手口も顔見知りの熱心なファンを使ったもので、ウソの熱愛話や喫煙をでっち上げられ、事実として「拡散」されたという。だが、その類いのもめ事に運営側が興味を示さなかったため、「アイドルは長くやれない」と涙し、しばらくして彼女は引退してしまった。

 確かに、彼女がアイドルを続けるには、メンタルが弱かったことは否めない。「ルックスは可憐でも中身はまるで男」というような女性が多い世界である。ただ、運営側がアイドルの商品価値を落とす話にまで無関心だったのは、そうした話が表に出ることが、運営側にとっては「百害あって一利なし」だったからだろう。

 そんな道理がまかり通るのは、若い女性タレントを見下してモノ扱いするような向きもあったのかもしれない。「キャバクラ商法」「風俗まがい」などと揶揄(やゆ)されるAKBのビジネスモデルは、海外メディアから「女性の性的搾取」と指摘されたこともある。

 ある日、支配人ら運営側のお偉いさんがテレビ局の収録現場にやってきて、未成年を含む若い女性たちが整列して「先生、おはようございます」と一斉に頭を下げる場面に出くわしたことがある。そんな彼女らに愛想一つ振り向かず、肩で風切って闊歩する様は、私には幼稚な「ガキ大将」に見えた。いい大人が、世間知らずの若い女性たちに神様扱いされ、ボス面しているのは正直滑稽だ。

 当のアイドルたちも自らの成功のために、会場に充満する汗臭さを我慢しながら大行列の握手会をさばくように、本音と建前を使い分けして生きるしかない。みんながスターを夢見る競争社会では足の引っ張り合いなど日常茶飯事であり、管理が行き届かなければ、トラブルが起きないわけがない。だが、金儲けに群がる者たちにとっては大金が稼げればそれでいい。だからこそ、ビジネス全体の価値を大きく毀損する事態以外には興味を持たないのである。

 そんな世界の中では、一部の売れっ子を除けば、一人ひとりの女性を守る姿勢は希薄になりやすいのではないだろうか。事実、一人いなくなっても「代わりはいくらでもいる」と言わんばかりに、メンバーの卒業と加入が繰り返されていく。

 ただ、アイドルに没頭するファンたちにとって「代わり」などいない。自分がアイドルの魅力の虜になっていたとしても、運営のビジネスモデルに気づかないほどバカではない。自分たちが注ぐ「愛情」が運営側の金儲けになっていることも分かっており、それを踏まえた上で声援をしきりに送り続けているのだ。
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
※写真はイメージです(ゲッティイメージズ)
 だから、アイドルの運営者に対して、ファンは潜在的な拒絶反応を示している。芸能界を大きく揺るがした、あのSMAP解散騒動では、ジャニーズ事務所がファンだけではなく、世間からも叩かれた。しかも、「無風」に見えた嵐や関ジャニ∞のファンまでも、事務所の対応を批判した。そんな「愛情」と「ビジネス」の矛盾から来るファンのストレスが、アイドルに危機が訪れたときに、大きなパワーとなって運営側に跳ね返るのである。

 今回の事件は多くの謎を残しており、そう簡単には風化されないし、運営に対する非難も止むことはないだろう。アイドル活動という「ファンタジー」の舞台裏を運営者がさらけ出してしまったことは、プロとして大きな失態以外の何物でもない。

 この事件でアイドルへの応援熱が冷めることに危機感を覚え、金儲けに躍起な人々は必死に取り繕おうとするだろう。だが、そんな姿勢もまた、人々に見透かされていくだけではないだろうか。