増える外国人労働者の医療保険の不正利用を防ぐ関連法改正案が閣議決定された。改正の前提には「外国人は不正に利用する」との認識があるのではないか。制度への理解を広げる発想が必要だ。
外国人労働者の受け入れ拡大策の議論で指摘された問題が、日本で暮らす外国人の公的医療保険の不適切な利用の防止策である。
だが今、外国人の不正利用が多発しているわけではない。制度に穴があるのなら改善は必要だが、不正の防止策がまず議論されたことに疑問を覚える。
国内の企業で働く外国人は健康保険組合(健保)などに加入する。その際、母国にいる家族が被扶養者と認められると母国や日本で健保を利用できる。来日して高額医療を受けることも可能だ。指摘は外国に住む家族のために医療費が増えかねないというわけだ。
健康保険法などの改正案では「国内居住」を要件に加える。外国にいる家族は対象外となる。
一方、経済発展で日本人の海外赴任者や旅行者が増えたことなどから、便宜を図るため海外駐在者や同行の家族らは現地でも健保を利用できる仕組みが導入されている。ところが国内居住が要件になると海外で利用できなくなる。
そこで改正案は日本に生活の基礎があれば例外で認めることにした。いずれ帰国することが想定されるからだ。
気になるのは、どういう海外居住が利用できるのかルールが明確になっていないことだ。例えば、海外赴任の会社員が帰国しても家族が現地に残った場合などさまざまなケースが考えられる。
詳細は厚生労働省が法案成立後に省令で定めるが、公平感の持てるルールにすべきだ。
また、来日する留学生は自治体の国民健康保険(国保)に加入する。偽りの在留資格で加入したり、他人の保険証を使う不正防止に自治体の調査権限を強める。外国人を監視対象とみる風潮につながらないか懸念がある。
外国人の多くは日本の社会保障制度を知らないはずだ。不正利用の心配より制度への理解を広げる努力こそ必要ではないか。
相談窓口設置や通訳配置など生活を下支えする支援に政策を傾注する必要がある。社会保険に未加入の事業所の加入促進も進めてほしい。政府は国民全員に社会保障の支えがある「国民皆年金・皆保険」だとアピールしている。ならば外国人にもそのメリットを実感できるようにすべきだ。
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