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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

外伝 槍の勇者のやり直し

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フリーズ

「な、なんだ!? 元康の頭から煙が出てるぞ!」

「実際に人から煙が出るなんて初めて見たんですけど……」

「元康様!? 元康様がこんなになるだなんて、この後何が起こりますの?」


 ユキちゃんが俺の元に駆け寄ってからお義父さんとコウを見ますぞ。

 このままではコウが大変な事になってしまいます。


「コウ、今すぐ謝るのですわ! 未来を知る元康様がこんな風になるという事は、きっと大変な事になりますわよ」

「えー? 大丈夫だよーイワタニは怖くないもーん」

「おい、尚文……完全に舐められてるぞ……」

「攻撃出来ないからって下に見られてますね」


 おや、前回キールが言っていたセリフを錬が言ってますな。

 樹の言う通り、コウは愚かにもお義父さんを少々バカにしているのかもしれません。

 ……今はそれ所じゃないですぞ。

 動け、俺のフリーズしそうな脳細胞!


「……コウ、もう一度聞くけど、イミアちゃんを何だと思ってる?」

「えっとねー大きくなったらみんなで料理して食べる為に育ててるんでしょ?」

「……あのね。コウ、イミアちゃんをそんな目で見るのはいい加減にしてくれない?」

「えー……まあモグラくらいならコウだけでも食べれるよ」

「そんな事は絶対にさせない。今ここで絶対にしないって約束しないと俺も怒るよ?」

「えーやだー。それにイワタニじゃむりむりむりー」


 グハァッ!?

 コウのあまりにも無謀な発言によって俺の脳細胞は完全にフリーズしました。


 ……。

 …………。

 ………………。


 そこから先は俺は意識が無いですぞ。

 気が付いた時にはコウが縛られていて号泣しており、全身に解体時の部位名が炭で描かれておりました。

 目線を変えると、錬と樹がエクレアを盾にしてブルブルと震えております。

 そしてユキちゃんとサクラちゃんも寄り添う様に震えておりました。


「コウは知っているかい? 俺達は避けているけど、フィロリアル料理という文化がこの世界にはあるんだよ。大きくなったらみんなで食べる、だっけ? それはコウの事を言っているのかな?」

「うう……やー! コウは、コウはー!」

「さーて……今日はごちそうだー……」


 お義父さんが懐かしいドスの利いた声を出しております。

 最初の世界のお義父さんより怖いですぞ。


「イミアちゃん、コウの急所はここだよ」

「あ、あああ……」

「遠慮しちゃダメだよ、イミアちゃん。このままじゃイミアちゃんがコウに食べられちゃうかも知れないんだよ」


 モグラの手にはナイフが……ってキールの時と全く同じですぞ。

 震えるモグラがコウを見つめると、コウは震えあがりました。


「ヒィイ! イワタニやめてー!」

「もしもイミアちゃんがやめてと言って、コウはやめる? 樹がやめてくださいとお願いしてるのに髪を弄るコウが?」

「うわーん!」


 張り裂ける様な声に宿屋の近くを通りかかる人達もじろじろと見ておりますぞ。

 モグラはお義父さんに縋りついて首を横に振っております。


「もう、もう良いから、私の事を心配してくれたのは嬉しいけど、もう……」

「イミアちゃんは優しいね」


 お義父さんが優しく微笑みますぞ。

 ホッと一息ですな。

 と思ったのも束の間、今度は錬と樹に視線を向けました。


「しょうがない、じゃあ錬か樹に任せようか。なーに、明日にはフォーブレイに到着するしね。コウの利用価値はもう無いよね」

「ギャー!」

「お、俺達を巻きこまないでくれ!」

「そうです!」

「樹……君が俺にお願いしたんじゃないか。さあ、コウにトドメを刺す役目は任せたよ」

「こ、ここまでしろなんて言ってませんよ!」


 お義父さんが微笑むと樹はガクガクと震えて首を横に振りました。

 樹のこんな表情、全てのループを含めて初めて見ますぞ。

 前回、波の時に捕まえた時ですら、こんな表情はしませんでした。


「ふう……しょうがないな。イミアちゃんと樹の優しさに感謝するんだよ? もしもまたイミアちゃんを狙ったら……俺がコウを狙うからね」

「うん……わかった。ごめんなさい、ごめんなさい! モグ――」


 コウがモグラと言い掛けた所でお義父さんが再度睨みました。


「イ、イミアちゃんごめんなさい!」


 お義父さんが縄を解くとコウはペコペコと涙目で何度も謝罪しておりました。

 ああ……歴史はこうも繰り返す事になるのでしょうか。

 コウ、守れなくてごめんですぞ。


「元康が注意したのはこの事だったのか」

「せ、背筋が凍り付くほどの演技でしたよ。本気だったんじゃないですか?」

「まさか……結果次第ならって訳じゃないけど、これで反省しないようだったらイミアちゃんとは別行動させるつもりだったよ」


 お義父さんはモグラを抱えて頭を撫でますぞ。

 モグラの方は複雑な面立ちでお義父さんを見上げていますな。


「本気……?」

「もちろん演技だよ」


 それからコウを見ますぞ。

 コウはペコペコと頭を下げてから、ユキちゃんの隣で静かにしております。

 これでコウも大人しくなりますな。


「さっきの雑談のレベルではなく、本気で尚文を怒らせるべきじゃないな」

「滅多な事じゃ怒りませんけどね……いつも笑ってるイメージがある所為か、逆に怖いんですよ」

「そういや初めて会った時はもっと調子が良かったもんな。若干チャライと感じた位だ」

「ふざけるのは好きなんだけどね。みんな楽しく一緒に居られたら良いと思ってるよ」

「……阻止出来ませんでしたぞ」

「あ、元康くんがフリーズから立ち直ったみたいだね」

「この様子だと以前の周回でもコウはやらかしたのか?」


 錬が腕を組んで聞いて来ますぞ。

 ああ、周りに居た通行人は騒ぎが収まったのを理解して通り過ぎて行きましたな。


「ですぞ。お義父さんの配下にいたキールという亜人の尻尾をコウは狙っていたのですぞ」

「獣っぽい部分を獲物と見る癖があるのか……元康、コウにトラウマを植え付けたくないなら最初から躾けておけよ」

「無理でしょ……元康くんって放任主義と言うか、絶対に叱れないみたいだし」

「しかし……随分とコウさんが大人しくなりましたね」


 コウはまだ啜り泣いているのか静かにしております。

 大丈夫ですぞ。コウの個性が損なわれる程ではありません。

 誰がピラミッドの頂点であるのか、理解しただけなのですからな。


「尚文の演技が凄かったからな」

「あんまり良い手じゃないのはわかってるけど、目を離した隙にイミアちゃんが食べられてましたじゃね……」


 やはりお義父さんはお義父さんですな。

 キールの時も同じ様なセリフを言っていた気がしますぞ。


「さすがにあのレベルだと教育として必要な事だとは思いますが、日本でやったら騒がれそうですよね」

「かと言って、諭して聞かないなら叱るしか無いだろ」


 ふむ、コウの件は残念ですが、錬や樹の意見はもっともですな。

 俺的にも否定出来ません。


「というか、錬さんの日本でもそういう問題ってあるんですね」

「まあな……今までの傾向から俺の世界独自だと思うんだが、ヴァーチャル育児問題というのがあってな」

「そんなのあるんだ。なんかSFっぽいね」

「やはり食いついてきたか……」


 言葉だけだと良くわかりませんな。

 お義父さんは興味があるようですぞ。


「それで、どんな問題なんですか?」

「ああ、育児放棄と言えば多分伝わると思う」

「あー、VRのプログラムに子供の面倒を見させて放置、みたいな?」

「それであっている。それだけじゃないんだが、俺の世界には叱れない親というのは多いらしくてな。変な犯罪を犯す奴も多いんだ」

「へぇ……どこの世界も大変なんだね」

「なるほど、躾は重要という事ですな」

「元康さんがまとめると、なんか引っ掛かるんですけど……ともあれ、時には厳しく躾ける事も重要という事ですか」


 まあ、俺にコウを叱る事など出来ませんが。

 モグラ鍋はやりすぎだと思いますがな。


「それにしてもやっぱり尚文の演技は怖かったな」

「その話まだ続けるの?」

「錬さん、普段温和な人ほど怒らせると怖いんですよ。尚文さんを怒らせない様にしましょうね」

「怒らせないようにって……尚文はそんなに怒りっぽくないだろ。俺達が何をすればあんな状態になるのか想像出来ないぞ」

「ちなみに最初の世界のお義父さんは常時あんな感じでしたぞ」

「え!?」

「何!?」


 錬と樹が声を裏返しましたな。


「待て待て、あんな目付きが険しい尚文が常時だと?」

「話を聞くと随分と僕達は対立していたそうじゃないですか。あんな尚文さんとですか?」

「あの……そこまで脅えなくてもいいんじゃないの?」


 呆れるお義父さんに比べて錬と樹は真剣そのものですぞ。

 なんかこちらに迫ってきます。


「最初の世界の俺は命知らずだろ! 死にたいのか!」

「そうですよ。あんな尚文さんを相手にしていたら胃に穴が開きますよ!」

「攻撃能力の無い盾職は弱いと舐めていたのではないですかな?」

「攻撃が出来るとか出来ないとかそういう問題じゃないんだ!」

「そうですよ! あんな風に睨まれただけでも怖いじゃないですか!」

「あのね……二人共、いい加減にしないと」


 ビクッと錬と樹がお義父さんを見ますぞ。

 お義父さんはなんだかなとばかりに溜め息を吐き、髪を掻いていました。


「今回が今回だっただけなんだから、そんなに警戒しないで良いよ。コウも反省したみたいだしね」


 そうですな。

 お義父さんはお優しい人なのですぞ。

 コウも時間と共に理解するでしょう。


 ん?

 なにやら錬が難しそうな顔で考え込みましたな。


「なるほど、そういう事だったのか」


 やがて何か納得した様に頷きました。

槍は呼び名を変えない。

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