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(実次)韋駄天のお出ましたい!
(四三)兄上!
なして!? なして東京におっとね!?
金1,800円 持ってきたばい!
(志ん生)何だ? 声がでけえな 田舎者は。 ええ?
羽田予選の優勝カップを質に入れストックホルムオリンピックの渡航費に充てようとしたやさき兄 実次が東京へやって来ました。
(野口)あっ 来た!
あれが うわさの 誇大妄想の鬼か。
(橋本)らしいな。しかし 何しに来たのか。
決まってるじゃないですか。弟を連れ戻しに来たんだ。
(橋本)何だって?
「かけっこなんかに うつつ抜かしおってこのごくつぶしが!」。「兄上 許してくれんですか 兄上」。
「ええい ならん!熊本に連れて帰るぞ!」。
(橋本)なんと無理解な。
橋本さん 平田さんいざとなったら 僕らが身をていして我らが金栗さんを守ろう。
(橋本)よし。
それにしたっちゃ 兄ちゃんな~し いきなり。
な~しってぬしが遠方に行きなさる前に日頃から世話になってる諸先生方やご学友に挨拶せんといかんし金も渡さんといかん。
金… ばっ!
大事な弟の渡航費だけん郵便為替じゃ送れんばい!
兄上~!
お~ 金栗さん 泣いておるぞ。
(実次)泣くな!
まさか… 田んぼば 売ってしもうたつね?
ねっ? そぎゃんね?
(池部幾江)はい。 よう がまだした。ありがとうございます。
(幾江)はい お疲れさん ようがまだした。ありがとうございます。
(幾江)ほれ 持っていきなっせ。ありがとうございます!
はい お疲れさん。持っていきなっせ。
(重行)ばってん 金栗さん スト…ストックホルムオリムピックですか?
そぎゃん立派な大会でしたら国が 金ば出すとでしょうが。
あ~ オリンピックはアマチュアの競技会で。
(スヤ)アマチュアは本職じゃなかって意味です。
本職じゃなかったら 遊びじゃなかね。
金栗さん すまんがこぎゃん得体の知れんもんに金ば出す人はこぎゃん田舎には おらんとばい。
弟のためなら 田畑は売ってもよかと俺は思うとります!
四三は そんだけの価値のある男たい!
(スヤ)お義母さん。
あ~ お邪魔してます。金栗です。 今日は…。
声の大きかですけんあらかたは聞こえておりました。
どうもすいません。(幾江)ばってん 金栗さん田んぼの のうなってどぎゃんすっとですか?
家族も大勢おっとに。
幸い 私は役場にも勤めておりますし稼ぎのありますけん。
ばってん 酒蔵ば潰して 土地ば手放してそぎゃんしてまで行かせたかですかね?
その… スト… スト…ストリップ?
ストックホルムオリンピックです。
(重行)たかが かけっこでしょうが。そぎゃんもんのために財産手放すとですか?
どぎゃんしても行かにゃいかんとですか?それは。
行かせてやりたかです!
いや… 10里も走った そん先に何のあるかは知らん。
いや 何もなかかもしれん。
ばってん そん景色ば 見る資格ば四三は持っとる。
兄として… 見せてやりたかです!
あ~ もう分からんけん こうしましょ。
買った田んぼ 貸しましょ。えっ 貸すって誰に?
あぁたよ 金栗さん。(重行)お母さん!?
1,800円で 田んぼば 買いましょ。それをタダで貸しましょ。
あぁたは 今までどおり百姓ばして 米ば作って暮らせばよか。
幾江さん!このお礼は何と申したらよいか…。
あぁたを信用したわけじゃなか。スヤさんばい。
こん人の頼みとあらば力にならにゃいかん。
なあ 重行。(スヤ)お義母さん。
スヤさん ありがとうございます。
(幾江)はい。 こん話はおしまい!
ほんなら 売らんで済んだつね?
ああ。 売ったばってん暮らしは変わらん。
お~ そのほかにも春野さんやら 玉名中学の校長先生やらの餞別もあるけんこれで 思いっきり闘ってこい!
兄上… なんと礼ば言うたらよか…。
これ… 四三。 ほれ。
(戸が開く音)(野口)ちょっと待った~!
届くか?大丈夫?
金栗君 ちょっといいかな?
どちらさんですかね?あっ 野口君 橋本君 友達。
ただの友達じゃない。お兄さん 僕ら寄宿舎の総務で金栗さんの後援会を作りました。
後援会!?(福田)そぎゃんですたい。
遠征には たいぎゃな金のかかると聞いて。
この度 寄付金が1,500円に達しましたので持ってきました!
ばっ!(福田)全国の師範学校から集まったとです!
(徳)お兄さん 行かせてやって下さい!
皆さん なんとお礼を言うたらよかか…。
ちょ ちょ ちょ 待ってくれんかね。
こっちは こっちで1,800円 持ってきたけん!
(一同)えっ!?あ~ そぎゃんたい。
わざわざ 熊本から届けてくれなはったけん。
(平田)えっ? おいおい おいおい…。
誰だ? お兄さんがびた一文も出さないって言ったやつ!
(野口)あっ そうですよ!そぎゃんこつ 誰が…。 ぬしか?
いやいや…。何じゃ こら お前。
(福田)どぎゃんしますかね? お兄様。(実次)どぎゃんも こぎゃんもこっちは 田畑ば売って こさえた1,800円持って帰るわけには いかんばい!
(福田)ばってん こっちも 誰がいくら出したかも分からんですしどぎゃんでしょう?雑費として 300円ほど寄付して頂いて残りは お納め頂くわけには…?
そぎゃんですか?
そぎゃんなら…お言葉に甘えて。
あっ よかった!
(拍手)
ありがとうございます!
♪~
「よ~うっ!」(太鼓の音)
♪~
♪~
♪~
♪~
♪~
♪~
「よ~うっ!」(拍子木の音)
(志ん生)<全国の学生 数千人からの寄付金よく集めたもんです>
あ~ もう… ありがたか~。
四三。うん?こん背広 どぎゃんしたと?
あ~嘉納先生が餞別に買うてくれたつばい。
ばばっ!
ばばっ えらいもん着てしもうたばい。
(可児)いや~ 納得いかんですな~。
私はともかく スウェーデンといえば永井さんでしょう。
(永井)うん。 百歩譲って大森氏は よしとしよう。
問題は…。安仁子!
あに図らんや 安仁子だよ。アハハハハ! あに図らんや…。
(永井)何だ あの青い目の年増はよう!(安仁子)アハハハ!
たった4人… うち2人は選手ですよ。
あと2人… 妻 入ります?(戸が開く音)
誰だ!?
すんません。
あっ 申し遅れましたばってんが私 金栗四三の兄でございます。
ええっ? これは これは…。
こん度は 皆さんのおかげで!
いえいえ… そりゃもう弟さんの努力のたまものでしょう!
いや お兄さん お兄さんどうぞ どうぞ どうぞ どうぞ。
あっ よかですか? どうも すんません。
「前略 春野スヤさんにおかれましては」…。
(実次)やはり あれですか人間は25歳までに大成するか否かの片がつくとですか?
えっ?(実次)いや~ 相撲取りだって25過ぎたら横綱には なれんばい。その点 四三は 偉か~。
まだ 21だもんねえ。
熊本から出てきて 僅か数年で東京の ど真ん中でこぎゃん しっかり根っこば張って今度は… えっ?
スウェーデンだもんねえ。
とつけむにゃあ男ばい!
(可児)アジアを代表して世界の大舞台で闘うんですから ねえ。
(永井)例えば 4年後 8年後 100年後何千 何万人のオリンピック選手が日本から出ても誰が何と言おうと 第1号は金栗四三!(可児)そう!
これだけは 未来永劫 動かんのですよ。
ハハハ…。
ありがとうございます。
いや~…。
あっ ところで お二人さんは 守衛さん?えっ?
(実次)嘉納治五郎先生の部屋はどこですかね? 守衛さん。
「前略」…。
(美川)お兄さん 足元 気を付けて。
(孝蔵)<次の日 四三と美川君は実次を東京見物に連れ出しました>
念願の凌雲閣ばい。
(美川)財布スられて上れなかったんですよ。
そぎゃんね!
兄ちゃん… 兄ちゃん!
♪~
お~!
うわ~ どこまっでも街が続いとるばい!お~!
こぎゃん都会で 四三は毎日 走りよっとか。
あ~ 毎日じゃなかばってん 浅草から…。
え~ 芝 芝… あ~ 芝。
あん芝の方まで。うん?
あっ! あ~ ハハハ!
富士山の見えてるねえ!
こぎゃん遠くから見ても大きかね~ 富士は。 絶景ばい!
阿蘇までは見えんねえ。
♪「ちりりんりんと出て来るは」
♪「自転車乗りの時間借り」はい!
♪「自転車乗りの時間借り」
♪「曲乗り上手と生意気に両手離した」
兄上 俺は… 生きて帰れっとだろか。
えっ?
ストックホルムまで 8,200km。片道 二十日も かかっとばい。
な~し そぎゃん遠くに 言葉も通じん国に行かにゃいかんとだろか。
フォークとナイフで飯ば食わにゃいかんとだろか?
(美川)あっ アハハハ… 金栗氏さては高いとこ上ったもんだから少々 ナーバスになったのかな?
た~だ丈夫になっために走っとったつに…丈夫になったところで…。
やめときゃよかった。
な~し 俺だけ異国に…。
今更 弱音を吐くな 四三!
(美川)うわっ 出た 鬼。
お前が行かんかったら 後が続かん!
お前が そぎゃん弱虫やったら100年後の韋駄天も弱虫ばい。
心配するな! 母ちゃんも 俺もみんなも 無事ば祈っとるけん。
♪~
うん。
そぎゃんたいね。
(美川)さて お兄さんこのあと どうしましょうかね?吉原に…。
(小梅)あっ そこの赤ゲットのおにいさんまあ 目の覚めるような赤だねえ。
えっ そぎゃんですか?ええ。
ハハハハハ… そぎゃんでしょう?
(小梅)そうよ。 ねえちょいと ちょいと遊んでかない?
小梅!
♪~
えっ? 何や…。
金栗氏 僕はここで!えっ?
ちょい待って…お兄さん 道中 お気を…。
小梅 小梅!ちょっ 美川君 美川君!
あっ… 兄ちゃん よか。よかよか。 行こう。
あの~ 兄ちゃん。うん?
金ば 工面してくれた池部さんって…。
あ~ 春野先生んとこの娘さんの嫁ぎ先たい。
あ~ やっぱり スヤさんの。そぎゃんね。
熊本 戻ったら その足で すぐに祝言たい。
あ~ 東京で お前に会うって言うたらくれぐれも よろしゅうって言っとったばい。
そぎゃんね。
四三さ~ん!スヤさ~ん!
「自転車節」ば 歌うてね!
♪「□いたかばってん □われんたい」
♪「たった一目で」今じゃなかよ!
東京で歌うてね!
池部っちゅうたら玉名一ん 庄屋さんだもんね。 ハハッ。
玉の輿たい。
ここでよかけん。えっ?
いやいやいや 新橋まで送るけん。
よか。 オリンピック選手にそぎゃん無理ば させられん。
ばってん…。一人で行けるけん。
田舎者だと思って バカにしよっとか。
いや そぎゃんつもりは…。
ああ… 来てよかった。 嘉納先生にゃ挨拶ば できんかったばってんそれは また今度。うん。
あっ 兄ちゃん。ああ?
スリに気ぃ付けんといかんよ。えっ?
じゃあ。
兄ちゃん。
勝とうなどと思うな!
何も考えんで行って 走ったらよか。順道制勝の精神たい!
なっ?
♪~
おっ!どいて… どいて どいて!
あっ…。(美川)ハァ… ハァ…。
君 速いね。 金栗氏といい勝負だ。さあ…。
だから 余計なお世話だって言ってんじゃないかい。 ああ 田舎者。
私が どこで どんな商売しててもあんたにゃ関係ないよ!
いいや 何と言われようと僕は君を救いたい。
あいたっ!あんたに私の何が分かんのさ。
はっ 田舎者。
分かるさ。 こんなところにいちゃもったいない女性なんだよ 君は。
こんな路地裏の どぶ板の上で。
どぶ板の上は 今 たまたま!あんたが追いかけてくるから。
ストレイシープ。はあ? 何?
僕たちは ストレイシープ。 羊なんだ。
ねずみだけど。
干支じゃない。
知らない? 夏目漱石「三四郎」。 迷える羊。
フンッ 迷ってないよ。ここ出て どん突きのタバコ屋をぎゃん行って ぎゃん行って もうぎゃんぎゃん行ったら 市電の停車場。
そうじゃなくて 漱石の…。えっ 「ぎゃん」!?
(孝蔵)ああっ! あ~ うるせえな。ぎゃんぎゃん ぎゃんぎゃん。
孝ちゃん。
あ~あ こりゃ寝過ごしたな。また しくじったか くそ~。
師匠のとこ 行かなくていいのかい?
ぎゃん? ぎゃんって今 言ったよね? 君。
おい そこの ぎゃんぎゃん吠えてる学生。
熊本? えっ 君東京のおなごじゃなかとね?
お~い。東京? 熊本?
そうたい。熊本のどこさ。
阿蘇さ。阿蘇さ? えっ 阿蘇ってえっ 君… 山じゃない。
聞いてんのか 学生。はい?
(辛作)つま先と かかとを3枚重ねにしといたぜ。それなら軽いだろう。
おお… こりゃ よかです。
それだけありゃ足りるだろ?はい。
(勝蔵)はい。うん? これは…?
持ってけ。 日本代表が裸で走るわけにはいかねえだろ?
ああ…。
ありがとうございます。
ああ… ありがとうございます!
ありがとうございます!
(治五郎)この度の金栗君の遠征には諸君の多大なる後押しがあったと聞く。
その友情に 惜しみない拍手を送りたい。
ありがとう!
(拍手)
<ストックホルム出発まであと2日に迫りました>
T N G! T N G! T N G!
(吉岡)レディー…ゴー!
(中沢)卒業年だろ。大学は どうするんだね?
(弥彦)落第してやるさ。
こうなったら とことん兄貴とは別の道を行くよ。
(シマ)奥様。 そろそろ 中に入られては?
(和歌子)弥彦はな?
(シマ)今日は遅くなると。
(和歌子)ほんのこて 弥彦は…。
三島家ん 恥じゃ。
(可児)はなむけに古代ギリシャの勇者の母が息子を戦場に送り出した時の言葉を引用する。
(一同)おお…。
金栗君 ありゃ 負けたら生きて帰れんぞ。
校長がいなくなると必ず暴走するな。あっ… 美川さん。 ちょっと!
(福田)美川 黙って部屋行くとか?
(永井)おい 美川。お前 今日が金栗の壮行会って知ってただろ。同郷だろ?言葉をかけてやったらどうだ?おい 美川! 美川!
はいはい 分かってますよ~。肋木でしょ? あっ…。
ず~っと言えんだったばってん 美川君思えば 君が高師ば受けることを勧めてくれんかったら俺は ここにはおらんばい。
いや 僕は別に…。
オリンピックはもちろん マラソンに興味を持つことすらなかった。
全て 美川君のおかげたい。 ありがとう!
(ざわめき)
あの そぎゃんこと…あの 金栗氏… 頭ば 上げて。
…と 帰ってきて言えるよう精いっぱい走ってくるけん美川君も 自分の道ば極めてくれ。
あっ ありがとう。
どうぞ。ど… どうぞ?入っちゃうよ? どうぞ…?
(足音)
(シマ)弥彦お坊ちゃま。おう シマ。
お帰りなさいませ。
奥様には いつお話しされるおつもりですか?
何を?「何を」って… 洋行の件です。
ストックホルムオリンピック。
まさか 黙って行かれるおつもりですか?
「親子の縁を切る」とまで言われたのでしょう?
一度 きちんとお話しされた方が…。
余計なお世話かもしれませんが。
余計なお世話… だね。
お坊ちゃま…。話しても話さなくても結果は同じさ。
では最後に本日の主役 金栗四三君から ひと言!
よっ!
(拍手)
え~ 皆様のご厚意 ご支援に感謝し精いっぱい 闘ってきます!
金メダル!(拍手)
ありがとう!歌え 歌え~!
えっ?歌え。
では 一曲。えっ?
金栗さん 本当に歌うんですか?うん。
ばってん 金栗 お前 音痴…。
音痴ば克服せんとある人の教えてくれた歌です。
(小声で)台なしになる。決して うまくは なかばってん気分のよかけん 歌います!よ~し!
(手拍子)
♪~
♪「ちりりんりんと出て来るは」
♪「自転車乗りの時間借り」
♪「曲乗り上手と言われては両手離した洒落男」
♪「あっち行っちゃ危ないよこっち行っちゃ危ないよ」
♪「危ないよと言ってる間にそら ずっこけた」
♪「千代八千代 どうしたもんじゃろかい」
(一同)♪「どうしたもんじゃろかい」
♪「どうしたもんじゃろかい」(一同)♪「どうしたもんじゃろかい」
♪「どうしたもんじゃろかい」(一同)♪「どうしたもんじゃろかい」
♪「どうしたもんじゃろかい」(一同)♪「どうしたもんじゃろかい」
♪~
よし!
明治45年5月16日。
(志ん生)<初夏の朝は上天気。金栗四三選手と見送りの大行列は徒歩で新橋へ向かいます>
声 小さいぞ! 声 小さいぞ!
<小石川の大通りを伝通院前に出て富坂を下りまして造兵廠脇を通って 和田倉門前に。二重橋前では皇居に向かって整列し永井道明教授の音頭で万歳三唱>
ばんざ~い!(一同)ばんざ~い!
ばんざ~い!(汽笛)
<「汽笛一声 新橋を」でおなじみ新橋駅は黒山の人だかり>
ばばば~ ばばっ!
(拍手と歓声)
ありがとうございます。ありがとうございます。
<ストックホルムに向け大森兵蔵監督と安仁子夫人そして嘉納治五郎先生も 姿を現しました>
みんな ご苦労さん ご苦労さん。
よろしくお願いします。おっ!
清さん!
(清さん)俺 今日の今日まで知らなかったんだけどよあのおっさん 嘉納治五郎だったんだな。
あっ はい。(清さん)へえ~。
大森君 長旅で大変だが助け合っていこう。
(英語で)
うん。 さあ行こう!
どうだ? まあ頑張れよ。 うん。
向こうじゃ 足袋で走んのおめえだけだろうけどよ東京じゃあ 俺も足袋で走ってっからよ。
心強かです。ああ!
(平田)金栗君 そろそろ。あっ。 行ってきます。
行ってこい 行ってこい。はい。 すんません。
(歓声)
ありがとうございます!
頑張れ!頑張れ~!
(歓声)
うん? あれ? 一人足りねえな。
(クラクション)T N G!(女性たち)弥彦さ~ん!
<出ました 痛快男子 三島弥彦。カンカン帽に ダブルカラーの粋なスタイルでございます>
(一同)奮え~!奮え~!て ん ぐ! ててんのぐ!
この日章旗は 我が大日本体育協会から。
(拍手と歓声)
金栗君 三島君! ばんざ~い!
(一同)ばんざ~い!ばんざ~い! ばんざ~い!
ありがとうございます!
よ~し 行ってくる!行ってきます!
♪~(歌声)
<この日の新橋駅の興奮は大変なものでして当時の新聞に こう書かれております>
♪~
(クラクション)
(シマ)お待ち下さい!三島さん 三島さん!
(シマ)道を開けて… あっ あっ!
シマ!弥彦お坊ちゃま! お母様…。
(弥太郎)ほら! 弥彦 お前母上に ちゃんと挨拶せんか!
(汽笛)早く!
母上… 弥彦は 精いっぱい闘ってきます!
当たり前じゃ!おまんさぁは三島家ん誇りなんじゃから。
お母様。
えっ…。
弥彦 体ば大事にしやんせ!(汽笛)
はい!
(車掌)時間です! 離れて!(弥太郎)母上。
(汽笛)
(弥太郎)弥彦!(シマ)弥彦坊ちゃま!
(和歌子)弥彦! 弥彦!
(シマ)お母様!(和歌子)弥彦!
弥彦! 弥彦!
母さん!弥彦!
(弥彦)行ってきます!行ってきま~す!
(一同)ばんざ~い! ばんざ~い!ばんざ~い!
(弥彦)母さん!
行ってきます!行ってきま~す!
やっぱり 我が子に関心のなか親はおらんですよ。
(すすり泣き)
♪~
(汽笛)
「え~ それでは ここで今回の旅の行程をざっと説明しましょう。 担当は東京高師地理歴史科教諭 福田源蔵さん!」。
はい。 地歴科の福田です。
え~ 明治45年5月16日新橋から寝台車ば乗り福井県敦賀で降りた 金栗は鳳山丸に乗って ウラジオストックへ。
そこから シベリア鉄道に揺られること2週間。
(学生たち)ええっ!?(福田)ロシアの首都セントピータースバーグに入り船で バルト海ば渡りストックホルムに着くのが6月2日。
実に17日間の長旅ばい!
(本庄)16歳から無敗の三島君世界へ羽ばたく心境は?
これといって感慨はないね。
うんと暴れてくるつもりさ。
西洋人に交じって走ることに気負いはないかい?
むしろ 楽しみだね。
洋行は初めて?…はい。
じゃあ 昨夜は眠れなかったろう。はい。
日本運動会の全責任を負って出場するのだからね。はい。
「倒れて後止む」の大決心で臨んでくれ。はい。
決して国体を辱めざることを期すという心境かな?
はい。じゃあ金栗君 カメラの方を向いて。
(孝蔵)<それは後日そのまま記事になりました>
(実次)「日本運動会の全責任を負って出場するからには倒れて後止むの大決心をもって臨み決して国体を辱めざることを期すという心境ですと金栗君は そう宣言し 爽やかに笑った」。
(一同)わ~!
四三!
頑張ったな~! よかった よかった。
すいません。
あっ しまった。
か… 可児先生? ちょ… 可児先生?
違う違う 違うんだよ。 か か… 彼らが。えっ?
あっ!ばっ! 橋本君… 野口君!
何しよっとっとですか?
いや ちょっと新橋では人が多すぎてちゃんと見送れなくてな。
気付いたら 汽車に飛び乗ってました。すみません。
頼む! 校長には… 嘉納先生にはどうか内密に。
そぎゃんこつ…もう 俺は うれしかですたい!
いや うれしかよ!金栗さん?
あん もう誰か分からん大勢の人に見送られるより何倍もうれしかですたい!
よう ついてきて下さった~!
ああ… うまい!(笑い声)
あっ… ところで嘉納先生はどこに乗っておられるとですか?
あっ 乗ってないよ。えっ!?
ばっ… ばってん 新橋駅には。
いや それが 直前になって…。
(汽笛)
永井君 止まってもらいなさい!可児~!
止めろ!可児~! 校長 可児… 可児!
(治五郎)待ちなさい!
な~し嘉納先生は乗っておられんとですか!? あああ…。
♪~
乗れなかったよ!
ばばばっ!(可児)<嘉納先生のいないシベリア鉄道での旅は トラブルだらけ>
(弥彦)体が縮こまって たまらんな。
(実次)気温摂氏5度!?
(円喬)お前さん 今日から三遊亭朝太だよ。
(せきこみ)
(弥彦)街が見えてきたぞ。<いざ 決戦の地へ!>
明治時代の新橋停車場。
ストックホルムに向け金栗や三島が旅立った この駅は当時 地方や海外へと通じる東京の玄関口だったのです。
明治45年 南極探検を行った白瀬中尉。
偶然にも 金栗たちが ストックホルムに出発した5月16日は2年間の航海を終えた白瀬中尉が日本に ようやく帰国する注目の日でもありました。
この日 新橋は 白瀬の出迎えや金栗の見送りで大にぎわい。
歌人 与謝野晶子も この少し前にフランスへと旅立つなど多くの著名人が行き交う場所でした。
東京駅が出来る頃になりますとこちらは貨物の駅専用になりまして今の新橋駅の方で 旅客の機能が移ります。
今は 周囲にオフィスビルが立ち並ぶ汐留の旧新橋停車場駅舎。
歴史の舞台となった明治の面影を今に伝えています。