耳打ち
「援助の件、ちゃーんと聞いた。では活動資金の援助、武具の支給、波における騎士団の手配、更には私兵の雇用も斡旋しようではないか」
「私兵……ですか?」
「多分、仲間の事だよ」
「なるほど。しかし仲間か……」
お義父さんが若干遠い目をしております。
錬も樹もですな。
まあ、国が斡旋した仲間は信用できないですからな。
国の息が掛った物である可能性は非常に高いですぞ。
「仲間は自分達で調達するから良い。それよりもクラスアップ等、サポート面を強化してくれ」
「そうか? ではそのように指示を出すとしよう。世界を救った暁には、永世爵位と領地、更には金銭と女達を与える。どうか世界の為に戦ってくれ」
どうも権力に笠を着た偉そうな発言に感じるのは俺の気の所為では……無いでしょうな。
で、大臣っぽい奴が新たなカンニングペーパーを豚王に見せますぞ。
「四聖勇者には他にも様々な問題をそれぞれに当たってもらいたいのだが、良いか? 相応の報酬も用意しておる」
これはゲーム知識で言う所の国が用意したクエストですな。
何か含みがある様な気がしますが、金銭には繋がるでしょう。
「まあ……波の合間にやると言うのでしたら」
「そうだな。そう言った仕事をすれば、活動をしやすくなるかもしれない」
と、錬と樹は話を続けていますが、まずは豚王に気に入られる事をするのが、活動しやすくなる秘訣ですぞ。
何せ、豚王の機嫌を損ねれば、今の俺達では世界中を敵に回しかねませんからな。
さすがのフォーブレイも愚かな選択はしないとは思いますが、ありえなくはないですぞ。
ま、俺が全てを薙ぎ払って身の程を知らしめる事も出来なくは無いですがな。
お義父さんの手をモグラが握りしめますぞ。
言わなければいけない問題があるとお義父さんも気付いているのでしょう。
お義父さんは前に出て、言いました。
「ここまでが四聖勇者としての話です。ここからは少し特殊な……実は内密にフォーブレイ王へ話さなければならない耳寄りな情報があります」
「ぶふふふ……どんな内容じゃ?」
「なんでもフォーブレイ王はとある物にご執心だと耳にしました。その関係である、とだけ今は答えましょう。ですが、王は忙しい身だと思います。これ以上お時間を取らせるのは忍びないので、気になるのでしたら話しますが、どうですか?」
「ふむ……申してみよ」
「では、その道に詳しい槍の勇者に代わりますね」
と、俺の出番がきました。
なんでも俺が話した方が説得力があるそうですぞ。
外見的な意味で、とかなんとか言われました。
お義父さんが頷きました。
そしてモグラに何度も確認を取る様に視線を向けて、サクラちゃんを見ています。
モグラも察したのか頷いております。
これはつまり、まずはサクラちゃんにされた事を返す、という事でしょうな。
「まずメルロマルクの陰謀を跳ねのけた経緯をどれくらい知っていますかな?」
「ぶふふ、概要は耳にしておる。四聖勇者達が陰謀に気付いて跳ねのけたとな。槍の勇者よ、お前は歴代の勇者の中でも恐ろしい程に強いと耳に聞く、それに何かあるのか?」
「ですぞ。信じられないかもしれませんが、この世界の未来がどうなったかを俺は何度も経験しているのですぞ。俺は……伝説の槍の力で波に負けた未来から来たのです」
俺の言葉にフォーブレイ王は首を傾げています。
まあ、無理もありませんな。
「言っている事はわからなくもない。では何か未来の知識を申してみよ」
ここで信頼を得るにはとお義父さんから色々と話を受けていますぞ。
ですが、その確信へ至る前に、段階を追う必要がありますぞ。
「ですな……まずはフォーブレイ王はメルロマルクの赤豚……」
赤豚の本名はなんでしたかな?
う~ん……思い出せません。
「マルティ第一王女ですよ」
樹が囁きました。
そういえばそんな名前の豚でしたな。
「を側室に入れる事を執心していたのですぞ」
「ぶふふ……よく知っておるな。だが、それは調べればわかる話じゃぞ。それに、話によればワシが娶りたかったメルロマルクの姫は勇者達に殺されたと聞くではないか。それはどういう意味か?」
「未来ではフォーブレイ王にお義父さん……盾の勇者が、俺に頼んでフォーブレイ王に進呈するのですぞ。ですが――」
俺は赤豚が豚王の所に連行された後に、どうなったのかの経緯を掻い摘んで説明しました。
確かタクトの仲間の豚が作ったホムンクルスで偽装するのでしたな。
「つまり偽者をワシが抱くと?」
さすがの豚王も若干不機嫌になりましたな。
「この国のホムンクルスの研究をしている所が暗躍するそうですぞ」
「ふむ……で? そのもしもでワシが信用すると?」
「まさか……こんなどうでもいい情報は前置きですぞ」
そう、お義父さんはあくまでもフォーブレイ王が興味を惹きそうな単語から初めろと言っていたので、このようにしました。
まだまだ話は続きますぞ。
「話の本題はここからですぞ」
「そうですね。きっと王に満足してもらえる内容となるでしょう」
お義父さんが援護してくれました。
そう、信じてもらうには論より証拠。
お義父さんが俺に身を以って教えてくれた、錬と樹の信用を得るための方法と同じ物ですぞ。
と、その前に俺は豚王に近づきます。
すると側近が警戒して前に出ますぞ。
「それ以上近付くな! 例え四聖勇者であろうとも、王に近付く事は許されない!」
「この情報は漏れると台無しになるのですぞ? 俺は内緒話で無い限り、未来で得た面白い情報を教えないのですぞ?」
俺は豚王に向けて挑戦的に言いますぞ。
「フォーブレイ王、俺の話を聞かないと後悔する事になりますが、良いですかな?」
「ぶふふ……先程の話は前置きと言ったな。ほう……それはどんな事じゃ?」
お義父さんの眉が一瞬上がりました。
そして俺が説明する後ろでこんな話をしています。
「あっちもうわかってる……」
「え? そうなんですか?」
「……仮にも王という事なのか?」
「これなら後は茶番だよ。元康くんに任せよう」
よくわかりませんが、俺は続けますぞ。
「そうですなー……前回の……盾の勇者曰く、フォーブレイ王が望む物が大量に手に入るそうですぞ」
ゴクリと大きな音が豚王から聞こえてきましたな。
お義父さん達は若干、気持ち悪そうにしております。
「ほう……」
豚王の周りの者達はタクト派の信者が混じっているのでしょう。
警戒気味ですぞ。
ですが、豚王の性質を俺は知らなくもないですからな。
お義父さん直伝の交渉で俺は近寄ります。
「ですが、王の周りは望んでいないようですな。せっかくの良い話でしたが、別の、王が損をする案にしますぞ」
と言うと豚王は自然の流れの様に答えました。
「ぶふふふ……良いじゃろう」
「王!」
「耳打ちする程度で何を警戒しているのじゃ? それともワシの決定に不服を申すのか?」
そう言われて大臣がうろたえていますな。
さすが豚王、暴君の鑑ですな。
きっとこれまでも似た様な脅しをしていたのでしょう。
「では念の為に潜伏している者がいないか、炙り出しの魔法を唱えますぞ。隠れている者は今すぐでないと死にますぞ?」
俺の言葉に辺りが更に警戒を強めましたが、王直々の護衛部隊は王の背後から姿を現しましたな。
王が手を上げて命じたからでしょう。
「リベレイション・ファイアフラッシャー!」
俺が魔法を唱えると、俺の周りに火柱があがりましたな。
やはり隠れていたのですな。
ちなみに俺は聞かれると困りそうな話をする時はこれを良く唱えております。
お義父さんに未来の詳しい話をする時とかですな。
「ほう……ワシの命じた部隊とは別の者がいたようじゃな」
「は……そのようで……腕に覚えがあったのでしょうが、勇者様の魔法の前に敗れた様です」
「ぶふふ、お前等、察しておったか?」
「気配だけなら。居場所もある程度は……どの派閥の者か調査している最中でした」
護衛部隊の反応に豚王は頷きました。