球場が呼んでいる(田尾安志)

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球宴の思わぬ副産物 ベンチは研究と攻略の教室

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2017/7/16 6:30
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投手は、一度親しみが湧いた打者には厳しい球を投げづらくなるもののようだ。最近はチームの垣根を越えて自主トレーニングをする選手が多いが、投手と組む野手にはチャンス。自らが強烈な"内角球"となって苦手投手の懐に飛び込んでいくことは立派な攻略法だといえる。

内角球といえば公式戦は厳しい戦いの連続で、1、2打席目と安打が出た後の3打席目は要注意だった。脅しとして体を目がけて投げられることを覚悟し、初球はまず打とうなどとは考えない。いつでもよけられる態勢で待った。そこでぽんとストライクを取られたら「当てられなくてよかった」とほっとしたものだった。

西武時代に山田久志さん(阪急)と対戦した際、1打席目で内角、2打席目は外角の球を打ってともに安打にしたことがあった。3打席目、「来るだろうな」と思っていたら案の定、初球で体の近くに投げられた。さっとよけて「もうないかな」と思っていると、2球目もブラッシングボール。さすがに頭にきて「山田さん、2球はないですよ」と抗議した。

14日の球宴第1戦でソフトバンク内川聖一は勝ち越し打を放った。技ありの一打だった=共同

14日の球宴第1戦でソフトバンク内川聖一は勝ち越し打を放った。技ありの一打だった=共同

投手とすれば、厳しい内角球を見せることで打者に外角球をより遠く感じさせる視覚効果は必須。分業制が定着した今と違って昔の投手は先発完投が主流で、1試合に同じ投手と3度も4度も対戦したから、試合の後半になるとこうした駆け引きがよくあった。

そんな果たし合いのような対決で神経をすり減らしたから、オールスターは楽しいものという感覚しかなかった。公式戦では主に1番を打ち、とにかく出塁することを意識してプレーした一方、オールスターはチームへの献身は二の次。1番打者の役割から解放されて自分中心にやれたから、いい気分転換になった。どんな球でもぶんぶん振れるのが楽しく「ああ、こうやって野球がやれるんだな」と本来の魅力を再確認できた。

パ、セに追いつこうと選手も燃える

球団もオールスターの影響力をよくわかっていた。西武時代に驚いたのが、選出された選手にボーナスが出たこと。ファン投票なら20万円、監督推薦はその半額だったと記憶している。西武に限らず、テレビ中継の少なかった「実力のパ」の各球団は人気でもセ・リーグに追い付こうと必死で、露出度の高いオールスターに出れば選手も球団も燃えたものだった。

選手が奮起した背景には賞品の豪華さもあった。MVPは賞金に加えて車などの賞品がごっそり。金額にして合計700万円相当はあったと思う。年俸を500万円上げてもらうのも大変な時代だから、まさに「夢の球宴」。主に冠スポンサーが賞を出す今と違って、いろいろなスポンサーが付いたからこその大盤振る舞いだった。

賞の中身だけをみれば昔の方がよかったと思うが、オールスターに出ることの名誉は昔も今も変わらない。活躍すれば気分よくペナントレースに戻れる。さて、今年の球宴で活躍した選手は17日からの後半戦でも暴れるのか。選から漏れた選手の巻き返しにも注目だ。宴(うたげ)の後は「夢の真剣勝負」に期待したい。

(野球評論家)

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