片岡亮(ジャーナリスト)

 商品であるはずのアイドルが犯罪被害に遭ったにもかかわらず、運営側は不自然な火消しに走り、グループを統括するプロデューサーも叱咤する姿を伝えて自らの責任がないことを示す。同じグループの中でさえ、白々しい言葉で事件から距離を置くメンバーもいた。

 スポーツ紙や週刊誌も事なかれに走ろうとし、テレビのコメンテーターに至っては「犯人探しはやめましょう」「教えたメンバーに悪意はなかった」と、運営側の意に沿った論調を作ろうとした。アイドルグループNGT48メンバー、山口真帆に対する暴行事件は、彼女を取り巻く環境、その全てが異様に映った。

 唯一、まともに見えたのは、被害者当人と彼女を救済しようと必死で真相を追い、批判の手を緩めなかったファンだけだった。ただ、思えばアイドルビジネスの中で最もピュアな関係にあるのは両者の「絆」なのだから、ある意味当然なのかもしれない。

 周囲の人間はあくまでビジネス本位で関わっているだけであり、なるべく面倒なことには首を突っ込みたくない。むしろ自分が非難されることは是が非でも回避したいと願う。極端かもしれないが、一人の女性がどうなろうが知ったことではない、というのが本音だろう。

 このアイドルビジネスの元をたどると、東京・秋葉原を中心とした「萌え市場」の隆盛にある。2000年代前半、ゲームやアニメなどの中で「美少女系」とも呼ばれた二次元コンテンツの人気が爆発し、関連企業の売り上げも急増した。自作パソコン販売などが主体だった電気街も、あっという間に美少女イラストだらけの街に変貌し、恋愛シミュレーションゲームや関連のキャラクターグッズ、フィギュアといった商品が店頭に並んだ。

 いつしか「オタクの聖地」となった秋葉原ではメイド喫茶が大流行し、コスプレ女性がアイドル的人気を博すようになった。中には追加料金で性的サービスをさせる違法店まで現れ、生身の女性を売りにしたキャバクラや性風俗と変わらない、一種の「風俗街」のように変貌した感もあった。

 当時の識者は「未婚男性が増え、趣味に金をかける人が増えた」などと分析していたが、顧客はいわゆる「オタク」と言われる、これまでのアダルト市場であまり対象にならなかった層だ。キャバクラで酒を飲みながら女性を口説くことに興味を示さない男性が、メイド喫茶では女性に指名料を支払ったのである。
東京・秋葉原(ゲッティイメージズ)
東京・秋葉原(ゲッティイメージズ)
 そこに目を付けたと思われるのがAKB48だ。2005年、専用劇場を常設し「会いに行けるアイドル」として誕生すると、やがてCDにアイドルとの握手券をつけた「握手会商法」が生まれた。ブレイク前、「所詮オタクは少数だから、全国的人気を博すのは無理」と評していた人もいたが、実際には握手会の長蛇の列もかえって話題を呼び、ファンがさらに増えた。

 こうしてAKBは数々のヒット曲とともに認知度も高まり、気が付けばオタクの枠を超えて、「国民的アイドル」と呼ばれるようになった。SKEやNMBといった姉妹グループが日本各地に続々生まれたのも、そのビジネスモデルがオタク相手にとどまらず、幅広い層に浸透したからだ。だが、「量産」したアイドルからはボロも出始め、それが今回の事件につながったとも言える。