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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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Lv至上主義

 婚約者は女王から自由時間をもらって、フィロリアル舎にいるフィロリアル達にご飯を与えに行こうと俺達が駐車している馬車を通りかかったそうですぞ。


「あははーこっちこっちー!」

「待ってー」

「早く追いついてくるのですわー」


 そこで遊んでいるサクラちゃん達に目が行き、声を掛けたのだそうです。

 当然ですな。

 清く気高く美しいフィロリアル様を一目映せば、そうなるのが自然の摂理ですぞ。


「わー……もしかしてフィロリアル? 言葉を喋ってる!」

「んー? 誰ー?」


 婚約者はその巧みな手腕でサクラちゃん達とすぐに仲良くなったそうですな。

 遭遇と同時に仲良くなるとは……さすがはフィーロたんの婚約者という事でしょう。


「待て待てー」


 最初はサクラちゃん達と追いかけっこをしていたのですが、何分……馬車の近くは狭いですからな。

 本格的に遊びたくなったサクラちゃん達は馬車にいる俺に声を掛けてから中庭で遊ぼうと決めたそうですぞ。

 婚約者は自己紹介で愛称のメルと名乗ったそうですな。

 だからコウもメーとか適当な呼び名になったのですぞ。


 そして中庭に範囲を決めてからかくれんぼをする事にしたのだとか。

 クジでサクラちゃんが鬼になり、みんなで隠れたそうですぞ。

 サクラちゃんは数を数え終わると迷路のような中庭を歩き回り、婚約者が茂みに隠れているのを見つけたそうです。


「メルちゃんみーっけ」

「見つかっちゃったー」


 てへっと婚約者は茂みから出てきました。

 どう考えても手加減してますぞ。


「じゃあ次はユキとコウを探すよ」

「うん」


 そのままユキちゃんとコウを探しに行こうとした矢先。


「あら? そこにいるのはボウコじゃないの?」


 声に婚約者は無表情で振り返ったそうですぞ。

 そこにいたのは婚約者と近い背格好の女の子だったそうですな。

 サクラちゃん曰く、金髪ツインテールの……どうでも良いですな、そんな奴。


 きっと醜い小豚ですぞ。

 ……見ず知らずの者を豚と呼ぶのは失礼ですな。

 仮にクソガキという事にしておきましょう。


 ともかくクソガキが高圧的な態度で婚約者とサクラちゃんに近付いてきたそうですぞ。


 しかし気になる点があります。

 『ボウコ』とはなんですかな?

 どう読むのか聞くと『亡子』と読むそうですぞ。

 何かの造語なのでしょうが、意味がわかりませんな。


「アンタみたいな身の程知らずの愚かな血筋の亡子が何をへらへらとしているのよ」

「……」


 婚約者はただ静かに……完全に冷めた目でその相手を見つめていました。

 軽蔑している訳でもなく、かといって興味も無い。

 無関心を装うと、それはそれで面倒なので、静かに相手の言いたい放題を聞いているだけ、という大人な対応をしていたらしいですぞ。


 婚約者は赤豚の妹ですからな。

 今まで姉から受けてきた仕打ち故に慣れているのでしょう。

 とはいえ、何だかんだでフォーブレイの中庭ですから、兵士達や城内の者達が時々通りかかります。

 子供のじゃれあいと最初は思って遠くから見ていたらしいですぞ。


「だれー?」


 サクラちゃんが失礼なクソガキを指差して婚約者に尋ねたそうです。


「知らなくて良いのよサクラちゃん。えっと……あの人は雲の上な様に偉い人……だそうだから。ごめんあそばせ、私、この子とその友達のお相手に忙しいので失礼しますわ」


 軽く会釈してから立ち去ろうとする婚約者に、クソガキは不快感を全開に出しながら一歩踏み出したそうですぞ。


「あら? そんな下賤な田舎者を相手にしているとは、亡子は国の事を考えずに愚かな子なのね」


 サラッと流して立ち去ろうとした婚約者とは反対に、サクラちゃんが不快そうに振り返って言い返したそうですぞ。


「むー! メルちゃんの悪口を言うな!」

「サクラちゃん!」


 婚約者はサクラちゃんを制止させて立ち去ろうとしたのですが、クソガキはこれ幸いとばかりに余裕の笑みを浮かべたそうですぞ。

 聞いているだけでイライラしてきますな。

 サクラちゃんは友人想いの良い子なのですぞ。


「へー……Lv40、思ったよりはあるのね」


 そしてサクラちゃんに解析の魔法を唱えたそうです。


「その程度で私に逆らうと言うの? 私のLvは92なのよ! アンタ達みたいな低Lvの連中なんて容易く返り討ちにしてやるんだから!」

「そんなんじゃないもん! メルちゃんの悪口は許さないんだもん!」

「あらあら、身の程知らずな田舎娘が何故こんな所にいるのかしら?」


 ここで婚約者も不愉快そうに眉を跳ね、異議を唱えました。


「人のLvを勝手に見るのが偉い方のする事ですか? まるで覗きを働くいやしい者の様です」

「なんですって!?」

「違いますか? 他者の承諾も無くLvを覗き見る行為は褒められたものではありません。家柄に恥じない行為をしなければ、高貴な者などと自慢出来なくなりますよ?」

「ふんだ……低Lvのゴミクズのような者と一緒に居ては碌な事になりませんわよ」


 その言葉にサクラちゃんが納得の言った様な表情を浮かべました。


「メルちゃん、サクラ知ってるよ」

「な、なに? サクラちゃん」

「ナオフミ達が言ってたの。この世界には良い人も沢山いるけど、悪い人も沢山いるから気を付けなきゃいけないんだって。だけど特に気を付けなきゃいけないのは、外見や立場で他者を貶めたり、バカにしようとする人なんだってー」


 ふむふむ、そういえばそんな話をした様な気がします。

 お義父さん達は赤豚とクズの一件で一時期人間不信気味でしたからな。

 ましてやちょっと前にメルロマルクの暗部を見ていたので、サクラちゃん達に見知らぬ人を無条件に信じてはいけない、みたいな話をしていたのですぞ。


「それが私だとでも言うつもり!?」

「う――」

「そうなんだー! サクラちゃんは物知りねー!」


 うん! とサクラちゃんが言おうとした所を婚約者に遮られたそうです。

 サクラちゃんはモゴモゴと口を押さえられたとかなんとか。

 やがて誤魔化す様に婚約者は言ったらしいです。


「そんな人がいるなんて怖いね。でも貴女は違うでしょう?」

「そうよ! 私は下賤な者に知恵を授けているのよ」

「……そうですか」

「あなた達にも教えてあげるわ。この世の中には選ばれた者とそうでない者がいるのよ。強い者は何をしても許されるの。逆に弱い者は……弱い事自体が罪、貴方達は二人揃って弱いから私に馬鹿にされているの。わかる?」

「Lv至上主義の古い考えね……高い事は良い事だけど……」


 婚約者は軽蔑とも取れる呆れの表情をクソガキに向けました。

 今回ばかりは婚約者の言う通りですな。

 いくらLvを上げようと、Lvだけでは意味が無いですぞ。

 その点、これまで40でやりくりしてきたサクラちゃん達は有能ですな。


 そういえば最初の世界や以前のループで錬が言っていましたな。

 この世界はLvを上げれば大体何とかなる、とかなんとか。

 それで失敗していましたからな。

 今回の錬を見るに、やはり高いだけでは何にもならないのですぞ。


 呆れていて婚約者の力が抜けたのか、サクラちゃんは更に言ったそうですぞ。


「えー、でもナオフミ達がLvだけじゃ測れない強さもあるって言ってたよー」

「それは弱者の言い訳よ。弱い雑魚程よく吠えるものなの。貴女もその相手も弱いのよ」


 サクラちゃんの言う通りですぞ。

 いくらLvを100や200上げようと技術が無ければ全てが無意味。

 俺は最初の世界のお義父さんを知っていますからな。


 例えば俺達流に言えばエネルギーブーストを、お義父さんは独学で習得し、自在に扱う事が出来たのですぞ。

 下手な飛び道具を使うと自分に返って来る非常に厄介な技術でした。

 確か、お義父さんは『気』と呼んでましたな。


 それにしても見ず知らずの相手をよくもそこまでバカに出来ますな。

 お義父さん曰くタクトの関係者との事ですが、どうしようもない輩ですぞ。


「むー! ナオフミは弱くないもん!」

「あんなの気にしちゃダメよ、サクラちゃん。さ、かくれんぼの続きをしましょう。コウくんとユキちゃんがサクラちゃんを見つけに来るのを待ってるわ」


 サクラちゃんを宥めようと笑みを零す婚約者だったのですが、それがクソガキには気に食わなかったらしいですぞ。

 不満そうに婚約者達を睨んで言ったそうです。


「文句があるなら私に勝ってから言いなさい! 勝負開始よ!」


 クソガキは魔法の詠唱を始めながら腰に巻いていた鞘から小剣を抜いて近付いてきたそうですぞ。


「合意も無く決闘だなんて!?」


 婚約者が驚きで目を見開いたそうです。

 それは決闘ではなく、襲撃と呼ぶのでは?


「メルちゃん危ない!」

「貴方の得意な属性で相手してあげるわ! ツヴァイト・アクアショット!」


 高速で詠唱した魔法が婚約者とサクラちゃんに向かって飛んできました。

 サクラちゃんは即座にフィロリアル形態に変身して魔法を蹴りあげたそうですぞ。


「いきなり何をするの!」

「何この生き物? お兄ちゃんの所の子みたい……でも私の魔法の邪魔をしたのは許せないわ!」


 ブンブンと小剣を振りかざしてクソガキはサクラちゃんに攻撃をしてきたそうです。

 Lv92だけあって、低Lvの婚約者にはとても素早く見えたそうですぞ。

 ちなみに婚約者が低Lvでいる訳は、高Lvでは経験しえない工夫を学ぶ為だとか何処かの周回で聞いた覚えがありますな。

 だから敢えてLvを低くして工夫を学んでいるのだとか。


 これを言わないのは要らぬ争いを避けるためだそうですぞ。

 何だかんだで婚約者はLvの割には高水準の魔法が出来ますからな。

 低Lvと馬鹿にすると痛い目を見るのは確かでしょう。


 しかも最初の世界でも能力値の割には戦闘面で有能なのは覚えがあります。

 前回の周回でも魔法の使い方から戦闘の工夫まで、実は地味に有能なのですぞ。

 やはりフィーロたんの婚約者なだけはあります。


「……いい加減にして」


 婚約者は軽蔑の眼を向けながら魔法の構えを取ったそうです。

 さすがはフィーロたんの婚約者に選ばれる者ですな。


「私だけならまだ我慢できるし、逸らす事も出来るけど、サクラちゃんにまで絡まないで!」

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