第12回 甲状腺検査評価部会発言要旨

 

【2巡目の解析結果について】

・1年目と2年目の細胞診実施率が減っているのと同じ形で悪性腫瘍の診断率が減っている。超音波診断の診断効率が上がったという判断は誤りではないか

➡この質問は私の誤りです。悪性腫瘍の診断率は分母が細胞診を実施した対象者数ではないので、その中では悪性腫瘍と診断された対象者の率は上昇していることになります。

・放射線影響の解析において細胞診実施率の増減等のバイアスが排除されていないのではないか。

 

【インフォームドコンセントについて】

 会議で意見のすべてが説明・議論されてはいませんので、資料2-2 甲状腺検査お知らせ改定案への部会員意見をご覧ください。

https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/311857.pdf

特に言いたかったのは最後に記載されている以下の部分です。

1)インフォームドコンセントの目的は対象者の健康を守ること、検査を実施する医療者を不要なトラブルから守ること。両者を守ることが検査の体制を守ることに優先されてはならない。

2)その目的のためには、根拠のない利益を記載してはいけない。害については可能性の段階でしっかり知らせなければならない。

 

〇インフォームドコンセントの目的について

「目的が記載されないとインフォームドコンセントがなされているとは見なされない。」

 

〇子供の甲状腺癌はアグレッシブであるとする他の部会員の意見について

「若年者の甲状腺癌は成長が早く、転移・再発も多いが、予後が極端によく成人のものとは全く別物。これはそのうち成長を止めるということで、最近の論文でもそのようなデータが出ている。」

 

【記者会見】

1.子供の甲状腺癌はアグレッシブなのかそうでないのか。

「転移・浸潤・再発が多く、増殖も速いために一見アグレッシブに見えるが、予後が極端に良いという点ではアグレッシブとは言えない。」

2.福島で行われている手術は過剰なのか?

「計算上は過剰な手術をしていることになる。」

 

【注釈】

 今回の会議でわかったのは、いまだに多くの方が若年者の甲状腺癌についての理解が不十分であるということです。若年者の甲状腺癌は従来の癌の常識では考えられないような性質を示しますのでそれを理解しないと判断を誤ります。

 若年者の甲状腺癌の自然史、すなわち、どう発生してどう進展するかは今の時点でほぼ解明されています。25歳以下については福島県のデータや学校検診のデータがありますし、30歳以上では人間ドッグのデータや微小癌の経過観察のデータがあります。すなわち、データが無いのは20代後半だけですのでつなげて推測するのは容易です。その過程をまとめると、癌は15歳くらいから発生しだし、10代、20代では急速に増大し、甲状腺外にどんどん進展します。このような時期に縮小手術をすれば当然再発率も高くなります。ところが、これらの癌は30歳以降は成長を止め、逆に小さくなるものも出てきます。このような経過は剖検のデータとも一致します。

 10代、20代で超音波でしか見つからないような甲状腺癌はそのほとんどが中年以降に高頻度で見つかる微小癌となる運命のものです。超音波検査が実施されていなかった時期には、これらのうちで最も増大速度の速いごくごく一部(おそらく100個に1個程度)の選りすぐりのものが10代、20代の臨床癌として見えていたのです。そしてこの選りすぐりのものの性質を指してアグレッシブだ、と言ってきたのです。これらの症例は派手に遠隔転移しているものが多いのにも関わらず、生涯生存率は95%以上です。これも腫瘍が成長を止めていくからに他なりません。

 福島県立医科大学での病理所見で甲状腺癌の甲状腺外への進展が8割以上に見られたことで、超音波検査による早期診断の必要性を主張する方がおられますがこれは間違いです。超音波検査スクリーニングの有用性を示すためには、超音波検査で早く見つけたら甲状腺外への進展が少なかったことを証明する必要があるはずですが、結果は逆です。超早期に見つけたところで癌は既に広がってしまっているのです。すなわち、超音波検査は無駄です。治療が必要かどうかについては、今後増大して臨床癌になるのかどうかで判断するしかありませんが、それには触診等で十分でしょう。超音波検査はいったい何の役に立っているのでしょうか?冷静に考えてみてください。

 
大阪大学医学系研究科甲状腺腫瘍研究チーム:ホームへ戻る