信仰の自由に関する国際報告書(2017年版)―日本に関する部分

*下記の日本語文書は参考のための仮翻訳で、正文は英文です。

米国国務省民主主義・人権・労働局

2018年5月29日発表

エグゼクティブ・サマリー

日本国憲法は、信仰(信教)の自由を規定し、宗教団体がいかなる政治上の権力であろうともこれを行使すること、あるいは国からの特権を受けることを禁止している。法務省は、同省の人権機関が2016年(入手可能な最新の統計)に受理した信仰の自由の侵害の可能性がある案件についての相談は274件だったと報告した。2015年は300件だった。政府は、ビルマのイスラム教徒ロヒンギャ族など、母国で迫害を受けていると申し立てた一部の宗教信者に、引き続き保護の地位を付与した。

報道によると、神社および寺院で器物損壊を行った複数の加害者が逮捕された。ある宗教間団体は、加害者の動機に関するさらなる情報を得るまでは、このような器物損壊行為を信仰の自由の侵害とは見なさないと述べた。

来日した米国国務省民主主義・人権・労働局の担当官および米国大使館の代表者は、信仰の自由、寛容、多様性の受容を促すため、政府、宗教団体、少数派宗教団体の指導者およびその支持者、ならびに法律の専門家と話をした。

1節 宗教統計

米国政府は、日本の総人口を1億2650万人と推計している(2017年7月の推計)。政府機関である文化庁の報告によると、各宗教団体の信者数は、2015年12月31日時点で合計1億8800万人であった。この数字は日本の総人口よりも大幅に多く、日本国民の多くが複数の宗教を信仰していることを反映している。例えば、仏教徒が神道など他の宗教の宗教的儀式や行事に参加するのは一般的なことであり、逆もまた同様である。文化庁によると、信者の定義および信者数の算出方法は宗教団体ごとに異なる。宗教的帰属で見ると、神道の信者数が8900万人、仏教が8800万人、キリスト教が190万人、その他の宗教の870万人が含まれる。「その他」の宗教および未登録の宗教団体には、イスラム教、バハーイー教、ヒンズー教、およびユダヤ教が含まれる。先住民のアイヌは、主に精霊信仰を実践し、本州北部および北海道に集中しており、少数が東京に居住する。外国人労働者と緊密に接触する非政府組織(NGO)によると、ほとんどの移住者や外国人労働者は、仏教または神道以外の宗教を実践している。ある学者の推計によると、日本人以外のイスラム教徒の数は10万人、日本人イスラム教徒は1万人であった。ロヒンギャ族の代表者によると、イスラム教徒ロヒンギャ族の人口は約300人で、ほとんどが東京都の北に位置する群馬県に集中している。日本ユダヤ教団によると、日本ユダヤ教団に加入しているユダヤ教徒世帯数は100~110世帯だが、ユダヤ教徒の総数は不明である。

2節 政府による信仰の自由の尊重の現状

法的枠組み

日本国憲法は、信教の自由を保障し、国は宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならないと義務付けている。また国民は、憲法が保障する権利を濫用してはならず、これらの権利を公共の福祉のために利用する責任を負うと定めている。

政府は、宗教団体の登録または認証申請を義務付けてはいないが、法人格の認証を受けた宗教団体は、団体の運営維持費の一部に利用される寄付金および喜捨金にかかる所得税を納める必要がない。政府は、法人格を申請する宗教団体に対し、当該団体が物理的な礼拝施設を備えており、教義を広め、宗教的儀式行事を行い、信者を教化育成することが主たる目的であると証明することを義務付けている。申請者は、宗教団体としての3年間の活動記録、信者と宗教教師の一覧表、宗教団体の規則、財産管理についての意思決定方法に関する情報、過去3年間の収支計算書、財産目録を、書面により提出することが義務付けられている。法により、法人格を申請する宗教団体の所轄庁は都道府県の知事であり、登録は都道府県庁に対して行わなければならない、と規定されている。例外として、複数の都道府県に事務所を持つ団体は文部科学大臣に対して登録を行う。申請者が宗教団体としての法的定義を満たしていると文部科学大臣あるいは都道府県知事が確認した後、申請者はその目的、主要人員、財務状況に関する管理規則を作成することを、法で義務付けられている。文部科学大臣または知事が法人格の申請を認可し登録すると、申請者は宗教法人となる。

法により、認証を受けた宗教法人を監督するためのある程度の権限が、政府に与えられている。また、法により、認証された宗教法人には資産、収入、支出を政府に開示することが義務付けらている。法はまた、営利活動に関する規定に違反している疑いがある場合に調査を行う権限を政府に与えている。宗教法人がこうした規定に違反した場合、当局は、当該法人の営利活動を最長1年間停止する権限を持つ。法により、刑事収容施設において被収容者が一人で行う礼拝は、禁止されてはならないと規定されている。

法により、国および地方公共団体が設置する学校は、特定の宗教のための宗教教育その他宗教的活動をしてはならないと規定されている。また、宗教に関する寛容の態度、宗教に関する一般的な教養および宗教の社会生活における地位は、教育上尊重されなければならないと定められている。公立および私立学校は、文部科学省の基準に沿って教育課程を編成しなければならない。こうした基準は、中学生および高校生に対して一般的な宗教教育を行う場合、学校は慎重に配慮すべきと定める法に基づいている。

労働組合法は、何人も宗教によって労働組合員の資格を奪われないと定めている。

日本は、市民的及び政治的権利に関する国際規約の締約国である。

政府による実践

法務省人権擁護局は、4月より、既存の外国語人権相談ダイヤルを、英語、中国語、韓国語、タガログ語、ポルトガル語、ベトナム語の6カ国語で利用できるようにした。5月、法務省は、同省の人権機関が2016年に受理した信仰の自由の侵害の可能性がある案件についての相談が274件(2015年は300件)であったと報告した。人権侵害が疑われる2万705件中、32件(2015年は51件)は信仰の自由が侵害された可能性が高いと確認し、11件(2015年は27件)については、当事者間の仲裁を行う、人権侵害者に素行を改めるよう要求する、あるいは人権侵害の申立人が法的助言を得られるよう所管当局へ紹介するなど、潜在的被害者に対する支援を行なった。しかし、法務省によるこれらの措置には法的拘束力はなかった。

文化庁によると、2月時点で、約18万2000団体が、国および都道府県により、法人格を持つ宗教団体として認証されていた。その数の多さには、宗教団体の地方組織が個別に登録していることが反映されていた。教派神道、仏教、キリスト教、神社神道、新興宗教団体で構成される宗教間NGOの日本宗教連盟によると、政府は、要件を満たした宗教団体に対して法人格を認定した。

ある市民団体は、この団体が入手した、政府がイスラム教徒を監視したことを示唆する情報について報告した。

5月、日本弁護士連合会は、栃木刑務所の当局者が2014年にバングラデシュ国籍のイスラム教徒の女性受刑者から礼拝用スカーフを押収し、代替品としては不十分な布を提供し、ラマダン期間中の適切な食事の提供を怠った事案を公表した。日本弁護士連合会によると、刑務所当局者からの回答は、自殺あるいは逃走防止のためにスカーフを合法的に没収した、当該受刑者の信仰に配慮した代替布を提示した、当該受刑者がラマダン初日にラマダンを行うつもりはないと刑務所に伝えていなければ、栄養価が3回分の食事に相当する食事を1回で提供していた、とのことであった。

独立した刑事施設視察委員会によると、ある拘置所の所長は、主に死刑囚が教誨を受けることを許可しなかった。この所長は、受刑者が宗教的儀式を受けることの可否に関する決定は、利用可能な資源が限られているという事情に基づいて下されたと回答した。

法務省によると、2015年に刑事収容施設は引き続き、被収容者に対し、民間ボランティアの教誨師による宗教的儀式や教誨を実施し、その回数は集団に対して8707回、個人に対して5822回だった。教誨師を育成する公益財団法人・全国教誨師連盟によると、受刑者が面会可能な神道、仏教、キリスト教、その他の宗教のボランティア教誨師は2017年1月時点で推計1864人だった。

法務省は、被収容者に対して食事、聖職者への面会および礼拝場所を適時に提供する上で被収容者の信仰に配慮するよう、収容施設に対し一貫して指示したと述べた。

NGOおよび報道によると、大阪入国管理局は、スーダン国籍およびエジプト国籍のイスラム教徒の被収容者に、豚肉入りの食事をそれぞれ2回提供した。

法務省の報道発表によると、同省は、国連の難民の地位に関する条約および議定書に基づき、宗教を理由に迫害のおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有した少なくとも1人の申請者を難民として認定した。2016年に28人の申請者が難民と認定された。

政府は、法輪功学習者と自認する中国人に、日本国内にとどまることを認める特別な地位を引き続き付与すると同時に、法輪功信奉者が多数を占める海外の芸術家が公演のために入国することを許可した。地方自治体は、これらの芸術家が各自治体の施設で公演することを許可した。

政府は、ビルマでの民族的・宗教的迫害を根拠に来日した約300人のイスラム教徒ロヒンギャ族の多数に、人道的な理由による特別在留許可、または一時的な滞在ビザを引き続き発給した。これらイスラム教徒のほとんどは日本に5年以上居住しており、中には15年以上居住している者もいた。これまでに政府は、イスラム教徒ロヒンギャ族18人に対して難民認定を行なった。その他の人たちは、依然として、不法滞在の状態が続き、いずれの公式な再定住プログラムにも参加していない者もいた。一時的なビザは、地方入国管理局で頻繁に更新する必要があった。一時的な滞在の地位には、ある程度の国外退去の法的リスクが伴ったが、2017年に、ビルマ出身のイスラム教徒ロヒンギャ族で国外退去させられた者はいなかった。ロヒンギャ族の代表は、日本政府がビルマ国内での宗教的迫害を恐れるロヒンギャ族の難民認定に消極的だったと述べた。法務省は、イスラム教徒ロヒンギャ族の難民認定に際し、他の申請者と等しく同じ基準を適用したと述べた。

3節 社会による信仰の自由の尊重の現状

日本ユダヤ教団は、ある小規模グループがおそらくはユダヤ教徒と米国国民を同一視したために、日本ユダヤ教団の建物前で米国国民に対する抗議デモを行ったと報告した。日本ユダヤ教団は、本報告書の対象期間に反ユダヤ行為の報告はなかったと報告した。

東日本旅客鉄道は、あらゆる宗教の実践者が利用できる、年中無休の祈祷室を東京駅構内に開設した。これは、報道によると、主に、増加するイスラム教徒の訪日旅行者への対応措置であった。

報道によると、神社および寺院で器物損壊を行った複数の加害者が逮捕された。日本宗教連盟は、加害者の動機に関するさらなる情報を得るまでは、このような器物損壊行為を信仰の自由の侵害とは見なさないと述べた。

ハラル食品を入手する機会は、引き続き多くの地域で拡大した。報道によると、8月9日、ムスリム世界連盟および東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会は、2020年の東京大会におけるイスラム教徒選手へのハラル食品の提供について協議した。イスラム教徒ロヒンギャ族の代表は、地域との友好的共存および他の宗教団体との交流について報告した。

4節 米国政府の政策

来日した米国国務省民主主義・人権・労働局の担当官は、米国大使館の代表者と共に、外務省および法務省と、日本国内の信仰の自由および寛容について協議した。文化庁とのやり取りの中で、大使館は、宗教間の尊重と共存を強調した。

大使館職員は、特に、イスラム教、ユダヤ教および法輪功などの少数派宗教団体、ならびに外国人労働者に関与した。大使館の外交官は、信仰の自由の尊重を促す米国の立場を明確に示すため、仏教団体である創価学会の代表者と協議した。また、日本で難民認定を求めているイスラム教徒ロヒンギャ族と会合を持ち、ロヒンギャ族が必要としていることについて協議した。