アニメ「けものフレンズ2」
その5話、6話はけものフレンズのファンから相当な物議を醸した。
「かばん」が「サーバルと何らかの理由で別れ、今はコノハ博士とミミちゃん助手と共に、研究室でサンドスターの研究をしている事。
サーバルはかばんの事をほとんど忘れてしまっているということ。
一期ファンにはそうやすやすとは受け入れられない内容。当然、私のタイムラインは阿鼻叫喚の嵐であった。
しかしながら、私はこの展開に既視感があった。
それは間違いなく前作でも行われていた事。
殆どの人は気づかなかっただけで、確かに前作でもこれに準ずる内容があったのだ。
それを知るには、けものフレンズの”真の原点”である、スマホゲームアプリ「けものフレンズ」まで遡る必要がある。
アプリ「けものフレンズ」
アプリ「けものフレンズ」(以下”アプリ版”)2015年3月16日にサービスを開始したこのゲームの擁する、350人を超えるフレンズと非常に重厚なストーリーに魅了された人は少なくなく、今でも根強いファンが多く存在する。
なお、UIは劣悪そのものであった。
てれれてっててってって、てれてれれれれてってって(タイトルBGM)
そんなアプリ版けものフレンズは、主人公がパークガイド、ミライさんによって休園中のジャパリパークに招待される所から始まる。
ミライさんの話によると、パークは今”セルリアン”と呼ばれる謎の生物に支配されてしまっているのだという。
主人公の目的は、フレンズを仲間にし、パークを旅しながらセルリアンを退治し、セルリアンからパークを奪還する事。
サーバル、カラカル、トキ、ルル、シロサイ、ギンギツネ、仲間を増やしながら主人公の旅は続く。
しかし、度々サーバルそっくりのセルリアン「セーバル」が姿を表し、各地のボスセルリアンを強化して、行く手を阻む。
しかし、セーバルはセルリアンの女王に操られており、本心はサーバルとトモダチになりたいと思っていたのだ、二人は何度も邂逅を重ねる中で友情を育んでいく。
ようやく女王の本拠地にたどり着いた一行、しかし、セーバルは自らが運んできた輝きを殆んど女王に奪われ、今にも消滅しかけていた。自分を消滅させることをサーバルに望むセーバル。
その光景を目にして、サーバルは叫ぶ。
「セーバルは……セーバルは……私の"トモダチ"だよ!」
そして、奇跡が起こった。
セーバルの中に残っていた僅かな輝きが、サーバルの思いに反応して新たな「輝き」を生み出したのだ。
フレンズとなったセーバルは、大切な”ともだち”と共に、女王を倒す!
そしてジャパリパークには平和が訪れた、主人公はいつしか”園長”と呼ばれるようになり、パークは再開に向けて順調に動き出し、カコ博士も近々復帰するようだ……
第一部・完
と、軽く解説したが、この感動は実際にストーリーを追った者にしか味わえないだろう。
今からでも遅くないので、有志の投稿したアプリストーリー動画を一巡してみることをおすすめする。
また、テレビ東京の動画配信サービス”あにてれ”では、アプリストーリーを再構成したフラッシュアニメ「ようこそジャパリパーク」が好評配信中である。アプリ版のオリジナルキャストの声付きでテンポ良く進むストーリーはとても愉快だ。まだまだストーリーは序盤の中頃ではあるのだが、興味を持ってもらう入り口としては最高の作品である。(ステマ)
アニメ一期に勝るとも劣らない感動があなたを待っているはずだ。
アニメ「けものフレンズ」ショック
お守りと友情を武器に、セルリアンと劣悪UIを破った園長たち、しかしその日々も終わりを告げる。
そう、サービス終了である。
実はアプリ版は2015年時点ですでに収益が芳しくなく、いつサービス終了してもおかしくない状況だったのだ。
2016年3月16日には完全無料化を発表、ここから先の一年間は完全にスタッフたちの”けものフレンズ”に対する愛だけで運営されていたのだ。
アプリ版のスタッフにはここで深く御礼申し上げたい。
楽しいゲームを、ありがとうございました。
そしてそれと入れ替わる形で新たなメディア展開が発表される。
そう、アニメ版「けものフレンズ」である。
アプリを失ったファンたちは心から喜んだ。
しかし、同時に一抹の不安もあった。
まず声優陣の総入れ替えである。
アプリ版で野中藍さんだった「サーバル」は、”尾崎由香”さんに
一緒に旅をしてくれたガイドさんの名前は無く、中の人である”内田彩”さんは「かばん」という謎のキャラクターの声優を担当している。
誰もが思った。「誰だオマエ」
これは大丈夫なのか。アプリ版プレイヤーたちは思った。
そして同時に発表されたあらすじも不安を掻き立てた。
この世界のどこかにつくられた超巨大総合動物園「ジャパリパーク」。
そこでは神秘の物質「サンドスター」の力で、動物たちが次々とヒトの姿をした「アニマルガール」へと変身――
訪れた人々と賑やかに楽しむようになりました。
しかし、時は流れ……
ある日、パークに困った様子の迷子の姿が。
帰路を目指すための旅路が始まるかと思いきや、アニマルガールたちも加わって、大冒険になっちゃった!?
”そして”、時は流れ……。ではない。
逆説の接続詞の代表格”しかし”である。
「何かあったに違いない」
そしてその予感は現実に変わる。
パークは崩壊していた。
あれだけ心血を注ぎ、再開にこぎつけたパークは完全に崩壊していた。
あの頃共に旅したフレンズたちは、性格も中の人も(ただ一人を除いて)変化しており、完全に別の存在である事は明らかだった。
野中藍はめちゃくちゃな推理をふっかけるアミメキリンになっていた。
後半では、ガイドのミライさんの映像が登場するものの、その内容は、
”セルリアンの大量発生によってパークが崩壊し、職員は全員退去することになった”
と、散々なものである。
アニメを単体で楽しんだ人は、この作品の虜になった。
しかし、その裏でアプリ版プレイヤーは困惑した。
無理もない。これまで積み重ねてきた物が、無残に破壊されてしまったのだ。
私はアニメで「けものフレンズ」のファンを辞めてしまった人を何人か知っている。
それには様々な理由があるだろうが、『公式作品によって「パークは崩壊する」という運命が約束されてしまった。それはどう足掻いてもひっくり返すことは出来ない。その事実を受け入れることが出来ない』という事が、大きなウェイトを占めていたはずだ。
9月25日ばかりが取り沙汰される本作だが、それ以前に事件は起こっていたのである。
「コンセプトデザイン展」ショック
アプリ版プレイヤーに対する仕打ちはまだ続く。
8月24日から9月11日にかけて池袋パルコで開催された「けものフレンズ 吉崎観音 コンセプトデザイン展」での展示はまた、アプリプレイヤーにとどめを刺した。
筆者は東京で十分な情報を記録しきれなかったので、わざわざ北海道まで行きました。
写真撮影が禁止されているエリアの展示であったので、現在それを見る事は出来ないのだが、言葉で形容するとこんな感じである。
「セーバルはサンドスター火山の中でアンチセルリウムとなって眠っている」
つまり、アプリストーリーの後、セーバルは何らかの理由でサーバルと今生の別れを告げたという事である。
これに涙が出ないアプリ版プレイヤーはいないだろう。「セーサー」はアプリ版屈指のCPだったのだから。
また、アニメ版のガイドブックには、2015年時点でジャパリパークが崩壊することを決めていたと考えられる資料が複数存在している。
インタビューからの恣意的な引用で殴り合え。
そして「けものフレンズ2」で繰り返されるショック
さて、ここまでお読み頂いた読者諸兄は、何か既視感をおぼえるのではないだろうか。
前作とは性格等が違うフレンズたち
前作主人公とフレンズの離別
これは「けものフレンズ2」で現在行われている事と相似しているのだ。
声優こそ一緒なものの、今作のサーバルは見た目からして前作とは違う存在だ(それぞれのキービジュアルのサーバルの胸元を見比べて頂きたい、2サーバルにはフリルが付いている)、前作でセルリアンに食べられたアードウルフは見事に復活している。
アニメ一期から、所謂”世代交代”が行われた後だと考えられるだろう。
便利な設定である。
そして「かばん」は「サーバル」と離別し、研究所でサンドスターとセルリウムの研究をしている。キュルルと同行しているサーバルに自分の知っているサーバルの面影を見ることはあったが、積極的にサーバルと関わろうとはしなかった。
二人の間に何があったのかは定かではないが、そこには「サーバルとセーバル」の間にあったような、どうしようも無い別れが存在していると考えるにやぶさかではない
「けものフレンズ2」は一期「けものフレンズ」と全くの別物のように見えるが、そこで行われている事は全く同一なのだ。
「前作の”フレンズ”の喪失」
けものフレンズは新作を出す度に、前作の関係性をほぼ完全に破壊する。
そして、その屍の上に新たな物語を描くのだ。
アニメ一期であっても、2であっても。
「けものフレンズ」の一貫したテーマ
この一見”前作の否定”とも言える行為は、多くの視聴者に怒りや悲しみと不条理しか残さないだろう、それは火を見るより明らかだ。
「そんなシステムクソ喰らえ」大体の読者はこう思っているはずだ。私もそう思う。
しかし、この一点を失った瞬間「けものフレンズ」は「けものフレンズ」としての資格を失ってしまうだろう。
ざっくり言えば「永遠性の否定」
それこそが、けものフレンズのテーマの一つだからである。
それは、アプリ版のラスボス「女王」のセリフから読み取ることが出来る。
”すべての 輝きは やがて 消える。
失い どれほど 焦がれようと
本来 戻ることは 決してない”
”しかし 我々 セルリアンは
保存し 再現する 永遠に”
”究極のセルハーモニー により
進化を極めた セルリアンであれば
失われた 輝きすらも 完全に 再現できよう”
女王は過去と現在の”輝き”を全てその身に宿し、それを永遠に再現する世界を望んだ。
楽しい思い出が永遠に続く世界
大切な友達といつまでも一緒にいられる世界
失われた何かと再び会える世界
とても理想的な世界である。
しかし、アプリ版プレイヤーたちはそれを拒んだ。
なぜならそこには、「パークが開園し、セーバルと一緒に生きる」未来が無いから。
これから続いていく無限の可能性を秘めた未来が存在しないから。
結果、プレイヤーは「パークが崩壊する」未来を、「サーバルとセーバルが離別した」未来を目の当たりにすることになった。
そして「かばんとサーバルが出会う」未来を得た。
無論、それも失われることが約束されている
「永続する現在」ではなく、「未来」を選んだ代償として、それは確定しているのだ。
「けものフレンズ」それは、いのち。
この「お約束」はあまりに残酷だ、前作に思い入れがあればあるほど、残酷さは増していく。
特に、メタ的な意味でアニメ一期は「失われた輝き」である。その現実に耐えられない人はアニメ一期を「保存と再現を永遠に繰り返す」ことでしか癒されない。それはつまるところ、「セルリアンに屈する」ということに等しいのだけれども。
(そう考えると、2の展開を癒やすために1期を繰り返し見てしまうファンの行為も、公式の術中に完全に嵌っている気がしてくる)
この後別れます(諸説あり)
そして、それを乗り越えた先にも絶望は続く。
今後、作品として描かれた内容は全て、”いつの日か失われる”ということだからだ。
現実からの逃避だった「やさしい世界」は、実は恐ろしく不条理な世界なのだ。
その「刹那性」に、今後も耐えられるファンはどれほどいるのだろうか。
だが、少し考えてみれば、これって、「現実の人と動物の関係」と一緒じゃない?と気づくだろう。
動物の命はヒトのそれとは比べ物にならないほど短いことがほとんどだ。
昨日まで生きていた存在が、今日は冷たくなって動かなくなっている。そんな事が毎日のように繰り返されている。
アニメ6話が放送された後
2月17日には那須どうぶつ王国の事故でワタボウシタマリンが死亡した。
18日には八景島シーパラダイスでジンベエザメが、井の頭文化公園のツシマヤマネコ「ノリ」が死亡した
20日には上野動物園で、ニシゴリラの「ナナ」が死亡した。
このように(ここまで連日なのは珍しいが)動物園でも度々動物が死亡している。
足繁く動物園に通ったけものフレンズのファンたちは、恐らく一度は「前来た時にはいた動物が居なくなっている」という経験をしたと思う。
「命あるものはいつか死ぬ」その理は、”動物”というテーマを内包する上では逃げられない課題だ。
今までの動物を主題としたキャラクターコンテンツは、この課題から逃げてきたと思う。作中でキャラクターが死ぬことは殆ど無い、死んだとしても、非常にフィクショナルな死であり、私達はそれを間接的に味わうだけである。
しかし、「けものフレンズ」はその作品全体を使って”プレイヤーや視聴者”に問いかけてくる。動物と関わる上で避けては通れない問題を突きつけてくる。
「失うことを含めて愛せるか」と。
過去と未来
他にも色々と書きたいことはあるが、そろそろここで筆を置かせて貰おうと思う。読者の心労は並々ならぬものであるだろうし、私もこれを書き上げるまでに3日掛かっている。パトラッシュ……もう疲れたよ……
私の言説を「公式に肩入れし過ぎている」と思う人も少なくないだろう。
無論これらは公式の情報を元に推察した”考察”ないし”冷奴”でしかない。
信じるか信じないかはアナタ次第である。
しかし、これが冷奴であったとしても(邪推すれば公式は本当にたつき監督の前作を破壊するためにこんな演出をしたのだとしても)、私は確かに5,6話に「けものフレンズ」という作品のポテンシャルを見た気がする。それは誰かの作家性に依らない純然たる作品コンセプトとしてのポテンシャルである。
しかし、それらもこれまで積み上げてきた人たちがいなければ、知ることは出来なかった。コンセプトだけでは作品にはならない。
故に、ここで改めて謝意を伝えたいと思う。
吉崎観音先生、フライ先生、たつき監督、春日森監督、木村監督、村上大樹さん
もちろんこっちも見てます。めっさ好き。
こっちはそれほど好きではない。
KFP、NEXON、ヤオヨロズ、トマソン、KADOKAWA、ブシロード、GOODROID、SEGA、テレ東、ネルケプランニング等のグループや企業
内田さんを始めとする声優さん
誰よりも5、6話で心労を受けたであろう人。ご自愛下さい。
秋山さん、オーイシおにいさん、みゆはん等の音楽関係者
ジャパリビートは隠れた名曲
そして、動物園、水族館、動物関連施設の方々
毎日のようにコラボグッズが完売している。
その他、けものフレンズに関わっている、関わっていた全ての方々へ
「けものフレンズ」を繋いでくれて、ありがとうございました。
(木村監督と春日森監督はまだまだ頑張って下さい)
そして、未だ見ぬ未来の誰かが作る「けものフレンズ」を楽しみに待とうと思う。
それは永遠と引き換えに得られる、貴重な物だから。
2がダメ?大丈夫。3がもう既にある。
最後は、アプリ版の冒頭部分の抜粋で締めたいたいと思う。
結局明かされなかったこの言葉の真意も、今ならばどことなく理解できる気がする。
あなたは忘れてしまうでしょう
ともに過ごした日々と私のことを……
私は忘れない。
あなたの声、温もり、笑顔……その優しく純粋な心
どれほどの時が経っても……
あなたが全てを忘れてしまっても……
私は決して忘れない
本当に、ありがとう
いつかまた、きっと私たちは出会えるから……
今は、さよなら……
それはそれとして、2話は一体何だったんだ……