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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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異端審問

「……その件でしょうか? 既にこちらから謝罪を申したはずですが?」


 何が謝罪ですかな?

 今すぐ血祭りに上げても良いんですぞ?


「いやいや、あれはちょっとした諍いでしょう? お互い大人の対応をすれば良いと思ってるよ」

「なるほど、盾の勇者もご理解頂けたようだ。ではどの様な用件でしょうか?」

「その件なんだけど、俺も君の忠告を受けて成長したんだよ」

「……その話は長いですか?」


 お義父さんの話を聞く気が無いのか、タクトはそう言いました。

 なるほどなるほど。どうやら早く死にたい様ですな。


「じゃあ手短に話すよ。戦いは質と量、そして戦略だったね。君は確かにそう言ったよね? 間違いは無い?」

「……? そうですが……」

「つまり敵であれば、明らかに能力の高い者が複数人で弱者を蹂躙するのも、戦略の一部なんだよね?」

「まあ極論すれば、そうなりますね。手を抜いては不必要な被害を出してしまう可能性もありますから」

「なるほど、参考になるよ。だけどさ、それなら一人でこんな所に来ちゃダメじゃないか」

「は? ……ああ、そこの豚と俺を嵌めたって訳か。だが、お前等程度で俺に勝てると思っているのか?」


 おや、正体を現しました。

 というか、俺達に勝てると本気で思っている様ですな。

 群れて尚、俺一人に勝てない分際で。


 どうせ俺達の武器四つを奪えば、隠している意味が無くなる、とでも考えたのでしょう。

 まあ勝てるなら、四聖武器を全て使える神の奇跡、みたいに掲げられますからな。

 豚王など目ではないでしょう。


「うん、勝てると思っているよ」

「ははは、これは滑稽だな。召喚されて一ヵ月程度の勇者が俺に本気で勝てると自惚れているみたいだな」


 HAHAHA。

 タクトではありませんが、内心笑いが止まりませんな。

 一ヵ月所か一週間もあればお前程度片付けられますぞ。


「丁度良いか。前からそこの豚の悪政にはうんざりしていたんだ。本当はもう少し準備する予定だったんだが、良い機会だ。お前等諸共消してやる」


 などとほざいたタクトにお義父さんが言いました。


「偽者の勇者に負ける程、四聖は甘くないよ。例え君のLvが350で、複数の七星武器を持っていて、伝説の武器を奪う能力を持っているとしてもね」

「――っ!?」


 おお、さすがのタクトも驚いていますな。

 俺がお義父さんに教えたLvですぞ。

 最初の世界で自慢していたので、覚えていました。

 七星武器の数は変動するので、今は何個持っていますかな?


 やがてお義父さんが俺に視線を向けました。

 わかっておりますとも。


「愛の狩人が命ずる。眷属器よ。愛の狩人の呼び声に応じ、愚かなる力の束縛を解き、目覚めるのですぞ」


 タクトが腰に下げていた鞭が光りますな。

 それと……隠し持っている七星武器もですぞ。


「な、なんだ!?」

「――お前から眷属の資格を剥奪しますぞ!」


 一つ、二つ、三つ、やはり時期的に三つでしたな。


「な、何が起こっているんだ! ぐ……力が抜けて行く! な、何をしやがった!」


 タクトの手から七星武器が離れて俺達の周りを漂いますぞ。

 これは前にも見た光景ですな。

 まだ先の命令をしておりません。

 今回は所持者があっさりと見つかると良いですな。


「ほう……槍の勇者が言う事は真実であったか」


 ぶふふふ……とこれ幸いとばかりに笑みを浮かべる豚王と状況を察して舌打ちをするタクトですぞ。

 ある意味では豚王の望む展開が実現している訳ですからな、豚王の機嫌が凄く良いですな。


「誰が豚じゃと?」

「くっ……」

「まあ貴様がそういう風に思っているのは知っておったがの」


 ここから異端審問が始まるのですぞ。

 そう、四聖教会だけでなく、勇者を信仰している様々な宗教における禁忌。

 勇者殺しを行ない隠蔽していた勇者を騙る罪人の、ですぞ。


 まあ最初の世界で言っていた様に、複数の七星武器を集めた最強の七星勇者、とでも考えていたのでしょう。

 そこから自分を崇拝する新たな派閥……もう水面下では存在するのですかな?

 どちらにしても、これまで存在していた正統な信仰に反している時点で、追求は避けられないですぞ。


「ぶふふふ、して元鞭の勇者タクト……これはどういう事か説明してもらいたいものじゃな。何故、お前は七星武器を三つも所持しているのじゃ? 鞭以外の二つの武器の所持者をどうしたのかを言うがよい」

「く、くそ! お前等! こい!」


 タクトは取り返さんとばかりに魔物紋か何かを作動させた後、俺達に向かって飛び掛かってきました。

 こうなる事は予測していました。

 だから玉座の間ではなく、神殿にタクトを誘き寄せたのもこれが理由ですぞ。


「お前等の武器を寄越せ!」

「残念だが――」

「ええ、貴方のような方に――」

「あげる武器は無いよ」

「今度はお前が罠を受ける番ですぞ! パラライズランスⅩ!」


 錬は睡眠効果のあるスキル、樹は幻覚効果、お義父さんはエアワンウェイシールドでタクトの拳の方向を強引に変えて転倒させました。

 サクラちゃんの仇、ですぞ!


 とはいえ、殺してはいけません。

 俺はパラライズランスを最大出力で放ちました。

 これでタクトは結構Lvが高いですからな。連続で刺しますぞ。

 一瞬にして四肢と胴体に刺して麻痺状態にしてやりました。


「う!?」


 タクトが昏倒しましたな。

 くくく……作戦通りですぞ。

 これは卑怯ではなく、戦略ですぞ。

 タクト本人が自分を複数人で攻撃させる事に推奨していましたからな。

 最初の世界のお義父さん流に言うなら、やられたらやり返す、ですぞ。

 すぐに周りの魔法使いがタクトに解析の魔法を多重展開しました。


「ブレイクスペルランサーⅩですぞ!」


 更にタクトの魔力を強引に蒸発させて解析の妨害を出来ない様にさせました。

 これでタクトは丸裸の様な状態ですぞ。


「解析完了……Lv335、報告よりも遥かに高いLvです!」


 おや、最初の世界より僅かに低い様ですな。

 まあ最初の世界では、今よりも数ヶ月後に戦う事になる訳ですから、タクトもLvを上げていたのでしょう。

 ですが数ヶ月で15とは……Lvが高いだけとしか言えませんな。


「ぶふふふ、魔物紋の遮断もしておる。勇者達も見てみよ、こやつの仲間は気付いてはおらんぞ」


 その様ですな。

 映像水晶に映っている豚共は待機室で呑気にしてますぞ。

 愛しのタクトが酷い目にあっているにも関わらず。


「では、今すぐコイツをLvリセットの刑に処せ!」

「「「ハッ!」」」


 豚王の命令で兵士たちがタクトを縛り上げてから素早く搬送しようとしていますぞ。

 ですが――


「タクトの仲間が駆けつけてきました!」


 映像水晶にタクトのドラゴンが鬼気迫る表情で突撃して来ているのが映し出されております。

 ふむふむ、魔物紋を遮断しているというのに、ドラゴンにしては勘が鋭いですな。

 ですが丁度良いですぞ。


「野生の勘って奴ですね」

「主の危機を感じて駆けつけるか……」

「結局戦う羽目になっちゃうんだね」

「ガエリオンもなおふみの危機には駆けつけるなの!」

「そうだね。その時はよろしくおねがいするね」


 タクトを縛り上げる問答を後ろで見ていたライバルが言いました。

 ユキちゃんを初め、サクラちゃんに助手やモグラは、豚王が用意した城の控室に留守番をさせております。

 何でもお義父さん曰く、子供が見て良い事では無いからだそうですぞ。

 ライバルは……必要ですし中身に親が混じっていますからな。

 野生の魔物のような物なので問題ないのでしょう。

 実際、タクトが罠に嵌められている光景も黙って見ていました。


「タクト!」


 タクトのドラゴンが変身を解きながら後宮の扉を強行突破してきました。

 やっと来ましたな。

 あまり遅くて欠伸が出るかと思いました。

 しかしこれでこやつ等は王宮内を破壊した罪になる訳ですな。


「貴様等! タクトに何をしている!」


 お義父さんは渋々と言った形で豚王の前に立って盾を向けております。

 一応、豚王はフォーブレイの王ですからな。

 おや? その豚王が何か言う様ですぞ。


「ぶふふふ……知れたこと。鞭の……いや、勇者を僭称し勇者殺しをした国賊に真偽を尋ねたまで……結果は、この通りのようじゃがな」


 豚王が下品に笑っておりますぞ。

 どうしてこうも気持ちが悪いのですかな?


「おのれ! タクトは貴様等如きが触れて良い相手ではないのだぞ!」


 タクトのドラゴンがボコボコと更に膨れ上がって竜帝としての本性を現しましたな。

 その為に広い後宮を用意してもらったのですぞ。

 後から呼んで竜帝だけでも仕留める算段だったのですが、まあ良いでしょう。


「何をしている! お前等!」

「「ブー!」」


 取り巻き共も駆けつけてきましたな。

 とはいえ、さすがに頭数は少ないですぞ。

 グリフィンと豚が混じっているようですな。


「ブフフフフフ……国交問題とは笑わせてくれる。シルドフリーデンの代表よ。そなたらの所の七星勇者は確か……」


 豚王はタクトから剥奪した七星武器に目を向けますぞ。

 あれはシルドフリーデンの七星武器だったのですか。

 それは知りませんでしたな。


「本来の七星勇者はどうなったのか、敢えてここで尋ねようではないか」

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