子ですな。

 なんと安直なネーミングなんでしょう。

 正確には俺達に変換されてそう聞こえたのでしょうな。


「現在、メルロマルク国内の上層部は私を追い出し、新たな女王を据える事を推進しています。私も最大限抵抗し、フォーブレイからの助力で行動しているのですが、軍部すらも乗っ取られ、こちらから手を出すのが難しく、膠着状態になってしまっているのです」

「つまり女王は出来れば穏便にこの事件を片付けたいと思っている訳ですね」


 お義父さんの言葉に女王は頷きました。


「こういう時って家柄や血筋が重要視されますが、女王以外の血縁者がいるんですか?」

「そりゃあ王族なんだからいるんじゃないか?」


 樹が尋ねた後、錬が当然とばかりに言いました。

 そんな奴、これまでの世界にいましたかな?

 ここで、俺は最初の世界で戦った教皇の言葉を思い出しました。

 確か赤豚が教皇に何か怒鳴った後ですぞ。


『いえいえ、こちらでは既にそう決まっているのですよ。ご安心ください、マルティ王女。貴女の代わりに国を継いでくれる者はこちらで準備しております。全ては神のお導きです』


 確かに、そう言っていたはずですぞ。

 なるほど、つまり赤豚とクズを殺した所為で、三勇教の息が掛った王族の血を継ぐ者を女王に置こうとしている訳ですな。


「ええ、私の親戚筋に三勇教と縁談をした者が……今、オルトクレイに成り済ました者は教皇と共に新たな女王の戴冠式を急いで進めている所なのです。密偵の話によると、公務にはあまり参加せず、まさしく形だけの女王として城内で暮らしているそうです」

「なるほど、元康さんが言っていましたが教会が無くても宗教は生きるという事ですか」

「どんだけ厄介な状況になってんだ」


 樹と錬が呆れたように言いました。

 その通りですな。


「亜人差別が加速しているのも実権を握った三勇教の暴走……」

「時期を見計らって女王交代を図ろうとして、国に流布ですか」

「この調子だと、自分達の派閥だけで国を取り囲もうとしているんじゃないか?」

「待って……」


 お義父さんは錬と樹の質問を遮って女王に尋ねますぞ。


「さっき教皇って言ったよね? 確か元康くんが教会を焼き払った時に死んだと思ったけど、生きていたの?」


 なんと、運の良い奴ですな。

 良い機会ですぞ。

 今度こそぶち殺してやりますかな?


「いいえ」


 おや? 女王は首を横に振りました。

 何がいいえなのですかな?


「勇者様方が教会を焼き払った際、教会に居た三勇教徒共々その時の教皇は亡くなりました。ですが……大司教が教皇に即位しました」


 ……凄いですな。

 俺の脳裏に前々回のお義父さんの言葉がありありと蘇ってきましたぞ。


『で、真面目な話、元康くんはかなり過激な所があるから自分の行動に注意して。間違っても国や宗教を滅ぼせば争いは無くなるとか、そういう考えはやめた方が良い。絶対に失敗する。どんな組織も頭を潰しただけじゃタクトと同じ様に残党が暴れまわるだけだ。それ所か頭が替わるだけで終わっちゃう』


 お義父さんはこの事を懸念して俺に注意していたのですな。

 俺は表面上だけでしかお義父さんの話を聞いていなかったのでしょう。

 クズを殺したら影武者が出て来て暴れ回り、教皇を殺したら次の教皇が出てきました。

 その影響で俺達は敵の行動を読み違えてしまったのです。

 まさしくお義父さんの言う通りになりましたな。


「どうした元康?」

「前々回のお義父さんに注意された事がそのまま起こったので驚いたのですぞ」


 俺はお義父さん達にその時の事を説明しました。


「槍の勇者様は未来から来たと言う話をお聞きしました。そのお陰で勇者様方の結束は強まったとも……」


 女王は静かに答えました。

 エクレアが一礼しておりますな。全然喋らないから忘れてましたぞ。

 婚約者はー……何か言いたげですな。

 お義父さん達は何やら呆れていますな。


「注意されていたなら警戒しろ!」

「まったくです! どうしてそこまで言われたのに安易に暴力を振るうんですか!」

「さすがにここまでやれば大丈夫だと思ったんですぞ!」

「あのねー……元康くん、創作物における歴史の強制力とまでは言わないけど、組織なんて頭を潰したからってすぐに瓦解なんてしないものなんだよ? 仮にだよ? ……元康くんの世界でも同じかわからないけど太平洋を挟んだ某国の大統領を抹殺したからと言って、某国がなくなる?」

「なくなりませんな」


 俺もさすがに覚えていますぞ。

 大統領の暗殺事件など有名な話ですからな。

 世界史の教科書で何度か見た事がありますぞ。


「それと同じ。そりゃあ小さな差異はあるかもしれないけど、頭を潰した程度じゃすぐに別の頭が生えてくるよ」

「むしろ完全に悪い方向に進んでますね」

「そうなります。現在、メルロマルク国は四面楚歌の状況にあります。各国が暴走した我が国を殲滅せんと招集するのも時間の問題。私もどうにかしようとしたのですが……」


 これは反省ですな。

 前回のループで赤豚は殺してもなーんも問題がなかったので、大丈夫だと思っていました。

 赤豚は次があっても殺しますが、クズは生かしておいた方が良いみたいですぞ。

 教皇の方は折りを見てですかな?

 何かお義父さん達に知恵を貸してもらっておいた方が良さそうですな。


「わかりました。それで、俺達はどうしたら良いんでしょうか?」

「本来は鞭の勇者様……いえ、元鞭の勇者に依頼するかと思っていたのですが、勇者様達がフォーブレイに来るとの事で保留にしておりました。理由としては敵対した我が国の波を鎮めた事など、非はこちらにあるのに世界の為に行動している勇者様達なら、話だけでも聞いてくださると考えました」


 お義父さん達が俺をそれとなく睨んでいる気がしますぞ。

 あれですな。迂闊な行動をしてしまった俺への罰ですな。

 甘んじて受けますぞ。


「ガエリオンさんの事がありますが、完全に寄り道ですもんね」

「とは言ってもイミアちゃんを助けられたんだから」

「はぁ……あのタクトにメルロマルクを救わせたら、どうなった事か」


 お義父さん達は婚約者に目を向けますぞ。

 そして錬が言いました。


「女王共々ハーレム入りか?」

「そうなったら僕達がフォーブレイに来ると同時に……」

「よ、良かったね。メ、メルティちゃん!」

「はい……?」


 おや?

 お義父さんは婚約者がタクトのハーレム入りしたかもしれないと不安に思ったのですかな?

 ありえませんな。

 フィーロたんの婚約者に選ばれる様な存在が、あのタクトに靡くなど考えられません。


「お義父さん、婚約者がタクトに惚れる事はきっと無いですぞ」


 そう、お義父さんに浮気する事はあってもタクトに惚れる事は無いでしょうな。


「なんでそう言い切れるの? 実際タクトは強いし、女の子には優しいんでしょ?」

「婚約者は俺と争う程のフィロリアル好き……タクトのハーレムにはフィロリアルが何より嫌いな竜帝とグリフィンがいますからな」

「……何だろう。これまでにないほどの説得力を感じた気がする」

「話によると凄い速度でユキさん達と仲良くなったらしいですからね」

「もしかして元康より凄いのか?」

「え、えっと……?」


 婚約者は首を傾げましたな。

 何を不思議がるのでしょうか。

 フィロリアル様と一瞬にして仲良くなるその心、信用出来る証拠ですぞ。


「メルティ、貴方に……鞭の勇者との縁談があったかもしれない、という話ですよ」


 女王が説明すると婚約者は露骨に嫌な顔をしましたな。


「母上、それは無いです。あの鞭の勇者には、ずっと前から近寄りたくないと思っておりましたから」

「そうですか、一応理由を聞きましょう」

「まず、Lv至上主義な所もそうですが、女性をまるでアクセサリーの様に大量に連れ歩いている所が嫌です。次に人と話す時の態度がウソ臭くて嫌です。更に姉上と過去に友好を育んだと言う点で信用がおけません。最後に、ドラゴンとグリフィンを連れているのは個人の趣味ですが、まるでフィロリアルを下等生物の様に扱っている所が受け入れられません。そして決定的なのですが、行動の一つ一つが生理的に無理です」


 何やら熱がこもった力強い言い分でしたな。

 どんだけ嫌われているのですかな?

 まあタクトの内面を良く分析していたのでしょう。

 きっと細かい所をあげろ、と言われればもっと出てくるのではないですかな?

 そんな婚約者の言動を、お義父さんを初め、女王も驚いた様な表情をして聞いていました。


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