漆黒の英雄モモン様は王国の英雄なんです! (通称:モモです!)   作:疑似ほにょぺにょこ
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9章 王国 世界大戦ー3

「シャルティア様──」

 

 王宮に、我らの下に突如現れたシャルティア様──アインズ・ウール・ゴウンの妻であり、強力な力を持つ異形『ヴァンパイア』であるシャルティア・ブラッドフォールン様。理性的でありおおらかであり、決して話せないお方ではない。だからこそ聞きたかった。なぜアインズ・ウール・ゴウンはこのような事を行ったのかと。姫様の言う様にアインズ・ウール・ゴウンが偽物だったとして、妻たるシャルティア様はその偽物に従うのかと。

 ちらりとガゼフに視線を送ると一つ頷き、音を立てぬままに足早にここから出ていく。装備を持って来てもらうために。王家の秘宝『五宝物』を持って来てもらうために。ただの装備では武器が持たない。ここで戦えるのは俺とガゼフだけなのだから。

 

「シャルティア様、貴方に一つ聞きたいことがあります」

「おや、聞き覚えのある声と思えば『爪切り』ではありんせんかえ」

 

 真っすぐに姫様らを見て居たシャルティア様がこちらを見て一言。通常であれば侮蔑ともとれる発言だが、そんな嫌味は一切感じない。本当にそう思って居るからだろう。

 

「貴方は──今のアインズ・ウール・ゴウンが偽物だと知っていながら従っているのですか」

「──っ!?」

 

 素人でも分かるほどの明らかな動揺。常に張り付いているかのような薄い笑みは消え去り、残酷ともいえる本来の顔がちらりと現れた。その目が、顔が。何故その事を知っているのかと雄弁に物語っていた。

 

「確定、ですか。じゃあなんで従って居るのですか。貴方が従うべきはそんな偽物ではない筈です。貴方が惚れた相手は偽物なんかじゃないはずです。そうでしょう、シャルティア様!」

「────」

 

 余裕のある表情は既にそこにはない。俯き、肩を震わせる姿はまるで見た目相応に──

 

「ぐぅっ!!」

 

 奇跡だ。奇跡が起きた。これまで培ってきた技術と経験が起こした奇跡。反応など出来るはずもない。俺は白魚のような細い指から延びる爪で一瞬の間に両断──されるはずだった。

 

「おや、少しは動けるようになったみたいでありんすねぇ」

 

 ほぼ無意識にこの刀──シャルティア様より頂いた雷神刀・初式を抜き、彼女の一撃を受け流したのだ。しかしその衝撃を受け流しきれるほどではなかったらしい。気付けば俺はそのまま吹き飛ばされており、王宮の柱に強かに背中を打ち付けていたようだ。だが運よく頭は打ってないようで、ふら付きながらも立ち上がることは出来ていた。

 

「──ぜだ。なぜだ、シャルティア様!貴方はそんな方ではないはずだ!!」

「まったく──理解していないでありんすねぇ」

 

 そう言うと彼女は純粋無垢な笑みを浮かべた。まるで美しい花の蕾たちが咲き乱れるかのように。

 

「私は化け物でありんす。可憐で可愛い化け物でありんす」

 

 ゆっくりと俺に近づいてくる。殺気など無い。欠片ほども感じない。だが分かる。理解する。彼女は一切の躊躇も無く俺を殺すのだろうと。

 

「可憐で残虐で、可愛くて冷酷で、優しくも非道な──」

 

 カツン、と靴が鳴る。必殺の距離。これ以上近付く必要はないという意思の表れ。そしてそれは──

 

「バケモノでありんす」

「今こそ飛べ、秘剣──虎落笛<もがりぶえ>──」

 

 キンッと音が鳴る。鯉口を切った音?否。斬った音?否。

 

「──始<はじまり>」

 

 納刀した音である。神速を超える速度で俺は彼女を切り抜けたのだ。今までの虎落笛とは違い領域を狭める代わりに、『待ち』から『攻め』へと昇華させた。後の先から先の先を取る極位の斬撃。反応すること能わず。防ぐこと能わず。生き残る事、能わず。俺の虎落笛は漸く完成したのだ。そしてこれはその『始<はじまり>』の技。

 

そして斬った部位は──

 

 ──首。

 

 しかし何故か俺の後ろで首が落ちる音がしない。血飛沫の音がしない。どういうことかと後ろを振りむく。そこには──

 

「やっと切れる程度にはなったでありんすか。長かったでありんすねぇ」

「ば──馬鹿な──確かに斬ったはず!?」

 

 まるで何事も無かったかのように立つシャルティア様の姿だった。

 

「あぁ、確かに切ったでありんすね。この首を」

 

 そう、事も無げに自分の首をとんとん、と叩く。よく見ればうっすらと血が滲んでいる様にも見えるが既に傷はそこにはない。

 

「まったく、人間というものは理解で遅いでありんすね」

「あ──あ──」

 

 ゆっくりと近付いてくる。それに気圧されるように、俺は一歩、二歩と後退る。内から湧き出る恐怖に勝つことが出来ずに。

 

「もう一を言うでありんすが、私は化け物でありんす」

 

 シャルティア様がにこり、と笑みを深める。とても楽しそうに。まるで恋人に向けるかのような笑顔を俺に──

 

「化け物である私が、高々『首を切った程度』で死ぬとでも思って居たのでありんすかえ?」

「斬って死なないなら、何度でも斬ってやる!秘剣──虎落笛・始<もがりぶえ・はじまり>ぃ!!」

 

 反応出来ぬほどの速度で何度も斬り続ければいつかは倒れるはずだと、己を鼓舞してもう一度放つ。しかし、それは無駄に終わることになったのだった。

 

「っぐぅ!?」

 

 ギリと耳障りな音。先ほどとは明らかに違う感触。まるで巨大なオリハルコンの壁でも斬ろうとしたかように。その理由は明らかだ。切り抜けられなかった俺は、反動のままに大きく後ろに飛んでいた。だから理解できた。シャルティア様は──否、シャルティア・ブラッドフォールンは──

 

「約束でありんす。本気を見せてあげるでありんすえ」

 

 いつもの赤いドレスではなく、全身鎧<フルプレート>を着ていたのだ。いつ着替えたのかすらわからぬほどの早業で。

 その手には不思議な形をした長槍があった。恐らくその槍で俺の斬撃を防いだのだろう。反応することも出来ないはずの神の領域すらをも超えた斬撃を。

 

「すまん、遅れた。が、戦局が覆るとは思えぬ程に劣勢のようだな」

「ガゼフか──すまねえ、俺が突いたばかりに相手に本気出させちまったらしい」

 

 俺の横に来たのはガゼフだ。急いで装備を整えて来てくれたようだが、正直な話二人掛りでも倒せる気がしない。俺の新たな技すらも防がれてしまっている。何より──

 

「明らかに雰囲気が変わっている、か──恐らくは相当高位の装備なのだろう」

 

 そうガゼフが漏らした通りである。ドレスを着て居た時とは雰囲気からして明らかに違う。まるで別人を見て居るかのようだ。

 

「古来より弱き者たちはその身に武器を、防具を身に着けることで上位の存在を倒してきたでありんす。では、元より強い私が武器を、防具を身に着ければどうなるかはわかるでありんしょう」

「ちくしょう、全く勝てる気がしねえ──折角新技作ったってのに」

「確かにな。この剃刀の刃<レイザーエッジ>でどこまで斬れるか想像も付かぬ。だが──」

 

 ガゼフは委縮する俺よりも一歩前に出て剣を抜き放った。

 

「引くわけにはいかないのだ。ゴウン殿には命を助けられたが故、剣を向けるのは憚られたが偽物とあれば憂い無し!」

「ガゼフ──」

 

 ガゼフは勇猛ではあるが蛮勇ではない。決して相手の力量を見間違えるような男ではないのだ。しかし圧倒的とも言うべき相手一歩も引かずに相対するその姿は、自分だけでなく周りも鼓舞する力があった。

 

「我が名はガゼフ・ストロノーフ!一手お相手致そう!!」

「流石は王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ様ですな」

 

 パンパンと拍手が起こる。貴族からではない。既に貴族たちは意識すら失っており、生きているのかすら分からない状態にある。その中で拍手をするなどという事が出来たのはただ一人だけだ。

 

「せっ──セバス様!」

「おや、誰かと思えばセバスではありんせんかえ。オヒメサマのお守は良いのでありんすか?こわぁい化け物が襲ってきているかもありんすえ」

「問題ありません。私が最も信頼するお方に預けてまいりましたので」

 

 そう言いながら彼──セバス様はゆっくりと俺たちの所へと歩いてくる。あくまで優雅に。冷静に。しかしその姿に一欠片の油断も無い。セバス様ほどのお人であっても決して油断できない相手であるという証左であった。

 

「さて、話はあとです。まずは飛びますよ。《グレーター・テレポーテーション/上位転移》」

 

 そうセバス様が呟くと、シャルティア・ブラッドフォールンを中心に魔法陣が現れる。丁度俺たちを含む程度の大きさのものが。

 景色が一瞬で溶けた。次に現れたのは草原。周囲を見渡せばシャルティア・ブラッドフォールンと俺。それにセバス様とガゼフの4人だけ。遠くには王都が見える。どうやら王都からほど近い草原へと転移したようだった。

 

「あそこで戦っては被害が大きくなりますからな。ここならば問題ないでしょう」

 

 そう言いながらセバス様は油断なく構えた。無手の極致とも言うべきその構えには隙というものが無い。新たな技を編み出してもなお、セバス様に勝てる要素と言うものが一切見えないほどだ。そんなセバス様ですらも余裕がない程の相手。そんな相手を俺たちで相手をしなければならないというのは難しいのではないか、一瞬そんな考えが過ぎってしまうのも仕方のない話だろう。

 それでも俺は、ガゼフは彼女に剣を向けた。その後ろには王都が、市民が、クライム君が、姫様達が居るのだから。俺たちがそれを守れる最後の壁なのだから。

 

「アングラウス君、ストロノーフ様。まず先に言っておきますが、シャルティア様を倒すことは出来ません」

「せ、セバス様ほどの方でもですか」

「えぇ、まず彼女の種族はトゥルー・ヴァンパイアと言い、最上位の吸血鬼です。どこを切っても再生し、基本死ぬことはありません。首を切っても、胴を切っても。例え、一刀両断にしてもです。ほぼ不死と言っても過言ではないでしょう」

 

 しかし俺たちに話されるそれは、あまりにも絶望的な話であった。

 

「勝てないって──事ですか」

「いえ、勝つ必要はありません」

「勝つ──必要が無い?」

 

 そう言った瞬間、セバス様が消えた。

 

 一歩、無音。

 二歩、神速。

 三歩、絶技。

 

 我々とシャルティア・ブラッドフォールンとの間には弓でギリギリ届く程度の距離が空いて居たというのに、たった三歩でその距離を縮め彼女に一撃を放っていたのだ。

 遅れるように俺たちも続く。彼女の持つ槍でセバス様の拳を止めている。その隙を縫う様に、ガゼフと両側から一撃を放った。

 しかし俺たちの一撃など蚊ほどにも効かぬとばかりに、防ぐことすらせずに弾かれてしまう。なんという差か。差というにはあまりにも隔絶し過ぎていて、その頂きすら霞むほどだ。

 

「そうです。彼女──シャルティア様は現在操られています。何しろ、あのお方の異変に一番早く気付かれたのはシャルティア様ですからな」

 

 防御の上から彼女を吹き飛ばしたセバス様は静かに呟いた。再び油断なく構えながら。そう、セバス様の一撃は吹き飛ばしてはいたものの、彼女に一撃を与えることが出来なかったからである。いや、それよりも。

 

「じ、じゃあやっぱりシャルティア様は偽物を止めようとして──」

「逆に操られた、か」

「えぇ、簡易的なものですから意識が少しは残っているようですが──我々で解除するのは難しいでしょう」

 

 お返しとばかりに今度はシャルティアが飛んでくる。一直線に。その一撃を真正面から受ける事無く流し、彼女の腹に先ほどよりも強い一撃──カウンターを放った。

 

「操られたシャルティア様を助けるには操った者──偽物であるアインズ・ウール・ゴウンを倒す必要があります」

「で、では今から──」

「我々がここを動いたら、シャルティア様は瞬く間に王都を亡ぼしてしまいますよ。ですが問題ありません。既に伝えてありますからな」

「なるほど、本来のゴウン殿──いや、漆黒の英雄モモン殿に伝えてあるということですな」

 

 セバス様は今アインズ・ウール・ゴウンがどこに居るのか知っているのだろうか。そしてその事を漆黒の英雄に伝えてあると。あのヤルダバオトを倒した英雄に。

 

「はい、あれを倒せるのはあの方以外に居りませんから」

「おしゃべりは終わりでありんすかえ」

 

 セバス様の必殺のカウンターを受けてもなお、一切傷を負った感じがしない。俺が首を切った時と同じだ。

 絶対的な存在。圧倒的な存在。本来であれば決して勝てるはずのない存在。

 そんなものに俺たちは今、相対している。

 だというのに、不思議と。そう不思議と恐怖が無い。ついさっきまで浮き足立っていた感覚がしっかりと安定している。

 

「じゃあセバス様、俺たちの勝利条件は──」

「漆黒の英雄殿が偽物のアインズ・ウール・ゴウンを倒すまでここに留めるという事で、よろしいですかな」

「ええ、その通りです。死ぬ気で押し留めますよ。何しろ勝てませんからね」

 

 まるで冗談でも言うかのようなセバス様の声に俺とセバスは笑い合い、頷く。そして──

 

「おおっ!!」

 

 雄叫びと共に俺たちの、長い長い戦いが始まるのだった。




戦闘シーン難しい──私ではこれが限界です、げふぅ──
そして満を持してセバス様の登場です。不死身のシャルティアにセバスは勝てるのか!?

「シャルティア様は不死身ですから全力で構いませんね(笑顔の腹パン」
「カフッ──き、効かないでありんす!(無理ぃぃ、ぽんぽんいたいでありんすぅぅ)」

というわけで王国はこれで終了です。次は聖王国、かな?


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