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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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挙動不審

「わかりましたぞ」

「何が?」

「今すぐ追いかけて奴をぶち殺せばいいのですな? 身の程どころかいろんな意味で万死に値しますぞ」


 サクラちゃんの治療を終えた俺が言い放つと、お義父さんは呆れ気味に額に手を当てますぞ。

 許せない蛮行ですな。

 殺すだけでは足りません。


「はぁ……気持ちはわかるけどさ。元康くん、作戦は?」

「作戦よりもサクラちゃんの怪我に対する報復ですぞ。命を以って償わせるのですぞ!」

「そんな事をしたら騒ぎ所か戦争になるって言ったのは元康くんでしょ!」

「うー……痛かったー」

「ごめんなさい! 私が、私が我慢しなかったばかりに!」


 婚約者はサクラちゃんとお義父さんに対して謝っていますぞ。


「気にしないでいいよ。サクラちゃん達と仲良くしてくれてありがとうね」


 お義父さんは婚約者に笑顔で語りかけました。

 先程の事もあって婚約者は若干頬を赤くしてますぞ。

 またですかな? またお義父さんを狙うのですかな?

 お前にはフィーロたんがいるにも関わらず!

 俺が地団駄を踏んでいると、婚約者はお義父さんを見て……それから我に返って数歩下がりました。


「四聖……」

「どうしたのメルちゃん?」


 サクラちゃんに尋ねられて婚約者はブンブンと頭を振りました。


「……ううん、何でもないわ。それよりもサクラちゃん大丈夫?」

「うん、もう痛いの無いー」

「痕が残っちゃったけど……」

「この程度なら俺が薬と魔法の併用で治せますぞ」

「そっか、それなら良いんだけど……」


 お義父さんは婚約者に身長に合わせて屈み、目線を合わせました。

 何をするのですかな?


「さてと、それじゃあ君を送って行くけど、お家……ご家族の方はどこかな?」


 すると婚約者は首を何度も振り、手を振ります。

 随分と慌てていますな。


「だ、大丈夫、です! すぐそこですから!」

「でもさっきみたいに襲われたら危ないでしょ?」


 お義父さんの言葉に婚約者は諦めたように手を降ろしました。


「えっと、じゃあ、お城まで送ってくれれば大丈夫です。母上が城にいますので」

「わかったよ。じゃあそれまではサクラちゃん達とお話でもしててくれると良いかな?」

「うん! メルちゃん、お話しよー」

「イワタニーかくれんぼの続きはー?」

「それは今度、またメルちゃんと遊んだ時にしてね? コウ」


 お義父さんに頼まれたコウは一瞬だけビクッとしましたが、怖くないと悟り、頷きました。

 そうですぞ。お義父さんが怒っているとしたら、タクトにだけですぞ。


「わかったー」

「残念ですわ。私を見つけられなくて困るメルを驚かす予定でしたのに」

「あはは、みんな元気だね。じゃあ行こうか。メルちゃんを送り届けようね」

「「「はーい」」」


 ユキちゃん達が元気良く頷いてからサクラちゃんは婚約者を背に乗せて歩き始めました。

 その仲睦まじさは嫉妬してしまう程ですぞ。

 悔しいですが、やはり婚約者は俺のライバルという事でしょう。


「まったく……騒ぎを起こすな、なの!」

「そうそう」

「見ていただけのガエリオンちゃん達も同罪だと思うけどなー……」

「待ってほしいですぞ。ユキちゃん達は俺に出掛けて良いか聞いたのですぞ! 俺がその事を忘れた所為で、悪いのは全て俺なのですぞ!」


 ライバルを庇うのは不服ですが、ユキちゃん達は悪くないのですぞ。

 そう……何もかも、悪いのは俺なのです。


「わかったから。サクラちゃんが怪我をしたのは大変だったけど、取り返しのつかない事にならなくて本当によかったよ」


 中庭から城までの道は少しありますぞ。

 その10分の間にお義父さんは俺の隣に立って耳打ちをしました。


「元康くんの話で、タクトとは話し合いが出来ないって前回の俺が言ってたそうだけど、確かにそうだね。アレは人の話を聞く類じゃないと思う」


 なんと、お義父さんはそんなにも人を見る目があるのですな。

 この元康、大発見ですぞ。


「俺もいろんな人と現実では話をしてたけど、勘と言うのかな? アレは自分のやりたい事しかやらないタイプだ。しかもその為には人を利用する事も惜しまないだろうね」


 何だかんだでお義父さんはネットゲーム内じゃ広い顔を持っていたそうですからな。

 交渉事も得意ですし、俺とは別に現実の友達も多かったのではないですかな?

 イベント等も自発的にしていたとか言っていた覚えがありますぞ。

 そんな人だからこそ、人を見る目があるのでしょう。


「しかも、さっきの会話で謝罪と呼べない謝り方をした揚句、こっちが悪い……でしょ? 状況からして怪我をしてるのはサクラちゃんだけな訳だし。そもそもここは何処?」


 確かに、ここは王族が暮らす場所。

 こんな場所で刃傷を起こせば処分されてもおかしくないですぞ。

 それなのに自分は悪くないとでも言う様な態度ですからな。

 きっと自分の方が偉いとでも思っていたのでしょう。

 と考えているとお義父さんは婚約者の方を向きますぞ。


「ここじゃあ、私闘の許可なんてされるの? ドラゴンの縄張りとかそんな予測、注意事項はある?」


 お義父さんの言葉に婚約者は首を横に振りました。

 そんな注意事項あったら、嫌ですぞ。

 一見さんお断りですかな?


「いいえ……そんな法律はなかったかと……」

「つまり両者ともに放し飼いのペットが勝手に争った。ならば両成敗であるはずなのに俺達の方に非がある様な言い回しまでしたんだ。次にしてくる手も話を聞いていたらわかるよ」


 俺達やユキちゃん達には隠しているみたいですが、お義父さんは不機嫌そうですな。

 完全にスイッチが入っていますぞ。

 おお……なんとも背筋がぞくぞくして頼もしく見えますな。


「私闘に関しても禁止されていますが、抗議すれば権力の低い私の方が追い詰められてしまうでしょう……」

「そっか、あっちが何かしてきたら、俺の方でなんとかしておくよ」

「……は、はい。ありがとうございます」


 おや? 婚約者が挙動不審ですな。

 落ち着かない様子ですぞ。

 お義父さんに助けられたというのに、反応が鈍いですな。


「とりあえず……元康くんの話を聞いてやり過ぎかもとは思ったけど、ね。俺もその話に立ち合わせてもらうとするよ」


 実際には笑っていないのに、俺にはお義父さんが不敵に笑っているように見えました。



 婚約者は城の中、入口の受付の所まで来るとサクラちゃんから降りて手を振っておりました。


「ありがとうございましたー。またの機会に会いましょー」


 元気ですな。

 その足で、城の中をトコトコと歩いて割とすぐに見えなくなりましたな。

 俺達はその足で馬車に戻り、先程の出来事を錬と樹に話しました。


「……」

「錬さん、どこへ行くんですか?」


 無言で立ち上がった錬がどこかへ行こうとしていますな。

 それを樹が止めています。


「どこへ行く? そんなの決まっているだろ。その二匹を仕留めに行くんだ」

「落ち着いてください。元康さんが混ざってますよ」

「これが落ち着いていられるか! サクラが怪我をさせられたんだぞ!」


 おお……錬がサクラちゃんの為に怒っていますぞ。

 成長しましたな。ほろりとした気分なります。


「そういえば以前のループの錬はLvが全てだとか言っていましたな」


 それを思えば相当に大人になったと言えるでしょう。

 おや? ピクリと錬の動きが止まりましたな。

 そして静かな声で言いました。


「……すまない。ちょっと頭に血が昇った。しかし……とんでもない事が起こっていたんだな」

「ええ……やはり僕達も一緒に行くべきでしたね」

「そうでもないよ。元康くんがその場にいたら大変な事になっていた訳だし、錬と樹がいたらもっと騒ぎが大きくなっていたと思う」

「だが、サクラが怪我をしたんだろ?」

「……うん、だから――」


 お義父さんの笑顔に錬と樹は気付いてハッとしております。

 コウのおしおきを思い出しているのかもしれませんな。


「少しでも話し合いをする猶予を与えようかとは思ったけど、それを飛ばして報いを受けてもらおうじゃないか。言い訳や行動次第じゃ生き残れるかもしれないし」

「あわわ……」

「奴は怒らせちゃいけない奴を怒らせた。元康が先に来ていた方が楽だったかもな……一撃で死ぬと言う意味で」


 樹が言葉を無くし、錬は嘆くように呟きましたぞ。

 俺はお義父さんの気配にメロメロですぞ。


「ギャー!」


 コウはお義父さんの殺気に気付いて震えておりますな。

 安心して良いですぞ。

 怒っているのはタクトにであって、コウにではないのですからな。

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