打算的
「錬さん、どうしたんですか?」
「いや、最初の世界の俺達とさっきのコウは同じだったんじゃないかと思ってな」
「どういう事ですかな?」
「良く考えてみろ。俺と樹、そして元康がさっきのコウみたいに尚文と接していたら……」
「あー……そういう事ですか……」
俺と錬、樹がお義父さんを盾職の雑魚だと舐めた態度を取る……ですか。
まさに最初の世界ですな。
「つまり未来の俺達はさっきのコウみたいに、尚文を舐め切っていたんじゃないか?」
「個人的に否定したいですが、それ事実だと仮定すると、凄くウザイですね……」
しかもコウ一人ではなく、俺達三人ですからな。
そこに赤豚やクズ、三勇教などが加わるのですぞ。
お義父さんでなくてもキレて当然でしょうな。
「なの!」
おや? ライバルが喋り始めましたな。
今はお前の相手をしている余裕などありません。
黙っていろ、ですぞ。
「ん? ガエリオンちゃんが変わった鳴き声をし始めたね」
「……よろし、く……なの!」
ペロッと何やら愛嬌を振り巻いておりますな。
あざといですぞ。
お前などお呼びじゃないですぞ。
「なのって言うのは語尾かな? やっぱり喋りはじめるんだね」
「うん。ガエリオン、お父さんみたいに立派になるんだよ」
「まか、せる、なの!」
まだなんとなくイントネーションが変ですな。
それからライバルはモグラにじゃれながら言いますぞ。
「ガエリオん、が、フィロリアル、から守るなの!」
「そっか、ガエリオンちゃんはちゃんと理解してるんだね」
「なの! ガエリオんは、なおふみに、気に入られたいなの!」
「……」
その返答にお義父さんが貼り付けた様な笑顔になりました。
助手も完全に呆れております。
「コウさんは無邪気ですが、ガエリオンさんはどうも打算的に見えますね」
「気に入られたいからイミアを守るって言ってる様に聞こえたな……」
「個性的な仲間が増えてきましたね。良かったですね、尚文さん」
「これはあんまり嬉しくないなー……」
「なの!」
ライバルの自己主張に俺とフィロリアル様達はイラっとしました。
そんなこんなでその日は宿でぐっすりと休んだのですぞ。
翌日になりました。
今朝もお義父さんはサクラちゃん達と朝の遊びをしてから出発の準備をしていましたな。
ライバルも参加してかなり白熱した様ですぞ。
「さて、じゃあ今日こそフォーブレイに行かなきゃね」
「うむ……正直、急務と言っても差し支えない。間違いなくメルロマルクで何か異常な事が起こっている」
エクレアが真剣な表情で意志を伝えてきますぞ。
「うん。それは分かってるよ。元康くんから聞いた話とも多少齟齬もあるし、何より国内の調査を俺達もしていたからね」
「ええ、なるべく早めに行くべきでしょう」
「その事に関してなのですが、俺は前回のお義父さんに色々と言付けをされていますので、それが終わってからで良いですかな?」
「何かあるの?」
「フォーブレイでの問題を早急に、且つ迅速に終わらせる為ですぞ」
「ん? 元康、もっとかみ砕いて教えてくれないか?」
「そうですな」
俺は前回のお義父さんから教わった事を概要を説明しました。
主にタクトとその配下の豚共、そして対処法などですぞ。
「聖武器を奪う能力者か……そいつが今までのループで悪さをしようと暴れることが多いのか」
簡単な説明を終えると錬が難しそうな顔でそう言いました。
「そうですぞ。前回のお義父さんは『俺達を倒せば武器が手に入るボスか何かと勘違いしてる』と言ってましたな」
「確かにそんなゲームがありますね。僕もプレイした事がありますよ」
「一体そいつは何者なんだ?」
「奴は敵ですぞ」
「そのような者がいるのか……キタムラ殿、その者の名前はなんと言うのだ?」
「タクトと言うのですぞ」
「タクト……フォーブレイの天才だという話を聞いた事がある」
エクレアは割と物知りですな。
さすがは騎士と言った所でしょう。
「毎回毎回、俺達を呼び出しては馬鹿の一つ覚えの様に一斉射撃をしてくるのですぞ」
「まあ同じ人物だからな。考える事は一緒になるだろ。いや……それは状況が違ってもか?」
「ですぞ。どんな状況でも撃ってきますぞ」
「……随分と好戦的な人達なんですね」
いい加減うんざりですな。
ですので、前回のお義父さんから知恵を授かっているのですぞ。
出来れば言われた通りに実行したいですな。
「で、話を戻すが、前回の尚文に何か言われているのか?」
「ですぞ」
「それなら安心だな。元康は尚文に教わった事ならある程度上手く立ち回る。俺達は問題が無い範囲で見守っておくとしよう」
「メルロマルクの一件もあるから、俺の作戦らしいけど、どんな作戦なのか確認は取るけどね」
「しかし、何が起こるのか……そもそも勝てるんですか? そんな能力者に」
「今の俺達なら十分に勝てますぞ。何せ、最初の世界では四聖の強化方法と二つの七星の強化方法を実践してお義父さんが一方的にボコボコにしましたからな」
「尚文が? どうやって?」
「武器を一時的に取られてしまった時は攻撃出来たのですぞ」
この時俺は別働隊で樹と一緒に波に挑んでいたので、詳しくは知らないのですぞ。
ですが準備の時に訓練と称して何度か戦闘の練習をしました。
結果、お義父さんの攻撃力の低さは、盾の影響だという事がわかったのですぞ。
「全ての武器の強化方法を知っている僕達からしたら造作も無いという事ですか。なら安心ですね」
「だが、取り巻きが問題を起こすんだろ? その辺りも尚文から聞いているのか?」
「聞いてますぞ。安心して良いですぞ」
「わかった。じゃあ出発しよう。元康、任せたぞ」
という事で俺達はフォーブレイに向けて出発しました。
目と鼻の先ですからな。
フォーブレイに入国してからフィロリアル様の足で広い国土の舗装された道を最速で向かいますぞ。
「舗装されているからかあんまり揺れないね」
「そうだな。これなら乗り物酔いもしなくて済むんだろうがな……」
「もう慣れましたよ」
「なのー」
ライバルが助手を乗せて悠々と先を飛んで行きますぞ。
順調ですな。
「ここから先には行かせん! 偽勇者!」
道中で三勇教の刺客が大群で出てきましたが、今の俺達に手も足も出ません。
馬車から俺、樹、錬が遠距離スキルで薙ぎ払って進みましたな。
儀式魔法の類はお義父さんが盾を出現させるスキルを傘の様に出して防御しましたぞ。
そもそもライバルとフィロリアル様が感知して儀式魔法は事前に知ることが出来るのですがな。
戦力的に見て、以前のループで戦ったメルロマルク軍とは比較にならない程、弱かったですな。
そういう訳で、翌日の朝にはフォーブレイの首都に近付きました。
「確かに元康の言う通り科学が発展した国になっているんだな」
「車があるね。完全にスチームパンクの世界……なのかな?」
「銃器も取り扱っているみたいですね。さっき銃を売っている店がありましたよ」
「樹は銃が扱えるんだったか」
「ガンマンに転職?」
「その話をぶり返すんですか?」
フォーブレイの話をしていると時々お義父さんと錬が樹をからかう話題ですな。
樹も嫌とは言わずに苦笑いをする話ですぞ。
「ここがフォーブレイ……」
「イミアちゃんは初めて?」
「……うん」
お義父さんが馬車の後ろから見える町並みを見るモグラに向けて尋ねますぞ。
「凄いね。イミアちゃんは何か興味が出てきた?」
「うーん……」
「知りたいことがあったら言ってね。俺も協力するから」
「ありがとうございます」
そこにライバルが滑空して来て、馬車の縁に止まりました。
勝手に止まるなですぞ!
「なの! ちょっと空気が悪いなの!」
「蒸気機関があるみたいだからねー。排煙問題で空気が悪いのかもね」
「でも飛ぶ変な乗り物を見たの!」
「飛行機とか飛行船があるらしいからね。飛空艇もありそうだね」
「……人間の技術ってすごい」
助手も目を丸くして町並みをキョロキョロと凝視している様でしたぞ。
しかし、お前も人間ですぞ。亜人ですがな。
自分をドラゴンとでも思っているのですかな?
「ここがこの世界の一番大きな国の首都なんだね。オンラインゲームとかだとこういう国はあるけど実際に来ると感嘆の言葉しか出ないね」
と、お義父さんが珍しい物を見る目で言いました。
錬も樹も似たような表情をしていますな。
エクレアは来た事があるのか、馬車を引くフィロリアル様達に方向を指示していますぞ。
「まずは四聖勇者である事を証明してから城に向かうべきだろう。四聖教会本部へ行く」
「ああ、四聖勇者を信仰するちゃんとした宗教なんだっけ?」
「どうも三勇教の影響か、宗教は信じがたいんですが」
樹の台詞はもっともですな。
俺も毒にも薬にもならない宗教なイメージしかないですぞ。
四聖教の方も、敵では無いし、どちらかといえば味方、という認識ですな。
実際の所、どういった組織なのか知らないのが実情ですぞ。
「直接城に行くのも良いが、ちゃんと証明をして行った方が堅実だと私は思う」
そう言えば最初の世界のお義父さんは面倒臭がって女王に一任していましたな。
まあ、女王の顔パスだったのが理由でしたぞ。