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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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質、量、戦略

「みんな、大丈夫? ってサクラちゃん酷い傷だ!」


 お義父さんが急いでサクラちゃんに駆け寄って手当てを始めたのだとか。

 振り返り、お義父さんは相手を睨みつけております。

 下手に動けば容赦しないと視線で発したのでしょう。

 相手の竜帝やグリフィン、クソガキは、お義父さんの睨みを受けて止まったそうです。

 当然ですな。むしろ無謀にも突撃してくる様なら、そいつはアホですぞ。


「おやおや、これは申し訳ない」

「お兄ちゃん!」

「タ、タクト!」

「たくと」


 クソガキと竜帝とグリフィンが言葉を失っておりました。

 そう、タクトがゆっくりとクソガキの後方から現れて相対するお義父さん達の間に歩いて来たそうです。


「これはこれは、俺の仲間が失礼な事をしました」

「タクト! そこにいるのは竜帝とフィロリアルじゃ! はよう処分せよ!」


 タクトは竜帝を軽く見つめますぞ。

 すると竜帝とグリフィンは大人しくなり、次にクソガキの方へと歩いて行きました。


「お兄ちゃ~ん! あいつ等が私を苛めるの!」

「ナナ、一体何があったのかな?」

「あの子がフィロリアルを使って私に襲い掛かって来たの!」

「嘘よ! 決闘と称して合意も無く攻撃してきたのはそっちだわ! しかも後ろの二人が、私達が有利になった途端に不意打ちをしてきたのよ!」


 婚約者がクソガキを指差して怒鳴りました。


「お兄ちゃん、信じて。私は嘘なんて言ってないわ」


 ですがクソガキは首を振り、嘘泣きまでしながらタクトを見つめていたとか。

 反吐が出ますな。

 タクトの方もやれやれと溜め息をしつつ、クソガキの頭を撫でます。

 信じたとも言える反応ではあると、その時のお義父さんは感じた様ですな。


「どっちが正しいかはおいておいて、こんな場所で争うのはどうかと思うな。ナナ、お前は立派なレディになるんだろ?」

「でも……私は悪くないわ」


 クソガキを嗜めつつ、タクトはお義父さん達を舐める様な視線で見てきたそうですな。


「タクト! 奴はフィロリアルだ。我は我慢せぬぞ!」


 そして騒ぎを耳にして人が集まって来るのを察してウソ臭い笑みを浮かべ、ボソボソとタクトは配下のドラゴンとグリフィンに呟いて大人しくさせました。


「ふむ……タクトが言うのなら……」

「うん」

「さてと」


 そうしてタクトはお義父さんの方に顔を向けたそうです。

 お義父さんは俺が言っていた相手ですから、警戒を解かなかったそうですぞ。

 とはいえ、それだけではなく、これまでの状況から解く理由がなかったみたいですがな。


「どうも今回の騒ぎ、妹のナナの問答の真偽は些かわからないけれど、フィロリアルが怪我をしたのはこっちに非があったようだ」


 両者の状況からわかり切っているにも関わらず、妹と配下の横やりを別問題で片付けようとしているのが見え見えですな。

 そんな事が罷り通ると思っていたのでしょうか?

 あるいは、お義父さんからから武器を奪う算段でも立てていたのでしょうな。


「すいませんね。少々頭に血が上っているようでして……俺の妹に限って自分から攻撃した、とは思い難いのは先に念を押しておきます」

「それが人に謝る態度? 俺達の仲間に怪我を負わせておいて」


 不快そうに答えるお義父さんをタクトは品定めしているように見てきたそうですな。

 そこにライバルがお義父さんに言ったそうです。


「ナオフミ、あいつ等卑怯者なの!」

「何があったのかな?」

「負けそうになったら横から攻撃してきたり、怪我人を複数人でトドメを刺そうとしてたなの!」

「と、言っているけど、どういう事ですか?」


 ライバルの話を聞き、お義父さんがタクトに敵意を込めて尋ねたそうです。


「俺が配下に妹を守れと命じた手前、このような結果になってしまったようですね。ですがそちらのフィロリアルも躾がなっていないのではないですか? ドラゴンがいるにも関わらず放し飼いなどしたらこうなります」

「……責任転嫁しているように聞こえるけど?」

「まさか、責任転嫁なんて……常識の話ですよ。強いドラゴンがいるかもしれない場所でフィロリアルの放し飼いは自業自得だと言ったまでですよ」

「……その言葉、そのまま返すよ。ドラゴンを放し飼いにしているのは君も同じでしょ。立場が逆だったら君は同じ事が言えるのか?」


 お義父さんはスイッチが入ったように相手を睨みつけたそうですぞ。

 ライバルがうっとりとした様子で婚約者の話に補足をしていました。


「なおふみが怒ってるなの」

「……うん」

「……頼もしいなの!」

「そうだね」


 ライバルの言葉に助手とモグラが同意しましたぞ。


「貴方はとても清い方の様だ。ですが、戦いとは質と量、そして戦略ですよ。正々堂々などと言っていると勝てる戦いも勝てなくなりますよ?」

「……なるほど、参考にさせてもらうよ。その言葉、ちゃんと覚えておくよ」


 と、お義父さんは呆れ果てたらしく、会話を諦めたそうですぞ。


「ええ、覚えておいた方が良いですよ。戦いの上で大事な事ですからね」

「そうよそうよ! それにさっきから何なの! お兄ちゃんは七星勇者っていう偉い人なのにその態度――」


 クソガキが騒いでいるのをタクトは手で遮ったそうですぞ。

 七星勇者が偉い?

 ならば俺達四聖勇者はもっと偉いですぞ。


「さて、見た所、今日到着したと言われる四聖、盾の勇者様と見受けられますが?」

「え?」


 クソガキもさすがに相手の地位に関して理解した様ですぞ。

 そう、世界基準で四聖と七星、どちらが信仰、地位を得るかと言うと四聖の方が上なのですぞ。

 つまりタクトが七星として有名だとしても、お義父さんは四聖という段階で既に上位。


「ああ……四聖、盾の勇者をしている岩谷尚文だ」

「なるほど、道理でこの世界の常識を知らないはずだ」


 つまりお義父さんが異世界から召喚された存在で、常識に疎い為にサクラちゃんが怪我をしたのは自業自得と言いたいのですな。

 全て常識で片付けるとは……俺がこの場にいたらその場でぶち殺してやる所ですぞ!


「と、言ってもさすがにこちらにも非があるでしょう……」


 タクトはツカツカとお義父さんの元へ近寄ろうとして、お義父さんとライバルは臨戦態勢を取ったそうですぞ。

 聖武器を奪う能力については説明していたので、お義父さんは言いました。


「近寄るな」

「なの!」

「そちらの怪我をしたフィロリアルの治療をしてやろうと思っているのですが?」


 敬語で隠そうとしていますが、上から目線がバレバレですな。

 何が治療してやろうですかな?


「お兄ちゃん……」


 権力に屈しない、花を持たせているとばかりにクソガキが感動しているように両手を合わせていたとかなんとか。

 意味がわかりませんな。


「悪いけどお断りをするよ。俺達だって傷の治療は出来る」


 お義父さんはサクラちゃんに手を添えて魔法の詠唱をし始めたそうですぞ。


「これは失敬」


 ワザとらしく一礼してタクトは下がりました。

 ちなみに騒ぎを聞きつけ人も大分増えてきて、タクト自身は裏で攻撃とか出来ないと察したと俺は分析しますぞ。


「今夜、謝罪の為に祝いの席に招待を致しますよ。この国、この世界での注意事項もその時に非礼のお詫びにお教えしますから是非とも来てください」


 お義父さんはタクトを睨み続けていたそうです。

 タクトの方はやれやれと大げさなジェスチャーをしてから背を向けてクソガキと配下の二匹を連れて足早に立ち去ったそうですな。


 但し、お義父さんには聞こえたそうですぞ。

 モグラを一瞥してからタクトが『趣味が悪い』と小声で呟いていたのを。

 言われた本人は俯いてしまったそうですぞ。

 それとほぼ同時に俺が駆けつけたのだとか。

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