乗っ取り
「うわ! 素で言い切った! 完全に何が問題なのかわかって無い顔だ!」
「尚文さん、元康さんですよ」
「……そうだったね。元康くんはそう言う奴だった」
おや? お義父さんがお姉さんが言っていた様な事を言っていますな。
似た者同士なのかもしれません。
「どうする? 全て元康の所為にでもして言い逃れるか?」
「いや、結果的とは言えやったのは元康くんだけど、俺は言い逃れをしたくないし、全部元康くんの所為にはしたくない」
「そうか……尚文は凄いな」
「ええ、僕だったら元康さんに全て擦りつけますよ」
お義父さんが若干苦笑いしながら婚約者と女王の方に振り向きました。
「えっと……君の姉と父親に関しては……すいません」
「……」
婚約者は婚約者で困った顔をしておりますな。
女王が婚約者の肩に手を乗せますぞ。
「メルティ」
「はい……母上」
婚約者は女王の顔を見た後に静かに頷きましたな。
「昼間の一件、守って頂き……ありがとうございます」
「だ、大事が無くて良かったよ」
「サクラちゃんは元気ですか?」
「うん。怪我の後遺症も無く、ぐっすり眠ってるよ……出来ればサクラちゃん達と仲良くは……無理か」
お義父さんがそう呟くと婚約者は首を横に振りました。
当然ですな。
状況が違うとはいえ、フィーロたんの婚約者に選ばれる程の人物ですぞ。
「勇者様方。私とメルティはオルトクレイを殺害した事に関して、責任を追及する気は無い事をご理解ください」
女王が婚約者の肩に手を乗せたまま抱き寄せて言いましたぞ。
「え? でも……」
「非はメルロマルクにあるのです。本来ならば勇者の召喚はフォーブレイを初めに順番に行うはずだったのに、取り決めを破って召喚をしました」
「ええ、確か元康さんも言っていましたね。他にフォーブレイの方々もそのような話を僕達に確認をしていました」
樹が補足しました。
その通りですぞ。
樹の補足通りこの辺りの話もしましたな。
「挙句、宗教上の理由というだけで盾の勇者であるイワタニ様に冤罪を被せようとし、それを看破した他の勇者様達を殺そうとしたのです。私共の国に大義など微塵も存在せず、殺されたとしても文句は言えないのです」
「だ、だけど……」
「はぁ……尚文さん。あんまり遠慮していても話が進みませんよ。僕達は既に罪を犯してしまった。そこから罪滅ぼしを、世界の為に戦う事で償うしかないんじゃないですか?」
おや? 樹にしてはまともな台詞ですぞ。
前回の樹が嘘の様ですな。
「そう、だね。後は元康くんに念入りに注意するしかない……か」
お義父さんは樹の言葉に頷いてから女王に顔を向けますぞ。
「オルトクレイも本来は人々を波から守り、導く立場にいる勇者であるはずなのに……その知恵を愚かな方向に使い。命を落としました」
女王は泣かない様にと堪えているのですかな?
婚約者は俯いていますぞ。
「出来れば、生きていて欲しいと思うのは私共の勝手。今は世界の為に勇者様方に戦って頂くよう願うしかありません。もしもがあったのならば私がオルトクレイを罰してどうにか命だけは守ったのですが……」
やはり女王は現実的な思考をしているようですな。
クズが死んだのならば悲しいが、悲しんでいる暇は無いと俺達を相手していても恨みの感情を表に出しませんぞ。
まさしく国を仕切る王の器ですな。
しかし……完全に赤豚は忘れ去られてますぞ。
ま、元々赤豚に関しては女王も関心は薄い様ですからな。
婚約者も鬱陶しがっていましたし。
問題を起こした筆頭なのですから、完全に自業自得と割り切っているのでしょう。
「あの、では俺達に何の用があってこうして話の席を?」
「セーアエット嬢からの話もありますが、是非勇者様方に頼みたい事があってこうして話をする席を設けさせてもらいました」
「……わかりました。俺達に出来る事があるなら、出来る限りやらせてもらいます。せめてもの罪滅ぼしに」
と言いながらお義父さんは婚約者に視線を向けますぞ。
「ごめんね……俺達は自分達の身を守るために君の家族を……」
「ううん、わかっています……勇者達は悪い人だから父上や姉上を殺したのではなく、父上と姉上が悪人で勇者達を殺そうして返り討ちにあっただけだって」
婚約者はお義父さんに頭に下げますぞ。
「ですから、お気になさらずに母上のお話をお聞きください」
「わかったよ。じゃあメルティちゃん」
「はい、何でしょうか?」
「良ければで良いんだけど……サクラちゃん達と仲良くしてあげてね。あの子達に罪は無いから、遠慮とかせずに」
「……はい、私からもお願いします」
「うん、ありがとう」
婚約者はそう言うと女王の隣へと移動しましたぞ。
大事な任務が女王から言い渡されるのですな。
「それで女王、エクレールさん、俺達に何か頼みたい事があるんだよね?」
「ああ、イミア嬢に関する問題も大きく関わっている。おそらく明日の昼にはフォーブレイ王からも言い渡されるだろう」
「で、何なの? メルロマルクの話なんだよね?」
「ええ、ではメルロマルクでは何が起こっているのかを勇者様方に説明いたしましょう」
女王はエクレアと視線を合わせてから説明を初めたのですぞ。
「城の方にいた私の派閥の者達の証言をもとに、勇者様方に説明させていただくと……」
俺達がクズと赤豚を仕留めた後、三勇教の教会を焼き払い。エクレアを助けました。
あの後の事ですぞ。
城の兵士達は勇者の恐ろしさを痛感し、多大な犠牲を受けたと思いながら国の指揮をするクズの所在を確認しておりました。
ま、俺が爆殺させましたからな。
跡形も残っていないでしょうな。
教会は一瞬で焼き払われたが、クズの所在さえ分かれば、まだどうにか出来る。
そんな状況だったそうですぞ。
女王がその先を答えてお義父さん達は唖然としていましたぞ。
「あの王様が生きていた!?」
「ありえませんな」
「ええ! 僕達の目の前で攻撃を受けて蒸発をしたんですよ」
「う……思い出すだけで気持ち悪くなってきた」
お義父さん達は各々のリアクションで驚いておりました。
「じゃ、じゃあ王様は、何かしらの方法で生きていたという事?」
お義父さんが一縷の望みとばかりに女王に尋ねますぞ。
ですが、女王は首を横に振りました。
「残念ですが違います」
「え? 生きていたんじゃないの?」
「種明かしをしますと……」
女王が手を上げると豚が一瞬で女王の隣に現れました。
こやつは影の中の豚でしょうな。
「ぶ!」
「ええ、ではメルティに化けてください」
そう言うと豚が何やら服に手を掛けてから一枚脱ぎました。
俺の目には豚にしか見えませんな。
「メ、メルティちゃんが二人!?」
「こ、これは……」
お義父さんと樹がそんな様子を見て驚きの声を発しました。
おかしいですなー……俺には豚にしか見えませんぞ?
「なるほど、影武者という事か」
「はい。影が王に成りすまし、混乱を収めました」
「はあ……あの、それでどうなったんですか……?」
「その影武者は三勇教徒でした」
おや? 俺の脳裏にお義父さんが自らの無実を勝ち取り、クズと赤豚を謝罪させた時の事が思い出されました。
確かクズは女王が来た時になんて言ってましたかな?
お義父さんの味方をする女王へ……。
『ぬ、その女王は偽者じゃ! 捕らえよ!』
でしたかな?
つまり思い通りにいかず、影武者だと思い込んだのですぞ。
これがクズの方で起こったのですな。
「オルトクレイは考えが凝り固まってはいましたが、亜人以外の事に関しては国の事を考えて行動しておりました。特に派閥争いに関しては三勇教に踏み込まれ過ぎない程度には行動していたのです」
「あの、それで王の偽者が出てどうなったんですか?」
「端的に申せば、その後オルトクレイの偽者は私の派閥の貴族を投獄し、国の実権を乗っ取ったのです」
「乗っ取り……」
「良く考えてみれば女王は外交に出ていて、留守を守る王は死んだ。そんな状態じゃ……」
なんと!
あの段階でクズを殺すとこんな弊害があるのですな。
「本来は私がすぐに戻って指揮を取る所だったのですが、三勇教は巧みに立ち回ったのです。表面上は勇者様達に逃げられた事にし、一見して国の治安は変わらないとして見せ、その裏では亜人狩りを推進させました」
「ふむふむ、だからこれまでの世界より物騒なんですな」
「おい! 元康! そんな話、初耳だぞ!?」
ん? 錬に睨まれてますな。
そんな顔をしても怖くないですぞ。