TALK SESSION 01 記者が語る、これからの使命と役割

辻 隆史(編集局政治部[2008年入社]) × 桃井 裕理(編集局政治部兼NAR編集部[1995年入社])

世界が激動する今、日本はどこに向かうのか。政治の裏側に迫り、真実を解き明かす。

日経新聞に経済ニュースのイメージを強く持つ読者が多いかもしれないが、経済以外の分野も日経記者のフィールドだ。なかでも日経の政治部は「オバマ氏 広島訪問へ 米国大統領初」など数多くのスクープを世に送り出してきた。今回、デスクとして政治面の指揮を執る桃井と、政治の最前線で政策決定の動向を追いかける辻が紙面づくりの根幹に息づく日本経済新聞社の強み、その先にある社会的使命について議論。メディアのデジタル化、グローバル化が進むなか、新聞はどのような挑戦をすべきか。日経の政治報道の原点、そして未来について大いに語った。

日経の政治報道における姿勢や大切にしている視点について聞かせてください。

桃井

 日経は社是で「中正公平、わが国民生活の基礎たる経済の平和的民主的発展を期す」を掲げています。その意思は政治部でも貫かれ、日々の紙面づくりにおいても思想として偏ることなく、そのニュースが経済や生活にどんな影響を及ぼすのかという視点を大切にしています。日経も政治家のスキャンダルや権力闘争などを取り上げますが、いたずらに面白おかしくしたり、誇張したりはしません。重要なのは政策や意思決定のプロセスであり、それが日本に与える影響です。権力闘争の表層だけに焦点をあてる政治記事は意味がない、と私は考えています。

辻

 政府が進める政策は本当に公平なのか。経済の面から見て望ましい施策なのか。「政府が言っているから」「野党が言っているから」という考えは一切捨てて、一つひとつの問題をしっかりと冷静に報道していく。一見すると軸足が見えにくい印象を持たれるかもしれませんが、私は「中正公平」こそが日経のスタンスであり、日経の個性だと考えています。日々の取材のなかでも「経済という観点から見ると、何がよりよい政策なのか」「公平性という視点で見たとき、今の政治や政策はどうなのか」ということを忘れないようにしています。記事を書くときも「読者にとって必要な情報とは何か」を常に考えながら執筆するようにしています。

お二人にとって、仕事のやりがいは何ですか?

桃井

 デスクは本社で現場の記者と電話やメールで頻繁にコミュニケーションを取り合い、編集作業をします。どんなテーマを、どのような切り口で伝えていくのか。記者と打ち合わせしながら、紙面でどのニュースを大きく取り上げるのか、どんな企画を掲載するのかなどを考えるのが私の仕事です。日々、多くのニュースが起きているなか、その瞬間、瞬間で「何が重要で、 何を一番早く読者に伝えるべきか」を判断することは決して簡単なことではありません。当然、私も迷うこともありますし、間違えることもあります。でも、自分が「これだ」と思った記事に紙面を割き、大きな反響を得られればうれしいですし、日経が問題提起したことでそのニュースに対する注目度が高まったときにはやりがいを感じます。

辻

 私は官房長官の番記者として、密着取材を続けています。政府の方向性は総理と官房長官が決めているため、外交であれ経済であれ、彼らの発言が大きなニュースにつながることは珍しくありません。一瞬たりとも気を抜けないという緊張感はありますが、政治の最前線を記者として見つめ、報じていくことには大きなやりがいを感じています。

桃井

 どのニュースを紙面で一番大きく扱うのかという点では、デスクと記者は時にはぶつかり合うこともありますね。

辻

 そうですね。当然、記者は自分が追っている事実に価値を感じていますし、「自分がつかんだ大きなニュースを一番に伝えるべきだ」という自負もありますから。

桃井

 現場の記者の熱意は受け止めつつも、デスクとして主張すべきところは主張していきます。日経新聞全体で考えたときの記事のバランスを大切にしながら、「世の中に対する影響度はどうか」「今すぐに掲載すべき内容なのか」とできるだけ慎重に考えながら日々の紙面を作っています。

政治ニュースを扱ううえでの難しさとは何でしょう。

辻

 政治報道と一口に言っても、実は記事として結実するまでに多くの困難があります。政府の発表は表面的な内容が多く、その裏にある政治的背景や権力闘争に関する部分はベールに包まれています。たとえば、2015年に成立した安全保障関連法案。そのなかの集団的自衛権を認める改正案を、政府は「平和安全法制整備法案」と表現していました。字面通りにとらえれば「平和と安全を守る法制だ」と受けとめることもできます。しかし、その裏にある本音、リスクはなかなか見えてこない。「本当に平和のためなのか」「安全を守ることができるのか」と質問をぶつけていかなければ、政策の本質というものを浮き彫りにすることはできない。情報を鵜呑みにすることなく、問題意識を持って追求する。それが記者に必要なスタンスではないでしょうか。

桃井

 辻記者が言う通り、政治家が本音を率直に話すことはほとんどない。ときには本人ではなく、周囲の人から事実を探る必要がある。首相の本音が見えてこない場合、例えば首相秘書官、首相と会合を持つ政治家、食事をともにした有識者などから話を聞き、首相の考えに迫るときもあります。

辻

 政策の裏にある狙いを浮き彫りにするには、やはり様々な角度から物事を見ることが必要ですね。一人で抱え込むのではなく、同僚の記者と議論を重ねることも重要です。私自身、自民党や野党の担当記者、デスクと意見交換しながら「本当の狙いはここにあるのではないか」と検討するようにしています。

桃井

 取材はパズルに似た一面を持っていると思います。例えば「首相がいつ衆院解散に踏み切るのか」という取材テーマがあったとします。私たち政治部は首相官邸や与党、野党、省庁の幹部を取材し、それぞれの考え方やものの見方を取ってくる。そうした取材を通じて、特異な動きがないかを探っていく。一つひとつの取材結果を組み立てて、「衆院解散」という巨大なパズルを完成させていくのです。パズルの全体像を見ながら、政治部みんなで「政局がいったいどこに向かっているのか」を議論する。特に日経の政治部は記者同士の仲間意識が強く、記者同士がつながることで生まれる“真実を解き明かす力”は日経の大きな強みだと思います。

日経の政治報道の今後について考えを聞かせてください。

辻

 私たちはいま「政治面改革」に取り組んでいるところです。これまではインタビュー記事を大きく取り扱うことは少なかったのですが、最近は旬な人、話題の人に心の内を語ってもらってインタビュー記事を掲載するようになりました。TPPを例に挙げると、これまでは政治家の発言を整理して掲載するだけでしたが、農家などの生産者や専門家に議論してもらい、その結果を「紙面討論会」として掲載するなど、新聞社のなかでも新しい試みにチャレンジしています。

桃井

 日経の主な購読者はビジネスパーソンですが、多忙な方であればあるほど政治面は後回しにされる可能性がある。そうした人たちに興味を持って読んでもらうためには工夫が必要ですからね。

辻

 インターネット上では、無料のニュースサイトが増えています。今、私たちには大きな変化が求められています。

桃井

 特に既存のマスメディアは何を強みとしていくのか、無料のニュースサイトには伝えられない情報をどう伝えるのか。そうしたことが問われています。すでに日経でもネット中継がスタートしていますが、日経電子版との連動、SNSから紙面に誘導するなどの新たなアプローチにも力を入れていく必要があります。

辻

 私は日経の政治部にはデジタル時代に打ち勝つ競争力があると考えていますが、デスクの立場から見ていかがでしょうか。

桃井

 私たちは永田町という閉鎖的な世界により近づきやすい立場にあります。それは大きな強みになります。その立場を生かして、裏に隠れた本音や真実を引き出していくことができれば、日本だけでなく、世界中の人に選ばれるコンテンツを生み出せるはずです。

辻

 世界という観点から見れば、私はもっとグローバルな視点で記事を書いていきたいと考えています。世界の動向と比べて日本の政治はどうなのか、世界の経済政策と比べて日本の経済政策はどうなのか。読者のニーズも高まっていると思いますし、日経の強みを生かすことができると思います。

桃井

 日経は海外に37ヶ所の取材拠点があり、フィナンシャル・タイムズが日経グループの一員となったことでグローバルな存在感も増しています。

辻

 世界が大きく動き出した今、我々の責任も大きくなっています。

桃井

 2016年は英国が欧州連合からの離脱を選択し、米国でトランプ氏が大統領選に勝利するなど、世界に大きな変化が生まれました。世間では、グローバル資本主義が格差を生んで、その不満が民主主義を毀損したとも言われています。20世紀はグローバル資本主義と民主主義を両輪に発展してきた。この2つの両輪のバランスが崩れた今、世界がどのような方向に向かっていくのかは誰にも分かりません。私たちがその行く末を見極め、世の中に発信していくことは意味がありますし、かつてないほどに我々政治部の社会的責任は大きくなっていると思います。

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