散歩
「寝てるの? 今は昼のはずだけど……」
お義父さんは窓から外を見ます。
四聖教会に寄り道して……既に昼過ぎですぞ。
まあ、あの豚王は夜のお務めが激しい豚ですからな。
昼夜が逆転して、昼間が寝る時間なのでしょう。
「本日の会談で一番に四聖勇者様の謁見を挟んでおりますが、何分……強引に起こすと王は機嫌がすこぶる悪くなるので、起きるのを待って頂けないでしょうか?」
「まあ……そういう事だったらしょうがないよね」
「その間、僕達はどうしていましょうか?」
「こちらで部屋をご用意いたします。どうか、今しばらくの辛抱を」
とは言ってもここは敵地みたいなものですぞ。
どうしたらいいですかな?
兵士の言う事を素直に受け取っていたら、タクトの所に案内されて罠を掛けられかねないですぞ。
まあ、前回のお義父さんに上手く立ち回る方法を聞いているので、どうとでも出来ますがな。
最悪の場合、臨機応変に動けば良いでしょう。
「元康くん……」
「では馬車の方で待っているので良いですかな?」
「勇者様方がそれでよろしいのでしたら……」
エクレアが何やら呆れ気味にしておりますぞ。
まあここまで来て、馬車で待機というのもおかしな話ですからな。
「では、ついでと言う訳ではないのだが、メルロマルクの女王はこの国にいらっしゃるか?」
エクレアの目的ですからな。
兵士の方も親切に答えています。
「少々お待ちを……どうやらいらっしゃるようです」
「メルロマルクの女王がフォーブレイにいるのか?」
「外交しているのですから居る可能性はありましたが……」
「現在、フォーブレイ城内で会談に参加しております。取り次ぎましょうか?」
「頼めるか? 四聖勇者と同行するエクレール=セーアエットが参ったと言付けてほしい」
打ち合わせ通り女王の元へ行こうとしているエクレアに、お義父さん達は心配そうにしていますな。
そうですな。
今回のメルロマルクは挙動が変ですから、不用意に接触するのは危ないかもしれません。
「大丈夫?」
「問題は無い。まずは私が女王に説得を試みる。私の知る女王ならば例え何が起ころうとも知的に応じてくださる筈だ」
「旦那と娘を殺した勇者と一緒にやって来た自国の騎士相手に?」
「……それが私の義務なのだ。私の命に代えても、女王を説得して見せる。仮に私に何かあったらメルロマルクを完全に切り捨ててくれてもいい」
「エクレールさん……」
お義父さん達が揃って乙女の様にエクレアの背中を見ておりますぞ。
まあ今のエクレアはちょっとかっこよかったですな。
どちらかと言えば、これまで一緒にやってきた仲間であるエクレアが心配なのでしょう。
「それに勇者殿達が一緒にいると話が拗れるかも知れん。まずは私だけで話をしてみる。その間に勇者殿達は馬車の方で休んでいてくれ」
「わかったよ。まあ王様が起きるまでの辛抱だし、夕方までにはどうにかなるかな?」
「寝ているから起こすなとか……この国の王も信用できそうにないな……」
「とは言ってもメルロマルクやシルトヴェルトにいるよりはまだマシなんじゃないですか?」
「そうだな。仮にも大国だ。最悪、大臣とか首脳陣とかと会談をすれば良いか?」
「王が先約をしてて、勝手に会談したら罰するとかじゃないの?」
お義父さんが気を利かせると兵士達が何度も頷きました。
事実とは……さすがお義父さんですな。
「ああ、子供みたいな王様らしいですから、謁見の一番乗りは自分とかワガママを言った訳ですか」
「逆らったらどうなるかわからないから首脳陣も手を出せない……と言う事だね」
「面倒だな」
俺も最初はこんな感じで赤豚を……そういえば赤豚を連れてきた時は起きてましたな。
あの時は待ちに待った赤豚が来ると言う事で例外で起きてきたのでしょう。
豚同士仲が良かった覚えがありますぞ。
……気の所為ですかな?
「じゃあエクレールさんにメルロマルクの女王様との話をお願いして俺達は待機していようか」
「そうだな。馬車で仮眠でもしておくか」
「町並みを見に行くのも良いですね……出入り自由なら散歩したいですよ」
「樹、気を付けておかないと危ないんじゃない?」
ここにはタクトとその取り巻き共が居ますからな。
まずは邪魔者の駆逐をしないといつ攻撃されるかわかりません。
武器の解放や情報収集は安全になってからでも遅くは無いですぞ。
「はぁ……本当に面倒ですね。早く元康さんが持ってる転移スキルを覚えておきたいですよ。そうすれば遠い町で時間を潰せますからね」
「そうだな……割と早めに覚えたいな」
「では勇者殿達、しばしの辛抱だ」
そう言ってエクレアは兵士に連れられて城の奥へと行ってしまったのですぞ。
俺達は馬車の方にとんぼ返りをしました。
「これから戦いになるかもしれないのに……凄くのどかだね」
「空は晴れやかですな」
何だかんだで大きめに取られた駐車場ですぞ。
いろんな馬車や車が停まっていて、近くにはフィロリアル舎から始まり、様々な魔物の舎がありますな。
馬……ホースと言う魔物舎もあるようですぞ。
グリフィンとかヒポグリフなんて変わり種もある様ですぞ。
ライバル御用達のドラゴン舎まで完備とは……反吐が出ますな。
ま、覗きに行くのは結構ですが、鼻が曲がるでしょうな。
俺達は自分達に与えられた駐車場で休んでおります。
何分、長旅でしたからな。
整理整頓をするには良い機会とお義父さんは仰っていました。
錬と樹は馬車の中に入って横になっています。
何だかんだで馬車の旅ですし、ここ数日は割と良く戦っていたので疲れが溜まっていたのでしょう。
お義父さんは荷物の整理をしておりますな。
俺は久しぶりにフィーロたんの絵を描いておりますぞ。
ユキちゃん達は馬車の外で遊んでおり、助手、ライバルも外で遊んでいますな。
モグラはお義父さんの整頓の手伝いをしております。
「わー……フィロリアル――」
「うん。そうだよー?」
キャッキャとユキちゃん達の声が聞こえますぞ。
さてと……お義父さんから聞いた作戦を俺は反芻しますぞ。
まずはここの王と謁見して……あーして、こうして、タクトをこうして。
それからしばらくして、ですぞ。
「よし、整頓完了」
「あの……盾の勇者……」
「なんだい、ウィンディアちゃん?」
お義父さんが馬車から降りて外の様子を確認しに行きましたな。
そのすぐ後ですぞ。
お義父さんが馬車にいる俺達に声を掛けました。
「みんな! ちょっと来て!」
「ん……どうした?」
錬と樹が眠そうにしながら起きましたぞ。
俺も何事かと馬車からおります。
「ウィンディアちゃん達、状況を教えてくれない?」
「え? うん。ガエリオンと一緒に外で休んでいたら、フィロリアル達が散歩って辺りを歩いてた」
「うん、それで?」
「最初は三匹で追いかけっこしてたけど、何かいつの間にか一人子供が増えてて結構長く遊んでたんだけど――」
「ちょっと前にあっちの方に歩いて行ったなの!」
助手とライバルが、城からの別れ道を指差しました。
「ちょっと待て、フィロリアル共が勝手に散歩しに行ったのか?」
「好奇心が旺盛ですからな」
しかし、いつの間にか一人増えていたと言うのが気になりますな。
ここは敵地、タクトの本拠地みたいな場所ですぞ。
何が起こるかわからないので、ユキちゃん達には安全な場所にいてほしいですぞ。
「確かに……何だかんだで、フィロリアルの皆さんは散歩癖がありましたよね」
「偵察をする習性みたいだけど……」
「うん、だからそこまで気にして無かったんだけど……ちょっと何処行ったかわからないし、私達で探しに行くのはどうかと思って聞いたんだけど……」
助手は何だかんだで、良く観察しておりますからな。
フィロリアル様と対立する事はあっても、理解しない訳ではないのでしょう。
その点だけは評価しますぞ。
それに最初の世界での助手はドラゴンやフィロリアル様だけではなく、様々な魔物の面倒を見ていました。
お義父さんの領地にいた芋虫の様な魔物やミミズなど、沢山の魔物に慕われていたのですぞ。
フィロリアル様を愛している俺としては、ドラゴンの事さえ無視できれば、ある程度信頼のおける人物と言えるでしょうな。