上のブログが話題になっている。とある作家さんに送られた「この同人誌の値付けはぼったくりではないか」という匿名クレームがバズり、それについて触れた記事である。しかし(この手の話題は本当に多いが)どう見ても同人作家側や取り巻きのポジショントークという印象の意見ばかりで辟易するので反論する。
(なお、この話題になった発端となった元々のツイートは既に消されていて、どういった理由であれツイ消しされたということは掲載されたくはないのであろうから引用はしないでおく。)
うだうだ難癖つける人を払うためにも、まず最初に僕自身の立場を軽く説明しておく。この記事がイラつく人からしたら、僕こそが「うだうだ難癖つける人」だろうが。
- 僕自身二次同人作家である(20冊程度だしてる)のでアンチ同人作家等ではない
- 当の元々のマシュマロ投稿は「ぼったくり」など攻撃的な表現を用いているので、意見の範囲を超えたクレーマーであることはその通りと思う
- 値付け自体も好きにしたらいいというのは同意見
- しかしこの反論には頭が悪すぎるものが多い
- 続けて送られた(匿名なので同一人物かは不明だが)マシュマロの意見は、それほど簡単に頭ごなしに否定できるか難しいものはある
わざわざ反論する理由は単に「フェアではない」と感じるのだ。同人というのは「確かに普通の人からみたら異常だし、タテマエだけになりつつあることって結構あるので、そこを言われると弱い、みんなで考えていく問題だよね」ってのは割とよくある。
だがツイッター上などではそういったことに触れると(特に絵描き)『同人作家様』に謎の忖度をするのが絶対的になってて、逆らおうものなら囲いファンネルびゅんびゅんが当たり前になっている。ヤクザみたいだね。
原価に人件費は含まれる?
当のブログにおいてまず主張されているのは、「原価には作者本人の人件費が含まれる」という話。これは色々な話を勝手に混同している。おそらく「確定申告」/「個人事業主の経費計上」を定義として原価の話を進めているのだろう。
確かに同人作家を個人事業主として見た場合、基本的には「按分」として、どの程度の割合が私的な生活費なのか、事業用なのかということを申告することがあり、事実上これが自分の生活費として経費として計上できるかどうかの境になるので、扱いとしては人件費といえなくもない。
しかーしそういう話なのかこれ?
ネットは「原価」という言葉を異常に嫌う「原価警察」が多いのでこういった話は煙に巻くのにとても使いやすい。やれ宅配ピザは原価(本当は材料費)数百円だだの、iPhoneは原価(本当は材料費)3万円だだのといった話で商品叩きが行う人がいて、それに対して「原価は材料費だけじゃねーよ」みたいな応酬がある。で、これもほぼ同様の手続きで議論を進めているが、そもそも先の話とは性質が違う。今回のマシュマロから端を発す話はあくまで「それは本当に趣味の活動なんですか?」という話だ。
だから比較対象はそもそも「その他の一般的な趣味の活動」を前提にすべきだ。宅配ピザやiPhone製造は別に趣味の活動ではないから参照元ではない。たとえば旅行で写真をとるのが趣味の人は明らかにそれによって交通費宿泊費そもそもカメラ本体の費用など金を消費するが、それは誰かから充当させるべきものだろうか。ドライブが趣味の人はガソリン代や車検費用を誰かから請求する権利があるのだろうか。
もちろん同人誌頒布は先の事例と違い、お金のやりとりがある。僕は先に述べたとおり、同人誌の価格設定自体は好きにしたらいいと思うが、少なくとも「趣味の活動でお金のやりとりがあるのだとして、請求できる権利は材料費までじゃないか」という異論そのものは、そこまでおかしくないと思う。
交通宿泊費は?買う人たちも何かの移動手段できてるし滞在箇所があるよ。彼らも趣味で来てるし、条件は同じだよね。
申し込み費は?買う人たちも、多くのイベントではカタログ購入は義務として設定されてるよ(コミケは設定されてないけどね)
別に僕は一切経費計上するなとかは言ってない。現実に納税義務発生するほどの売り上げある人たちは自宅の光熱費や家賃、食費なども事業按分として計上するだろうし、それも原価のうちに入るのは確かだ。しかし今の話はそれとは違うと言っています。印刷代は原価なのか材料費なのかという話ではなかろう。
時給計算?原稿料?
で、当のブログは「人件費」の換算として時給計算を始めている。…時給計算?
個人事業主が自分の生活費の計算に「時給計算」を当てるって何を元にした「原価」計算なんだろう?先にもいったが、個人事業主は事業収入のうち、事業に使った費用といえるのはどの程度までかというのを割合として設定し、原価として計上は出来る。でも「自分は何時間働いた、だから俺は1時間あたり〇〇円は俺の給与として人件費設定できるので、この分は計上」なんてことは出来ない。事業主貸のような疑似的な生活費のための設定はあるが、これは経費計上の項目ではない。
だから、1000円のバイトで70時間働けば、雇用者からみたら7万円の人件費は原価のうちとして当然計上できる。しかし6万円の家賃に1万円の水道光熱費の家で、生活と個人事業やってるんだとして、7万円全部計上というのは普通できなくて、そのうちの何割かを事業按分としての計上までしか出来ない(もちろん食費とか他の諸々は入るが)。原価はそこまでになる。
(というか収入から税金引かれるのは別に個人事業主も被雇用者も同じだから当たり前なんだけどね、なんか雇用者の計上項目と被雇用者の収入をなぜかいいとこどりできるかのように言ってるけど)
ましてや原稿料って何ですか?あれ、いつのまにか同人って商業作家並の待遇を受けるのが当然ってことになってたの、えっ。じゃあ僕が趣味で映画館いくときに車を運転するときは、誰かからタクシードライバー並の報酬を受ける権利があるの。僕がインスタあげるために写真撮影するときはプロカメラマンと同等の給与を誰かに請求していいの。どういうこと?
「二次同人で利益を出すのはアウト」という主張は卑怯なのか?
当のブログの人は「二次同人で利益を上げるのはアウトではないか」という主張をするんだとしたら、正義を掲げていて卑怯なやり方だと言っている。そうかな?
この手の話で毎回、「著作権は親告罪である」「だから版権元がダメだと言わなければあくまでグレーであって、少なくとも権利者でないお前に文句をいう権利はない」という話で論を反らしているが、根本的な部分を無視していると思う。
それは「二次同人での金銭のやりとりがお目こぼしされてるのはあくまでファン活動だから」という話だ。
なーぜか、絶対的にこの話は都合が悪いのか無視されるのだけれど、これはマナーや倫理の問題だ。もちろんこれは一方で有名無実化してるのはあるだろう。もはや企業側でも「大稼ぎしてる人気同人作家にどんどん描いて貰って宣伝してほしい」と考えてるところは、少なからずあるだろうことはそんなに外れた推測じゃない。なので「ファン活動」というタテマエの評価は大変揺れて難しいのもそのとおりで、「訴えられなければ、原作愛なんかなかろうが儲かるので描く」という人がいてもいいという考えが、一方にあってもいいとは思う。
かといって「そんなタテマエは存在しない」など本当に言えるのだろうか?
どこまで行こうが、他人の著作物で商業活動しているのは事実だ。本来、その二次利用権利者が法人か個人かはそれこそ関係のないことだ。なのに個人がとある流通でなら許されてるのは、「ファン活動」だから以外に理由は見当たらない。同人がいろんな矛盾を孕みながらも巨大化したのは、多くの人にこういうものはこういうものとして認識してもらえたからではあるが、それは全ての免罪を意味はしない。
たとえ小数であれど、大きな利益を上げてる作家や、明らかに「儲かるジャンル」に鞍替えを続けて利益を目指してる作家は現実に多数いる。それはファン活動なのか?という疑問って、そんなに奇妙な意見だろうか。僕は以上をもって「イナゴ作家を断罪せよ」なんてことはいってないし、今回のこととはちょっと別問題でもある。ただ、それほど奇妙な意見ではないだろうと言ってる。なのに、同人作家は一切の非難を受け付けないような強い態度をとってくるので僕はそれこそ嫌いなのだ。
あっ、あと「(同人で大もうけしたかのような)バブリーな話がありますけど、それでも原作側から訴えられたという話は正直一度も聞いた事がありません。」ってのは、己の無知を恥じてください。
もちろんそういう事例が数例あるからといって、それが全てではないし、今は時代も違うので(コナンに至っては、話題になったけどむしろ持ち込み歓迎とかやってたし)この話をもって、今も怯えて暮らすべきなどとは思わないのだけど、別にこの界隈は真っ白な世界ではない。グレーはグレーでしかない。
とはいえ…(結論)
ただ、以上をもって僕は「なので該当の話題でマシュマロ投げた人は正当な訴えをしている」とは思ってない。
明らかに暴力的な言動をしているし、そもそも件の被害を受けた作家さん達が何か「ファン活動をはみ出るようなモラルハザード」をしているかといったら、(たかが100円200円他の人より上の値段つけたとして)そこまで言われる筋合いはない人がほとんどだろうと思う。
そもそもファン活動の枠を超えるかどうかの疑義があるのだとして、それ値付けの問題より多分部数とかのが遙かに遙かに大きいからね。サークルの規模にもよるが数百部までのサークルが100円200円たかくつけて大もうけということはない。
いつも僕が問題にしてるのは、こういう問題は事の発端の人達がどうこうってより、周囲の反応の杜撰さだ。はっきり言って、単に他人の話題をネタに自分たちの正当化のための屁理屈づくりに奔走してるようにしか見えない。
二次創作はどこまでいこーが他人の褌だっていい加減認めようぜ。そうだったとしてもいいじゃん、楽しいからやってるんだろう。自分たちのやってることを好きな人も嫌いな人もいるし、どっちだろうと何か意見する自由はある。何故無限に一点の曇りもないかのように正当化しようとする?僕はそこが意地汚いと思うのだ。おわり。