光の文字
「特に危険は無さそうだな」
と、錬と樹、お義父さんがそれぞれの碑文の前に立ちますぞ。
錬は二行目、樹は三行目、お義父さんは……一行目が光ってますな。
いえ、お義父さんのだけ……盾の勇者の行だけスッキリしているように見えますぞ。
他の文字がありませんな。
「何々?」
錬が朗読を始めました。
「この文字が輝く者よ。汝の冷静な分析能力と責任感は時に力になるだろう。だが、固定概念が時に汝に災いとなる時が来る。遊戯と現実の区別をつけねば更なる悲劇は避けらぬであろう。現実を受け入れ、他者と深く交流し、周りを見る事が汝が世界を救う鍵とならん。もしも……後悔の果てに敗北したとしても諦める事無き鍛錬が未来を開く」
最初の世界の錬となんとなく符合する様な気がしますな。
「元康さんの話す僕達の失敗と重なる様な気がしますね」
「そう、だな。とはいえこの一ヵ月で散々身に染みてるからな……今の状況ではあまり役に立つ予言では無さそうだ……」
錬が一段目の文字を読んで動きが止まりました。
それから何やら不快そうに眉を寄せてから離れましたな。
「どうしたんですか?」
「……いや、気にするな」
「心当たりでもあった?」
「察するな! そうだ、アイツじゃない!」
樹とお義父さんが首を傾げていましたぞ。
「で、僕は三段目ですか……どういう基準なんでしょうね」
と、樹が文字を指で追って行きますぞ。
「この文字が輝く者よ。汝の正義感の強さは時に少女を救い、その少女が汝を救うだろう。だが、汝は自らの正義を問う時が必ず訪れる。汝の正義は劣等感の裏返し。正義の意味を理解しないでいる限り、汝が真に人を救える時は訪れる事は無いであろう。自らの信じる道を自問自答し、その迷いの先にある大いなる決断こそが、汝の正義を真足る物へと昇華する……」
樹も文字を読んで考え込んでしまいましたな。
「更に下に続く文は……僕の特徴のようですね。高度な命中能力と書かれています」
そういえば下にまだ光っている所がありましたな。
俺は……諦めない不屈の精神のようですぞ。
他にもありますが、何故かぶれて読めません。
「錬」
お義父さんが心配して手を差し出すと、錬は不愉快そうにしながら下の文字を読みますぞ。
「責任感、高い集中力、分析力……後は……切り札の習得は……ふん!」
更に不機嫌になった錬が完全に碑文から目を逸らしました。
何が書かれていたのですかな?
「尚文、お前はどうなんだ?」
そう言えばお義父さんの碑文だけ随分とシンプルですぞ。
その文字が全て光っていますな。
「えっと……この文字が輝く唯一の者よ。例えどれだけの陰謀が汝を苦しめたとしても信ずる心を失わない限り未来はある。汝の命題は信頼也。挫けず失われない汝の心が全ての闇を払う希望になり不変の未来となる。そして傍らに信じる者が居る限り、汝は闇から世界を守る意志となるだろう。私が見る未来はここまで、願わくば汝が波を鎮める奇跡を願っている……」
俺達と比べて少々抽象的ではないですかな?
とはいえ、一行目の文はどれもお義父さんの碑文に近い気がしますな。
「なんか尚文さんのだけ違いません? 随分と他の文と段落が無いですよ?」
「しかも文字を書いた奴の願望まで書かれてるぞ」
錬と樹がブーイングしていますな。
「まあ、俺はこの碑文を信じない事に決めたけどな」
錬が腕を組んで不快そうに答えました。
何が不満なのかさっぱりわかりませんな。
「それって一段目の文? 何が書かれていたの?」
「察するな。黙れ!」
「確かに耳に痛い話ですね……ところで錬さん、切り札の習得はどうやるんですか?」
「うるさい!」
錬は絶対に話さないとばかりに顔を逸らしていますな。
「尚文さん、下の方の文は?」
「えっと、酔わない、縁の下の力持ち……話術、交渉。これって盾の勇者の能力?」
と言う所で樹は頷きますぞ。
これには納得ですな。
まさにお義父さんの能力といった感じですぞ。
「なるほど、わかりました。十分でしょう」
「まだあるみたいだけど、読めないし、ちょうど良いか」
「しかし……ちょっと不愉快な碑文ですね。微妙に当たっている所が特に」
「まったくだ!」
「他のは何なんだろう?」
「勇者様方に残された秘術の標だそうです。ハイ」
教皇が説明しました。
「そのようですな。魔法文字で何やらレシピが描かれていますぞ。これは錬金術ですかな?」
最初の世界でお義父さんが錬金術の勉強中に言っていた専門用語っぽいのが書かれていますぞ。
きっと失われた技術とかがあるのでしょう。
もしかしたらカルミラ島の碑文の様に、特別な魔法も記されているかもしれませんな。
となると……フォーブレイやカルミラ島にあったのですから、世界各地にこういった物が点在している可能性がありますぞ。
「後で良いだろ。今は城に行く事が先決だ」
「そうですね。余裕がある時に、魔法文字をちゃんと読めるようになってから来ましょう」
「ふむ……色々と発見になりそうな場所のようだ」
それまで黙っていたエクレアが部屋を見渡して答えます。
「この様子だと七星勇者の碑文は七星教会にありそうだな」
あるかもしれませんな。
とはいえ、七星勇者の仲間はいませんし、該当する七星勇者がいないと読めないと思いますぞ。
カルミラ島の碑文を参考にすると、読める者にのみ恩威のある場合もありますからな。
「ほこりっぽーい」
「少々息苦しいですわね」
「うすぐらーい」
フィロリアル様達はそれぞれ感想を述べていますな。
「さて、これから城に行くから……よろしくお願いします」
「はい。どうか勇者様方、世界を御救いくださるよう願っております」
教皇は笑顔で俺達を教会の出口へと案内してくれました。
今の所、悪い輩ではなさそうですな。
……某国の教皇も最初はこんな感じだったような気がしますが。
四聖教会から出た俺達は城の方へと向かいました。
見上げるくらい巨大な城……フォーブレイ城が見えますぞ。
何度見ても大きな城ですな。
さすがは世界一の大国と言った所でしょうか。
「凄く大きいねぇ」
「メルロマルクの城も大きく感じるが、近くで見ると違いがわかるな」
「ですね。城門も大きいですよ」
俺達が城門で馬車から降りて挨拶をすると話を聞いていたのか兵士が敬礼して門を開きますぞ。
それから俺達は兵士の案内で馬車を城の駐車場に停めました。
お義父さんとここに来たのはタクトの罠に嵌められた時以来ですな。
まあ俺は最初の世界で一度来ているのですが。
「それで……何処へ行けばいいのかな? なんか城とは別の道に町っぽい建物があるんだけど」
「こっちの様だな」
兵士が出迎えてくださいますぞ。
タクトの時のような嫌な感じは……今の所しませんな。
フォーブレイの城を俺は何度か来た事があるので多少は覚えがありますぞ。
まずは目玉である巨大な城。
ここに王や騎士、その他様々な人達が業務をしているらしいですぞ。
基本的に俺達も謁見する時はこちらですな。
中庭などがあって、フォーブレイの血族でも序列が高い者は城住まいだとか。
序列が低い者は城門の中にある町で生活するのですぞ。
物価は高そうですな。出入りは厳重らしいですぞ。
そうして俺達は兵士の案内で城の方に通されました。
懐かしいですな。
お義父さんが女王と共に雑談しながらフォーブレイの玉座の間に案内された時の事を思い出します。
おや、城内の受け付けで兵士が話をしておりますな。
すると困った様子で俺達に頭を下げました。
「申し訳ありません。フォーブレイ王はまだ起床しておらず、就寝中だとの話でございます」
……もう昼ですぞ?