仙台坂道紀行 


鹿落坂(青葉区向山)








伊達家の御廟所(瑞鳳殿)がある経ヶ峰という、蛇行する広瀬川の岸辺にある小山の斜面に沿って向山に向かって直登する坂は鹿落坂と呼ばれている。霊屋橋や片平市民センターの公園から眺めてみると、なるほど急な坂道で、しかも道の先は広瀬川への断崖になっていて、追われた鹿が転げ落ちたという言い伝えも、さもありなんと実感出来る。登るにしても下るにしても川と街の景観が目の前に広がって坂としての風格などもちらりと感ずる。

花壇から交差点を左折し、傍らを走り抜けて行くバスやトラックやバイクを避けながら、しばらくこんもりとした雑木の中を過ぎて、左手が急に切れ込み川面がはるか下に見えると、どうしても一休みしたくなる。つまりそのへんで坂の登りがしんどくなるのだ。そのへんで振返ると、評定河原橋と片平あたりのマンション群が見晴らせる。なかなかいい景色で、ひとしきりのんびりと眺めているうちにまた自転車に跨る気力が復活してくる。バスも気を使ってすれ違う位だからあまりのんびりとは出来ないが。

もともとこの道は古くからの街道で、長町へ直行する道(橋、渡戸)が出来るまでは城下を抜けるメインルートだったらしい。この道を通り名取の熊野堂や岩沼の竹駒神社を経由して江戸へ向かう街道だったらしい。歴史からいえば長町を経る笹谷道よりも格式は高かったのかも知れない。

坂の頂上を右折すると昔ながらの料亭があって、一度、半分仕事上のお付きあいでその料亭の眺めのいい広間で高級な料理をいただいたことがあった。若い頃で、そんなたいそうな料理に怖じ気づいて味わう余裕を失ってしまっていたのだが、暮れて行く街を見下ろしながらの歓談、といった体験は妙に記憶に残っている。そのうちきっと、と思ってはいるが、まあ、そんな機会はもうないことだろう。

むしろこの坂は、この先の交差点を右折して動物園のある八木山へ向かう坂道のアプローチといった性格を持っている。前菜というか食前酒というか、、、



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